閑話:サイン会②
あと三日くらいしたらバレンタイン関連の話を
始めるかもしれない
閑話、前回の続きです。
ついに始まったサイン会にはたくさん…ではないが
始まった時から7~8組の親子が私の目の前に並んでいる。
その先頭に立っていた、4~5歳くらいの小さな女の子と
そのお母さんがとてとてと精一杯急ぎながらこちらへ駆け寄ってくる。
「はじめまして!せんせい、なんでトーリちゃんの
お面かぶってるの?」
「こーら、星奈。そう言うのは聞いちゃダメよ?
サイン欲しいんでしょ?」
「…うん!せんせい、せなの絵本にサインください!」
何か心が洗われるような感覚を得ながら、
私はせなちゃんという女の子の絵本にサインを書く。
…ちょっとだけサービスしちゃおうかな、というか
洗われたとしてもメンタルが弱いのは変わらないので
何か集中できる逃げ道が欲しかった私はせなちゃんに提案する。
「うん…ちょっと質問だけど、
何かサインの隣に書いてほしい子とかいるかな?」
「んーと、うーんと…はなりすちゃん!」
どうやらこの子は二巻目の
頭の上に花飾りを載せたリスの子を書いてほしいらしい。
頭の花飾りが少し時間がかかるものだが、対して時間もかからず
パパっと書き上げてせなちゃんに渡す。
「はい、どうぞ」
「わぁ!しゅばばってすごく早かった!
しかもすごく上手、ありがとうせんせい!」
「ありがとうね。じゃあ次の人の番だから
お母さんと一緒に気を付けて帰ってね。
その絵本大事にしてくれると嬉しいな」
「うん!またね、せんせい!」
「ありがとうございます!家宝にします!」
「私はそこまでの人間じゃないから普通に読んで欲しいな…」
お母さんもなにか感激してそんなことを言い出すが
私は本当にそこまでの人物ではない、というか数年後には
私の存在なんて忘れ去られるであろう絵本作家だろうし
本当に持ち上げすぎないで欲しい…!
そんなことを考えていると次の人が私の前に来る。
何か大人しそうな少年で、やはり目をキラキラさせながら
私の前に来る。保護者は優しそうなおばあちゃんで、
孫と思われるこの子がはしゃいでいるのを嬉しそうに眺めている。
「あのっ、ぼくせんせいのファンです!
サインよろしくおねがいします、あの…
ぼくは、ふくのすけくんをおねがいできますか!?」
「うん、大丈夫だよ。ただちょっっと待ってね」
ふくのすけ、一巻目のフクロウの
学生をイメージして作ったキャラクターである。
彼は少し気合が入っていたので服装がかなり凝っていて
少し時間がかかるが…せなちゃんより少しかかるというだけで
すぐに完成して手渡す。
「はい、どうぞ。大事にしてあげてね?」
「わぁ…!ありがとうございます、大切にしますね!」
「ありがとうございますねぇ。あの子がどうしてもっていうので
来たんですが、嬉しそうでよかったですよ…」
「私もうれしいです。あんなに喜んでいただけるなら
私も書いた甲斐があります」
おばあさんとお孫さんにそう言って別れを告げながら
そんな風にすらすらと会話していることに
今更ながら気づき、私は少し驚く。
藤川さんがいるとはいえ、精神的にはかなりやられているはずなのだ。
しかしこんなに普通の応対が出来ているという事は
ある程度の余裕があるという、少しわからないが
それならば頑張れるだろうかと私は次の人に呼び掛ける。
次の子はどうやら高校生のお兄さんを保護者にしてきたようで
少し面倒そうなお兄さんを横目に少し身長の高めの少女が
ハイテンションで話始める。
「私、みかっていいます!先生、サインよろしくお願いします、
私はシシ君を書いてほしいです!」
私がシシ君とサインを書いている中、お兄さんは
何やら黒子…藤川さんの方に目を向けていた。
なにやら記憶をつなげ合わせようと頑張っているようで、
難しい顔をしている。
「え…っと。そちらの黒子さんは?」
「先生の補助です。少し一人では不安だというお話を受け
友人としてこの場に来ました、正体なんぞ探ろうとも一般人ですので
ただの黒子として処理してください」
「えっ、やっぱり貴方藤か」
声から確信に至ったのか、お兄さんはさらに藤川さんに
聞こうとする。…だが、それに対して藤川さんは語気を強めて
反論を許さないという感じで発言する。
