厄介者たちの反省会①〜赤恥の鬼と【飛閃】の由来〜
「いってぇー……!!」
「派手に背中から落ちましたね……立てますか? リーズさんと同じように打ちあげましょうか?」
「いやヘーキ! おれはカベも駆け上がれるんだぜ、打ち上げるなんてもったいナイナイ! 何だったらお前を背負って運んでやろうか?」
「……なら早く立つ! ここまで活きがいいなら心配なさそうですね!」
「なんだよー! そうつっけんどんに返すことないだろー!」
リーズが穴から脱出した直後のこと。
クレインは完全に背を向けて立っている2人を倒してしまうか否かと考えていた。
なにせ自分の工房を荒らしまわったツケは未だ返済のメドが立っていない。
後が怖いがマリーとは所詮、ベータテスト時代のこのゲームで知り合いとともに護衛され、勝手にクラン結成の約束を取り付けられた程度の仲、反故にしてもさしたる問題はない。
たとえこの選択でマリーたちから三行半を突き付けられたとしても、ソロの生産プレイヤーに戻るだけなのだから。
日がな1日、1人炉を前に鉄を打ち、鉄がなくなればクエストや採取に出向くだけ。
この付近程度ならばもう魔物に向き合っても負けはしないだろうし、最悪護衛を雇えばいい。
結果が変わらないならば、今ここで恨みを晴らしてしまっても――
「あ、そうだ……ちょっと待ってくれおぼろ」
「今度はなんですか、もう……!」
動かせる腕で使える武器を取り出そうとしていた時だった。
不意にシオンが振り返り、クレインの方へ向き直ったのである。
どうする、構わず剣を取って振るうか? いや、あの速さからして難なくかわされる。
そうなればおぼろは黙っていないし、鎖でがんじがらめにされ動くのが腕一本の現状、なすすべはない。
どのみち今、敵意や警戒を孕んだ行為はすべて悪手――!
「工房を踏み荒らしてごめん!」
「あ……?」
「言い訳はしねえ! おれのせいでおっさんはやりたいことができなくなったんだろ? なら悪いのは全部おれだ!」
理解が遅れ、変な声を出してしまった。
自分は下手人であるこいつと全く関係ない仲間もかまわず巻き込んだのに。
理不尽だと憤ってもいいところ、目の前の子供はなんと頭を下げたのである。
「……どうして謝る、俺はお前をPKしようとしたんだぞ? それもお前らにとっちゃアホみたいな理由で」
「アホって言うなよ、やりたくてやりたくて仕方ねえことだったんだろ! 分かるんだよ、出来ねえってなったときの苦しさがさ!……おれもスキに走りまわりてえってのにリアルでずっとお預け食らってて、それでこのゲームを始めたから」
「おまえ……」
語り切ったシオンにそれ以上のことは言えず。
「シオン、早くしないと……!」
「ああ、わかってる……じゃーなーおっさん! 踏み荒らした分の金、いつか弁償すっから!」
かくしてこちらへ頭を1度だけ下げたおぼろとともに走っていくのを見届けることになったのである。
「……はあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
置いてけぼりになったクレインは盛大に息を吐いた。
結局のところ己のしたことはこの場をただいたずらにかき乱すだけのものだったのではと思いはじめ……
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
それを赤の他人――しかも殺さんとした相手、さらには親子ほどに年の離れた――に気づかされたと、どんどんどんどん事の重さが重なっていき……
「おいマリー、ガキどもはもうでてったぞ! いつまで遊んでるんだ!」
沸き立つ感情をごまかすかのように。
さっきからちらちらとこっちをうかがう、自分と同じくこの場をかき乱しただけの仲間に声をかけるに至った。
「……は?」
そしてそれは当然、パーシバルたちにも届く。
聞き間違いだろうかと、パーシバルたちは互いに顔を見合わせた。
何せ今の今までほとんどマリー1人に翻弄されていたのだ。
かち合うたびに弾き飛ばされ、巧みにかわされ、ろくに傷もつけられないまま……。
「ええー! マリーさん本気出さなきゃだめー? 怒らないー?」
「なんで怒る怒らないがそこで出るんだ……あの小娘が穴から出るまでに倒そうとしなかったお前の落ち度だろ、あきらめろ」
「だってエリンちゃん以外のリアルロリとショタにワンチャン手取り足取り教えれたんだよ! そこから発展してさあ……!」
「本性現したな?」
「……お師匠様! かわいいジト目のお弟子さんをいいこいいこする権利をください!」
「それを許せばいいこいいこ以外もするだろこのセクハラ魔人が」
「あ……あああ!!」
そう、ろくに傷つけられず。こちらもまた傷つくことなく。
それでいて、あの2人には定期的に指示を出して攻撃させていた。
マリーは自分たちを、あの子供たちのサンドバッグくらいにしか思っていなかったのだ。
「テメェェェェ!!」
