シオン、走れ!
「オッラァァァア!!!」
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スタイル【暴走機関車】発動!
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横面にキックを入れられクマ鬼は大きく数歩よろめいた!
【スリップランナー】の補助なしで飛び蹴りしたくらいじゃさすがに吹っ飛びはしないか!
けど、いまクマ鬼の手にある剣は下段の2つのみ! それに体制を崩してスキだらけだ、ここを逃す手はない!
「ぐっ……!」
「【ブリッツ】──! シオン、鎖を!」
クマ鬼に戻ってこようとする剣を電撃ではじきながら、反動で離れたシオンに声をあげる!
想定外ばっかりですごい変な体制から投げることになっちゃったけど、それでも大丈夫なはず……!
このゲームはそのテの知識や技術がなくても、ポインタアシスト機能……つまりは『ふつーは当たらないけど、このあたりまでモノが届けば当たったことにしてあげるね』っていう、ある程度の追尾機能がついてるのだ。
この【ロック・チェイン】もそう。
目標への座標を定めて投げれば自動的に対象をロックオンし、そこめがけて巻き付くようになっている。
だからよっぽどのことがない限りは狙い通りに行ってくれる!
「いっけええ!!」
シオンが放った鎖は狙い通り!
クマ鬼の胴を、剣を持ってる両腕ごと絡めて巻き付いた!
……けど1周2周したくらいじゃ、あの丸太みたいな腕を抑えきれない!
「こんなもの!」
「【サンダークラップ】!」
案の定強引に鎖を引きちぎろうとした、クマ鬼の脳天に雷を落として動きを封じながら──!
「シオン! 走れーーーー!」
「……ああ!」
シオンは短く返すと足に思いっきり力を入れて、鎖を握りしめて、そのままクマ鬼の周りをぐるぐる回り始めた!
「らあああああああ!!!」
宙に浮く【フロートシューズ】の力で、クマ鬼がへこませた床も、間にまたがる水路も関係なく駆けずりまわる!
みるみるうちに巻き付けられる鎖の量が増えていき、それだけクマ鬼の自由は奪われていく!
「……この、ガキどもがぁぁあ!!」
けど、なされるがままのはずがない。
このクマ鬼、上段の腕で電撃を振り払いやがった!
「きゃ……!」
「【リターンアームズ】! 戻ってこいイロハ!」
霧散した電撃が私のほほをかすめる!
上腕の自由を取り戻したクマ鬼は言いながら手を私の方へ伸ばす!
それに応えたか、さっき私が撃ち落とした紅葉模様のひと振りが空を切り裂いてアイツの上段左腕に戻ってきた!
そして、空いてる右腕で鎖を逆につかみ取り引っ張り込む!
「うおおっ!?」
「こっちに、こい!!」
いいながらクマ鬼は剣を構える。
筋肉の塊みたいな腕の大人と子供じゃ結果なんて考えなくてもわかる……それに自由の効かない空中じゃあ、いくら足が早くても意味をなさない!
けど、危機的状況にも関わらずにやりとシオンは笑っていた。
理由はこの直後。いびつな音と一緒に、クマ鬼の腕が飛んでったから。
「……おぼろちゃん!?」
私もクマ鬼もめまぐるしく走り回るシオンばかり見てたから、気付いてなかったんだ。
足元までおぼろちゃんが近づいていたのに!
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スタイル【抜刀斎】発動! ダメージ20%UP!
スキル【辻斬り】発動! ダメージ50%UP!
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おみごと! 【気配遮断】で気づかれないまま足元にまで近づいていたおぼろちゃんはそのまま抜刀、ひと太刀で鎖ごと腕を斬り飛ばした!
「へへっ、もうしゃしゃりでやがって……バテてたくせにへーきかよ?」
「けほ……心配されるまでもないですよ、びびりのくせにいまさらかっこつけようとして」
「かーっ、可愛くねえヤツ!」
「……ふんだ、べつに可愛げなんて要らないですもん」
さすがは水と油。すれ違い様でもいがみ合ってるよ……!
ただやっぱり限界だったか、おぼろちゃんは膝からぺたんと床に座り込んでしまう。
残り僅かなスタミナを出し切ってもう残ってないもんね。
スタミナやMPが大きく減って起こる状態異常【過労】でスキルを使うと、動きが鈍るだけじゃなく本来消費されるポイント分HPが減ってしまう。
それを覚悟したうえで繰り出した斬撃は大きな成果を上げた。
引っ張っていた腕がなくなり、慣性でクマ鬼は大きくのけぞってる!
その背には水路! もう逃げ道がない!
「くそっ、【エイル──」
「【ブリッツ】!」
させるか!
倒れかけの体制から放たれた剣をはじき飛ばし、シオンの道を確保する!
そしてそのまま──!
「落ちろーーーっ!」
飛びつくような体勢からの両足蹴りが両肩へ決まり、完全にバランスを崩したクマ鬼は水路へと落下した──!!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。