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インスタ!〜スタミナ極振り没落令嬢、今日もVR世界にダイブ・イン!〜  作者: 地雷源
第二章 グルグル! 混ざりあえ、強欲の灰被り姫!
32/87

好敵手認定! 攻略勢だよリーズちゃん!

 

「やったーー……」


 イグニールが消え去るのを見届けた私は、仰向けの体勢のままバンザイのポーズをとった。

 サービスが始まってから3日間。たったこれだけでホント色々しでかしたものよね。

 でも、アイテムを作るのはとっても楽しかった。

 ドラゴンを吹っ飛ばすのは……ちょっと怖いけどさ。

 モチロンこんなことで満足なんてしない。

 だってここはこの世界のたった一部。頑張ればもっともっと楽しくなるはずだし、私の最終目標にだって近づけるんだから。


 ぴろーん。


「今度はなによ忙しい……」


 この音とドラムロールには聞き覚えがあった。バトルスタイルの開眼だ。

 せわしないスケスケウインドウに少しだけ苛立ちながら、ゆっくり体を起こしてみれば。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【七大罪・憤怒】

 スタイルスキル。

 自分の攻撃に火属性を加え、攻撃力を2倍にする。

 その代わり、自分を含む味方スキルの対象にならなくなる。


 取得条件:バトルスタイル、もしくは「七大罪」の名がつくスキルを装備している状態で以下の条件を満たす。

 ①日をまたぐまでに100体以上のモンスターを撃破する。

 ②ボス【灼熱火龍】【神製聖獣】【光爆雷鳥】の内1体を討伐する。


 過ぎた怒りは絆を壊す。

 深淵へ行くか、戻るかはあなた次第。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「なんじゃこりゃ……いらねー……」


 表示されたスキルを目の当たりにして私はため息をついた。

 ふつうのプレイヤーだったら確かに役に立ちそうな能力だけどさ、私自身が極振りな上スーサイド頼みなもんだから利点が完全につぶれてる。


「あー……」


 ふつうなら喜ぶところ、自分の命を脅かす嫌なスキルと相性悪いからってため息すらつくなんて。

 私ったら本当に異常者ね。

 ようやくターゲット集中から逃れられると思ったのに、なんというかくたびれた。


「ノォーーーーッ!!」


 アルがなんか悲鳴を上げてる。

 あの悲痛な声を聞く限り、ろくでもないスタイルを引き当てたってとこでしょ。なに引き当てたか後で聞いてやろ。

 そういえばファラはどこに行ったんだ? MVPとったことを自慢げにしゃべってそうなものだけど。

 そう思ってアルの方を向くと、


「【蛮雷】リーズ?」


 目鼻がくっつきそうなほど顔を近づけているファラと目が合った。

 その表情はとっても険しく、何だったら今この場でビンタの一つが飛んできてもいいレベル。


「な、なによそんなにらみつけて! 私なんか悪いことした?」


「悪いも何も、死んだ瞬間たちどころに復活させる上デメリットもない薬なんて、普通は改造を疑いますわ」


「なっ――!」


 私がチートをしてるって言いたいの!?

 こっちだって【シンデレラパウダー】がなんでできたかわかんないわよ!


「ふざ――」


「現に、今運営に問い合わせてる有志もいらっしゃいますわ」


 文句を言おうとした私をファラは遮って続けてきた。


「な、なななななんですってええ!?」


 慌ててファラの動画に来たコメントを見返してみれば、確かに『やっぱチートじゃねえか、よっしゃ通報したろ』みたいなコメントがいくつも出てる!

 やっば! もしかしてこれ、バグか何か!?

 いやいやそれより――!


「だったら動画を止めて!」


「あーら不躾な。 私の動画で放送事故なんか御免被りますわ? それに、ここで配信を止めてしまったら貴女の疑惑は更に深まるのではなくって?」


「ぐ、ぐぬぬ……」


 そりゃあそうだけど!

 このアイテムがチート行為でできたものじゃないってどうしたら証明できるの!? 私、謎の現象が発生しただけなのにBANされるーー!


「ふふ、そんな青ざめた顔しなくても心配はありませんわよ」


 頭を抱えたい私を見ながらファラは不敵に笑ってる。

 そこから急に大きく両手を広げ、高笑いとともにくるくると回転しだしたのである。


「そんなことができるならレースも、ボスとのバトルも、ここまで劇的な戦いにはなりませんもの! あなたがそこまで小賢しい知恵を持っているとも思えませんし!」


「むっ!」


 ちょっとそれどういうことよ?

 心外だわ! そっちだって私の閃きと錬金術で助かったようなもんなのに!


