ヘタレなアイツとアーミー通信!
~前回のあらすじ~
念願の家を手に入れたリーズはそのゴミ屋敷っぷりに戦慄!
心が折れかけたものの、アルフォンスことアルの助けで事なきを得るのでした……
「これで、最後!」
アルフォンス……アルが来てくれたおかげで、作業はすいすいと進んでいった。
さすがはβプレイヤー、慣れたモンだとばかりに重そうな棚もすいすい運んでいく。
ついでに途中で箒や雑巾も見つけてくれて、汚れを見つけてはゴシゴシしてくれる。
いやー、ホント便利で一家に一台はって感じの活躍だわ……本来なら私がそーゆーふうに能力とか割り振るべきだったんだけどね?
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素材【紙くず】獲得!
素材【割れたガラス】獲得!
素材【ぷに玉】獲得!
素材【産業廃棄物】獲得!
素材【夢の燃えカス】獲得!
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ちなみに私は、ゴミの中に混じってる素材を集めながら、そんな彼の様子をちらちらと見ていた。
私から見たアルは別段変な事をしてないけど、やっぱり釈然としない。
「どうして私を手伝おうって思ったの?」
本当にただやりに来たって感じ。
でもなんでわざわざこんなことを? って考え始めると、どーしてもわからない。
キラキラが見えてないっぽいから少なくとも錬金術士じゃない。
さっき言った通りお金とか欲しがってなさそうだし、クエストの報酬も錬金術士じゃないなら絶対に要らないものだ。
「……あー、いや、まあな?」
ほーら、本人もすっごいバツが悪そうなカオしてる!
絶対なんか裏があるって!
もしかしてアレか? 体が目当てか!
お礼にうら若き乙女のお身体にさわりますよってか!?
アルはある種の決心をつけたのか、ため息をついてからこっちに近づいてくる!
「ストーップ! 私に近づくな!」
私は杖を向けて魔法の準備を始めた!
何が狙いか知らないけど、もしコウキョーフーゾクに反するなら痛い目に遭わせるわよ!
「お前何か勘違いしてないか!? こっちだって見せるの恥ずかしいんだぞ!」
「見せる!? 何を!?」
ほら見たことか!
そこから一歩でも動いたら雷撃ちこみまくってやる!
「わかった、わかったよ! こっちから飛ばすから絶対見られないようにしろよ! リーズにステータス開示! スキルだけ見せろ!」
アルがそういうと、こっちの目の前にアイツのステータスが現れる。
〜〜〜〜〜〜Status〜〜〜〜〜〜〜
アルフォンス
レベル:14
Next……3682exp
職業:魔法剣士
属性:土
スタイルスキル
【臆病者】
スキル
ブレイドインパルス クラッシュピラー
危機回避 危険予知 とんずら 魔剣使い 剣の資質・土
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「これがなんだってのよ」
「臆病者ってあったろ? キャラ作成の時にちょっと手間取ってな、モンスターを無視して町に来たら、スタイルスキルに目覚めてこのありさまってわけだ。 少ししたら連れと一緒にダンジョンに潜ろうって約束してて……そん時にこんなスキル見られたらいやだろ? どんなプレイしたんだお前って笑われる」
「だから別のスタイルに変わることを祈って、親切そうにしてたわけ?」
「そういうこと。 とはいえこのチョーシじゃあ、いつになることやらだけどな」
それまでやってきたことに応じてスキルに変わるっていうのも、なかなか考え物ね。
私も気持ちはわからなくはない。 友達がもし目の前にいて【臆病者】だの【強欲】だのだったらうわぁ……ってなるもん。
……まてよ?
私もアルもやらなきゃいけないことがある。
けどそのためにはバトルスタイルで目覚めた変なスキルが邪魔で困ってる。
長い目で見ればどうにかなるけど、期限が許してくれないっていう状況だ。
これは……
「いーことかんがえたー……」
「おっと、早くしねえとホントに間に合わなくなりそうだ……んじゃあ俺は」
がっ!
用が完全に済んで、その場を去ろうとするアルの肩をつかんだ!
「なんだよニヤニヤして……」
「ねえ、アル……未踏ダンジョンの攻略にキョーミない?」
*
その後、立ち話もナンだからと工房にアルを招いた私は、ピカピカになったテーブルと椅子に腰かけた。
「ファラを出し抜いてイグニール大洞穴を先に攻略する……本気で言ってんのか?」
「本気も本気! 私は火山対策アイテムを作って洞穴を攻略する! あんたは私を護衛して別のスタイルスキルをゲットする! まさしくwinwinってやつよ!」
うーん、どっからどう見てもスキのない完璧な作戦! 我ながら恐ろしいわ!
それに相手は難攻不落の火山ダンジョン! 今までβプレイヤーが何人も挑んで返り討ちになるのを繰り返してきたわけだから、知名度もじゅーぶん!
そんなところの対策になる道具を売り出せば、いやでも目についてお金が舞い込んでくるはずだわ!
素材も拾って売りに出せばかなりの値が付くかも!
うーーーん! 夢が広がるーーー!
「やめとけ」
「……はい?」
1人で舞い上がっていたところに、アルは水を差す。
「釜があるってことはお前、錬金術士だろ? 生産職にあれの攻略は無理だ」
「ずいぶんはっきり言うわね、まだやってもないのに」
アルの物言いに返してやると、本人は盛大なため息。
なんかバカにされた気がしてちょっとむかつく!
「やったから言ってるんだよ。 βテストのとき、さっき言った連れに誘われて行ったんだ」
「マジ!? どうだった!?」
「きついなんてもんじゃない。 スタミナ切らして二人ともばったりだ。 あそこはな、トンでもなく深いダンジョンのくせに食い物が一つも落ちてないんだ」
「……」
「それにな、奥に行けば行くほどどんどん熱さが増して、スリップダメージが重なっていく【焦熱地帯】なのも面倒なことこの上ない。 歩くたびにHPが削れるうえ、モンスターもかなり厄介ときた」
「…………」
「装備のそろってないときに無理して挑むダンジョンじゃないよ。 ましてやお前は生産職だからな、器用さと運に」
「ステータス、アルに開示」
アルの言葉を遮りながら私はスケスケウインドウを呼び出した。
「…………」
すると今度は面白いくらいにアルが黙りこくった。
そうしてウインドウと私を何度も見比べるもんだから、軽くウィンクしてあげると、震えた声でつぶやいたのだ。
「お前……バカじゃねえの……?」
「何よー!」
「お前これでなんで錬金術士名乗ってんだよ……薬はおろか蒸留水すら作れるか怪しいじゃねえか」
「で、き、ま、すぅー! 錬金術は器用も運も参考程度にしかならないから初心者でも安心だって雑誌に載ってましたー!!」
「アミ通の雑誌か?」
「よく知ってるじゃない! そーよ、ゲーム業界の老舗中の老舗、アーミー通信よ! おじけづいたかしら!?」
「まさか。できるもんならやってみろ」
「ちくしょーやったらー!!」
実際に書かれてたことだから大丈夫でしょ! それを今から実践してやる! 吠えヅラかくんじゃないわよ!
私のスタミナ極振りにあきれ果てているアルの前から離れ、私はかき混ぜ棒と蒸留水に必要な素材たちを手に取り、釜へと突っ込んだ――!