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ユーリと氷の女王 19

「ユーリ様!お元気そうで何よりです‼︎」


「シンシアさん‼︎」


翌日の朝、ダーヴィゼルドにシンシアさんが

数人の騎士さんを伴った馬車と一緒に到着して、

ユリウスさんの案内で私の部屋に来た。

ほんの数日ぶりだけど会えてすごく嬉しい。


シンシアさん達の馬車は昨日の夜には

ダーヴィゼルドに着いていたそうだけど、

夜遅くに公爵城に入るのは失礼だろうと

宿を取り日を改めて訪れてくれたらしい。


「あら?なんだかとても素敵な髪型ですね。

さすが公爵城の侍女様方ですこと、

ユーリ様の可憐な愛らしさが余すところなく

引き出されております。」


私を見たシンシアさんがそう言って目を細めた。


ああ・・いや、うん。ここに来てからずっと

私の髪型はシェラさんが整えてくれてるんです。

髪型どころかお世話全般されてるけど。

今朝は爪にやすりまでかけてくれた。


白い小花を一緒に編み込んである私の髪型を、


「複雑で変わった編み込みですが、

遠くから見てもとても美しいですね。

なるほどこうすれば崩れにくい、と・・・」


シンシアさんはふむふむと研究するように

観察している。本職の侍女さんが感心するような

技術を持っているシェラさんが本当に謎だ。


当の本人は素知らぬ顔でそんな私と

シンシアさんを眺めているけど。


「カイゼル様を助けることは出来たんですが、

他にもやりたい事があるのであと数日は

ここに滞在するんです。

シンシアさんや騎士さん達までもうしばらく

ここに滞在してもらう事になるのが

申し訳ないんですけど・・・。」


さすがに酔っ払って山に雷を落として大穴を

あけただけで帰るのは申し訳ないので、

山に泉を作るほかにもせめて穀倉地帯だという

農地に豊穣の加護の力を使ってみようと思う。

これから先、万が一の日照りや冷夏での

不作に備えられればいいなと願っている。


「私はちっとも構いませんよ。そうそうユーリ様、

これをご覧下さい。出発前にお約束していた外套を

仕上げてお持ち致しましたよ。」


そう言って、いくつか持ち込まれた衣装箱の一つから

銀色の柔らかそうな毛皮の外套を取り出した。


「わ、手触りがつるつるですごく気持ちいいです!

それに見た目の割にとっても軽いんですね⁉︎」


ドレスの上から羽織ってみたそれは驚くほど軽い。


見た目は立派なモフモフの毛皮のコートなのに

ダウンジャケットを着ているような軽さと暖かさだ。


この世界にこんな素材があるなんて、

これは相当値の張る品物じゃないだろうか。


すると、今まで黙ってそれを見ていた

ユリウスさんが不思議そうに首を傾げた。


「なんかその素材、見覚えがあるんすけど

いや、でも、まさかっすよね・・・」


「え?何か変ですか?」


「んー、変って言うか、いくらなんでも

それがここにあるはずが無いって言うか」


ユリウスさんの態度が煮え切らない。

どういうことだろうか。


「シンシアさん、この毛皮のコートって私への

お見舞いの品物から作るって言ってましたよね?」


一応確認してみれば、シンシアさんは着丈や袖の

長さなど、細かいところをチェックしながら頷いた。


「はい。シグウェル魔導士団長様のご実家、

ユールヴァルト御本家様からの

お見舞い品でお作り致しました。」


それを聞いたユリウスさんがあっと声を上げた。


「マジですか⁉︎ちょ、ちょっと見せて下さい‼︎」


駆け寄って来て毛皮にそっと触った。


「手触り最高ですよね‼︎」


そう言った私にユリウスさんは青くなっている。


「うわ・・・マジで魔狐(まこ)の純毛じゃないっすか。

しかも銀毛って・・・セディさんの入れ知恵かな、

団長の実家の本気が怖い」


なんだかブツブツ言っている。

私とシンシアさんは意味が分からずにきょとんとして

いたけど、シェラさんはへぇ・・・と目をすがめた。

ユリウスさんの独り言の意味が分かるらしい。


「シェラさん?」


説明してもらおうと聞けば、珍しく不満げな顔で

教えてくれた。


魔狐(まこ)というのは魔物の中でも上級にあたり、

魔法が使える魔獣で倒すのが大変難しいのです。

その毛皮は大変美しいのですが、厄介な相手だけに

傷付けずにそれを手に入れるのは至難の業。

入手の困難さからそれを身に纏えるのは王族か

一部の高貴な貴族だけで、特に銀毛種は

ユールヴァルト家の本家当主夫妻かその

跡継ぎのみが身に付けているのが有名です。

それをわざわざユーリ様に贈ってきた辺りに

ユールヴァルト家の何らかの意図を感じますね。」


「意図アリアリじゃないっすかそんなの!

セディさんが団長の実家と本家当主に何を

吹き込んだのか知らないっすけど、こんなの

着たらダメですよユーリ様!

ユールヴァルト家に入りまぁす!って

宣言するようなもんですからね、ダメダメ絶対‼︎」


「えぇ・・・でもお洋服に罪はないと思うんですけど。」


こんなに着心地がいいのに。

シグウェルさんと友達になってくれてありがとうね、

早く元気になってこれで仕立てた服を着てまた

遊びに来てね!位の意味のお見舞い品じゃないのかな。


シンシアさんも、ユリウスさんやシェラさんの

説明に勿体なさそうにコートを撫でている。


「絶対ユーリ様にお似合いになると思って、

張り切って可愛らしいフードも付けて

みたのですが残念です・・・」


そう言って私の頭にひょいとフードを被せた。


その途端、今まで必死に抗議していたユリウスさんが

ピタリと口を閉じて私の頭を凝視した。

かと思ったら、わなわなと震えて


「ユ、ユーリ様それ・・・‼︎」


私の頭を指さした。ん、どうしたのかな?