「あーら、誉め言葉ですわよ? 貴女は勝つために手段は選びませんが、見える道を真っすぐにしか進めない人間でしょう? そんな方が、改造などという悪辣な行為に手を染めるわけがありませんと太鼓判を押しているんです、ありがたく受け取りなさいな」


「だからって上から目線なの腹が立つんですけど!?」


「そこは受け取り方ですわ……おっと、来ましたわね」


 イグニールが消えて静かになったこの空間に、いきなり風の音がしてきた。

 洞穴の奥深くだっていうのに、その風はだんだん吹き荒れる小さな竜巻みたいになっていって……


「イグニールを倒したのは、君たちかい? やるねえ!」


 そこから小さな子供が現れた。

 ところどころハネた緑色の髪に、青を基調にしてところどころに金色の紋章がちりばめられた法衣を身にまと――というよりまとわれている、ような……なんというか背伸びして大人の服を無理に着ているようなその子はニコニコと笑いながら立っていたのである。


「やあやあ初めましてだね、冒険者の皆さん。 ぼくはマーリン、このような身なりをしてるけど、一応七賢人の1人さ」


 焦る私とは真逆にゆったりとしたしゃべりのマーリンくんは、ニコニコとした顔を崩さないままよろしくね、とお辞儀する。


「さて早速だけど、このことを他のプレイヤーに教えてもいいかな?」


「ええ! そもそも私はそれが目的ですので!」


「まってまって、何のことだかさっぱりなんだけど」


 勝手に話を進めるファラに待ったをかける。

 他のプレイヤーに教えるって何?


「あら、【従者】アルフォンスから何も聞いてませんの? 仕方のない……アルフォンス!」


「……なんだよ、今すっげーみじめな気分味わってるとこなんだけど?」


「私は忙しいのであなたのお仲間に最速討伐のことを教えなさいな!」


「……はぁ」


 かくかくしかじかと話すアルの言葉をまとめるとこうなる。

 このゲームでは一番最初にボスモンスターを討伐したプレイヤーは公式の掲示板やサイトなどで大きく取り上げてくれるらしい。

 だとしたらこっちにも利益はある。

 これからこの装備を量産して売りに出すんだもの。大きく取り上げてもらえばそれだけ大儲けできる!


「おっけー了解ー。 じゃあ情報を流すから、後で確認しておくれよ!」


 要件のすんだマーリンくんはそのまま風をまとってまたワープしてしまった。

 きっと、ほかのプレイヤーのところにもああやって顔を出しているのだろう。

 それを見届けたファラはクスリと笑いながら、口をひらく。


「さて、私もお暇いたしましょうか」


 そういって私たちに背を向けて、浮島の出口に足を向けはじめた。

 あれ、でも……


「……勝負の決着はいいの?」


「ばっ――! あほかお前、せっかく忘れてそうだったのに!」


「あら忘れてなんかいませんわよ? ただ、夢を持つ者同士、ここで勝敗を分けるのは惜しいなと思っただけ。 タダの気まぐれですわ」


 アルの言葉に振り向いたファラは、私の方に目を向けながら続ける。


「私には夢がある」


「?」


「何小首かしげてますの、貴女が言った言葉でしてよ……あなたと同じように私にだって夢がありますの。 この世界を駆け巡り、誰もがうらやむような【無限の名声】をつかんで成り上るという夢が」


 なるほど、この火山の攻略を最初に選ぶわけだ。

 高難度、難攻不落、不敗神話。ユーザーの間で様々なうわさが飛び交っていたこのダンジョンはファラにとって誰よりも早く超えるべき、最初の壁だったんだ。


「ですからこの勝負はひとまずお預けいたします、わが好敵手(ライバル)! 2週間後に行われる【無限民話】初のイベントにて、この決着をつけましょう!」


「へ? いやいやいやまてまて!」


「おーっほっほっほ! それではごきげんよう! 2週間でどこまで成長するか、今から楽しみですわ!」


 私の訴えを完全無視しながら、ファラは【イカロスの羽】を取り出してその場から消えた。

 ちょっとーー!!?


「私これから錬金術でアイテム作りまくるつもりだったんですけどーー!?」


 後に残ったのは「お前やべーのに目をつけられたな」的な視線を送って肩をポンポンたたくアルのみ。


「ちょっとーーー!! 聞いてよーーー!!」


 うるさいものが何一つなくなったフィールドで、私の声だけがやたらと空洞に響いた。

 それにこの時、私は思ってもいなかったんだ。

 この一連の騒動を、生配信で見せてしまうことがどういうことを引き起こすのかを。


 そのお話は、また今度ってことで。 






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