千年の恋でも秒で冷めるものなのに
その後町へ繰り出した私たちは、最後の準備として装備品をいくつか購入した。
そんなことのためにお金を使うのは嫌だけど、錬金術じゃ装備品を変化させることはできても0から装備品を作ることはできないし、仕方ない。
さすがにそこは鍛冶屋や仕立て屋の了見。
錬金術がそこまでできたら、もっと人気あるはずだもんね……と思ってたら、
「それ、払ってやるよ」
なんと、アルがいくつか代金をおごってくれたのである!
まあ、この優しいのも【臆病者】をどうにかするためなんだろうけどね……
ちなみにこの後偶然Cクリスタルを見つけて、じゃあついでにとおごらせようとしたけどチョップでお支払いされた。いたい。
「ちゃんと装備しただろうな」
「しましたよーだ!」
というわけで、左右にいくつもリングがついてるロッド【錬金術士の杖】をはじめ、【グナーデイヤリング】【ボルテージバングル】【ライデンチョーカー】の3つが付いた私のステータス……というかHPは今410と大きく伸ばした。
中でも【グナーデイヤリング】はHP、素早さ、防御を同時に上げるスグレモノ!
その分性能は低めになってるけど、錬金術の調合で伸びしろはじゅーぶんあるわね!
よーしというわけで、火山にレッツゴー! と言わんばかりに、城壁を抜けたのだった!
*
リヒターゼンの南西から街道に抜けて、そのまま進めば火山のふもとにたどり着く。
アルが言うには、リヒターゼン周辺の街道は全部初心者フィールドの扱いらしく、まれに出てくるレアモンスターを除いて、素人でも倒せるように設定されているらしい。
実際、スーサイドやアルのスキルを使わなくても余裕で倒せる奴らばっかり。
なのでもうゴブリンなんかへでもないんだなあとちょっと感動しながら、軽い連携の練習相手になってもらった。
けれどもまだまだ続く道の途中、不意に
「なあリーズ」
とアルはつぶやくように私を呼んだ。
「んー?」
「お前、このゲームやってて楽しいか? つまらなくないか?」
「何よヤブから棒に、今やってるゲーマーとしてそれどうなのよ」
「いや、違うんだ、初めての調合の時からずっと考えちまって、なんというか……ただゲームしに来た俺とは違う気がすんだよな」
自分でもよくわからないんだけどさ、と続けるアルを見て、ちょっとだけ冷や汗を流した。
……やっべ、私、なんか変なこと口走ったか?
実をいうと私はかんしゃく持ちのケがあるっぽくて、熱くなりすぎると蛇口のようにぽこぽこ言葉を出しちゃうから、正直ほぼ覚えてないのよね……
「パパとママとか……夢がどうのとか、何回も死ぬとかいろいろ……なんかすげー必死で」
わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
やっちまったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
ほら見ろ! ほら見ろ!
要らん事言っちまってた!
どうする!? なんか本人めっちゃ気にしてるし忘れろって言っても忘れそうにない!
殺すか!? いやいやいやいやいやいや殺しても意味ない押さえろ押さえろ!
「なーんか思っちまったんだよな、こいつ楽しむ余裕なんてないんじゃねえか? って。 でさ、もしそうなんだとしたら」
よし、おさえた。
おもいっきり後ろからぶったたこう。
そうすれば脳波になんかいじょうがおきてつぎ目がさめたときには記憶がなんやかんやできえてるはずだ。
はい、せーのー!!
「お前には、このゲームを、ゲームってもんをもっと楽しんでほしいなとおもってる」
「はい?」
得物を振り上げた私に、不意の言葉が飛んできた。
アルがこっちに振り向いたところでとりあえず杖を下ろして隠した。
「いや、お前VR自体初挑戦っぽいし、なんつうかこう、おのぼりさん……? みたいにいろいろ見てさ」
え?
え?
「のんびりしてみるのも悪くねーんじゃねえかなーって」
何今の。
いまのセリフでなんで私止まった?
いや心臓の音は止まらない。
なんか耳にどっくんどっくん聞こえてる。
え? なに私、ときめいてんの?
いやいやいやいや!
確かにこいつ童顔だけどイケメンだし、悪くはないけどさ!
「そのためだったら、俺も協力できっかもだし」
「いやいやいやいや! 大丈夫よ! あんたなんかの力がなくてもじゅーぶんたのしいし!」
だからそういう耳障りのいい言葉を並べないでくださいいやマジで!
やっべえ今どんな顔をしてるんだ、私?
熱い! まだ火山についてないのにかあってなってる!
「遠慮するな! お前、自分で自分を追い詰めてばっかだし俺にもなんか手伝わせろよ。 もし俺が頼りないなら――」
嘘ですごめんなさい! 死にたがりの変人です!
壊れかけの心にどす黒い欲望を注入して走ってます!
あああどうしよう断るべきなのになんでか断りたくない! いたわってほしい! 頑張ってんなってこいつの口からきいてみたくなってきちゃってどうにも―――
「俺の彼女、【飛閃】のマリーっつって、トッププレイヤーの一人だからさ! そいつにも手伝わせて」
「あ“???????」
今なんつったこいつ?
カノジョつった??
こいつのツレとやらの話か今のは???
「リーズ? おいリーズ?? なんか……」
こいつのツレは彼女で……?
私は今無駄にこいつにときめいて…………??
つまり初恋っぽい何かが、30秒くらいで終わって…………???
うん。わかった。
こいつはここで殺さないとだめだ!!!!
「【スーサイ――」
怒り任せにスーサイドを発動しようとした私の前からアルは飛び上がった!
「ド】、オン!!!」
逃がさねえぞ乙女をもてあそんだクソ野郎が!!
今この場で灰燼にしてやらあああああああ!
「あぶねえリーズ!!」
スキルを発動した矢先、金属同士ががきんとぶつかり合う音がした。
な、なに!?
アルのへんてこな形をした剣、【フランベルジュ】に弾かれたなにかはひゅんひゅんと宙を舞い、街道のはじに突き刺さった!
「え……矢……?」
その形を直視したとき、理解する。
今私、誰かに命を狙われて……!
「弓使いが街道の外から狙ってる! 走るぞ!!」
「そいつは困るなあ」
そして次。
私たちを陰ですっぽりと覆えるほど大きな何かが、ぬうと現れた。
次回、謎のPKとのバトル開始です!