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何もしなければ何も起こらない、のだ。 10

病気やケガをしていた4人が

治ってしまったら、

シグウェルさんやアントン様が

リンゴを囲んで議論を始めた。


食べる量で効果は変わるのか、

皮も一緒に食べるとどうなのか、

では皮だけでは?

リンゴを加工したお菓子や酒でも

効果はあるのか?


確かに色々気になる。

もし加工しても効果があるなら、

パイやシードル、ジャムにして

売ればマールのいいお土産になって

もっとあの町が潤うだろうなあ。


働き口が増えて、農地を放棄して

出稼ぎに行った人達も戻って来るかも。


うまくいきますように、と願う。


そこへもうレジナスさんが

戻ってきた。


交渉はうまくいき、今すぐ使っても

いい農地も確保できた・・・って

仕事が早い!


でもすでに立派な実まで

ついてしまったリンゴの木が

6本もある上に私がマール以外では

育たないように、なんて願いも

してしまったからなるべく

早く植えなければいけないので

かえって良かったのかな。


とりあえずその6本だけは

今すぐマールへ運ぶことになって、

私達のあの足の早い馬で

荷馬車を仕立てた。


レジナスさんが手に入れてきた

馬がものすごい大活躍をしている。


あの馬を手に入れるのは

大変だったらしいけど、

こんなに役立つなんて

苦労が報われる思いだね、

レジナスさん。


育ちきってしまった6本以外は

この領事館でとりあえず様子を

見て、まだ大きくなりそうなら

その都度マールへ運んで

植え替えるらしい。


シグウェルさんとユリウスさんは

ノイエ滞在中は元々この領事館に

泊まる予定だったらしいので、

リンゴの植木鉢もちゃんと

経過は見ると言ってくれた。


滞在中は私も毎日見に来よう。


「さて、思いがけず一仕事して

しまって疲れただろう?

そろそろ僕達も移動しようか。」


リオン様がそう言って、

珍しく自ら私を抱き上げた。


すると、まじまじと私の顔を見て

蕩けるような笑顔を見せる。


「その髪型、近くで見ても

よく似合ってる。本当に

仔猫みたいで可愛いよ、ユーリ。」


あ、なるほど。近くでじっくり

見てみたかったんですね。


怒られる覚悟も決めてたから

逆に喜んでもらえたなら何よりだ。


ただそんな笑顔で喜ばれるとは

思わなかったから、

ちょっと恥ずかしい。


私達はこれから領事館とは

別の場所にある、王族が

ノイエに静養に来た時に使う

館へと向かう。


リオン様が教えてくれたところに

よると、ノイエ領を見渡せる

小高い丘の上にあるそこは

敷地の中に小川の流れる

小さな森もあり、2つの牧場と

3つの温泉もあるらしい。


館に引いてある温泉には

露天風呂もあり、

そこから見える景色がとても

素晴らしいのだとリオン様は言った。


前にユリウスさんが言っていた

湖を見下ろせる露天風呂って

もしかしてそこの事かな?


馬車は軽快に走り、やがて

立派な門構えの大きな

お屋敷の前に着いた。


「お帰りなさいませ

リオン殿下、ユーリ様。」


シンシアさんとマリーさんが

笑顔で出迎えてくれた。


2人とも、私達が領事館で

歓待されている間に先に来て

部屋を整えておいてくれたのだ。


「お話は聞いております。

お疲れでしょうから、夕食までは

お部屋でゆっくりお休み下さいね、

ユーリ様。」


シンシアさんが、ご活躍でしたね。と

柔らかく微笑んだ。


情報が早い。不思議に思っていたら

侍女同士の情報網ですよ、と

こっそりウインクされた。

なるほど、さすがシンシアさん。


馬車が付くより早く

情報が回ってるとは、

恐るべし侍女ネットワーク。


その後、部屋で着替えを

させてもらったけど

猫耳はほどいてくれない。


あれ?もう誰にも見られないし

いいんじゃないの?


そう思っていたら、私達がまだ

見ていたいんです!

