閑話:夏休み旅行⑰
連続投稿期間です。
遅くなりました、前回の続きです
「ううぅぅぅどうしよう愛想付かしてたら…
もし私たち付き合ってますなんて言われたら
正気を保っていられない…」
「大丈夫ですって、えーさんが信用してますし
ライカ…さんとテットウさんですよ?間違いなく
そういう話にはなりませんって」
私たちは落ち込みに落ち込み、弱弱しい言葉を
呟き続ける華さんを連れてライカさんたちを助けに
アンフレーバーなるお店に向かっていた。
「…どうなるかなぁ」
「頑張りましょうえーさんさま、もう少しで目的地です!」
「…まぁ、何とかなるんじゃないかな?
というか何とかなるように私たちも協力するよ」
「当然です!私たちも頼ってくださいね!」
みんなの励ましを受けて少しだけ不安が和らぐのを
感じながら私は先程の電話の内容について考える。
ライカさん…いや夏樹さんなる名前は聞こえたが、
一旦そのことは置いておいてライカさんがあそこまで
テンパることなんてそこまでないのに、あそこまで
怯えを含んだ声を出させる相手がいるということは
かなり面倒なことになっているという事だろう。
華さんも面倒なことになっているが
ライカさんたちの方の事情もかなり面倒な感じがするものの…
しかし、やはり頼まれた以上はなんとか解決していきたい。
私たちは色々な思惑を持った状態で、
目的地へ向けて前進していくのだった。
◆◆◆◆◆◆◆
膝が笑い続けてもう何時間になるだろうか。
少なくとも今朝数日前から約束していた
SROのリアルイベントに行こうと灯夜と一緒に
準備していると、唐突に現れた向日葵姉さんが
「私もとーやくんと行きたーい。他の人とか誘ってるの?」
と聞かれたときに正直に答えなければよかった。
ふぃろーこと空野を誘ったことを教えると
先日色々頑張って誤魔化した灯夜に近づいてくる
女の影の思考が再燃したのかついてくると言い出し、
有無を言わせず私たちの小旅行へ同行し周囲へ
静かな威圧を撒き散らしつつ睨み続けるという非常に
心労の溜まる状況を経て空野と合流した結果としてだが…
色々な話を経て最終的に空野の彼女が悪女という話になり
それを解決するためにフジカに助けを求めたら
フジカががたぶらかした女という誤った認識を前提とした
話に至り、申し訳ないがリアルでは一度もあったことのない
フジカを頼るという事態に至っている。
「(うぅぅぅぅ…!本当にダメだろこういうの、
頼む俺も俺だけど本当にダメだろうこれは!!)
常識的に考えて欲しい。たかだか半年ちょっとの付き合いの
ゲーム内でしか会ったことのない友達がいきなり
リアルで会って助けてくれと言ってきたんだぞ?
俺だったら警戒して会わない、人間として信用できたとしても
もう少し警戒して臨む…だが。
受けてくれそうだったのが本当に申し訳なさを加速させる。
ゲーム内で初めて会った時から思っていたが、基本的には
あまりに善人過ぎないか?確かに変な部分はあるが
それはそれでまぁ、という感じだし…
「大胆不敵だったねえ夏樹ちゃん」
「だから違う・・・んです、フジカは違うんです」
「じゃあお名前教えてよー。お友達を助けると思ってさー」
チクショウ、本当になんで彼氏持ちなのに灯夜に
粉かけてくんだよ、意味が分かんねえんだよ…
なんで色恋沙汰はこうも面倒な奴が多いんだよ!
正直ミナトのことをバラしてもいい、バラしてもいいが
それはそれで良心が痛む…
「…言えません、一応友達、ですから」
「じゃあ友達にとられちゃダメだよね?
牽制しなきゃだよね?なのになんでしないのかな?」
「ひっ…!すみませんすみません!」
周りに振りまいていたように見えた威圧を
俺に対して一転集中でぶつけられ、親に怒られた
幼子のように萎縮してしまう。
というか本当に灯夜はいつになったらトイレから
戻ってくるんだ、もう十分は経ったぞ?そろそろ
戻ってきてくれてもいいんじゃないか???
空野もなんか遠い席で呑気にケーキ食ってやがるしよぉ…!
コラボケーキ美味そうだなチクショウ!
