表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/217

43話 一枚ずつ心を込めて

 かれこれ三時間ほど前から、あたしとミミちゃんはリビングで同じ作業を続けている。

 先日からダウンロード販売が開始された、ガールズパーティメンバーのシチュエーションボイス。その購入者へのプレゼントである直筆サインの執筆だ。


「ミミちゃん、お茶のおかわりいる?」


「はい、お願いしますっ。ありがとうございます」


 二人分のコップを持って、テーブルを離れてキッチンへと移動する。

 冷たい麦茶を注ぎ、ついでに戸棚からお菓子を取り出してテーブルに帰還。


「けっこう書いたけど、まだまだ終わりそうにないね」


 左側にはサイン執筆済みの色紙、右側には真っ白な色紙が、山のように高く積み重なっている。

 色紙自体の厚みを抜きにしても、相当な枚数であることは間違いない。


「それだけたくさんの人が買ってくれたってことですから、嬉しいですよね」


 まさにその通り。

 あたしの演技は決して上手くない。どちらかと言えば下手寄りだ。

 それなのに、欲しいと思ってくれた人が大勢いる。

一人一人に直接感謝の言葉を伝えることはできないけど、気持ちだけは届けたい。


「うんっ、喜んでもらえるといいな~」


 色紙にサインを書くという単調な作業を繰り返すのは、決して楽なことではない。

 だけど、もう止めたいという気持ちは微塵もなく、一枚を書き終えて次の色紙を手に取るたび、力がみなぎってくる。

 これが学校の宿題だったら、あたしはとっくに投げ出していたはずだ。

 お茶を飲んだりお菓子を食べたり、適度に休憩を挟みつつ、ミミちゃんとおしゃべりしながら色紙にペンを走らせる。


「――今日のところは、そろそろ終わりにしようかな」


 あれからしばらく経ち、ペンを持つ手がプルプルと震え始めた。

 気持ち的にはまだまだ続けられそうだけど、ミミズが這ったような字で記されたサインをファンの人たちに渡すわけにはいかない。


「わたしもそうします」


 ミミちゃんもペンを置き、座ったまま軽いストレッチを行う。


「ミミちゃん、あとでマッサージしてあげるっ」


「えっ、いいんですか?」


「もちろんっ。胸とかお尻とか、しっかり揉みほぐしてあげるからね!」


「サインを書くのに胸もお尻も使ってないんですけど」


「まぁまぁ、細かいことは気にしちゃダメだよ」


 冗談めいたやり取りとして終わりそうになったけど、晩ごはんを食べてお風呂に入った後、しっかり有言実行した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