あとこのお屋敷で働いてる

みんなにも見てもらいたいので!と

マリーさんに力説されてしまい、

結局その日は夜まで

そのままで過ごしたのだった。


翌日。本来の目的である、

結界石の採れる採石場へと

向かった。


私はリオン様が手綱を握る馬に

一緒に乗せてもらい、

シグウェルさんにレジナスさん、

それから一応騎士さん2人も

護衛としてついてきている。


採石場はのんびり散策がてら

馬で行っても1時間もすれば

着くような所だった。


ノイエ領には険しい山もないので、

採石場といっても切り立った

山の中にあるわけではなく

深い森の中を進んで行った先に

突然現れた洞窟の中にあった。


「この洞窟の中で採れる石が

魔物から国を護ってくれる

良い結界石になるんだよ。

ここからは歩くから・・・

レジナス、頼むよ」


馬から降ろしてくれたリオン様が

そのまま手渡しで私を

レジナスさんに預けると、

心得たものでいつもの

縦抱っこをされた。


うーん、過保護ここに極まれり。

ついに地に足を着けることなく

移動することになるとは。


そしてその洞窟の前で

シグウェルさんがぱちんと

指を弾くとその指先に

ぽうっと光の球が灯って、

周囲が明るく照らされた。


そのままシグウェルさんの

灯してくれた灯りを頼りに、

でこぼこした岩肌の

大きな空洞の中を進んで行く。


やがてうっすらと青白く

光っている所に出た。


「うわ、すごい・・・‼︎」


そこはぽっかりと開けた

広場みたいな場所で、そこから

ぐるりと見渡せる地面から天井まで

辺り一面がうっすらと

青白く光る水晶に囲まれていた。


「これが結界石ですか?」


石っていうから、本当の石や

岩みたいなのを想像していたけど

水晶だったのか。


レジナスさんが頷く。


「そうだ。ここから切り出した

結界石に神殿で祝福を与えて、

使う時は魔導士が更に魔法を込めて

国境沿いや辺境の魔物が出やすい

あちこちに打ち込んでおくんだ。

そうすれば力の弱い魔物は

入ってこれないし、仮に

結界を破って入ってこられても

その力をいくらか削ぐことができる。」


魔物討伐では魔物祓いの武器代わりに

使うこともある、とも教えてくれた。


国を護るための

大事な資源ってことだね。


シグウェルさんが、自分の横の

大きな水晶の塊をコンコン叩いて、

レジナスさんの説明を引き継ぐ。


「ノイエ領は元々精霊の力が

強い土地だからか、

特に良質な結界石が出来やすい。

イリューディア神の加護を

受けている君が祈りを捧げれば

結界石の質はより高まり、

石に魔法を込めた時にはその威力が

もっと増幅されるんじゃないかと

オレは思っている。」


そんな話をしている間にも、

騎士さん達はその場所の真ん中に

私が座れるように敷き物を

敷いて準備してくれていた。


僕達は邪魔にならないように

端の方にいるからね。と

リオン様は言い、レジナスさんが

そっと私を敷き物の上に

降ろしてくれた。


頑張れよ、と言って私の頭を

ひと撫でするとレジナスさんは

リオン様の後を追って行き、

そうするとその場には

私だけがポツンと座り込んでいる。


上下左右どこを眺めてみても、

あちこち青白くほのかに光る

水晶だらけだ。


洞窟の中だけど、そんなに

圧迫感もなく息苦しさもない。

逆に空気が澄んでいるような気さえ

する。なんだか自分の力が

うまく伝わりそうだな、と思った。


座り込んで目を閉じ、

静かに手を組んだ。


癒しの力と豊穣の力、どちらを

使えばいいか分からないから

ここはただ祈るのみだ。


どうかこの世界に住むみんなを

護れる、良い石ができますように。

力を貸してください。


そう祈った。すると自分の中から

いつもの光が湧き上がるのと

同時に、柔らかい風も一緒に

巻き上がったのが分かった。


自分の髪の毛が風になびき、

瞼の裏で青白い光も感じる。


やがて光も風も感じなくなったので

そっと目を開けて見る。


「見て、ユーリ。すごく綺麗だよ。」


リオン様がいつの間にか

私の近くに立って周りを

見回していた。


うわ。周りの水晶が中から

発光している・・・?


よく見ると小さな光の粒が

水晶の中でキラキラと輝いて

元々の青白い光を増幅させるように

光っていた。


まるでユーリの瞳の中みたいだね、と

リオン様が微笑んで私の目を

覗き込んだ。ウッ、近いから。


なんとなく気恥ずかしくなって、

それを誤魔化すように話しかける。


「私が目をつぶっている間、

何が起きてましたか?」


「ユーリの中から、白い光と

風が湧き上がってきてそれが

周りに広がったんだよ。

その光に水晶が触れた途端、

一斉に青白く光り出したんだ。」


そうだったんだ。

今も光っているってことは、

私のお祈りでなんらかの効果が

ついたってことなのかな?


シグウェルさんは、試しにひとかけ

水晶を切り出してみている。


「割ってもまだ光の粒が消えない。

ということは結界石として

使うまで君の与えた力は

消えないと考えていいのかな。

一応聞いておくけど君、

何を思いながら力を使った?」


「えーと、この世界のみんなを

護れるいい石ができますように、

ってお祈りしました。」


なるほど、とシグウェルさんが

頷いた。


「リオン殿下を治した時や

昨日リンゴの木を成長させた時も

そうだが、君の願いは素直に

その力と加護に反映されるらしい。

今回も君の願いがそのまま

反映されれば、いい結界石や

護石が出来そうだ。

さっそくこれは持ち帰って

研究してみよう。」


そう言うと、いくつか切り出した

水晶を丁寧に袋の中へとしまい込んだ。


私をノイエ領に連れて来たいがために

ユリウスさんが咄嗟に考えた

視察内容だったけど、

これは思ったよりいい仕事が

出来たんじゃないかな?


無事任務完了したので、安心した。


その後は、丘の上から見えていた

湖に寄ってそのほとりで

昼食を取った。


シンシアさんがちゃんと

全員分のお昼を持たせて

くれていたけど、

更にレジナスさんと騎士さんが

お魚を釣って焼いてくれた。


塩を振っただけのそれは

シンプルなんだけど、

とってもおいしかった。


ただ焼いただけの魚を

そんなに喜んで食べるとは

思わなかったのか、

騎士さん2人がすごい笑顔で

私を見てたのが気になったけど。


あとリオン様が、

昨日の髪型でその魚を

食べているところを

見てみたかったな。と

とても残念そうに呟いていて、

レジナスさんもそれに

同意していたのが解せない。


意外と好評なんだな、猫耳。

どうしよう、マリーさんが

無駄にいい仕事をしてしまって

この世界に変な概念というか

性癖が生まれてしまったんじゃ

ないよね・・・?


勇者様は魔物を打ち倒して

世界を安定させた功績で

有名なのに、次の召喚者である

私が世間に広めたものが

猫耳ヘアーっておかしいでしょ?


どうかこれ以上は

広まらないで欲しい。

私は自分のためにも

心の底からそう願ったのだった。









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