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何もしなければ何も起こらない、のだ。 14

誤字報告に感謝いたします!

翌朝。

私は昨日の夜に豊穣の力を使った

パン籠をシンシアさんに持ってもらい、

朝食を取るために食堂へ向かった。


すでにリオン様とレジナスさんがいて、

二人で何かを話していた。


昨日のやらかしで都合が悪いけど、

ここは元気良く挨拶した方が

気まずくないだろう。よし。


「リオン様、レジナスさん、

おはようございます‼︎

昨日は迷惑をかけてごめんなさい‼︎」


思い切って声をかけると、

二人の会話がピタリと止まった。

そのまま二人とも私の顔を

まじまじと見つめている。


何だろう。私の様子を伺うように

見つめられているけど、

もう酔っ払ってなんかないよ?

きょとんとして二人を見つめ返す。


すると一拍置いて、ほっとしたように

安心した笑顔をリオン様が

こちらに向けてくれた。


「おはようユーリ。

もうすっかり平気みたいだね、

いつもの君で安心したよ。」


レジナスさんもリオン様の後ろで

軽く会釈をしている。


「はい、本当にごめんなさい。

元の大きさに戻れないのは残念だけど、

当分の間、お酒は飲みません。

飲まなきゃいけない時は

リオン様に相談してからにします!」


昨日のシンシアさんからの

念押しを改めて復唱した。


そうだね、と頷いたリオン様の顔が

なぜかうっすらと赤い。

後ろに立つレジナスさんまで・・・?

えぇ?ホントに私、何やった⁉︎


「あの・・私、昨日は元に戻れたって

喜んで万歳した所までしか

覚えてないんですけど、2人に

どんな迷惑かけたんですか?

