示せ、導きの歌とともに②
探索パートです。
周辺をしっかり確認すると、正面にはなにやら道が一つあり
基本的には洞窟のようにも見えるが…所々人工物が存在しており
背後には祠のようなものが存在した。
「これはなんでしょうか、壊しますか?」
「初手から破壊とかするのはやめようね、
じっくり一旦見てみようか」
祠らしきものはなにやら苔むした岩でできており
その中央には何やら竜を模したような像が存在しており、
その像の中心にはいつぞや見た光る結晶が…
「え、これは…!?」
周囲が光り出し、ヒルデさんの過去を見た時のように
記録を見せられるかと思い、顔を覆うが…
「なにも、ない?」
「恐らくそれを見るためには何らかの条件が必要なのでは?
我々の知っているものは恐らく閲覧に制限をかけずに
閲覧させることそのものを目的としたものです。
こちらは社として祀られており、相応に重要なものであると推察されるので…
何らかの鍵となるものが必要なのかと」
「はえー…」
確かにあの記録は誰でもいいから誰かに伝えるためのものだった。
しかしこちらは恐らく記録を保持するものであるため、
鍵が必要…と。
「…君、まずいことになってるね」
「あ、お久しぶりですヒルデさん。…どういうことですか?」
最近は第一形態の方もめったに使わず、自主性に任せるといって
話しかけられることもないので最近はめったに話すことはなく、
久しぶりのヒルデさんの会話であるが…
どうやら私が思う以上に深刻なようである。
「妙ちくりんな場所にいるし、竜の気配が濃い。
しかも生命がいない?塵芥に近いスライムですらいないなんて
ありえない…それに何か恨みとか呪いの気配もする」
「…どうすればいいですか?」
「下手な破壊行為は控えて。道順があるなら道順に従って。
そしてここぞというときに全部ぶっ壊して」
「最初と最後が矛盾してませんか」
最初に破壊するなと念押ししておきながら
破壊しろとはこれいかに。
「要するに恨みを買う対象にならないで、
最後の最後に大反逆してやればいいの。こんな濃密な呪いを
持ってる相手に最後まで従ったら君だけじゃなく
召喚獣も死んじゃうよ」
…なるほど。ヒルデさんの言う事に納得し
ひとまず脱出の手掛かりを探すことにした。
祠をまず調べてみるが、祠自体には何もないようで
探しても中央の像以外何も見つからなかった。
しかし、探っているうちに像を持っていくことが
可能であることが分かったので、手掛かりを見つけ次第
中央の記録を見てみようという事で持っていくことにする。
続いて洞窟の中、祠の周囲の探索を開始する。
周りには明かり代わりの光るコケが周囲に生えており
視界には困らない…が、特に何も見つからず
残るは祠前の道を進むことである。
最大限に警戒を強めた上で、私はファルと
唯一の道を進んでいくのだった。
◆◆◆◆◆◆◆
道の先に出ることができた。
祠のあった洞窟の先、そこには…
「村?」
快晴と言って差し支えない天気の下、
緑溢れる牧歌的な村が広がっており
建物は古い建物ではあるものの廃墟ではない…
そんな風景があたりに広がっていた。
先程ファルが言っていた言葉と矛盾するこの状況に違和感を
覚えながらも、手掛かりを求めて村へ向かってみることに決める。
「ひとまず、見に行ってみようか」
「はい。ではいきましょうか」
・
・
・
しばらく進むと、大きな爆発音が響き
そしてなにやら大声で喧嘩しているような声が聞こえる。
「オイゴラァ!早く水汲み行って小屋の鳥絞めて草刈ってこいやぁ!」
「やだー!!面倒くさい―!!」
「晩飯抜くぞコラ!」
遠目からも目立つ金髪。そして髪と同じ色の細く長いしっぽを
走るたびに揺らしながら、怒って相手を追いかけている男性は
目に見えて引き締まった体をしており、その巨体に反して非常に素早く
怒っている相手を追いかけている。
一方もう片方はミソラにも似た銀髪に、同じ色の尻尾。
しかし体は追いかけている男性に比べて一回りほど小さく
動きもさらに素早いため金髪の男性も捕まえられずにいるようだ。
体の大きさを鑑みるに子供だろうか?
