辻斬り抜刀斎、おぼろちゃん!(FA付き)
流子ちゃんがイフオンを始めていたことを私が知ったのは、あのイグニールを倒した翌日だ。
その日はちょうど梅雨目前の日曜日。
私はのんきに祝勝会と称して、ちょっと豪華に近くのスーパーで混ぜご飯の素を買って家に帰るところだった。
そんな折、家の前で流子ちゃんがうろうろしてたもんだから、軽く声をかけて談笑していた。
そんな時に彼女がお花みたいな笑顔を絶やさないままに言ったのだ。
「そうだ! しばらくやってないから、今日はついでにお掃除しちゃいますね!」
私は固まった!
なぜならゲームで大暴れをするのに夢中で、ヘッドギアもゲームのパッケージもしまってない! ついでに言うなら段ボールも開いた後ほったらかし!
そんなものを流子ちゃんに見せたら何を言うか!
バックに花が咲きそうなオーラから一変、般若がバックにおどろおどろしく現れるのは少なくともはっきりわかる! ある種イグニールより怖い!
「ストッープ!」
危機を感じた私の行動は早い!
張り切ってスペアキーを取り出した流子ちゃんに手を伸ばして、何もない方の手をつかんだ!
うわーん、スペアキーあげたの誰!? 私ですよちくしょー!
というか持ってるなら私のこと待たずにそのまま入れたんじゃ……ってそんなこと考えてる場合じゃない!
「ひゃっ!」
小さな悲鳴を上げたあと、流子ちゃんはゆっくりと後ろを向いて、
「リヨさん……?」
やば、変に力入れすぎちゃった……?
なんか真っ赤な顔して消え入りそうな声になっちゃってる。
もー私ったらこんな子をおびえさせて!
「その……どうして……?」
「ご、ごめん! まだ前に掃除してもらってからそんなに経ってないからいいかなーって……」
赤くなったまま何か訴えてくるその姿はそれはそれでかわいいけど、ちょっと見たくないので目を背けて、手も放した。
相手はまだ小学生でしょうが……。
いや、というかそんな小学生に定期的にお掃除してもらってる自分って……と軽く自己嫌悪してると……
かちゃり。
「ん?」
「……何か隠してますね?」
ごまかそうとしていることに気づいた流子ちゃんが、カギを開けていた。
「わータンマタンマ! 待って! 全部話すから! ゴミも片付けるから!」
うわーん! 単純な自分が恨めしい!
結局、イフオンを手に入れて始めたことをその場で白状してしまうと流子ちゃんはそれきり黙ってうつむいてしまった……!
きっと今の流子ちゃんは心の底から私をとんだダメ人間だと思ってるだろう!
職にも就かずにこんなことしてたんですもんね! どんぴしゃりで何も言えない!
ジト目で「クズですね」とか言ってくる流子ちゃんなんか見たくな……くなくないけど!
そして、何か決心がついた流子ちゃんが口を開いた。
「その、相談したいことがあるんですけど……」
と。
*
とんぼ返りしてくるであろうあいつらに襲われるのを避けるため、私たちは街の中に避難した。街の中での攻撃は禁止になってるからね。
「リ……リーズさんにステータス開示、お願いします」
本名(偽)を言いそうになってちょっと噛んだおぼろちゃんの言葉に反応してステータスウインドウが呼び出される。
〜〜〜〜〜〜Status〜〜〜〜〜〜〜
おぼろ
レベル:18
Next……8932exp
職業:サムライ
属性:闇
HP:270
MP:90
スタミナ:100
攻撃力50
防御力20
魔力0
素早さ45
幸運40
器用30
装備
体 【舞踏の和装】
右手 【義賊のカタナ】
左手 【×】
足 【ゾーリ】
装飾品
【赤おび】
【サムライの護符】
【妖精の指輪】
スタイルスキル
【抜刀斎】
スキル
無影剣 斬波・濡烏 一刀・初夢
辻斬り 後の先 残心 解体の心得(足) 気配遮断Lv3 剣の資質・闇
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うわあ……」
ステータスのしょっぱなから目についたのが、真っ赤っかなネーム。
このゲームはPKをした回数に応じてネームの色が赤くなっていくのだけれど、おぼろちゃんの場合これが尋常じゃない。もはや血みどろそのものでステータスの中で血が滴るんじゃないかってくらいリアル。
「わかります、初めて見た時私も驚きました……怖いですよね……」
私の声に反応しておぼろちゃんが口を開いた。
「いっいやいやいや! 大丈夫よ! 私も3人くらい倒しちゃったことあるし」
「3人、そのくらいで気づけばよかったんです……」
ギャー励まそうと思ったら地雷踏んだ!
「最初はウサギさんをいじめていた人でした。 わざと狙いをずらしてちょっとずつダメージを入れて遊んでて……それが許せなくて、後ろから斬りました……」
聞いている最中私は、大通りのハズなのに自分の周りにだけ人が少ないのに気付いた。
「そんな人たち相手にPKを続けて、ある人に教えてもらった掲示板でわかったんです……こういうことをするとNPCに嫌われるって」
行き違うNPCがこっちを見ては足早に離れていったり、わざわざ迂回するように遠回りをしたり、子供連れも母親がこちらを見ないように言い聞かせてたり。
とにかく触れないようにしているのが私でもわかる。
PKのデメリットだ。おぼろちゃんがプレイヤーを何人も斬ってしまったから、それだけ印象が悪くなってしまったんだ。
「それで……依頼を達成し続ければもとに戻るって聞いてたんですけど、断られるようになっちゃってて……さっきのPKだって勢いで斬っちゃったし……私、どうしたらって……」
「わー! 待った待った!」
とにかく、このままだとだめだ。
おぼろちゃんは今自分がやってきたことが悪いことだってわかって、自責にとらわれちゃってる。
私がどうにかしてあげなくちゃ。
「生産系のギルドに一緒に行きましょ、パーティを組んで依頼を受ければ多分いける!」
「えっ、でもそれじゃ私何もしてないような……!」
こんな時でもすまなそうにするおぼろちゃん。
本当にいい子なんだよなあ……だからそんな子の顔を、これ以上曇らせてやるわけにはいかないんだ。
「おぼろちゃんは私のボディガードやって! 私、めっちゃ珍しいもの作っちゃって、さっきみたいな連中に狙われてるっぽいの。 だからお願い!」
「う、え、えっと……でも……私辻斬りで、抜刀斎ですよ……? 私がいるせいでリヨさんまで嫌われたら……」
……煮え切らないな! リアルはいつもこういう感じでゴリゴリ来るくせに!
そういう時はこうだ!
目をそらしている流子ちゃんの手をつかみ取り、思いっきり両手でギュッとしてやる!
「な、なにを……!」
「大丈夫、他の誰が嫌っても、私は貴女を嫌いにならないよ!」
「…………!」
って、だめだ!
また赤くなってだまりこくっちゃった。
とにかく今は動きましょう! 街の人も何人かガン見だし、いるかわかんないけど憲兵でも呼ばれたらたまったもんじゃない!
おぼろちゃんの手を引きずるように引きながら、私は生産ギルドの方へ歩き出した!




