蛮族だってよリーズさん
「皆様、これが【危険予知】の力ですわ! 攻撃される瞬間、どの方角から攻撃が来るかを教えてくださいますの! 私も認める強スキルです! ただし狙いすぎて【臆病者】にならぬよう、十分お気つけなさいませ!」
「アル、大丈夫!?」
勝ち誇ったようなファラの声を聞きながら、いっしょに投げ出されたアルの方を見る。
よかった、大したけがはなさそう。
それにしても!
「いきなりなにすんのよ!」
「こっちのセリフですわよ! アンチかどうかは知りませんが配信のOPでいきなり襲撃をはかるその野蛮ぶり、おイタが過ぎるのではなくって?」
「正論すぎる……」
「アル! あんたどっちの味方よ!」
ぼそりとした呟やき、しっかり聞こえました!
これじゃ私が悪モノじゃないのよ!
「アル……もしやアルフォンス? そこなお方、【従者】アルフォンスでは?」
「……だとしたら何だってんだ」
名前を呼ばれた瞬間アルが不機嫌そうに返す。
しかしそんなこと気に留めず、ファラは周りを見渡しながら、アルの彼女の名前を呼ぶのだ。
「マリー! いるのでしょう? あなたの下僕はこちらの手の内ですわ、大人しく出てきなさいな!」
「いねーよ」
「おーっほっほ、嘘おっしゃい! βテスト中、ほとんど常に彼女の後ろでコソコソとしていたくせに!」
短くすっぱりと返したアルだけど、ファラは不敵に笑う。
というかアル?
「コソコソってそれストーカーじゃないの? 恋人とかいうのは何だったの!?」
「ちゃんと恋人だよ! 罠があるかもだから気をつけろって言ってるのにアイツがどんどん前に進むから自然とそうなるんだ! そしたらヘンな枕詞が勝手について――」
「あら、光栄に思いなさいな! 彼女の後ろを何も言わずについて行く姿を見て、【従者】とつけましたのに!」
「お前のせいか!」
ファラはアルの文句をスルーしつつ、そのまま私の方へ詰め寄ってくる。
そして「うん?」まじまじと見つめた後にうろんげな声をあげて……
「……これはどういうことです? 本来のパートナーを連れずにこんな野蛮人、しかも女性を連れまわすとかゲームプレイヤーの顔役たるトッププレイヤーに恥をかかせるつもりですの!? しかもこの子は錬金術士、生産職ではありませんか! そんな足手まとい、さっさと工房に引きこもらせてアイテムでも作らせてなさいな!」
何よ、生産職だからってダンジョンに来ちゃいけないわけ!?
私だってこの辺のモンスター程度ならじゅーぶんやれるのに、なんともひどい言い草だ。
今すぐにこの女の顔面へ電撃を浴びせてやりたい……けど!
「……勝負しろ」
それはすんでで飲み込んだ。
言われっぱなしだったアルが、なんとここにきて言葉を返し始めたのである。
「……今なんと?」
「この火山の攻略を賭けて勝負しろ、ファラ。 こいつは生産職どころかお前の取り巻きなんかよりよっぽど強いぞ。 すっげー見苦しいけど」
あれ、私褒められてる? けなされてる?
「それでも、土壇場の根性と力がこいつにはある。 生産職だからって足手まといにならねえことを証明してやる」
ぎらりとした目でアルがファラを見上げていた。
……ひゅー! たまにはアルも言ってくれるじゃん!
「そーよ、私たち二人舐めてかかると痛い目見るわよ!」
私も負けてられない!
勝負事は舐められたら負け。最初の勢いがすべてを決めるといっても過言じゃないもの。
「ほほ……おーっほっほ! 勇ましいですこと! ですが私は忙しい身、残念ながらあなた方のお相手をする時間はありませんの!」
しかし私たちの挑戦に、ファラはタカビシャな高笑いで拒否りやがった!
「はあ!? この状況で二つ返事しないとかどういう神経してんの!?」
どこまでもシャクに障る!
高貴な貴族は争いをいたしませんってこと? ふざけないで!
偉い人がいるとこはね、いつもよそから取られる可能性抱えてんの!
家がいつなくなるか、いつ親がいなくなるかもわからないのよ!
「うるさい蛮族ですわね……! ですから、ダンジョン攻略の片手間にお相手して差し上げます! 【無限民話】初の攻略動画が、ただあなた方をのした後の攻略ではムダに長いうえつまらないですもの! 高貴なるトッププレイヤーとして、あなたたちに洗礼を与えて差し上げましてよ!」
「……つまりどういうこと?」
「普通の勝負じゃ負けるわけないからダンジョン攻略の速さで勝負だとよ、完全に舐められてる」
「はっ、上等!」
そんじゃあ、お望み通り一泡、いやふたつ合わせて十泡ふかしてやる!
次回、洞穴探索開始!
ファラとのレースバトルに果たして勝利できるのか!?




