中身で勝負だ錬金術!
「【スーサイド】オン!」
再度スキルをかけなおしながら、【駆け出しのブーツ】【アンティークモーター】【小さなギア】【レザーメイルのなごり】を投入していつものように杖で釜をかき混ぜる。
……余計なおせっかいを焼いている自覚はある。
このシオンというクソガキはせっかちだしうるさいし口悪いしすぐ調子に乗るし自分でもわかってるくせに指摘されるとキレるへそ曲がりだし私をばばあ呼ばわりしたのを謝んないし、ぶっちゃけ今後の為にも直した方がいい。特にばばあ呼ばわりしてきたのはホントお前! あとで謝んないとヒドいわよ!
……直した方がいいけどさ! こいつは行動が年相応でバカなだけで、なんでこうなったのかしっかりわかってるし、怒ってるのだってただただ自分が受けた理不尽が許せなかっただけ!
大体ねえ! 街半壊なんか不注意1つで起こる次元じゃないってのよ! ましてやこんな事態なんか子供に想定できるか!!
偶然でそんな災害みたいな事件起こして、そのせいで一切やりたいことができなくなる? 誰でも当たり前にやってるようなことを自分だけが!? ふざけんな、リアルでできないからゲームでやってんのにリアルと同じ不自由ゲームで味わえってか!?
そういう理不尽を私は半年前にリアルで食らったからよくわかる! わかってしまう! イヤに決まってる!
結局のところ私はね! このシオンの現状やらなんやらに昔のころを勝手に重ねて助けなきゃと思っただけ!
だってコイツを、私とそっくりな運命歩まされてる目の前のコイツを今ここで見過ごしたら、私は苦しかったあの時に助けてくれなかった奴らと何も変わらないじゃない!
──そんな私、私が信用できるかってのよ!!
HPが半分くらいまで減った時だ。
輝きだす釜とモノが出来上がったことを示すウインドウが、すべてうまくいったのだと私に教えてくれた。
「できた【フロートブーツ】……! シオン、これ履いてみて!」
早速アイテムボックスから取り出してやり、シオンにそれを投げ渡す!
けど受け取ったシオンも、横から見ていたおぼろちゃんも完成品をいぶかしげに眺め出した。
まあ、ぱっと見はブーツの靴底がブ厚くなった程度の変化しかないものね……これでうたぐってきたのがシオンだけだったらひっぱたいてやったけど。
このゲームにおける錬金術の泣き所よね、素材にしたものと全く違う物を作るってことはできないっぽいの。
テキストに書いてあった「物に違いを加える魔法」の言葉通り、モトにした道具に、使った素材の機能を掛け合わせたものが出来上がるのだ。
「仰々しく光ったワリになんか地味だな……滑らせないってんならもっとなんかごてごてしたほうがいいんじゃねーか?」
「とっても悔しいですが私も同意見です、あんなに彼を振り回してたスキルがこれ1つでどうにかなるとは……」
「あん!? なんでとっても悔しいだけ強調すんだよ! 悔しがる要素どこにもねーだろ!」
「だって純粋に悔しいですし」
「ええいうるさーーい! 錬金術は中身で勝負なの! 突っかかる暇があるならとっととはけーい!」
履く前から騒いでてもラチがあかないでしょうが!
私の一喝で見事シオンは押し黙り、通してあるヒモを足にちょーどよくなるよう締めなおしてゆっくりと立ち上がったんだけど、すぐに怪訝な顔になった。
「なんか変じゃね? なんか地に足ついてねーっつーか……」
まあ違和感はあるよね。
とはいえどこがどう違うのかわからないって感じで、つま先を眺めてみたり、コツコツと水路の岸でかかとを鳴らしてみたりしてる。
そんなシオンが軽くジャンプしたとき、おぼろちゃんがあっ、と声をあげた!
「リーズさん、もしかして今のシオンって……」
「あ、気づいた? そーよ浮いてるの!」
【フロートブーツ】はブーツに機械の部品を調合してできる、いわゆる仕込みブーツ! 装備した人を少しだけ浮かばせることで、地面にあるワナや沼みたいな動きにくくなる地形の影響を受けなくすることができるのだ!
地面の影響を受けない程度に浮くんだから、当然地面に両足はついてない状態になる!
というわけでシオンには宙を走ってもらう! 地面すれすれに浮く機械の靴で!
「ってことは【スリップランナー】はもう発動しないってことでいいのか!?」
「ええ!」
「マジか! いーーやったーー!」
よっぽどうれしかったかシオンはその場でぴょんぴょんと跳ねまわりだした!