「近づいてみましょうか。警戒されてはいけないですし
とりあえず私は角を隠しますので相手に説明する
適当な事情を考えて頂けますでしょうか」
そう言ってどこからか取り出した外套を深くかぶり、
二人のもとに進んでいくファル。
「申し訳ありませーん!どうかなさいましたかー!?」
「あぁ!?旅のもんかぁ?丁度いい、そいつ捕まえてくれ!」
「お願いお姉さん!この筋肉ダルマから私を逃がして!!」
そう言って私とファルの方に向かってくる二人に対し
私はどうしようかと考えつつも、ひとまず二人の事情を確認しようと
ファルに指示を飛ばして二人を分断することに決める。
「ファル!ひとまずそっちの子供と逃げて、
私はこのおじさんに事情聞き出すから!」
「ありがとう!お姉さん、あっちに行けば逃げられるよ!」
「わかりました、ご武運を!」
そう言ってファルは子供を連れて逃げ出すと同時に
そして私はおじさんに捕らえられ、頭蓋を圧迫される。
「てめえ、よくも逃がしてくれたなぁ…?正当な理由があんのかよ?」
「私は旅の者ですが、先程の爆発音なども鑑みて
子供に対して少しばかり指導が行き過ぎているのではないかと思い
双方の話を聞こうと思ったのです。なので私にあなたとあの子の話を
お教えいただけるとありがたいです」
「…あぁ、なるほどな。確かにそうかもしれねぇな」
そう言うと、先程までの怒気は鳴りを潜め
しっかりとした受け答えをする気がある、
といった表情を浮かべて話し始める。
「あの子はな…」
そこからの話は主要な話よりも彼の感情語りが
かなり長かったので割愛するものの、
要約すると彼の親戚の弟が死に、その子供を託された。
本当は優しくしたいもののこの時代、この環境では
弱いことは罪であり死に直結する。
故に厳しく鍛錬もかねて家事を手伝わせているが
親戚の弟は大層甘やかしていたようで、家事をしないどころか
毎日どこかへ行って泥だらけになって帰ってくるのだそうだ。
「本当に心配なんだ。でもな、あいつの気持ちも分かるし
させてやりたい気持ちもある。…本当に、この世界が憎いよ。
こんな危険な怪物があふれる世界じゃなく…もっと優しい世界であればな」
「…なるほど。事情は把握しました」
「話を聞いてくれてありがとな、少し気が楽になったよ。
それのお礼と言っては何だが、この辺で近々祭りがあるんだよ。
かなり大々的に行われるし…あんたも見ていったらどうだ?
参加条件はない…ああいや。ひとつだけあったか」
話を聞いてくれたお礼と言わんばかりに
近々祭が開催されることを告げて、参加条件とやらを教えてくれる
男性。といっても対して難しいものではないようで
人差し指を一本立てて得意げに言う。
「一曲、この村に伝えられてる歌を歌えるように覚えておけばいい。
そうすりゃ祭りには参加できるぜ」
そう言って、彼は歌の歌詞を教えてくれる。
古くから伝えられているというその歌は言葉の表現こそ
古めかしいものではあるものの、美しく積み重ねられた歴史を感じさせられる
素晴らしいものだった。
その歌を聞きながら、
私はファル達がどのような話をしているのかについて考える。
ファルの強さに関しては心配いらないので敵については
問題はないと思われるが…
話の流れによってはファルからあの子が逃げてしまうかもしれないし
私はそれが不安だ。
ちょこっと豆知識「身隠しの術」
散々言及しておきながらな幾度となく書き忘れる事態に襲われ
詳細を語られていなかったが、単純に言うならRPGの隠し通路の上にある
通常の壁のテクスチャのようなもの。何もない風景が広がる
結界のようなものを作り出し、隠すべきものを隠す。
この世界には魔術により人工的に生み出されたもの、
完全に自然発生したもの、エストールさんなどの妖精の王族の手で
生み出された準自然物のようなもの、自然物を妖精の王族の手によって
加工し効力を高めた加工品といった種類がある。
ブクマ、評価よろしくお願いします!
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