激マズダンジョンは厄介者とともに
壁の破壊やら爆発やら機械音やらで散々騒がしかった地下水道に静寂が戻る。
ダンジョンを駆けずり回る徘徊ボスがいなくなり、シオンを追う脅威がいなくなった今、新しく来るであろう憲兵たちを警戒しなきゃいけない。
どうであれシオンの言う秘密の隠れ家、ブレーメンのアジトに向かわなきゃいけないのは確実だった。
「シオン、走る理由もなくなったことですしそろそろ私たちの質問に答えていただけますか?」
ざわざわと静かに揺れるよどんだ水路の脇、パンドラボックスを蹴り飛ばしてあけた穴を進みながら、私たちは聞けずに後回しになっていたことをシオン本人から尋ねる。
「ブローチのこと、本当に覚えはないんですか?」
「持ってねーって……さっきみせただろー?」
こいつの装備は初期のまま。真っ黒なフード付きの上着にナイフくらいしか持ち合わせちゃいない。
アイテムボックスもそこいらで取れそうな泥や鉱石、モンスターのドロップばかりで、ブローチなんて高価なものはどこにもなかった。
「本当に、ほんとーに本当ですか? この刀に誓えますか?」
「しつこいな……! そんなもんどこにもねーよ!」
けれどマルジンさんはブローチをなくす前ぶつかられたといっているし、本人の手にはもうない。このシオンにひったくられたと思い込んでも仕方ないだろう。
「どうせぶつかったときにどっかに落としたんじゃねーの? 夜にぶつかったってんなら、見失ったってこともあんだろ」
けれど当の本人はおぼろちゃんの追及に悪態をつきつつ口をとがらせてしまう。
シオンのそんな態度に「なっ──」とおぼろちゃんは大きく目を見開いた。
「あなたがぶつかったのでしょう! あまりに無責任過ぎませんか!?」
うんまあ、そんな気はした。
おぼろちゃんは落とし前も貸し借りも、きっちりとどこかで埋め合わせをしないと気が済まないくらいすっごい生真面目だからね……。
誰かが問題を起こせばいの一番に対処しようとするし、誰かが困っていれば誰よりも早くそばに行って力を貸してあげる、そんな正義の女の子だもの、今の言い方はカンに障っても仕方ない。
「1度走っちまったら止まれねーし曲がれねーんだから仕方ねーだろ! おれだってやりたくねーよこんなこと!」
対するシオンも負けじとがおうっとほえる。
コイツもコイツで譲れないところがある。
走るってことには特にこだわって……どころか執着しているレベルで、ステータスなんかも素早さに全部振り切っちゃってるし、発端の【スリップランナー】にも「走れないからいやだ」って辟易してた。
そんで今、そのイヤなところを突かれて感情的になってる。
「事故だからって正当化しないで! 確認を怠ったから起きたことでしょう!」
「あーもーなんだってんだよ! 速すぎてほっとんどなんも見えねーのに都合よく見えてるわけねーだろーが!」
「二人とも! とりあえず今は秘密の隠れ家ってとこを目指しましょ、ね! ね!」
「……ふん!」
私の言葉でようやく静かになったけど、2人して顔をそむけてしまった。
ああだめだ、この子ら水と油だ! 性格もスタンスも相性が悪すぎる……!
そうして気まずーい空気のなか、私たちは空いた穴をくぐって進み続ける羽目になったのだった……。
「早くはじっこについてよー……」
こんな道なき道を進んでるのは理由がある。
単純な話だ。シオンはこの地下水道でスリップランナーを使い続けながら秘密の隠れ家を探していたんだけど、ついぞ見つけられなかった。
壁を壊しながら縦横無尽に走り続けといて、今更何べんも通る道に建物があるなんてことは考えにくい。
ってことは外周、この地下水路の端にあるって考えるのが自然だ。
「まだ端につきませんね……」
「はあ、何べんも何べんも同じ景色……いっそおれかリーズでぶち抜いた方が早くねーか?」
「ダメです! リーズさんはいちいちHPを減らしてしまいますし、あなたはそのまま逃げちゃうかもしれないでしょう!」
「逃げるわけねーだろこの状況!」
「さんざんパンドラボックスから逃げてて何をいまさら!」
うええ……空気がぴりぴりしてて重苦しいよー、道も狭いし暗いよー……
はやく端の壁につかないかなー! って思ってると……
ようやっと見えてきた黒い土の壁! つまりここがダンジョンの端!
