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魔女

「ソフィアが魔女って本当なのか?」


「あっしは何度かソフィアが魔法を使うのを見ましたが、あれは人間のレベルを超えている。危ないので、本人には言ってませんがね」


 魔女というのは、魔族と人間のハーフだ。

 魔女の一族には女性が多く、それが魔女と呼ばれる由来となった。

 この世界では様々な場所で小さな集落を作り、密かに生活していると習いはしたが、まさかソフィアが魔女だとは思いもしなかった。


「魔女の特徴は圧倒的な魔力と、独自の魔法陣を使うこと、でしたか」


「その通り。さて、ここまで話したわけですが……改めて聞きます。ソフィアを引き取るんですね?」


 これだけ話して再び聞くのは、ジャックの優しさからだ。

 魔女を引き取ってしまえば、面倒事に巻き込まれる可能性がある。

 こうして話せば話すほど、ジャックがソフィアのことを考えているのがわかる。


「当然」


「即答ですかい。ソフィアも、旦那のような人になら安心して預けられる」


「任せてくれ。奴隷の刻印は消せるよな?」


「もちろんです。というか、実はあれは奴隷の刻印の形はしていますが、実際は魔力を抑えるものでしてね。跡形なく消せます」


「よかった」


「旦那は本当にお優しい。……と、帰ってきたようですぜ」


 話しているうちに随分時間が経ったようで、男2人とソフィアが帰ってくる。

 その体には傷跡が全くなく、服装も真っ白なワンピースに変わっている。


「どうどう? 可愛いでしょ!」


「おー、似合ってるな。可愛いぞ」


「えへへー、ミツキは見る目あるねっ!」


 ニコニコ顔で上機嫌のソフィアを見ていると、どうしても頬が緩む。


「旦那、さっきの話ですが、今後のためにもソフィアに話して構いませんね?」


「俺も、それがいいと思う」


「ソフィア、今から大事な話がある」


「大事な話?」


 ジャックは真剣な表情で、ソフィアに魔女であることや、魔女狩りのことを伝えた。

 匿ったとはいえ、奴隷として辛い思いをずっとさせてしまった。

 恨まれ、嫌われ、憎まれるのも覚悟で。


「私が魔女で、魔女狩りの被害者……」


「仕方ないとはいえ、お前を奴隷として育ててしまった。謝っても許されないのはわかってるが、本当にすまない」


「許すもなにも、ジャックたちは私を助けてくれたってことでしょ? なら私からの言葉は1つだけだよ。ありがとっ!」


 ぴょんと半ばタックルするようにジャックに飛びつき、満面の笑みで感謝の言葉を伝える。

 まさか、ありがとうなどと言われていると思っていなかったジャックは困り顔だ。


「学園に入れてくれたのも、この刻印も、全部私のためだよね? みんな、だーい好き!」


「ソフィア……」


 ジャックと2人の男に向けてそう言うと、男2人は感極まって泣きそうになっている。

 抱きついてきたソフィアを引き離したジャックは、太ももにある刻印を消すと、懐から短剣を出して手渡す。


「これは俺たちからソフィアへ」


「短剣?」


「魔法を使うための触媒だ。杖よりそっちのがいいだろ?」


「うん。嬉しい!」


 嬉しそうに短剣を見ているソフィアから目を離し、今度はミツキへ向き直る。


「旦那、ソフィアをよろしくお願いします」


「ああ。ソフィア、今から俺たちは友達で仲間で身内だ。よろしくな」


「うん。よろしくね、ミツキ!」


 嬉しそうに笑顔を浮かべるソフィアに、ミツキも笑顔で返す。

 こうして、新しくソフィアが仲間となった。


 * * *


「……ソフィア」


「ん、なーに?」


「この状況、おかしいと思わないか?」


「え、何か変?」


「いやさ、男と女が同部屋ってどうなの?」


 ソフィアを引き取った翌日、ミツキは寮の自室に向かおうとしたのだが、ソフィアが少し用事あると言ったので待つことにした。

 10分後に戻ってきたかと思うと、その手には新しい寮の部屋の鍵が握られており、2人でそこに住むのだと告げられた。

 ちなみにミツキの元の部屋の鍵は、強制回収された。


「学園長には報告してあるから大丈夫だよ!」


「俺が大丈夫じゃねぇ! ロリコンだと思われるだろ!」


 ミツキは17歳、ソフィアは14歳、事案だ。


「ほかにも2人で住んでる人はいるよ?」


「それは彼氏彼女で……いや、これ以上言っても変わらないか。それに、ジャックさんから頼まれたしな」


 ジャックたちはあの後、商いのために別の都市へ向かうと言っていた。