暴れたとか、吐いたとか、

服を脱いで踊り出したとか・・・?」


酔って記憶を無くした経験が

今までないので、

何をしでかしたのか分からないのが

ここまで恐ろしいとは。


恐々と尋ねた私に、気にしないで‼︎と

すごい勢いでリオン様が言ってきた。

レジナスさんは何故か

俯いてしまったのでその表情は

全然見えない。


いつも穏やかで優しく微笑んでくれる

リオン様がここまで慌てるなんて、

これはもう何も聞かない方が

いいに違いない。


たぶん聞いても後悔することしか

していないんだろう。


うう、酒は飲んでも呑まれるな。とは

良く言ったものだ。

こんな気まずい思いをしないように

これからは気を付けよう。


反省していたら、ところで。と

リオン様が改めて尋ねてきた。


「シンシアに持たせているその籠は

どうしたの?見たところパンや

お菓子が入っているみたいだけど、

選女の泉に持っていくおやつ?」


「あ、いいえこれは実は・・・ー」


そこで昨日の夜に私が考えたことを

リオン様に説明した。


物に対して豊穣の力を使ったと

いうことにリオン様もレジナスさんも

驚いていた。試しにいくつか

籠の中からお菓子を取ってもらう。


籠の中身が半分くらいに減ったら、

下からまたぽこぽこっと

お菓子が湧き出すように増えた。


「すごいね、これは。」


二人とも目を丸くして驚いている。

今朝シンシアさんとマリーさんにも

同じように驚かれた。


「でも確かにこれなら孤児院への

贈り物にはいいかも知れない。

子供達が喜びそうだし、この籠を

手にしたソフィア殿の驚く顔も

目に見えるようだね。」


すぐに選女の泉に持っていかせるよう

籠をいくつか準備しよう。

リオン様はそう言って、

私の考えに賛成してくれた。良かった。





選女の泉には私とシンシアさんが

馬車に乗って、同行するリオン様と

シグウェルさんは馬で並走した。


そしてレジナスさんはなんと

驚くことに私達の馬車の御者だ。


え?リオン様の護衛騎士なのに

そんな事させていいの⁉︎

ていうか、御者とかできるんだ

レジナスさん。


驚いていたら、当のレジナスさん

本人は平然としている。


『魔物討伐や辺境での他部族との

小競り合いでは、御者がケガをしたり

命を落とすこともあるから代わりに

これくらい出来て当然なんだ。』


・・・らしい。

あと、選女の泉に向かう人数を

なるべく減らしたかったらしくて

騎士さん達の護衛はないし、

ユリウスさんすら同行させていない。


だから御者さんもわざと頼まずに

レジナスさんが手綱を

握ることになったみたい。


実はそこには、もしかすると

また大きくなるかも知れない

私の姿を他人の目に晒すのを

極力減らしたいというリオン様の

考えがあったからなんだけど、

そんな事に私は全然気付いてなかった。


泉に向かう道すがら、

馬で並走しながらリオン様は

昨日の出来事をシグウェルさんに

簡単に説明していた。


途中で馬車の窓をこんこん、と

叩かれて並走するシグウェルさんに

話しかけられる。


「殿下の話では、大きくなった

君の首にヨナスのチョーカーは

見当たらなかったらしい。

という事はやはり、

あのチョーカーのせいで君は

小さくなっているのだろう。

選女の泉はイリューディア神の

加護が強い地だ。もしかすると

ヨナスの力が抑えられて

また大きくなる可能性もあるから

一応それを頭に入れておいてくれ。」


どうやら心配して、泉に着く前に

忠告してくれたみたい。

私の向かいに座るシンシアさんも

真剣な顔で頷いていた。

 

・・・選女の泉、ただ見学に行って

パン籠に豊穣の力をつけるつもりが

なんだか緊張する事態になったぞ?


ちょっとドキドキしながら

着くまでの間に、馬車の中で

シンシアさんに履き物をブーツから

サンダルに変えてもらった。


泉に着いたら、巫女志願の人達と

同じように泉に浸かって

豊穣の加護の力を使う。


そのためスカートも膝上程度まで

たくし上げられるようになっていて、

中にはカボチャパンツみたいなのも

履いている。


これは選女の試練、と言われる

巫女志願の人達が

泉に足を浸す行為をする時の

格好と同じ物だそうだ。


「泉には私が先に入って、

ユーリ様のお手を取りますから

ご安心くださいね。

泉自体の深さは奥の祭壇までは

ユーリ様ですと膝程度で

浅いのですが、滑らないように

お気をつけ下さい。」


シンシアさんが注意事項を

教えてくれる。


泉の奥には細い滝の前に

小さな女神像がそなえてあり、


祭壇というのは女神像の前にある

お供えやお花を飾れる台の事らしい。


そこに籠を並べればいいでしょう、

とも教えてくれる。


そんな話を聞いていたら、

馬車が小さく揺れて止まった。


「着いたよ、ユーリ。」


リオン様が馬車を開けて

私を抱いて降ろしてくれた。


サンダル履きにカボチャパンツ、

その上にワンピース型のドレスと

いう格好の私を見て目を細める。


「ああ、懐かしいな。カティヤも

その格好でイリューディア様に

お仕えするんだ、って張り切って

泉に向かったんだった。」


ふふ、と笑って馬車から

降ろした籠をレジナスさんと

手分けして持ってくれる。


王子様に荷物持ちをさせてしまって

申し訳ない。だけど全部で4つある

籠は、どれも割りと大きくて

ワインも入るピクニックバスケット

みたいなサイズなのだ。


これを満たすくらいの量の

パンやお菓子が出てきたら

みんな喜んでくれるかな?


シグウェルさんには

私が何をするつもりか

まだ話してなかったので

歩きながら説明をした。


「なるほど、物体に対して

豊穣の加護の力を使うのか。

考えたな、それは面白い。

それが出来れば、ワインの瓶や

水差しにも同じ事が出来るかもな」


王都に戻ったら

ぜひやって見せてくれ。


そう頼まれてしまったけど、

確かにそれができれば

飢えだけでなく

喉の渇きも癒やせるのか!