「そもそも大学生になったんだから書類くらい
作ってるかなって思ってたら何もしてないって何?
嘘だよね、なんで積極的じゃないの?」
「う、うぅぅぅ…!灯夜と一緒に新しいゲーム進めるのが
楽しかったからです…!」
「…ふーん、デートはたくさんしてたんだ。ならいいかな?
嘘じゃないよね、嘘ついたら許さないよ?」
「本当です…!」
SROではかなり近距離で接していたし
一緒に遊ぶ機会も他の奴らよりかは多いので
一切嘘はついていない。
そんな心をすり減らすような時間をニ十分は過ごし
戻ってきた灯夜への印象をよくするために表情を
取り繕い出したためにそわそわしながらも決定的に
精神が壊れる瞬間は訪れなかった。
「…あ、来た」
ドアベルの揺れる音と共に灯夜のそんな呟きが漏れ出し
私と灯夜にとっての救世主は現れた。
◆◆◆◆◆◆◆
私は店員さんに相席を頼み、ライカさん
もとい雷門夏樹さんが私の隣に、テットウさんこと
金原灯夜さんと、灯夜さんのお姉さんである向日葵さんが
私の向かいの席に座っている。
「さーて、教えてもらえるかしら?」
「…えーっと、初対面だってお話しましたっけ」
ライカさんが女性だったのも知らないし
何よりもリアルで出会うのもこれが初めてであり
お姉さんなんてもってのほかのである。
だがこの威圧感、何故ここまで赤の他人に対しての
警戒度と敵意が高いのか…それだけは先程からずっと
気になっている。
「じゃ、改めて聞くんだけど…とーや君に恋愛感情はある?」
「先ほども言いましたが全くありません、
ゲーム内だけでの付き合いですし、ライカさん…
夏樹さんと一緒に遊んでいることが多いですし
たまたま灯夜さんと遊べる時も他の人たちが
一緒にいるときが多いので私一人で会う機会は一切ありません」
これに関しては本当にそうだ、
私がSROで遊ぶときにテットウさんと本当の意味で
一対一で遊んだことは一回もない、思い出していないだけで
似たような状況はあったかもしれないが…
ライカさんがいたりロルルアさんがいたり、ファル達が
いたりで基本的に二人きりという状況はないのだ。
「そうなんだね、じゃあ夏樹ちゃんと
とーや君はお似合いだと思う?」
「…そうだと思います。一緒に遊ぶ時も
距離が近いですし、仲良しって感じが
凄く伝わってきますし、お似合いかと聞かれれば
肯定します」
「邪魔しない?二人の関係を崩すつもりはない?」
「ありませんよ、兄弟のことが心配なんでしょうか。
大丈夫です…今の私は姉の生活を支えるのに手いっぱいです」
恋愛関連において自分は何もできる気がしないので
これは本当にそうだ、姉が世界の中心だと思いながら
大きな愛を日々ぶつけている…それと幼馴染のみんなや
家族のみんなへそそぐ友愛や親愛を除いたら、
他人に注げる愛はきっと雀の涙だ。
「…なあんだ、夏樹ちゃんが変に黙ってるから
警戒しちゃったけど、いい子だねあなた」
「…ありがとうございます」
私は黙って賞賛の言葉を受け入れておく。
…この人、大体理解したがあれだろうか、
自分の考えが一番正しくてそれ以外は基本的に
クソ、みたいな考え方の人だな?
その後は気分がよさそうに鼻歌を歌いながら
四人分のお代を置き、店を出てどこかへ行ってしまった。
テーブルの上には私の頼んだ紅茶に
ライカさんとテットウさんが頼んだアプリコットティーが
置かれている。
お姉さんが帰ってから数瞬の静かな時間が流れると、
どっ、と決壊するように隣に座ったライカさんが
私へと縋りついてくる。
「ぅぅぅ…!ごめん、ごめんな…!
怖かったろ、本当にごめんな…!」
本当に精神的に疲れたのだろう、
すすり泣きながら私の頭を撫でている。
夏樹さんは十分間そんな状態で、
灯夜さんも夏樹さんの泣き言に相槌を打ちながら
私は二人を励ました。
Q、なんで向日葵お姉さんは永華を許したの?
A、だって夏樹ちゃんが教えてくれないから
悪い子かいい子も分からなかったし…
(まだ警戒状態ではある)
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