強欲だって欲しくない物は欲しくないんです!
「はあぁぁぁぁ……」
前略パパとママへ。
お元気ですか。
私、荒垣莉世は今ゲームで借金を返すために頑張ってます。
今見直すとおかしな字面ですが、考えちゃダメよ。感じてね。
「はあああああああああ……」
そんで、なんでこんなに深く深くため息をしているかというと。
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【七大罪・強欲】
スタイルスキル。
部位欠損やロストでアイテムを手放さなくなる。
戦闘開始時、自分にターゲット集中状態を付与する。
取得条件:バトルスタイル、もしくは「七大罪」の名がつくスキルを装備している状態で以下の条件を満たす。
①2500以上のEXPを得る。
②フィールド一つにある採取ポイントを取り尽くす。
過ぎた欲は身を滅ぼす。
深淵へ行くか、戻るかはあなた次第。
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こいつのせい。
スタイル開眼とやらをして、私のバトルスタイルはこのスキルに変貌しちゃった。マルジンさんにも、
――あー、まー、うーん……ドンマイですぞ!――
とか言われちゃったし。
聞いてみたら、バトルスタイルによって発現するスキル【スタイルスキル】は一つしかつけられないクセに強制装備。
つまり私は次にスタイルが開眼するまで、この【強欲】スキルと一連托生になってしまったのだ!
ああなんたることか!
「いくらスーサイドがあったって、狙われ続けたら死んじゃうじゃない!」
ターゲット集中の意味するところは私でもわかる。
敵がこっちにわんさかあつまるってことだ。しかも私自身が遅いから必中だし、痛くならない防御力なんてないし、スーサイドで抵抗するだろうし……
「うん、ダメ! 100%死ぬ! 絶対死ぬ!」
というか、矛盾してない!?
死にたがりのクセにモノは欲しがるとかどんなクズだってのよ! 疫病神にも程があるわ!
「仕方ないか……」
思い出すのは別れ際のマルジンさん。
――そう悲観することでもありません。 町で暮らす中、開眼するスタイルもあると聞きます。 ひとまずそちらを目指してみては?――
とは言ってくれたけど、少しでも早く先に進まないといけない身の上。
ただぼーっと過ごすなんて持ってのほかです。
なので。
「いらっしゃいませだなー! こちら生産職御用達、ダーナモの不動産屋なんだなー!」
次のスタイルが出てくるまでの間、錬金術の準備でもしましょうか!
*
このゲームにおける生産職は、それぞれ専用の道具がないと生産スキルを使えない。
鍛冶屋なら金床、機械技士なら工具、薬師ならフラスコ、仕立て屋はドレスルーム。そして錬金術士は釜。
町の市場で買ってもいいんだけどかなり値が張るし、何より大きくて持ち運ぶのがね……
というわけで、釜が付いている家を見に来たのです。
あわよくばお店にして、錬金アイテムをすぐに売れるようにしたいしね。
「ふむふむリーズさんは錬金術士、ということは釜のある家を御所望だなー?」
「それでなるべく安めの家でお願いします」
「ワケアリ物件でも構わないかー? 幽霊が出るらしいけど平気かー?」
「うっ、だ、大丈夫デス……」
「ほんとだなー? 何が起きても当社は責任とらないぞー?」
私の返事を訝しんだ不動産屋さんは再度確認。脅しのようにずいっ、と私に顔を近づけてきた。
「ごめんなさい、無理です」
「了解したのだ」
大丈夫じゃない、全然。
小さい頃夜更かしした子供が幽霊に連れて行かれてしまう絵本を見たときから、怖くて毎日欠かさず夜には眠るようにしているのだ。
今の極貧生活でも元気でいられるのはきっとそのおかげ。
だいたい『人の噂が伝説になる』VRゲームよここ。
お化けなんていないさなんて言っても、こうやって話に上がる以上は出てくるに決まってるじゃん!
