誰が為に花は降る 7
・・・あの男の子を治した後、また何度か
私の部屋にこっそりと体調不良の
侍女さん達を呼んでは
悪いところを治す実証実験をした。
それで分かったけど、
やっぱり特に呪文を言わなくても
癒しの力は使えた。
あかぎれや手荒れのひどい手、
関節の痛む場所なんかは
治ってほしい!と思ってただ普通に
手をきゅっと握ってあげたり
撫でたり触れたりするだけでも
癒すことができたのだ。
いやいや、チート過ぎるでしょ。
そりゃ確かにイリューディアさん、
最大限の加護を授けるとは言ってたけどさぁ、、、
呪文なしでこれなら、ヒールって言って
物凄い祈りの力を込めたら
死んだ人間も生き返らせそうで逆に怖い。
あ・・・そういえば勇者様が
漫画の必殺技名を言って倒してた相手って
でっかい竜とか魔物なんだった。
てことは、もしかして普段勇者様が
人間相手に戦ったりしてた時は
特に技名は言ってないのかな・・?
だって人間相手に元気だ・・・もとい
ゲーキ・ダマーはないよね。
いくらなんでも威力があり過ぎる。
そう考えたら普段の癒しは呪文なしでも
イケるだろう、というのはストンと腑に落ちた。
そっか、呪文はここぞと言う時に使えばいいのか。
頭の中にはいつも優しそうに、
だけどちょっぴり悲しそうに微笑む
リオン様の姿が思い浮かんだ。
そしてその数日後。
リオン様を訪れる機会に恵まれた。
・・・いいタイミングかも知れない。
やってみよう、と思った。
いつものようにレジナスさんが
私を縦抱っこで奥の院まで連れて行く。
(やっぱりちょっと過保護すぎると思う!)
庭園に入ると、これまたいつものように
笑顔のリオン様が迎えてくれて色んな話をした。
最近は癒しの実証実験を王宮内で
あれこれやったりしているので、
癒し子の後見人であるリオン様への
報告的な意味合いもあって
何をどんな風に癒したりしたのかを話す事も多い。
今日のリオン様は、私を膝の上に乗せて
髪の毛を綺麗に編み込んでくれながら
話を聞いてくれている。
妹であるカティヤ様が神殿に入る前、
まだ小さい頃はこうやって
髪の毛の手入れをしてあげたりしていたそうだ。
「カティヤとは全く違う髪質だね。
あの子よりもユーリの方が髪の毛にコシがあって
少し強めに編み込まないと
すぐにほどけてきてしまいそうだ」
痛かったらすぐに言うんだよ、と
楽しげに私のサイドの髪の毛を
どんどん編み込んでいくと
あっという間にハーフアップにしてくれた。
うーん、見えていないはずなのに
相変わらず器用な人だ。
綺麗にまとまっていますよ、という
レジナスさんの感想にリオン様が
満足げにお茶を飲んで一息ついた。
あっ、今だ。
今日会った時から今までずっと、
いつ切り出そうかと思っていたので
急いで声を上げた。
「リオン様、だいじなおはなしがあります。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日のユーリは、僕に会った時から
なんだか様子がおかしかった。
いつものように挨拶をして
お茶とお菓子を食べながら会話を楽しむ。
最近ユーリは王宮のあちこちへ出向き
色々と癒しの力を使う練習をしているので
そのことを楽しげに教えてくれる。
乳の出が良くなった乳牛の、
おいしいミルクを分けてもらった話。
癒しと豊穣の力で色鮮やかに
大輪の花をつけたバラを庭師から
お礼にお裾分けしてもらった話。
みんなのお役に立てているようで
嬉しいです、と声が弾んでいる。
嬉しそうな笑顔が見えるようだ。
でもそんな会話の端々に
やっぱり何か言いたそうな、
そわそわしている雰囲気を感じる。
一体どうしたというのだろう。
落ち着かせようと、昔よくカティヤに
してあげていたように
僕の膝の上に抱き上げて、
髪の毛をいじってあげた。
当時のカティヤより大きいユーリには
ちょっと子ども扱いが過ぎるかなと思ったけど、
気持ちよさそうに僕に身を預けてくれたので
髪の毛を編み込んでいく。
ユーリの髪の毛はするすると
ビロードのようななめらかでコシのある
手触りが心地良く、
ずっと触っていたいくらいだった。
そういえばレジナスが毎回ユーリを
椅子に座らせるたびに彼女の頭を
ひと撫でしているけど、
なんとなくその気持ちが分かった気がする。
髪の毛を編み終わってお茶を飲み、
レジナスのその様子を思い出して
くすりと小さな笑いをこぼした時だった。
「だいじなおはなしがあります」
ユーリがいつもより少し舌ったらずな
硬い声音で僕に話しかけてきたのだった。
 