「それ以上口を開かないでください、それ以上言うなら
貴方が好きと推測されるクロオンのミニーカを書いた本人ですら
クソだと確信する程度にはヤバい二次創作作品を世に出しますよ」
「えっ…すみません許してください本当に興味本位だったんです」
「分かりました、許しましょう…ちょうど妹さんの
サインも終わったようですしご退場願います」
「はい…」
ひぇ…お兄さんには悪いが、藤川さんのお仕事で書いた
作品については永寿などに聞いてある程度知っている。
その中でも有名なクロオンについては割と知識を持っているのだが…
可愛そうに、と思いながらもサインと絵はミスなく完成し
私はみかちゃんに手渡す。
「せんせい!ありがとう、だいじにするね!」
「うん、そうしてくれると先生うれしいな!」
次の人はどこかで見たことのある銀髪に
これまたどこかで見たことのある顔の二人組だった。
「ファンです、トーリちゃんをお願いします」
「…永華?」
「人違いです、私は永野藤花っていいます。
小学生なのでギリギリ参加できました、サインお願いします」
隣にいる奥間くんと、遠くから見ていることが分かる
福音ちゃんの凄い視線を感じながら私は釈然としないまま
サインと絵を書き始める。
え、間違いなく永華だよね…?隣の奥間君もなんだか
「またか…」みたいな表情してるし間違いなく永華だよね?
トーリちゃんは一番書き慣れているデザインなので
数秒もしない内に書き上げ、永華に渡す。
「…あとで話を聞かせてもらえる?」
「はて、何のことでしょうか?ありがとうございます、
ねえ…先生の新作を楽しみに待っていますのでよろしくお願いします」
そういうと永華は帰っていった。
隣にいた奥間くんの申し訳なさそうな表情が印象的だったが
その後もサイン会は続いていき、数十人にサインして
問題なく終わり、今日は解散となった。
◆◆◆◆◆◆◆
帰宅後、私は小細工などを仕掛けずに直球で永華に問いかける。
「…なんで永華は来てたの?」
「…ん、どうかしたの?今日は
福音と奥間と遊びに行ったって言ったでしょ、
お姉ちゃんのほうには行ってないし目的地も遠かったでしょ?」
「それは…そうだけど」
しかし腑に落ちない。あれは間違いなく永華、
そう確信しているが故に私は餌をちらつかせて自分から
話させる方向にもっていくことにする。
「永華が正直に話してくれるんだったらお姉ちゃん一緒にお風呂入って
添い寝してあげるんだけどなぁ~?」
「姉さんが大丈夫か心配になって先に見に行きました、
その後は本当に遊びに行ったので何も問題ありません」
やはり永華だったか。正直に話してくれたのを嬉しく思うと同時に
何故隠そうとしたのか疑問に思い、更に問いかける。
「なんで嘘ついたの?」
「…あの場は、流石に手助けしない方がいいなぁって。
ちゃんとできてるみたいだし私がいたら変に緊張しちゃうかなって…」
そういうことだったのか…
私は感謝のハグを決行し、無事永華に喜んでもらえた。
そんなこんなでその日は約束を守って永華とお風呂に入って一緒に寝た。
今回みたいな少人数なら、サイン会みたいなことも
悪くないなぁ…と思いながら、私は眠りについたのだった。
ミニーカ
クロオンのシステム解説的な初戦の役割を担う
所詮チュートリアルキャラで、割とその後もお話に
絡んでくる。最終的にトゥルーエンドでなければ主人公に
呪詛と憎悪を叩きつけて退場し、それまで彼女に対して好感を
抱いていたプレイヤーのメンタルをどん底に叩きこんだ。
バッドエンドのその後とか諸々を数本書き上げた藤川さんの
クロオン専用の黒歴史 (公開してはいけないという意)
入りしている作品を一つSNS上にアップしようとしていた。
はなりすちゃん
好きな人にお花の蜜を集めた瓶を送ろうとしていた
リスの女の子で、頭に花冠を着けている。
ふくのすけくん
フクロウの小学生。遠くにいるお父さんへ
トーリちゃんに手紙を送ってもらった。
学生服と帽子をかぶっていて少しデザインが凝っている
シシ君
喧嘩したひょうごろうくんと仲直りしたくて
手紙を送ってもらったライオンの男の子。
サッカーが得意
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