「えー、釜付きお店経営可で、爆発しても迷惑のかからない所は……と」
まってまってまって最後のなに?
「お、あるとこにはあるもんだなー」
不動産屋さんは私の声を見事黙殺し、たんたんたーんとキーボードを弾いてから、こちらに画面を向けてきた。
「こちらでどうだー? 職人通りの近くにある一軒家。 かつて魔法アカデミーが学生に貸していた家で、結構ボロいけど道具がたくさんあるから使いやすくはあると思うんだなー」
ほほう、結構広くていい家じゃない?
入口のあたりを改装できればいい感じにお店にもなりそう。
でも、お高いんでしょう?
「ああ、それなら大丈夫なんだなー、頭金さえちょろっと払ってくれれば、リボ払いでローン組んでおくんだなー」
「……今なんと?」
「ローン。 普通だったら30万エンのところ 今回は頭金5万エンからにしてやるんだなー」
「ローンは……借金だけはいやー!!」
「あ、こらカネヅ……お客さん! どこいくんだなー!」
私はそう言って不動産を飛び出した!
当たり前じゃあ!
借金まみれの元令嬢に借金の話題持ちかけるとかふざけとんのか!!
私がこの世で一番聞きたくない言葉だわ!
ちっくしょーどいつもこいつも!
私をバカにして楽しいか! 苛めて嬉しいか! 私の純粋無垢な心を踏みにじって愉悦に浸るの……
「ん?」
大通りで爆走を始めてから少し立った時、なんか妙な違和感を覚えて止まった。
「なんだろう、さっきから周りの人の流れが早い?」
いや、私の敏捷は初期値のままだから普通に歩いてる他の人並みに遅いけど。
でも何人か小走りだし……なんか赤ハチマキに命♡だのLOVE☆お嬢様だのつけた集団とかもいるし。
なんだったらお嬢様目の前にいるけど。あ、無視された。ちくしょう。
しかもその人らはある場所の前で急に止まり、荒い息をしながら安堵の声を次々にあげる。
「ひゃあ、デッカ……」
そこは私でも驚くくらいな大豪邸の門の前。
黒い壁みたいにそびえる門のむこうは延々と舗装された道が続いており、両サイドは庭、というか最早森。どれもこれも手入れがよくなされていて、奥にそびえる迎賓館みたいなお屋敷も含めて、超豪勢な作りだった。
「なになに、なにかはじまるの?」
せっかくなんでわたしもその集団にまじってみる。
この辺に住んでる有力貴族主催のゲームのオープニングセレモニーとかだったりしたら、見ておかない手はないからね。
でもそんなんあったっけー? と思っていると……
「ファラ様がなんかでかい発表をするってんで、ファンや取り巻きが集まってるのさ」
と白髪で青いショートコートのイケメンが答えてくれた。
「ファラ様?」
「さては新参ゲーマーかお前……VRMMOを中心にやってる有名な実況プレイヤーでな、派手かつ優雅に戦うお嬢様って感じで今ゲーマーの間じゃ人気なのさ」
ふーん。
そういうアンタはどうしてここに?
取り巻きさん達から一歩引いてるみたいだけど。
「ん? オレも一応βテスターだし、敵の動向は調査しておかないとってな」
「へー、マジメね」
「マジメに取り組んだやつが勝つからな、バカになんないぞ………おっと、来たみたいだな」
イケメンが言うが先か。
ガチャリと蝶つがいが動き、大きな音をたてて門が開いていく。
その奥から現れたのは屋敷の主。
長い黒髪に、赤い宝石の髪留め。フリルみたいな遊びのない長めのドレス……なんていうんだっけ、マーメイドドレス? みたいなのを着こなしながらしっかりスリットを入れて動きやすくしてる。
……なんだろ、まるで。
「おーーっほっほ!」
勘違い冒険者みたいな女の子が、ゆったりと歩いてきた。
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