たまにはまともな事もいうんだな、と

シグウェルさんを見直したんだけど。


この後王都に戻ってから、

色んなサイズや種類の瓶で

延々数十本もその力を試されて

半泣きになるのをこの時の私は

まだ知らなかった。

ホントバカ!魔法バカだよ

シグウェルさんは・・・。




日の光も差し込む明るい森の中を

少し歩くと、やがて滝の音が

聞こえてきた。


すると目の前が突然開けて、

テニスコート二面分くらいの

広さの綺麗な泉が現れた。

奥の方には確かに細い滝と

祭壇が見える。


「ここが選女の泉かぁ・・・」


水面を反射する光がキラキラ光って、

泉のほとりには青い小さな花も

咲いている。綺麗なところだ。


ではさっそく、とまずは

シンシアさんが自分のスカートの

裾をちょっとだけたくし上げて

端の方を器用に結ぶと

籠を2つ、両手に持って泉に入った。


私には巫女の素質はありませんので

何も起こりませんよ、と

事前に話していたけど本当だ。


ごく普通に泉の中を歩いて

祭壇に籠を置いた。

水面に変化はない。


巫女になる人は水に浸かると

水面が光るって話だけど

そんな気配はなかった。


戻ってきて、籠を一つ手に取ると

シンシアさんはもう片方の手を

私に差し出してくれる。


4つめの籠は私がよいしょ、と

片手で抱えてもう片方の手を

しっかりと繋いでもらった。


そのまま手を引かれて

転ばないよう慎重に泉に入る。


変化は、泉に入った瞬間に起きた。


ぱしゃんと水に浸かって、

その冷たさを気持ちいいと

思った時には水面全体が

黄金色に明るく輝いたのだ。


びっくりして思わず籠を

取り落としそうになった。


「ユーリ様⁉︎」


慌ててシンシアさんがしっかりと

私の手を繋ぎ直してくれた。


ほっとして辺りを見回してみても

まだ光り続けている。


「び、びっくりした~」

「転ばなくて良かったです」


そんなやり取りをシンシアさんと

2人でして、祭壇の方に歩こうとしたら

後ろからリオン様が呆然としながらも

私達に声を掛けてきた。


「ちょっと待って・・・。ユーリ、

君、また大きくなってるよ・・・?」


「えっ⁉︎」


慌てて自分を見るけど変わりはない。

シンシアさんも私を見て

いつも通りですよ、と頷いている。


「殿下、泉の中にいるユーリ様は

いつもの大きさと変わりございません。

そちらから見ると違って見えると

いうことでしょうか?」


確かめるように聞いたシンシアさんに

リオン様が頷く。


「ああ。昨日見たあの姿そのもので

僕の目には見えている。

籠を手に持って、背の高さは君の

肩ほどまである。

服は・・・ちゃんとサイズが

合っている。」


最後に服のことを言った時

なぜかためらいがちで、リオン様は

顔を赤らめていたけどなんでだろう。


でも泉の中にいる私はシンシアさんの

腰の高さ位までしか背はないよ?


これは泉の内と外で見えているものが

違うということか。


「レジナス、シグウェル、

君たちはどう?ユーリの姿は

どんな風に見えている?」


促されてレジナスさんは私を

食い入るように見つめて言った。


「俺にもやはり昨日のユーリと

同じ姿に見えています。

背格好はシンシアより頭一つ半

程度低く、顔と体は大人びていて

唇は赤く手足も白くしなやかです。

服も・・・そうですね、

リオン様の言う通りきちんと

体に合ったサイズです。」


だからなんで服装のことを

2人とも言うんだろう?


あとやけに具体的に人の体のことを

言われると妙にむず痒いと言うか

恥ずかしくなるよ。

どうしちゃったのレジナスさん。


残るシグウェルさんは

ふうん、と顎に手を当てて

まじまじと私を見ているけど

その目は実験動物を観察

してるみたいだ。


「オレにも普段のユーリより

だいぶ大人びた姿に見えています。

18・・・・と言われれば

そんな気もするし、

世間一般のその年頃の婦女よりも

艶めいて扇情的な雰囲気も

あるような気もする。」


そこでふと気付いたように付け足した。


「・・・そういえばこちらから

見えるユーリにもチョーカーが

嵌まったままだな。」


「ということは私、元の姿に

戻ったんじゃなくてリオン様達から

見える姿が幻影魔法みたいに

単に本来の姿っぽく見えてるだけ

なんですね・・・」


残念。でもどうしてなんだろう。


シグウェルさんが辺りを

ぐるりと見回した。


「ここに満ちている魔力の感触が

いつになく力強さを感じる。

オレの魔力自体も、まるで

神官に祝福を受けた時のような

底上げされた感覚があるから・・・。

これはもしかすると、

イリューディア神の祝福が

この地に降りた可能性があるな。

・・・ここを訪れるユーリに

力を貸したかったと

いうことなのだろうか?」


イリューディアさん、私が

ここに来るって知って

私のことをどうにか元の姿に

戻せないかって思ったのかな?


でも、それには力が足りなくて

本当の姿を周りの人に

知らせる程度にしか

ならなかったってことなのかも。


ヨナスの呪いって強力なんだなあ。

とりあえず今はまだ、戻れなくても

不自由はないから大丈夫。

ありがとう、イリューディアさん。


この世界のどこかで

イリューディアさんが私を

心配してくれているらしい、

ということは伝わってきたので

心の中でそっと感謝する。


「イリューディアさんの加護が

降りてきてるかも知れないなら、

きっと豊穣の力はうまく働きますよね。

私、頑張りますから!」


ぎゅっとシンシアさんの手を

握りしめて、力強く頷いた。



結果、大きなピクニックバスケットは

4つとも全て白パンや様々なお菓子が

山盛りになった状態になり、

それを届けたソフィア様や

同席したアントン様が

言葉を失くすほどの

大成功をおさめたのだった。





















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