爆砕と蛮雷、そして三の解①~5秒足らずのノックダウン~
6日も空いちゃったので前回のあらすじ
レベリングにてレベル上限になるまで暴れたリーズは、ロックに拘束されて1人特別授業を受けることになったのだった……
『鍛えてほしい人がいるんです』
ロックにとってそれは偶然の産物だった。
そのきっかけを作ったのはフィールド探索中、身にかかる火の粉を振り払っていた時に出会い、突然のふいうちとはいえHP全損の危機を味合わせてきた少女。
隠しエリアの存在を掲示板で拡散してしまうのもしのびないと思った彼は、これも一興と誘ったのだが、少し間を開けてから返ってきた返事がこれだ。
『あまりうまく言えないんですけど、ゲームの世界になるとどこかやけっぱちで、生き急いでて、足りないものの埋め合わせで自分を差し出すことに何も疑わない、そんな人なんです……普段はそうじゃないのに』
「……そりゃただのロールプレイじゃないのか? そういう奴は割とザラだぞ?」
ああそういう時もあったっけなあ、と。
遠い目をしながらロックはコール先の少女、おぼろに返していた。
このMMOというゲーム媒体において何か決まった役目を……例えば良家のお嬢様だとか、歴戦の騎士だとか、アニメやゲームで有名なキャラクターを演じるプレイヤーというのは珍しいハナシではない。
実際自分もそういう芸を求められたことは何度かあるし、設定したアバターを自分自身の五体で動かせるVR世界ならばコスプレとしての需要も相応に高い。
『違うんですよ、ぜんぜん演技とか人をだましたりとかできる人じゃないんです!』
そこのところを理解している彼は、むしろ訴えてくるおぼろ側が気負いすぎなんじゃないか、と心配になってくる。
彼女も彼女で現実を区別し切れていないところがあるし、勘違いひとつで人を悪党と断じて成敗しようとする、善良にしては極端な気質の持ち主。
街道はずれの辻斬り……というウワサが掲示板から消えたあたり、もう好き勝手に辻斬りするようなマネはしなくなったと思うが、気質は未だ変わらないようだ。
『そういうこと慣れてないのにしようとするし、ずっと思い悩んでるみたいで……だから、ロックさんの目で見て、いろいろ教えてあげて欲しいんです。何かのヒントになるはずだから』
とはいえ自分と並べて遜色ない後輩相手に2人のみで、終始優勢に戦いきったというその娘に興味がないわけでもなかった。
「……わかった、アテにならないかもしれないけどやれる限りやってみるよ」
『ありがとうございます!』
だからこそおぼろの願いを承諾したのだ。
願わくば、その極端な気質が大人になったあとの黒歴史程度で済むことを願いつつ。
「うわああああああん!」
「なるほどなあ……これは気にもなる」
それで今、迫りくる蟹とカニ相手に泣きながら無双する娘の様子を視界の端々から見るに。
確かにこれは問題ありだ、と結論を下したのである。
*
「前提としてこのゲームはただのアイテムにもパラメータ要求がある……ってのはもう気づいたな?」
「今身をもって思い知ったわよ……」
「よろしい。こういうのはたまーに役に立つから、覚えとくといい」
小石同士がこすれる音を立てながら、私の足を抑えつける釘が引き抜かれた。
こうもカンタンに解放されるとなんか悔しいわね……。
「まあそれを踏まえると、極振りは性能として致命傷……ってのがこのゲーム、ひいてはVRMMOの共通見解だ。できることが極端に減るし、バトルでも生産でも大きく制限されるから」
「致命傷? アルにもファラにもおぼろちゃんにもさんざん言われたけどそんなことなかったわよ、【スーサイド】と気合でやってけてるもの」
アイテムを作れない不遇、目先にとらわれた愚か者、戦えない異常者。
そこにアイテムも満足に使えないとなれば、なるほど確かに致命傷でしょうね。
けど、その評判をさんざんはねのけたのが私だ。
本人たちの前で実演して、できるって証明してやったのは自慢していいと思ってる。
そりゃあ十分ではないけれど、そこは自信を持っていいでしょう?
「そう……実際PSやシステムによるところは多いし、それで大概の有利不利がひっくり返せるのが面白いところかつ泣き所なんだ。俺も実況チーム時代、ご機嫌取りのためにLUC極とかDEX極とかさんざんやらされたけど、何とかやってこれたしな」
「そーよ! それなのにみんなして私のこと異常者だとか愚か者だとかいうのよ、やんなっちゃう」
「分かるよ、俺はそれで実況チームやめたからな……あの時はあおってくるリスナーやアンチに中指立てて『うるせえ■ね!』って何度言ってやりたかったか」
「おおう、昔は結構やんちゃだったのね……」
「正直あの時は相当イラついてたよ、先達と比べられてイラつき、後輩の突き上げにもイラつき……挙句の果てには妹に殴り飛ばされた」
「妹」
垣間見える実況者界隈の闇を肌で感じつつも、経験者ゆえか意外と会話は弾んだ。
そうよね、やってもない周りの声なんてアテにならないわよね!
あいつらいっつも外野から好き放題、いっぺん自分たちの手でやってみなさいよって!
「……でまあ、多少なりとも経験のある身から言わせてもらうとだな」
「実況者はクソってコト?」
「違う」
「じゃあリスナー?」
「そうじゃない……脱線したのは悪かったから離れようか」
なによう、今絶対そういう流れの話だったじゃない!
こっちにとっては先達の貴重な話なんだからまとめてから話してほしいもんだわ!
口を開こうとした私をくどいとばかりに咳払いして仕切り直した。
「お前は極振りビルドにしては未だ中途半端なんだ、そのスーサイド戦法を主力にするにはスキル構成とPSがイマイチ物足りない……だから」
4人が戻ってくるまでにPSを少しでも磨いてやる。
ロックはそこからさっき見せた【紅演武】とやらの構えをとり、さらにつづけた。
「1分――1分間、俺はありとあらゆる手段でお前を転ばせて拘束する」
「はあ? なによそれ、組み手ってコト? セクハラじゃないわよね?」
「組み手と思ってくれていい。スキル、スタイル、アイテム……おまえはとにかく何でも使っていいから1分かわし続けるんだ。場合によってはこの場でロストさせてもかまわない」
「1分? そんなの逃げ回ってたらすぐじゃないのよ」
それは甘く見積もりすぎじゃない?
急に飛び掛かられたマリーにはちょーっと油断したとはいえ、対策ナシじゃ1分で制圧しきるなんて無理だと思うけど?
「そうかそうか、意気軒昂で何より……だけど――」
瞬間。
「――果たしてすぐかどうかは結果が決めることだ」
その考えは開始2秒。
顔面に飛び膝蹴りを決められたことで見事爆散した。
実況者時代のロックはかなりイラついてたというのは本人の弁
はたから見た彼は相当イキっており
夏休みの実況企画でプレイしていたゲームにて、筋力極振りの妹(当時初心者)に殴り飛ばされたことでようやく謙虚さを思い出し、聖人と呼ばれるに至ったそうな




