呉越同舟ボスバトル④! 秘密兵器EX! 誰でも主役になれる粉!
足りないHPをどうにかするため、残っている【コンバットレーション】にかぶりつきながら私は必要なものを探し出す。
しかしやっぱりまずい。
だってなんの味もしないもの。ひたすらスポンジと砂を食べてる感覚。
VRゲームっていうのは五感をカンペキに再現しているって話なんだけど、これはアルが噴き出すのも納得ね!
やっぱり食べ物はプロに限る!
あ、でも流子ちゃんが持ってくる料理は別だから。
たとえ味なんてしてなくても流子ちゃんの持ってきた料理ってだけでおかわりする自信があります!
「とにかく、リーズのいる方にイグニールを行かせるな!」
「わかってますわよそんなこと!」
今はそんな場合じゃない……!
二人とも私のやっている奇行が打開策になると思って、必死にイグニールを引き付けてくれている。信じてくれてるんだ。
味がしない程度でなんだ! ……いやそうじゃない。
「必要なものは……」
気を取り直して、素材アイテムを選んで取り出していく。
夢の燃えカス、生命の灰、リバースドールの残骸を両方つまみ、釜代わりのツボへ入れ、駆け出しの杖で混ぜる。
作るアイテムの名前は【エンゼルパウダー】。振りかけられたプレイヤーの体を一定時間軽くし、HPを徐々に回復させていくという調合薬。
あんなでたらめに暴れまわればイグニールは、フィールドの完全崩壊とともに力尽きる。
であれば、何も無理に倒す必要はない。これを全員に振りかけて、イグニールが力尽きた時に岸まで飛べばいいんだから。
「シャアアアア!」
「わっとと……!」
イメージはどんな時でも絶やさない。
リバースドールにまだ残っているはずの力と、生命の灰、ツボの魔力をあわせ、夢の燃えカスに移して量を確保する。
暴れまわるイグニールのせいで足元は最悪だけど、こぼれないように集中してかき混ぜる。
「リーズはまだなのか……!」
なんせ時間がもったいないもの。
こうしてる間にもアルたちは体力をすり減らすし、私のHPはツボに吸われてどんどん減っていく!
「【アイス・ヴェレ】!」
氷柱がファラの周りに現れイグニールに殺到するけど、マグマをまとって猛進する今のヤツには効かない! 当たったそばから溶けて霧散してしまう!
けれどファラは闘牛士がごとく、イグニールの突進をぎりぎりでかわしながら、
「おーっほっほ! こちらですわ! 第二波!」
まだ手元に残している氷柱を当てていく。
数を呼び出す呪文で少しずつ攻めて、あいつの注意を引き付け続ける算段だ!
「イグニール! 暴れ狂って聞こえないでしょうが、我々にはとっておきがありますのよ! それが姿を見せたとき、今度こそあなたの敗北ですわ!」
まてまて。私が作ってるのはそういうのじゃない。
「そうだ! さっきで倒れときゃよかったって思うだろうぜ!【クラッシュピラー】!」
いやいやいや、アルも何言ってんの!?
挑発にしてもこっちのハードル上げるのやめて!?
そんな風に心の中で突っ込みを繰り返しているとツボが光り輝き、あのスケスケウインドウが出てきた。
~~~~~~~調合超成功!~~~~~~~
「うん?」
超成功ってなんだ?
まあいい、とにかく【エンゼルパウダー】ができたのには変わりないわけだし、とっとと自分にかけてアルたちを助けなきゃ!
「シャアアア!!」
しかし、粉を手にのせて自分に振りかけた直後だ。
「しまっ――! リーズ!!」
何が起きたのかさっぱりだった。
アルの声が聞こえたかと思ったら私は横からとてつもない衝撃を受けて、思い切り吹っ飛ばされた。
地面を何回か弾んで、ようやく止まったのがまだあまり壊れていないフィールドの逆サイド。
「リーズ!?」
うっすらと開けた目には悲鳴のような声を出しながら着地するファラと、その下を通り抜けたのだろうイグニールのしっぽが。
なるほど。
ファラのかわしたしっぽの攻撃が、後ろの私にまで届いちゃったのか。
「シャアアアア!!」
あまりにも突然のことに固まる二人を抜き去り、合理的な判断をするAIのイグニールは真っ先に私へ向かってくる。
「げほっ……!」
そりゃあそうだ。
いくら暴走してたって、動物だもの。弱っている敵を真っ先に狙うにきまってる。
起き上がって逃げるにしても我を忘れたボスと弱ってる私じゃあ、どっちが早いかなんて明白。
目の前にまで来たイグニールは私を叩き潰さんと腕を振り上げる。
「【アクアレイザー】!」
その後ろから水を撃ちだす音がが聞こえたけど、遅かった。
それが当たったのは私が叩き潰された後。大きなイグニールの背中に当たって――
「シャアアアア――!」
「ん?」
……はて?
