地下水道に鬼の来る
~前回のあらすじ~
地下水道のボスがドロップした釜を使い、錬金術で宙に浮く靴【フロートブーツ】を調合したリーズ。
これでブレーメン事件は解決かと思いきや、鬼の仮面をつけた男が突然現れ襲い掛かってきた!
燃えるような赤とウロコの文様がついた薄緑で対になってる中華風の剣を交差させ、かがんだ体勢のクマ男は突っ込んでくる!
「ちょっ!? 名乗るくらいしなさいよ、あんたいったいどこの誰よ!」
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クレイン レベル:26
職業:鍛冶師 属性:火
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返事とばかりに現れたスケスケウインドウに、急に襲い掛かってきたクマ鬼の名前が──ってお前もプレイヤーかい!
いろいろ起きたごたごたで忘れちゃいそうになるけど、これはブレーメンの……シオンの捕縛が目的のクエスト。
マルジンさんに話を聞いた私みたいに、NPCのフラグを満たしているプレイヤーが出てきたとしても不思議じゃない……んだけど。
「ツチオとカナコの仇いいいいいいいい!!」
目の前にいるクマ鬼……クレインは尋常じゃない怒りを私たちに向けてくる!
その苛烈さを体現するように、踏み出すごとにいびつな音を立てて石や鉄でできてるはずの床が割れていく!
「【双破斬】!」
ツチオって誰とかカナコってなにとか、その是非を確認するヒマはない!
クレインは私たちに迫ってきて、まとめて斬り裂かんと襲いかかってきた!
「うひぃ!?」
「ひゃっ!!」
両腕を思い切り広げたそのひと太刀を後ろに飛んで何とか避ける。
モチロンそこで攻撃の手は緩まない!
「【オーバーエンハンス】オンッ!」
クレインは翼のように広がった双剣の赤い方を振り上げ、遅れている私めがけて追撃のスキルを発動する!
刃にバチバチとエフェクトが走り、赤剣を包むオーラになって……ってやばいやばいやばい!
今の私じゃこんなもんたたきつけられたら100%死亡確定!!
どこでもいい、最悪天井に刺さってもいいから離れなきゃ!
「とっ【トペ・スイシーダ】! 後ろっ、とにかく後ろのなんか!」
「●ねええええ、クソ野郎どもがーーーーー!!!」
急加速して離れたところに振り下ろされたその一撃は床はおろか剣さえも粉砕した!
生まれた力の流れはそこだけにとどまらない!
なんとほとばしる衝撃波と化して私に襲い掛かってきた──!?
「わーーっ!?」
勢いにあおられた私は体制を崩し、スキルを強制的に中断させられてしまう!
宙で支えを失った私はそのままくるくる回転ながら吹っ飛び、一緒に吹き飛ばされていた釜に頭から直撃した!
「リーズさん!」
「リーズ!」
神社にある鐘を突いたような揺れを肌で感じてると、2人がそろって駆けつけてきた。
力任せもここまでくるとぞっとする!
「アンタなんなのよもー! 人の言葉は聞かないし、踏み込むたびにメキメキ床割れるし、どすの効いた声で思いっきりNGワードのたまうし一挙手一投足暴力のカタマリかよ!?」
そうして睨んだ先の鬼クマ男はというと、なんでか砕け散った剣の柄をまじまじと眺めていた。
さっきの大噴火はどこへやらって感じ。
「すまねえクロコ、俺がふがいねえばっかりにアカシを壊しちまった……! 装備からしてHPにかなり振ってるみてーだったから、武器の耐久値を削って威力にすりゃ確実にやれると思ったんだが……!」
哀愁さえ漂うその姿から、ぼそぼそとなんか言ってるのが聞こえてきた……!
……って、やだこいつもしかしてモノ1個1個に名前つけてんの……!?
いや私も生産職だし作ったものに愛着がわくことはあるけど、うんちょっと大の大人がそれはどうかと思う!
