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インスタ!〜スタミナ極振り没落令嬢、今日もVR世界にダイブ・イン!〜  作者: 地雷源
第四章 ドカバキ! 生きてる罪【パラサイト・シン】!
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用法要領は計画的に

 

「はぁっ――はぁっ――」


 草履が地面をこすり上げる音も、すれ違うNPCたちの顔つきが変わる様もかまわず、赤い着物をなびかせおぼろは通りを弾むように走り抜ける。


 今はただ、屋台や工房の立ち並ぶ職人通りのはずれ、西門手前。そこにある魔女帽子の工房ただ1点をめがけて。


「おっとお!?」


「すみませんっ」


 ただそのように心に決めて走っていても、目前の集団にはぶつからないよう最低限注意を払うけれど。

 なにかあったのだろうかと、おぼろはすれ違う一団の隙間を縫うように抜けていく。


 めいめいが同じようなデザインの服を手にしながら自分と逆方向に進んでいく……それも全員プレイヤーだ。


 決まった衣服や意匠が雑誌やテレビを介して1時期の間流行になる、というのはリアルでもよくある話。


 それのゲーム版と考えればとくべつ問題はない――それがポケットのやたらついた、なんだか工事現場の作業着みたいな服だとしても。

 けれど、一行とすれ違ったところでおぼろは足を止める。


「……どうしましょうか、これが今売れ筋になっている服なのだとしたら」


 聞けばリーズもこのゲーム世界では錬金術を使った店を開く身。ならば売れている商品があるという情報は喉から手が出るほど欲しいだろう。

 多少時間をかけてでも話を聞くか、合流を優先してロックの返事を早く伝えるか、悩みどころだが……。


「人がこんなにいるなら願ったり、ですよね?」


 小さくつぶやいてから、おぼろは振り返って大柄な男に声をかけた。


 ……この【リキッドウェア】か?

 あっちの家のリーズってやつが服を【改造】してくれてなあ……いやあすごかった。


 途中ぶっ倒れたかと思えばすぐ立ち上がって、白い粉頭にぶっかけて並んでた連中全員の服を一気に片付けちまった。


 ほかの錬金術士もあんな風に【改造】やれないもんかね、イベント目前だってのに……。

 っておいおい、なんで怖い顔してんだ? かわいい顔が台無しだぜ?



 *



 死屍累々。

 死屍累々だわ、これは。

 手伝ってくれたエリンちゃんとアルは壁にもたれかかって動かない。


「アルさん、おとなのせかいってこうなんです……? 私、おおきくなるのが怖くなってきたです……」


「安心しろ、これは悪い夢だ……ぐっすり寝れば、明日には……」


「なるほど、これが逃避……これができるのがおとなですか……」


 いや、違うと思う。

 というか現実逃避がもっぱらなゲーム世界でなおかつ逃避ってどこに逃げるのよ?


「ぐ、ぐえ……楽しいけど……きつい……」


 あとシオン、床に倒れ伏してなんか指をちょいちょい動かしても、血なんてついてないんだからダイイングメッセージはかけないわよ。


 私? 私は……


「――正座を崩さない!」


「はいいっ!」


 貯金が100万エンを突破しお店に来る人たちを2時間きっちりこなしたその足で、工房に飛び込んできたおぼろちゃんのお説教を受けていた。


 なんでお店経営でさえロストしそうになっているのか、貴重な【シンデレラパウダー】を使ったせいで結局差し引きマイナスじゃないかと様々。

 うーん、毎度的確で頭が上がらないホント。


「いやあ、そうでもしないとさばききれなかったのは本当に痛かったわ……これもファラ信者の動画拡散力かしら」


「今はイベント目前、【改造】のできる【錬金術士】の方が未だ少ないのもあって、上位を狙う人たちは血眼になって探しているそうなんです、多分それに巻き込まれたんですよ」


 ……なるほど。

 ガチ勢に監視されてたのはそういう事情もあったのね。


 素材の入れた釜の中を魔力でかき混ぜるためにMPを大量に消費するのがネックな【錬金術士】。

 その釜もボスを倒すなり10万以上も払わないと手に入らないから始まったばかりの今は本当に貴重なんだ。


 いや待てよ?

 そんなに貴重なら……


「今、改造サービスを請け負えばぼろ儲けでき――」


「人が! 足りない! です!」


 まずい藪蛇だった……お説教の時間が伸びた。

 そもそもとして外を歩いていた知り合いを助っ人として呼びつけてる時点で現場崩壊してるもんね。


「とにかくっ! こんな時にお店を開くなんて何考えてるんですか、約束があるっていうのに! せめて私も一緒に――」


「おぼろは相変わらずだな……だけど説教はその辺にな、入りにくくて仕方ない!」


 その時。

 入り口からの声が、えんえんと続きそうだったおぼろちゃんのお説教を遮り、飛び込んできた!


「アルさん、あの人って……」


「なんだなんだ? なんだってんだ?」


 フラフラだった2人も、うつぶせのシオンも起き上がって飛び込んだその姿を見る。

 袖なしのフード付きコートに身を包んだりりしい顔のイケメン。


 その手のゲームからそのまま出てきたかと錯覚させてくるその人は、私たちの視線の集まる中央に着地して立ち上がる。


「知ってそうな奴もいるが一応紹介しよう、俺はロック! 職は僧兵だ!」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ロック レベル:28

 職業:僧兵 属性:火

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ……ふ、ふつうだ!

 ふつうのイケメンがやってきた!



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