閑話:サイン会①
閑話、お姉ちゃんと藤川さん回。
タイトル通りです
今、私の顔を見ている人がいたら
それはそれは心配されるかもしれない。
というか私が何と言おうと問答無用で
病院に叩きこまれるかもしれない…
実際夜歩さんには表情を見られていないであろうが
大分はらはらした表情で見られているし絶対にそうだ。
今、私は大勢の人の前で期待された表情を向けられている。
「それでは、お時間となりましたので
あおは先生のサイン会を始めます!」
私は被り物の下から大粒の汗を大量に流しながら
目の前のキラキラした目をした子供と親御さんの持っている絵本に
サインを始めるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆
事の始まりは一週間前、
担当さんからのメールから始まった。
そのメールを受け取った私は数か月前に醜態をさらした
にもかかわらず、また妹に泣きついてしまっている。
「よぉーしよしよし、今度はどうしたのお姉ちゃん?」
「今度は、サイン会だって」
「…一応聞いてみるんだけど、
出版社さんは本当に姉さんのことわかってるんだよね?」
「う、うん。もちろんなんだけど…上の決定には逆らえないって。
それにちっちゃい子と親御さんしか来ないように取り合ってくれてる
みたいだから断るに断れきれなくて…」
担当さんにも本当に申し訳ないと謝罪されると同時に
なんで今回のようなことが起きたのか分からないとも言っていたし
担当さんは本当に頑張ってくれているのだ。
そう言うと、永華は考え込むように
片手を顎に当てて話し始める。
「うーん…出版社さんのお姉ちゃんの売り方的に
そういうのしないはずなんだけどなぁ…?」
「え、どんな売り出し方されてたの?」
私は思わずそう口に出してしまう。
え、よく見られていなかったが何かおかしな売り方を
されていたのか…?
「んーとね、お姉ちゃん最初の作品を受賞した時
熱で倒れて欠席しちゃったでしょ?」
「うん、確か…そうだったね」
本当に受賞したことが嬉しすぎてテンションが上がったものの
人前に出るのが怖すぎて悩んだ結果私は熱を出して式を欠席したのだ。
あれがどうかしたのだろうか…?
「あれをどんな解釈をしたのか正体の分からない
ミステリアスな作家って売り出し始めてね。
正体については一般公開されないだろうからそういうのも
大丈夫だろうと思ってたんだけど…」
「えっ、それ本当に初耳なんだけど…?」
「それにサイン会なんて本当に謎だよ。
藤川さんに関しては本当に権力を乱用したのかも
しれないけど正体をばらさない相手っていう信用を
勝ち取ってたんだろうし…たくさんの人の前に
姉さんを送り出すなんてしないはずだけど」
う~ん…本当になんでいかなければならないのだろうか?
そう思っていると私の電話が鳴る。
「あれ?藤川さんからだね」
「うん…ちょっと離れてもらえる?」
膝枕を辞めて少し遠くに飲み物を取りに行く永華をみながら
私は藤川さんからの電話を受け取る。
「もしもし?」
『あぁ、先生!?サイン会なんて嘘ですよね!』
「…嘘だって思いたかったよ」
本当に…どうやらサイン会に関して心配して
電話してくれたようだ。
『…そうですか。でも私の時のように
永華さんがついてくれるんですよね?』
「…難しいかなぁ」
永華はその日と福音ちゃんと奥間くんと遊びに行くらしく
私の助けには入れない。なんとか時間を縫ってこちらの
アシストに来ると言ってくれたが、私のせいで楽しめなくなるのは
嫌なので断っておいた。
『そうですか…わかりました。14時からですよね、
私が同行します…それなら安心できますか?』
「…え、来てくれるんですか?」
『友人が困っているのなら助けますよ。
自作していた着ぐるみの頭と黒子衣装をもって
同行しに行きます』
「着ぐるみと黒子衣装って何!?
えちょ、あ!」
そんな言葉を最後に電話を切られてしまった。
…着ぐるみは、何かまだ分かるのだが黒子、黒子衣装とは…?
意味は理解できるもののあの服装で来るという事実を
脳みそが拒む。
「…藤川さんが黒子衣装で来るの?」
「あ、うん…そうみたい。なんでか着ぐるみの頭をもって…」
「着ぐるみの頭はお姉ちゃん用じゃない?
…それに藤川さんだって結構有名なんだから黒子衣装で
変装とかそういう感じじゃない?」
「…そうかなぁ?」
確かに有名だがもっと普通の返送はなかったのだろうか?
スーツとかメイクとかでいくらでもできるはずなのに…
深く考えても何も変わらないと
私はその日不安を抱きながら眠りについた。
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そして当日、本当に黒子衣装で来た藤川さんに
私が書いた絵本の登場人物であるトーリちゃんの
着ぐるみの頭を渡される。
「正面の人とはこれで間違いなく目を合わせずに済むでしょう。
サインは間違いなく書ける視界はありますし、
これなら負担を軽減できるはずです」
私はそれを貰って被り、サイン会の定位置につく。
今回一部を貸し出していただくお店はまだ開店しておらず
まだ私と藤川さんと遠くにいて、こちらを見ないでくれている
少しのスタッフしかいないため受け渡しは円滑に進んだ。
「私はいっぱいいっぱいになった時に支援します。
しかしさして手助けはできないでしょう…
サインを書くことだけを考えてください、
他の人がいるという意識を捨てればもしかしたら
大丈夫かもしれません」
「うん、うん…でも怖い…」
この広い場でどう人がいないと解釈すればいいんだろう。
それにサイン会が始まれば人の声もたくさん聞こえるだろうし
本当に怖い…!
「頑張ってください、貴方の絵本のファンですよ!?
期待に100%答えなきゃいけないわけではないんです。
ほどほどに気合を入れる程度でリラックスして臨めばいいんです」
言われていることが正しいのは分かる。
しかし心情が追い付くとは限らないし、膝は笑っている…
「でも、頑張らなきゃ…!藤川さんも来てくれたんですし
私が頑張らなきゃ子供も泣いちゃいます…!」
「そうです!その意気です!」
そう。親御さんはいるが今回のサイン会のメインは子供、
つまり私が怖がっていたらその不安が伝わってしまう…!
私は気合を入れてサイン会に臨むことを決めるのだった。
Q主人公なんで予定変えないの?
前々から予定してたし、今更断るのもダメだろうと思っていた。
お姉ちゃんのことは心配だがちゃんと約束は守らなきゃいけないし…
という葛藤を持っていたが藤川さんのおかげで何とかなると
安心して遊びに行った。(藤川さんという同志への厚い信頼)
トーリちゃん
お姉ちゃんが書いたデビュー作の
「あおいはねのゆうびんやさん」の主人公。
ゆうびんやさんのトーリちゃんが毎日お手紙と
幸せを運んでくれるというのが主軸のお話で
少しおっちょこちょいだがまじめに一生懸命仕事をする
鳥のゆうびんやさん
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