「リーズさん? なんで目を背けてるので……?」
「おい大丈夫か、頭打ってくらくらしてんのか!?」
2人にはどうやらクレインのつぶやいたセリフは聞こえていないらしい。
聞こえてなくてよかったと心から思う……!
この中で私にだけはっきり聞こえる……これも【風読み】スキルの恩恵ってやつなのかしら。
否応なしに音が拾えるっていうのも問題ね……。
まあ便利な部分も多いことだしこれの是非については置いておこう、今はそれどころじゃない!
軽く戦慄を覚えただけなのを知ってか知らずか、2人は私を気遣いながら前に出た。
「やいやいやいやい! 戦うにしたってせめて何しに来たか言ってもいいんじゃねえか!? いきなり襲いかかってどういう了見だよおっさん!」
「そうですよ……! 何を思ってのことかはかわかりませんが、話し合う余地はあるはずです! それにもしかしたら早とちりをなさっているかもしれませんし、いったん情報を共有して落ち着いた方が……!」
「…………!」
ナイス!
こんな小さな子供に正論を言われてはクマ鬼もぐうの音も出まい!
どうだあ? だんだん頭に上った血が下がってきて、穴に入りたくなって来ただろう!
クマ男は殴られたボクサーのようにゆらりと動き、
「……いきなりだと……? は、や、と、ち、りだとぉぉぉぉぉおおおお!!?」
うわあ逆ギレしやがった!?
「俺の店をメチャメチャにしたのは紛れもなくお前らだろうがガキ共ぉぉぉおおおお!! 店の壁に穴をあけただけでは飽き足らず、工房を荒らして鍛冶屋の命に等しい金床と槌を土足で踏みにじりやがってよおおおおおお!」
怒り任せに繰り出される恨み節のような言葉に、私たちはみんなして固まってしまった。
だって壁に穴が開いて、土足で工房を荒らして……って身に覚えしかないもの!
「おれのせい……? まってくれよ、おれは……! おれはただ……!」
「言い逃れをしようとしても無駄だ! 現場の穴の大きさや足跡を測ればな、犯人の背格好なんかすぐわかるんだぜ……! 身長137㎝前後、足のサイズ21~23! ちょうどお前ら2人と同じくらい!」
聞いた瞬間、青ざめた顔でシオンはおぼろちゃんの方に向いた。
やばい……! 目の前のコイツはハナからシオンを捕まえに来たんじゃないんだ……!
この地下水道に来た、自分の工房を荒らした犯人っぽいヤツを皆殺しにしようとして……!
「ま、待ちなさいよあんたっ! 相手は子供じゃない、アイテム1つで何もそこまでする必要ないでしょ!? 心が狭いにもほどがある……! ヘタすりゃこのくらいの歳した家族もいるでしょうに、事情を少しでも聞いてやろうって気にならなかったの!!?」
「五月蠅い!! サービス開始からたった5日で血みどろネームってことは、ハナっから犯罪者ロールでもやろうと決めていたんだろう!? 身から出た錆だと諦めろ!」
バッサリと言い切ったクマ鬼はアイテムボックスからまた新しい剣、鮮やかな紫色の剣を取り出し、また突っ込んできた!
「出番だムラサキ……! 生産アイテムは職人の命……! それをよくもよくもよくもよくもおおおおおおお!!」
ダメだ、何言っても聞く耳持たない……!
だったらせめて、2人をここから遠ざけなきゃ!
「シオン、おぼろちゃん外へ逃げて!」
街の方にでさえすればこっちのもんだ、戦闘行為ができないように制限がかけられてるから、こいつは2人に手出しできない!
と、2人の間を抜けて前に出ようとしたところで更にその先から伸びた腕に私は阻まれてしまった。
「すみません、先ほど渡した刀をいただけますか……?」
「え……?」
クレインへ立ち向かおうとする私を制しながら、1歩だけおぼろちゃんが前に出た。
次回、おぼろちゃん大活躍……?