示せ、導きの歌とともに③
今日はちょっと短め、探索パートの続きです
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「その祭りはな、ご先祖様が竜どもと盛大にドンパチやった後に
その魂を鎮めるために始まったって話だ」
なるほど…この方々は竜と敵対関係にあるのか。
『ご…ゅ……さ…!……え……か…?』
ふと、脳内にそんなノイズ混じりの音が響くが
私はそれを一旦内心で謝罪しつつ無視して
目の前の彼の話を聞くことに専念する。
「敵に塩を送る…といった感じでしょうか?
負けた相手を弔うなんて、呪いをかけられたのか
相手を恐れているか、讃えているのかのどれかだと思われますが」
「…あんた学があるなぁ。そんなこたぁ考えずに
年に一度の祭ってだけ考えてたぜ」
「少なくとも歌の歌詞を考慮するなら
相手を称えるようなものもありますし…相手の強さを認め
かつ自分たちの強さを誇示するための者でしょうか?」
「あぁ゛?なんだてめぇ、よそもんが何言ってんだ?」
そんな話を男性…コンジキさんとしていると
前になにやらコンジキさんより更に大柄の金髪の男性が
こちらを鋭く睨みつけながら近づいてくる。
「は?どうしたんだよフルアさん、なんでそんなに気が立ってんだ」
コンジキさんは少し不思議に思っているようで
困惑した表情で相手を見つめている。
「てめえが今度の祭りについて話してるのが聞こえてなぁ…
俺は一応この村の防人だしよ、よそもんを警戒して
聞き耳経ててたのよ。そしたらそいつがあろうことか
敵を称える歌とか抜かしやがるからよぉ」
「はるか過去の話なのでしょう?」
「んなことわかってらぁ。それでも、ご先祖様が
戦って倒した雑魚相手に敬意を払う?んなわけねぇ…
俺たちも強いのに、ご先祖様が弱いわけがねぇ!
そんな相手を称えるなんざありえねえんだよ!!」
そう言いながら二の腕を叩き自分の強さを
誇示するフルアさんなる人物は、
私に対して本当に怒っているようだ。睨む目は先程よりも強く
そしてはっきりと私に対して熱烈な敵をあらわにしている。
「それは貴方の思うことであって、
すべての人が思う事ではありません。そして
これはよその者である私の感想であり、その感想にケチをつけるのは
勝手ですが…それに対して私がどう対応するのかまでは
考えが至らなかったようですね?」
しかし、私は涼しい顔をして二歩前へ進み彼の真正面に立つ。
このような場のいて相手に押されていると思わせるのは得策ではなく
むしろ相手を勢い付かせることになるくらいならば
こちらが自分を歯牙にもかけていない相手だと思わせられるよう
私は力強い言葉で言う。
「な、どういうことだよ?」
「私は旅人です。この地域にも長くとどまりませんが…
その代わりここの悪評を広く流すことはできます。
ああ、あなたのせいで誇り高きご先祖様が多くの人たちに
貶されてしまいますね?敵を称えるような歌詞を歌う弱虫、
子孫まで誇りを伝えきれぬ下賤な者ども…そんな形で」
私がやるべきは出まかせを言いまくることである。
旅人ではないし、その時点で嘘をついているのだったら
それを利用した上でさらに脚色することで
事実のように受け取らせることが、この場における私の勝利条件である。
「なっ…」
「貴方は自らの考えを吹聴しただけかもしれませんが、
それは心の中で留めておくべきことです。外に出ることなんて
役職上ないかもしれませんが、覚えておくことをお勧めします」
そう締めくくって、私はコンジキさんの方に戻り
フルアさんの顔を見ると言い返したいが言い返せないといった
表情をしており、私の作戦は成功したという事をはっきりと示していた。
「ぐぐぐ…!今度会ったら絶対言い負かしてやるからな!」
「ふふ、そのようでは私に勝つのは無理だろうね」
ミステリアスな表情を浮かべてさらに余裕をアピールする。
フルアさんの表情はさらに歪み、赤くなって反対方向に
走り出して捨て台詞を吐く。
「覚えてろよー!!」
「ふふ、何度来ようが私が勝ちますよ」
「…すまねえな、あいつも普段は良い奴なんだが。
祭りが近いってことで気が立ってんだと思うぜ」
そうフルアさんのフォローをするコンジキさんだが
その表情はこちらに怯えているようで、こちらも申し訳なくなる。
「先程のは失礼な対応をされたのであのように返しただけです。
悪評なんて広めるわけないじゃないですか、今のところ
いいところも悪いところも知らないんですから」
「…そうかぁ。すまねえ、この祭りは村でも大事な行事でな?
先祖の功績を賞賛してその魂を鎮めるためにあるもんだから
失敗しようもんならあいつに責任が行くんだ」
私がそう返答すると、彼は安心したような表情でそう教えてくれる。
なるほど…警備をしているという立場で考えると
私みたいなよそ者対応を求められるのは相当な不安だったのだろう。
「…それは、確かに気が立ってしまいそうですね。
私のようなよそ者に対してあのような対応をするのもうなずけます」
「あぁ、俺はあんたと会ってまだ間もないけどよ。
でも俺の顔に免じて許してやってほしい」
「大丈夫ですよ。本当に言い方が悪かったので不機嫌になっただけで
事情が分かれば気にするほどではないです」
そう言って私は前に向かって歩き出す。
「…許してほしいのであれば、私に村を案内してもらえますか?」
「そんくらいお安い御用さ。生まれてからずっと住んでる村だぜ?
俺の知らないところなんてほぼないさ」
「…ほぼ、なんですね」
「ん、なんか言ったか?」
「いえ何も。さあさあ早く案内してくださいな」
「あぁ!まずはグレーキンスさんの屋台でも行くか、
あそこの串焼きがうめえんだ…早くいこうぜ!」
そう言いながら串焼きを食べるのを想像しているのか
嬉しそうな表情を浮かべて走り出すコンジキさんを
私は数歩後ろから追いかけるのだった。
霊を鎮める
SRO世界においてかなり重要な儀式。
深くは説明できませんが、軽んじてまじめに行わない、
もしくはそもそもやらないとその場所が人の住めない場所になる
可能性があるとても重要な物
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