たとえ誰に嫌われても、あなたが信じてくれるなら
前回のあらすじ
シオンの事故で店を壊れたことに怒るクレインはリーズさえも手がつけられない!
弁明も聞かず突進する彼の前に現れたのはおぼろだった。
「私が彼を押さえます」
おぼろちゃんにはいと得物を渡していいんだろうか? と軽く戸惑ってしまった。
それに──。
「ムチャだ……ムチャだぜおぼろ! おれと同じくらいのちびなのにあんなでっかい奴にやりあえるわけねえ! リーズの言う通りいったん逃げた方が……」
私と全く同じ結論を出したっぽいシオンは、真っ青な顔のままおぼろちゃんを諭そうとする。
そうだ。
申し訳ないけどあんな鬼気迫るクマ鬼をおぼろちゃん1人でどうこうできるはずがない。
むこうとこっちじゃ体格差がありすぎるもの。
不意打ちも奇襲もできず真正面からぶつかりあうことしかできないこの状況じゃ、体つきの差は大きくのしかかってくるのだ。
おぼろちゃんが前に出ても、抑え込めるとは思えない!
「そうよ──」
シオンのセリフに同意しようとしたときだった。
うんともすんとも、頷く動きすらなかったおぼろちゃんは急に動き出し、返事のつもりなのかシオンの顔面にぐーを叩きつけた!
「げっふぅ!!?」
……ってえっちょっ、おぼろちゃん? おぼろちゃーーーーん!?
まったく予想外の展開に反応できず、シオンは対岸の壁まで吹っ飛ばされる……!
「???」
鬼クマ男でさえ、ちょっと困惑して立ち止まってる!
ちょっとちょっとちょっとちょっと!!? 今割と冷静な判断だったよね!? ちゃんとした発言だったよね!?
「な、何すんだこの──」
「いい加減にしてください、また逃げるんですか!? 目の前にあるものからまた逃れようとするんですか!? 逃げのびたところでどうするんですか!!? モンスターからも、責任からも、追手からも逃げて逃げて逃げて……ネズミですかあなたは!!」
続けざまに飛び出したセリフが、シオンの文句を押しつぶす!
そして完全封殺した後……ぐるりと首だけ傾けて、こっちをぎろりとにらみつける!
「リーズさんも、おんなじことを言いたそうですね? ちびの私じゃあんな大男に勝てないって」
「い、いやいやいやいやそんなことは決して」
「……そんなに私は頼りないですか?」
返事は深~~いため息だった。ひーんごまかしたはずなのに筒抜けだよこわいよー!
あっちの鬼面クマ野郎よりこっちの方がこわいよーー! かわいい顔して何倍も妖怪みたいなことしてるよーー!
「……ダンジョンに入るとき約束したじゃないですか、誠心誠意お守りするって! モンスターを食い止めたり、シオンを止めたり、パンドラボックスのアームを斬ったりいろいろ頑張ったのに、危ないからって勝手に遠ざけようとして……まだ認めてくれないんですか?」
「だ、だってクマ鬼の狙いはあなたとシオンだし! だいたい、これ以上PKして取り返しがつかなくなったら……!」
そっちの意味でも前に出すわけにはいかなかった。
血みどろネーム状態のおぼろちゃんはただでさえまともに依頼が受けられないのだ。
まかり間違ってクマ鬼を殺しでもしたら、今度はおぼろちゃんがシオンのように指名手配されてしまうかもしれない。
事ここに至るまでわがままで振り回して、最後の最後まで貧乏くじを引かせるのは、さすがの私でも避けたい。
「……そんなものまさしく身から出た錆じゃないですか、後でどうとでもなります! それにリーズさん、私に言ってくれたじゃないですか――」
けれどおぼろちゃんは続ける。
自分の置かれている立場を分かったうえで、言っている。
「たとえどんな事態を招いたとしても、誰に嫌われたとしても、私を嫌いにならないでいてくれるのでしょう? だったらそばにいてください……あなたならできるって背中を押してください!」
「……!」
言った。
確かに言った。
ムリだムリだ、いやだいやだと弱気になった人を無理やり動かすための必殺技。
専属のメイドさんが勉強を嫌がる私に何度も何度もやってくれたのを思い出して、ならばと思ったまでのことだったけど、おぼろちゃんにとってはそれが大きな原動力になったらしい。
人の想いってなかなかどうして、こんなにも面倒なんだろう。
みんなを助けたいって思うあまり、私はこの子の気持ちを知らず知らず踏みにじりそうだったんだから。
……そこまで信頼させておいて、反故にするとか全く最低よね私!
……そういやマルジンさんのくれたアイテム売り飛ばしたっけ! ホント踏みにじることには他の追随をゆるさないクソ女よね!
「仲間割れの時間は終わりだああああああああああああああ!!」
釜に手をかけてアイテムボックスにしまいながら、気を取り直して目の前まで来たクマ鬼の振り下ろしを横っ飛びにかわす。
そしてさらにアイテム欄を操作して、譲渡機能を使って預かってた刀をおぼろちゃんへ送る!
「おぼろちゃん、私がアイテムを調合するまでしのぎ切って! 信じてるからね!」
逆の方へ飛んでいたおぼろちゃんは刀を呼び出し、クマ鬼の顔面へ一閃を走らせた!
紫の剣にそれは防がれたけどそのまま刀を滑らせながら回転し、勢いそのままに横をすり抜けて、鬼と私の間へ着地した!
「あなたが信じてくれるなら百人力です、ぜったい大丈夫です! あなたがそばにいれば私はいつだって、戦えますから!」
私も、周りのことにかまけてうだうだいうのはもうおしまい!
クマ鬼にも、おぼろちゃんにも! ここにいる誰も彼も! あたしが絶対に殺させてやらないんだから!!