「うう、後でアルくんに慰めてもらお……」
それに気づいた面々の中で一番に飛び出したのはやはりというかパーシバル。
この世の絶望を見たかのような表情のマリーは今しがたまでふるっていた【方天戟】を、アイテムボックスの中へしまいこむ。
「まだ舐めプする気か!?」
「【インビジブルアームズ】オン」
「バカにするのも大概にしろ!! そんな初見殺しの小技、今更使ったところでもう遅ぇ!」
手にした武器を少しの間透明化させるスキル【インビジブルアームズ】はベータ時代からのマリーの十八番であり、彼女をトップまで押し上げた原動力というのは同じ時期のプレイヤーならだれもが知る有名な話である。
それゆえ【武芸者】として【カテゴリ:槍】の武器を使うトッププレイヤーとして有名になった最近では、ほとんど無用の長物と化しているのもまた広く知られるものだった。
当然だ、構えている武器が長槍だと判明しているならおのずと間合いも見える。
「この距離で槍はとり回せねえだろ! 食らいやが――」
もちろんそれを知っているパーシバルはさらに逆上し、そして――
ほとんど0距離のところで言葉を詰まらせたかと思うと動かなくなった。
「か、かひゅっ……!?」
【熱毒】【麻痺】を示すマークが点灯し、体をけいれんさせながらHPを減らしていく光景を目の当たりにしてようやく騎士はパーシバルが攻撃を受けたのを知る。
「パーシバ――!?」
「小技とかひどい言い草だなーてっぺいくん! 持ち方と使い方は立派な戦法だぜー?」
言いながらマリーは首の貫通で動かなくなったパーシバルを足で強引に引きはがし、困惑中の騎士にぶつけてやる。
そしてたたらをふんだ騎士の眼前まで踏み込み、騎士とパーシバルをまとめて刺し貫いた。
鎧をひび割って押し通る不可視の一閃を、片手で。
ここにきて騎士は彼女の得物が両手を使う槍のそれではないと確信する。
……のだが、それはおかしいハナシだ。
確かこのゲームは転職でもしない限り、キャラメイクで選んだ武器以外は使うことは出来ないはずなのだから。
「お前は何を持っている、槍じゃないのか!?」
「さあどうかな? 斧かも知れないし、剣かも知れない……もしかしたら弓かも知れないね☆」
返ってくる答えは白々しい言葉とわざとらしいウィンクのみ。
当然だ、教えてやる義理なんてどこにもない!
「知識は更新したほうがいいよー、特にネトゲはすぐ天下なんて変わっちゃうんだから! アンテナ常にはっとかないと」
杖を構え、治癒の魔法を唱えようとする魔導士を見たマリーは答えるのを中断。
アイテムボックスから消費アイテムのナイフをとり出し、空いている手で投げつけ妨害する。
そして、
「逆巻け【風雅】!」
武器に風をまとわせて放つスキル【風雅】で団子のように刺さっていた2人を魔法使いたちに向け射出してやった。
魔法偏重で華奢なステータスの多い純魔に騎士と大剣使いは重かろう。
【麻痺】で動けないことも相まって、哀れ2人は下敷きにされ動けなくなってしまったのだった。
「よーし、これにてオールクリア! どーよクレインさん!」
「■す!!!!!」
「……はあ」
言われた通りさっさと倒してどや顔を送った矢先に殺害宣言。
だから怒らないかと聞いたのに……そういうとこだぞ、とマリーは肩をすくめた。
「俺の作った武器を他のやつに改造させたなお前! はーないわー!! マジないわー!! 無許可でやるとかマジないわー!!」
「はいはい帰るよ、特異点ちゃんが天井壊すだろうし! 尋問も禊もあとあと! 【イグナイト】オン!」
「改造したのは誰だ――ぐげ!? ちょっまてっ、話はまだ……あががががが!!」
別に大した【改造】じゃない。
槍の持ち手を削ぎ落として限界まで短くした後に、仲間が調合した毒薬を塗りたくっただけのものだ。
……などと説明しても職人気質の彼には無駄というのは知っているので。
マリーは答えないまま、唯一縛られていないクレインの腕をとり加速のスキルで一気に通路を駆け抜けた。
直後通路の天井が派手に破壊され、爆風とガレキが彼女らを追い始める。
「どわああああああああ!!?」
「あっはっは、あの特異点ちゃんド派手だなあ!! いっきに行くよお、GOGO!」
読めない思考、敵味方関係なくかき乱す戦法。
何がどれだけ覆っていようとも本質は変わらない。
どうあれ「一閃は飛び」、彼女は最後に楽しく笑う。
【改造】システム。
武器を職人に頼んで、性能を引き上げたり、別の属性や能力を追加してもらったりする機能。
このゲームでは【鍛冶師】や【仕立て屋】以外の生産職も元になる武器や服さえ有れば、各々の特性を駆使して【改造】しちゃえるので幅が非常に広いです。
例えば、別のなにかと混ぜ合わせて変な能力を付加させたりとか。
組み合わせは無限大、君だけのオリジナル武器をつくろう!
なお元になる武器を他人に預けて改造することが多いので、クレインのような職人気質の【鍛冶師】には蛇蝎のように嫌われてる模様。




