【デスマーチ】で始まってしまった錬金狂騒曲……!
「きょーも元気な一日がはじまるぞーーっと!」
アルが私にいろいろ頼んでから、ちょうど一日。
結局のところ、思いついた物をレシピに照らし合わせるのと必要な素材の調達に時間を食った程度で、頼まれていたものはけっこー簡単にできた。
なので空いた時間で少々秘密兵器を。まあこっちは使わないに越したことないんだけどね。
さて、あとはアルを待つばかり……と思っていた矢先、扉からノックの音が聞こえた。
「はいはいー、どうぞー」
「リーズ、必要なものはできたか……ってまあその顔を見たらうまく行ったんだな」
「もっちろん!」
ドアを開けて入ってきたアルにどや顔で返してあげると、そうこなくっちゃな、とアルもにやりとした顔で前置きしてから、
「どんなの作ったんだ? 見せてくれよ」
と、興味津々にあたりを物色し始めた。
ちなみに、彼が探している服は今私が身につけているひとつのみ。
いちいち仕立て屋で買うのが嫌だったから、服を作るのに必要な布がないのよね……
というわけで。
「おーい、早く出発しなきゃだからあまりじらすなよ……」
「アル、協力してくれない?」
「パーティ組んでるんだから協力するのは当たり前だろ、何言って」
「脱いで」
「ああ……は?」
反射で頷いたんだろうアルの表情が一瞬で固まった。
何言ってんのお前って感じで口をパクパクさせてるけど、私は大まじめです失礼な。
「だから、服脱いで☆」
「ごめんちょっと何言ってるかわからない」
そんな失礼なアルくんに、あくまでフレンドリーになるようにとーってもかわいらしくいってあげたんだけど……こいつ! 理解できないものを見たって言いたげに顔をしかめやがって!
「布がないのよ! だからあんたの服を素材にして直接変えてあげるの!」
「一張羅なんですけど!? 失敗したらどーすんのお前! 上半身裸で歩けってか!? 通報余裕じゃねえか!」
「そーやって悪い方向に考えるから変なスタイルに目覚めるんでしょうがヘタレが! 友達にバカにされたくないんでしょ! だったら恥は捨てろ! 前を向け! そうすりゃ私が男にしてあげるわよ!」
「……おまえさあ」
まくしたてる私に押し切られたアルは、盛大にため息をついた後、いそいそコートを脱ぎ始めた。
「失敗したらゆるさねーから」
「それでよし! んじゃ最後の調合、始めるわよー」
そのショートコート、【深蒼の学士服】をポイっと釜に投げ……ちょっとかっこいい名前してるわね……
「ああ、雑に扱うなよ……割と貴重なんだぞ」
まあまあ見てなって。
アイテムボックスから取り出しますは、【蒸留水】【樹液】【ぷに玉】の三つ。
これらを釜に入れて、調合開始!
「【スーサイド】、オン!」
しばらく釜をぐるぐるすれば、アイテム完成!
「どーよアル! これが私の火山対策その1、その名も【リキッドウェア】よ!」
服の繊維の中に、吸水性のあるスライムの核【ぷに玉】を溶かして混ぜ、【樹液】で外をコーティング。
そこに蒸留水を入れれば繊維が吸収して、常に中に水が溜まってる服の出来上がりってわけ。繊維内にある水は樹液のコーティングとぷに玉で蒸発しないから、凍らせるのさえ何とかなればOK!
「多分!」
「多分!?」
「そりゃあまあ、理屈っぽく言ったけど釜でぐるぐるするだけですし。 そういうイメージでやったってだけだから実際のところはもっと違うかも」
「だいぶふわふわしてんなあ、大丈夫か……?」
大丈夫大丈夫!
錬金術士リーズさんにスキはないのよ!
前もって調べられたおかげで、対策アイテムはまだまだあるからね!
「まだまだって、お前【過労】は? 一度なったら5分は動けないはず……」
あー、それはね……
苦々しく語りますは、初めて死んだときに覚えてしまった【デスマーチ】。
あれを詳しく見た時の私の心境は複雑なんてもんじゃなかったわ。
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【デスマーチ】
パッシブスキル。
【スーサイド】発動中、状態異常を無効化する。
条件:【過労】状態で【スーサイド】を発動し死亡する
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「ってわけでして……」
【過労】もまた状態異常なので、限界を超えるまで心行くままに調合ができるようになってしまったのです……
そのくせHPの限界は考慮しないからこれの感覚をつかむまでに17回は死んだけどな!!
スタイル【強欲】のおかげでロストもしないけどさ!
「うう、こいつらどこまでも私の命を握ってくる……! なんなのよもー! ブラック社員かよ私はよー!!」
「落ち着け、落ち着けよリーズ! ほら、ええっと……頑張れ!」
「慰めのつもりかーー!!」
【スーサイド】【デスマーチ】それに【強欲】。
スタミナ極振りと無駄にかみ合ってしまうこのスキルたちが、私にとっての最大の敵なのかもしれない……