「猫耳・・・いやキツネっぽい耳がついてるっす‼︎」


「ええ⁉︎」


びっくりして鏡を見る。

なるほど確かに、毛皮のフードの頭部分には

銀色でモフモフの耳がちょこんと乗っていた。


そういえばシンシアさん、私が王都へ出掛ける時に

着せてくれた赤いケープのフードにも猫耳を

付けたりしてた。しかしこれは・・・・


「ケ、ケモ耳・・・」


「ケモ耳?」


シェラさんが聞きなれない単語に小首を傾げた。


「え、これは猫耳じゃないんすか?

ケモ・・・耳?ケモノの耳ってこと?

そんなのがあるんすか?服飾専門用語?

それともユーリ様の世界の単語っすか?」


「ああ、なるほど。私も仕立てながら

これは猫ちゃんの耳というにはふかふか過ぎて

なんと表現すれば良いのか悩んでおりましたが

ケモノの耳。ケモ耳と言うんですのね!

これで他の侍女達に縫製の際の指示を

出しやすくなります。

ありがとうございますユーリ様‼︎」


わあっ、とユリウスさんとシンシアさんが

盛り上がってしまい、しまったと思う。


この世界にケモ耳と言う概念はなかったか。

私がうっかりこぼしてしまった一言で

猫耳以外にまた一つ余計な概念が

この世界に生まれてしまった。

いい加減、耳の呪いから解放されたい。


「めっちゃ可愛いですよユーリ様!

猫耳とはまた違った良さがあるっす‼︎

なんか小ギツネみたい‼︎

毛皮素材だし、これからの季節にピッタリっすね‼︎」


「いや、ユリウスさんついさっきまで

これ着ちゃダメって言ってたじゃないですか⁉︎」


ケモ耳一つでの、もの凄い手の平返しにビックリだ。


「そうなんすけど!そうなんすけどでもすごく可愛いし

似合ってるんすよ‼︎ユーリ様が着てると、魔狐の毛皮を

ユールヴァルト家以外の人間が着てても許される気が

してくるから不思議っす‼︎」


「・・・仮に、何らかの思惑があってこの毛皮が

ユールヴァルト家からユーリ様へ贈られたとしましょう。

シグウェル魔導士団長はそれをご存知なのでしょうか?」


シェラさんが顎に手を当てて考えている。


「いや・・・知らないと思うっす。

前に団長、癒し子をユールヴァルト家の

思うように使おうとするなってセディさんに

自分で釘を刺してたくらいっすから。

本家が勝手に動いたんじゃないっすか?」


「なるほど。オレは魔導士団長とさほど交流が

ありませんので、その人となりは存じ上げませんが、

そういう点は高潔で好感がもてますね。

では、魔導士団長にこの件を話して彼からユーリ様が

魔狐の毛皮を纏えるよう公認してもらえば良いのでは?

彼はユールヴァルトの直系長子なのでしょう?

正式な後継ぎが許可をすれば何の問題もないのでは。」


王都全域の民を癒した事への敬意を表した

ユールヴァルト家からの特別な贈り物などの

それらしい名目を並べて。

それならばユールヴァルト家に所属しない者でも

魔狐の毛皮を所有することも可能でしょう。


そう言ったシェラさんに、ユリウスさんも

それだ!と目を輝かせた。


「確かに、それなら団長の実家以外の人間が

ユールヴァルト家に入らないまま毛皮を

持っていても不自然じゃないっす!

魔導士の大家(たいか)である団長んちがユーリ様に

最大限の敬意を払ったって貴族連中にもアピールが

出来る良い機会にもなるし!天才ですかアンタは‼︎」


「オレはただユーリ様がお気に召した服を着られず

がっかりするところを見たくないだけですから。」


そう言ってシェラさんはケモ耳姿の私に

いつも通りの色っぽい微笑みを向けた。


「ああ、ユーリ様もご安心下さいね。

仮にユーリ様がその毛皮を着ることによって

ユールヴァルト家へ入る意味合いになったとしても、

オレもその時はご一緒しますから。

決してお一人にはさせませんから寂しくありませんよ。

そうですね、オレはユーリ様の嫁入り道具の一つ位にでも

考えていただければよろしいかと。」


何を言ってるんだこの人は。

全然ご安心じゃないよ!一体どこの世界に

成人男性を1人嫁入り道具に持参する人がいるのか。


そもそも、なぜ嫁入りの話になっているのかも意味不明だ。


「え・・・何すかその思考回路。

こっわ・・・天才って言ったの前言撤回するっす。

ただのユーリ様好きなタチの悪い付き纏いっすわ」


ユリウスさんも引いちゃってるよ。

シェラさんは私に関する言動が基本癒し子原理主義に

基づいているので冗談かどうか判別しにくい。


だけど、あれ?今回はともかくこの人、まさか本気で

私の嫁入り道具のつもりでどこまでもついてくるわけじゃ

ないよね?なんとなく怖くて本人には確かめられない。


ちらっと様子を伺うようにその顔を見れば、シェラさんは

いつものように優雅で色気のある笑顔をこちらに

向けてくるだけで、その本心は私には全然分からなかった。








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