 去り際に何度もソフィアを頼むと言われたため、こうして同じ部屋に住んでいれば、万が一何かあってもすぐに対応できる。


「細かいことは後で決めるとして、だ。俺は近接戦闘の授業に行くけど、ソフィアは?」


「私は魔法関連の授業を受けるよ。特に魔力の操作についてかな」


「わかった。じゃあ、また夕方にな」


「うん。頑張ってね〜」


 休日も終わり、学園も平常運転に戻った。

 早速、前々から気になっていた近接戦闘の授業を受けに行くことにする。


「確かここだったか」


 初めて行く場所のため、場所を確認しながら向かうと、天界の闘技場のような開けた場所に着いた。

 ここは学園の闘技場で、主に近接戦闘や魔法戦闘の模擬戦で使われている。

 時間ギリギリのため、既に授業を受けるであろう生徒が集まっている。


「あんた、それで授業受ける気?」


「ダメなのか?」


「いや、ダメじゃないけど。素手で戦う気なの?」


「もしかして、武器って持参か?」


「そうよ。当たり前でしょ」


 同年齢の少女から話しかけられ、周りを見回すと武器を持っていないのはミツキだけだ。

 初日は座学だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。


「初めての参加なんだよ。どうすればいい?」


「まあ、練習用の剣なら貸してもらえるわよ。使いにくいでしょうけど」


「おお、ほんとか。親切にありがとな。えーと」


「メリアよ。覚えときなさい」


 空色の長い髪と深海を思わせる深い青色の瞳の少女が、胸を張って名を名乗る。


「メリアだな。俺はミツキだ。優秀らしいし勉強させてもらうよ」


「そう、いい心がけね!」


「よし、集まってるな。では近接戦闘の授業を始めるぞ」


 そうやって話していると時間が来たようで、男性教師がやってきた。


「今日は模擬戦中心の授業だ。武器の刃は引いてるな。2人ずつ戦ってもらって、改善点や反省を重ねていくぞ。メリア、ケイト。お前らからだ」


「さ、ちゃんと見てなさいよね!」


 呼ばれたメリアは、自信満々で早速闘技場の真ん中へ歩いていく。

 メリアの得物はナイフで、対するケイトという男子生徒の得物は長槍だ。


「魔法の使用は禁止だぞ。では、始め!」


「先手必勝!」


「真っ直ぐ!? 舐めんな!」


 開始と同時にメリアが地を蹴り、接近を試みる。

 リーチに差があるため当然の行動だが、もちろんケイトはそれを予測して突きを繰り出す。


「舐めてないわ。これが私のスタイルよ!」


 メリアはまったく怯む様子もなく、むしろ突き出された穂先に向けて突っ込む。

 あわや串刺し、といったところで、勢いを殺さないように体を回転させ、突きを躱した。


「ふっ!」


 そこからはあっという間だ。

 避けた槍を左手で掴んで引っ張ることでケイトの体勢を崩し、首元にピタリとナイフを添える。

 これで勝負あったようで、ケイトも両手を上げて降参のポーズをした。


「参ったよ。相変わらず強いな。怖いもの知らずだし」


「当たらないから怖くないのよ」


「んだと!」


「悔しかったら当ててみなさい」


 2人は言い合っているものの、どちらも笑っており本気ではないのがわかる。


「ほら、次行くぞ。ミツキとレイヤ出てこい」


 良い雰囲気だなー、と感じているところで、教師に名前を呼ばれた。


「先生、俺今武器がないん、貸してもらっていいですか?」


「忘れたのか? まったく……練習用のを貸すが、重くて使いにくいぞ」


「ありがとうございます」


 教師に渡された剣を受け取るが、思っていたほど重くない。

 対峙する相手の得物は短剣。


「これならいけるな」


「お前近接戦闘は初めて受けるよな? 手加減はしないけど、負けても恨むなよ」


「そっちこそ」


「言うじゃないか」


「2人とも準備はいいな。始め!」


 開始と同時に、メリアと同じように地を蹴り接近する。

 ただ、踏み込みの強さが違った。

 地面を砕くほど強く踏み込んだミツキは、相手が反応するよりも早く剣を振り、当たる直前で止める。


「……はい?」


「これで勝ちでいいんだよな」


「参った、けど……何が起こったんだ?」


「すげえ!」


「お前今の見えたか?」


「見えててねぇよ。とんでもないぞ!」


 見ていた生徒たちはぽかんとしていたが、レイヤが降参したのを見て、口々に興奮した様子で言葉を交わす。


「よし、この調子で頑張ろう」


 ミツキの近接戦闘授業デビューは、教師すらも驚く鮮烈なものとなった。

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