うん、ご満悦そうで何よりだ!
「じゃあさじゃあさ、試し履きってことでそのあたりを走ってきていいか?」
「これまでずっと走ってたろうに、元気いっぱいねえ」
「そりゃそうさ、ずっと【スリップランナー】にジャマされてたからよ! だから今から気晴らしに走りてーんだ! それに……」
「それに?」
「いや、何でもねえ!」
なんだろ、今なんかいい含んだ気がするけど。
まあ私としてもブーツの履き心地だとか聞いておきたいところだから、ある意味助かるっちゃ助かる。
「わかった、ただし3分だけね! それまでに私たちと合流すること!」
「よっしゃ3分だな、ちょっくら行ってくる!」
私の返事を聞いた途端、シオンは足に力を込めて走り出した。
やっぱり極振っているだけあってその速さは圧巻! まばたきもしないうちに通路の奥まで行ってしまい、角を曲がって見えなくなってしまった。
オバケと遭遇するのが怖いけど、【暴走機関車】は健在だし跳ね飛ばせるでしょ。
「リーズさん」
今のうちに釜をしまって整理でもしておこうかなと思っていた時、後ろから静かにおぼろちゃんの声がしてきた。
おぼろちゃんのことだし、まあ言わんとするところは分かる。
「勝手に決めちゃったのやっぱ悪かったかな……? 向こうからしたら私たちはもう用済みなわけだし、このまま逃げちゃう可能性はなくはないもんね」
「それもありますけど……それより」
あれ、違った?
おぼろちゃんのことだからてっきり「このまま逃げたらどうするんですか!」って突っ込みをするどく入れてくると思ってたのに、と振り返ったその先には。
「……!」
私、絶句。
すごいのがいた。
具体的にいうと汗かいちゃいそうなくらいに真っ赤な頬をして、人差し指の先をつんつんとさせながら恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見てくるおぼろちゃんがいたのだ。
「その……差し出がましいお願いかなって思うんですけど、私の装備も作ってほしいなって……」
【フロートブーツ】みてうらやましくなっちゃったんですねはいよろこんでーー!!
もー! シオンに装備作ってた時に言ってくれたら一緒に作ったのにーー!
だいたいおぼろちゃんに差し出がましいとこなんて一切ないでしょ! むしろ付き合わせてる私がなんかお礼にタダで作った方がいいレベルでしょ!
そーだスクショスクショ! あとで流子ちゃんのパパに愛娘の息災なお姿をお出ししてあげなきゃ、モチ無断だからおぼろちゃんには内緒だよっと!
「おっけーおっけー、おねえさん頑張っちゃうよー! 欲しいのは防具? 刀? いっそ装備一新あたりまでいっとく?」
「い、一新!? そんな、リーズさん錬金術でHPを削るのにそこまでやらせるのはちょっと」
「大丈夫大丈夫! 私には【シンデレラパウダー】があるもの、これをばさーって上から」
「わわ、待って待って! もったいないですから!」
「ええー? でも一新したほうが……」
「いいですから!」
しまいにはそれだけ言うと、おぼろちゃんは持っていた刀を投げ渡して座ってすねちゃった。 もー! どいつもこいつもへそ曲がりだなーー! かわいいなーーーー!!
どんな刀作ろーかなー! ただ女の子っぽくした程度じゃダメだろーしなーー! きらきらするビームとかぶっぱなしたら面白いけど本人どうかなーー!
「いーーーーーーーーーーーーぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
そんな愛らしい天使の姿に頬を緩ませまくってた時だった。
つんざいたような悲鳴がそれまでの雰囲気をぶち壊しにし、その音を置き去りにせんとばかりにシオンが戻ってきたのだ! 空気を読め!!
「シオン!? 何かあったの!?」
「おっおっ、おっ、おにっ……」
オニ? そんなもんがなんでここに?
おぼろちゃんの方を見ても、やっぱり理解できなかったか首をかしげるばかり。
ちょっとシオン、たった3分で今度は何のトラブル拾ってきたのよ?
おびえて何も言えなくなってるシオンが来た方の通路を見ると、そこには人影が。
おぼろちゃんのと似たような黒い袴と着物のいでたちに丸太のようなふっとい腕。まるでクマみたいないでたちで、顔にはシオンの言う通り鬼のお面をつけた大男がいた!
「……どなた?」
「きぇああああああうぃいいいいいいいい!!!!」
私のセリフを皮切りにそいつは双剣を構え、奇声を上げながら突進してきた!!?