今の流れ、完全にそうよね。
ファラがなんか隠し玉を使ってなければ、私は確実にイグニールの手で潰れてロストよね。
目の前まで手が迫ってたんだもの、間違いない。
でも、なんでイグニールの悲鳴が聞こえるんだ?
体が痛い、くらいな感じなのなんでだ?
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【シンデレラパウダー】発動! リーズは復活した!
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……私なんで復活してんだ!!?
「ちくしょう、よくもリーズをやりやがったなこの野郎!」
生きてます。
「……イグニール!! よくもアナタ――この罪は重いですわよ!?」
生きてます。なんでか知らないけど。
ひょっとしてこの粉か?
調合超成功、あれのせいでエンゼルパウダーから別のものに変化しちゃったのか?
どっちみち今私に何が起きているのか、アイテム画面を開いて確認しなくちゃ!
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【シンデレラパウダー】
Lv ?
品質 68
属性 なし
カテゴリ 薬品・魔法の道具・神秘
入手方法 調合超成功で入手
売値 売却不可
※ユニークアイテム
人をおとぎ話の主役に変えるという逸話のある粉。
振りかけられた対象を一定時間【加護】状態にする。(死亡時HPを大きく回復させて復活する状態。死者系モンスターは逆にダメージを受ける)
一説では女神の祝福を与えられた霊薬とも呼ばれるが、
いずれにせよ生半可な調合技術では生成できない不死の疑似薬である。
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……は?
はああああああああああああ!?
私ちょっとの間だけ死ななくなったってこと!? うそでしょ!?
だっておかしいもん、こんなもんあるんだったら――
「【エナジーキャノン】!!」
――もう【スーサイド】にびくびくする必要がなくなるじゃん!
水弾によろめくイグニールのへ、私は雷の砲撃をたたきつける!
「エナジーキャノン!!」
「え、リーズ!?」
「生きてやがる……!?」
私の一撃を見た二人は全く同じ反応をした。
まあみんな私がロストしたと思ってたから、仕方ないんだけどさ!
「シャアアアア!!」
とどめを刺し損ねたことを理解したイグニールは再度私をつかんで握りつぶそうとする!
でももう、そんなの怖くない!!
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【シンデレラパウダー】発動! リーズ復活!
【シンデレラパウダー】発動! リーズ復活!
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「これでオワリよイグニール!」
超至近距離にも関わらず、私は動く腕で杖を構えてイグニールに向ける!
モチロン腕輪で威力は上がるから私もただじゃすまされないけど、カンケーない!
HPの心配なんてもうしなくていいんだもの、いくらだって砲撃してやる!
「あんたなんか怖くないんだから――!」
私は死なない!
死にたがりで、生き急いでばっかで、どこにでも突撃するような命知らずだけどそれが私の生き方!
これは何もなくなった私がそうやって何もかもを取り返す、私だけの成り上がり物語!
私はその主役なんだ! 主役が死んで物語が成り立つか――!!
「エナジィィィイイ!! キャノォォォン!!!」
気合を込めて超至近距離から放たれた砲弾は顔を完全にとらえた。
さっきのより威力の上がった大爆発が巻き起こり、その勢いでイグニールの手から私は吹き飛ばされ、地面に落とされる。
私がそこから見たのは、イグニールがさっきと同じようにあお向けに崩れていくところ。
そして、自らがで荒らしまわっていたフィールドに倒れこむ。
モチロンその巨体を島が受け止めることはない。
浮き島は重さで叩き割れ、その下のマグマに飲み込まれて行き……
胴から上を飲み込まれた火龍の体はもう二度と、動くことはなかった――。
━━━━━━Congretulation!━━━━━━
ダンジョンボスモンスター『灼熱蛇龍 イグニール』の討伐成功!
MVP:ファラ
ベストダメージ:リーズ 経験値30%アップ!
ラストアタック:リーズ 経験値20%アップ!
EXPを大量に獲得!
リーズはレベル23にアップ!
アルフォンスはレベル22にアップ!
ステータスポイント30を獲得!
条件「初めてユニークアイテムを調合する」達成! 【生産職の革命児】獲得!
条件「戦闘中に錬金術の調合を成功する」達成! 【錬金中毒者】獲得!
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次回と掲示板回で、2章完結です!
頑張って行きますので応援よろしくお願いします!




