お父さん、私は良き人に恵まれました
地下水路突入と言いましたが
長くなりましたので半分ずつに分けます
申し訳ありません!!
マルジンさんがアイテムを盗まれた現場を通り、私たちは貴族たちが住む区域の手前にある河川敷の前にたどり着いた。
調べたところによると、ここで流れている水が、私たちのいる街に流れ出してぐるりと一周するような形でまた貴族街の方に戻っていくのだという。
そして赤くサビた階段の先、川みたいに流れてる水路とは違って一滴の水も滴ってこない排水溝がぽつんと1つ。
新しく水路を作る関係で水の流れなくなったというここが、件の盗賊がいるというダンジョン【毛細地下水道】の入り口だ。
「近くに山もないのにこんな内陸まで、水が来るんですね……」
「王宮にあるっていうアイテムの力で、ずーっと循環してるんですって」
リヒターゼンは平地にできた街で、すぐ近くにあるのはたいてい荒野か森で、水を引ける場所なんてないんだけど、王宮にある【久遠の水球】っていうアイテムが大量の水を産み出しているから問題ないんだという。ほんとファンタジーさまさまって感じよね。
「しかし……まるで畑のウネですね」
「ホントよね……ブレーメンってやつは金棒でも引きずってたのかしら」
城門からここまでかなーり長い道だったんだけど、道中迷うことはなかった。
というのもいったいぜんたいどうしたらこんな跡がつくのやら、道がえぐられて一本の直線が出来上がってしまっているのだ。
幅はおぼろちゃんの足がすっぽりとはまるくらいで、道の端から端まで真っすぐそれが続いていた。
修繕作業しに来た騎士さんが言うには、今日になってこんなのが至る所にできてて、てんてこまいなんだとか。
そのついでに物資が足りないってコトで、埋めるのに使う土の採取を依頼されてしまった。何でも屋じゃないぞ私は! おぼろちゃんイメージアップのためさっさと渡しましたが!
「だとしたら相当な怪力です、私たちだけで大丈夫でしょうか……」
ジョーダンのつもりだったんだけど真に受けてしまった……。
とはいえ門や家が壊されただの、盗まれただの。マルジンさんが話してくれたことを考えるとこのブレーメンとかいう盗賊、かなり手ごわい……と思う。
けど盗賊なんてメじゃないでしょ!
「大丈夫でしょ、私もけっこーな修羅場抜けてるし、強くてかわいいボディーガードもいるしね!」
「つ、強くなんか! 他の方に比べたらぜんぜん――」
「いーのいーの、私にとって貴女は最強なんだから!」
だいたい虎の子の【シンデレラパウダー】があるんだから負けるはずがないもんね! だからおぼろちゃんには安心してもらいたい!
「だから自分を信じて、剣士サマ!」
むやみに恐れる必要はないんだ!
自分の信じた道は自分にしか見えないんだから、どうなったとしても真っすぐ行くしかないもんね!
「無理です、私はもう自分を信用しきれない!」
「おぼろちゃん……?」
「『正しさを貫け、手を抜くな』私は今までそれが正しいものだと思っていました……でも違った! 正しいと思ってやったことはたいてい間違っていたんです……」
立ち止まったおぼろちゃんの言葉を私は静かに聞いてあげた。
実はこのゲーム、刀に関する動きの指導をおぼろちゃんの……流子ちゃんのパパがやっていたらしく、そのお礼としてもらったヘッドギアで流子ちゃんはゲームをプレイしてるのだという。
流子ちゃんにゲームを渡したパパはこういったそうだ。
ゲームからでも学べるものはある、この世界を通していろいろなものを学べと。
けどそれで初めてやったことがPK。つまりはこの世界における人殺しだったわけで。
確かに私だったらお前何やってんのって言っちゃうかも。
「最初は悪者を懲らしめたって感覚でした……それをしばらく続けて、ロックさんって人に出会って止められたんです。 お前のそれは間違いだ、と諭すように」
ロック。
確かその名前はワールドニュースにもおぼろちゃんと一緒に載ってたわね。
あのファラに次ぐ実力者だとかで、掲示板でも恥ずかしくなるような二つ名がついてた。
「教えてもらった掲示板で『お前いったい何人殺したんだ』って聞かれて、怖くなってきちゃったんです……私のしたことに、正しさを貫いたことに意味はあったのかって。 ただただ無意味に自分を恐れさせただけなんじゃって! それで――それで――!」
それまで言葉少なだった彼女が、嘘みたいに感情的に話しだす。まるでまくしたてるみたいに、堤防が決壊したように。
バーチャル世界じゃイマイチわかんないけど、小さく震えながらしゃべる彼女を見て思った。
きっと今、流子ちゃんは現実世界で泣いているんだろう。
言えなかったことを吐き出して。苦しいものを出した痛みで泣いているんだろう。
「意味がないなんてことはないんじゃない? 少なくとも正しすぎることは間違いだってわかったじゃない」
「わ――」
言いながら私はおぼろちゃんの目線までかがんで、頭を軽くなでてやる。
「えらいぞー、自分が正しいと信じ切ってるものを改めるのは結構苦労するからね」
「え、えっと……」
戸惑うおぼろちゃんをよそに、なで続けてやる。
でもそこさえわかればもう、自分を責める必要はない。
それにここはゲーム。お金も好感度も、なくなったものはいくらでも取り返せるし、間違ったところを直して挑戦できるもの。
きっと流子ちゃんのパパが勧めてきたのもそこにあるんじゃないかしら。成功のしかたも失敗の取り返し方も、これからに必要なことがたくさん実体験できるものね。
おぼろちゃん私よりアタマいいから、きっとそれよりたくさんのことに気付けるでしょ!
「少しうらやましいな……私なんて」
「リーズさん?」
おっといっけね。
そういうのなかったからって自分の薄汚れた過去しゃべっちゃだめよ私のバカ。
前を向かせようとしてる子になんてモン聞かせる気かしらホント。
……こほん、と気を取り直して。
ポンポンとなでて乱れた髪を直してから立ち上がり、残りの階段を下りていく。
「とにかく失敗したからってマゴつく必要も迷う意味もないわ! モチロン、おろおろすることもね! だから私たちは後ろを向かないでまっすぐ進みましょ!」
「でも道が見えなかったら? どこにいるかわからなくなったら?」
「そん時はそん時! 私が背中おしたげる!」
だから何よりもまず、動いてみましょ!
「……はい!」
ようやくおぼろちゃんはいい返事を返してくれた。
やっぱりそのくらいの方がいいわね、うん!
向かう先がどこにつながってるかわかんないけど、いい結果になるって信じていけば怖くはならないもん!
というわけで地下水路攻略、行ってみよー!
「お父さん、私は――」
「ん? 何か言った?」
地下水道に入る瞬間、おぼろちゃんは何かしゃべったような気がしたけど。
「ふふ、誠心誠意お守りします!」
おぼろちゃんは小さく笑ってから、私の手を思い切り引っ張った!
当然彼女の方が力も速さも数字が高いので、さっきとは一変! 私が引っ張られる形になる!
「ほら、私はとっても強いですから!」