やったー! やっと着いたーー! と思った時だった。
「ひえっ……!」
私とシオンが吹っ飛ばしたはずのパンドラボックスがそこにいた!?
「……ん?」
いや、まて。
戦闘中は気づかなかったけどこのカタチ、なんかどっかで見たような……
「リーズさん下がって! 私が──」
「リーズ下がれ! もっかいおれが──」
「んん?」
このパンドラボックスのカタチに違和感を覚えてると、2人が私の前へずいっと出てきた!
「私が攻撃を受け流します! あなたはリーズさんを守ってください!」
「うるせーお前がリーズ守ってろ! コイツを蹴っ飛ばして壁の中に埋めて、もう逃げねーこと証明してやるよ!」
「いいから後ろを見てください! 最悪──」
「モンスターと挟み撃ちにされっかもっていいてーんだろ!? だったら待ち伏せできるお前の方が向いてるんじゃねーのか!」
「ちょっと2人とも──」
「危ないから下がって!」
「大丈夫だから下がれ!」
同時に声を上げながら私のことを手で制し、2人は顔を見合わせムッとする。
「あなたも下がって!」
「お前こそ下がれ!」
「下がって!」
「下がれ!」
「2人ともすとーーーっぷ!!」
うるさいホント! ほんっっと!!
キリのない下がれコールをする2人の間に私は立ち、口をふさいでやった!
「もご……!」
「もっごごもっごごー!」
「いったん落ち着きましょ! システム的にボス戦は終わってるんだから、こいつが残ってるのはほかの理由があるはずよ……」
言いながら私は前に出て、壁に突き刺さってるドームへ手を伸ばす。
普通戦闘に勝ったら、何分もしないうちにばらばらのポリゴン片になって消えるはず。少なくともイグニールはそうだった。
ってことはこいつはゲームのシステムとして、まだ果たせてない役割があるんだ。
「気を付けてくださいね、異常が起きたらすぐに退いてください」
おぼろちゃんが後ろから声をかけてくる。
両腕ももがれてるわけだし、再起動! もっかいボス戦! ってなったとしても大丈夫でしょ……そう思いながら突き刺さっているドームのてっぺんに触れた瞬間、淡い光がこぼれて消えてしまった。
「き、消えた……なんだってんだ? まさか……ユーレイだってか?」
「シオン? なんで震えてるので……?」
「ふっ、震えてねーよ!」
「……ふふっ」
後ろでしゃべってる二人を背に、私は笑いをこぼしてしまった。
その直後に開かれたウインドウを見て、そういえばそーじゃん、と思ってしまったのだ。
どーりで見覚えあると思ったら、そういうことか。
「あーはっはっはっは!!」
「ど、どーした? まさかドームに宿った悪霊が取り付いてきた! とか言わねーよな!?」
「ええっ、冗談じゃないですよそれ!」
子供たち2人は戸惑いながらも各々の武器に手をかける……っていまそんなに悪役チックだった? ちょっとキズつくわよそれ!
「シツレーな! 私はしっかりしてるわよ、ちょっとそりゃそーだなって思っただけ!」
「……? 先ほどの光で、何か解決策が見えたので?」
「これを見よ!」
首をかしげながらたずねてくるおぼろちゃんに、私は見せつけるがごとく突き付けてやった!
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生産アイテム【調律の錬金釜】獲得!
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「欲しいものがないんならね、作ればいいのよ!」




