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精霊国家ウナアーダ

「で、俺は今日は何させられんだよ」


 鍛錬を始めて2日目。

 ヨハンは、1日目は法国の兵士相手にひたすら模擬戦を行っており、2日目はソレーユに呼び出され。


「緑の実力は、昨日の結果を聞いてだいたいわかりました。強いんですね」


「なんだ、皮肉か?」


 今ここにいるのはミツキ、ソレーユ、ヨハンの3人だが、ヨハンとしては、どちらも自分より上の実力者だと思っている。


「本音ですよ。色の騎士の本当の力を使えば、もっと強いんじゃないですか?」


「本当の力? なんの事だ?」


「お前、そんなことまで知ってやがんのかよ」


「枢機卿には情報がよく回ってくるのです」


 ミツキにはよく分からなかったが、二人の会話からヨハンがまだ力を隠している、ということは理解できた。


「ならさ、その力ってやつをなんで俺と戦った時に使わなかった?」


 フレーリアでの攻防で、ヨハンは緑の鎧を纏う以上のことはしなかった。


「フレーリアを攻めた時な。俺はあれが正しいこととは思えなかったんだよ。魔国と手を組むなんて、前代未聞だし」


「確かに、最近の魔国の動きは奇妙です。まるで、昔に戻ったように侵略をしていますから。緑、なにか心当たりは?」


 今でこそ戦争を他国にふっかけなくなった魔国だが、最近は王国と法国を、ほぼ両方同時侵略している。

 同盟国の色の騎士であるヨハンなら何か知ってるかと、そう聞いてみる。


「俺は前線……魔国の方に駆り出されてたから、何も知らないんだよ。けど、これだけは言える。あれは絶対に王女様の意思じゃねえ」


「王女様ってのは、そんなに信頼できる人なのか?」


「当たり前だわ。他国に侵略とか、ありえねぇ」


「となると、やはりウナアーダの王女に会うためには、武力行使で行くしかありませんね」


 話し合いで済めばいいのだが、それは難しいだろう。

 それを再確認した上で、ソレーユは口を開く。


「いいですか。ウナアーダに向かうのは、ミツキ様たち4人に、私を加えた5人です」


「ソレーユも来てくれるのか?」


「ミツキ様が行くとなれば、当然私も行きます。それで、この5人の中で1番強いのはミツキ様。2番目は、私か緑でしょう」


「まあ、それが妥当だわな」


 ミツキが最も強いということに異論はなく、2番手がソレーユかヨハンなのも正しいだろう。


「邪神さんや磁石さんがどこまで強くなるかは知りませんが、少なくとも私たち3人は、白を止められるレベルまで強くならなければいけません」


「白を素通りするって選択肢は?」


「無理だな。アランさんは王女様の側近。滅多に離れることはねぇ」


 だからこそ王国の国境で会った時は驚いたが、今はその話は後回しだ。


「まあ、ミツキが黒い炎で止めればいいだろ」


「俺のあれは10秒しか持たないからな。はっきり言って、止めるのはちょっときつい」


 肌で感じてわかったが、白を第2権能無しで止めるのは骨が折れる。


「はい。ですからミツキ様は黒い炎を維持できる時間の延長、私とヨハンは同程度の実力でしょうから、ひたすら戦って実戦経験をつけます」


「回数を重ねるだけか?」


「お互いの技術も教え合います。私は知っていることを全て教えますが、緑にその気はありますか?」


「俺の目的のためだ。出し惜しみなんてしねぇよ」


「決まりですね。それと、3人でウナアーダ攻略の作戦も考えましょう」


 これで3人がどう鍛えていくか、方向性は定まった。

 あとは残りの6日間、全力で鍛えるだけだ。


(第2権能……せめて1分は持たせられるようにならないとな)


 天界で残した課題を克服するためにも、ミツキは集中し、鍛錬に入る。


 * * *


「だーっ! きっつい!」


 鍛錬を始めて6日目、残りあと1日となったところで、少しづつ成果が出てきた。


「もう1回だな。第2権能解放」


 黒炎を大剣に纏い、できるだけ出力を一定にしてじっとする。

 これが見た目以上にきついのだが、連日続けてやったおかげで、だいぶ慣れていた。


(考えてみれば、天界だと第1権能の扱いの練習がほとんどだったな。なんか新鮮だ)


 基礎に重点を置く2人の姉の教え方により、第1権能の扱いばかり練習していた。

 そのため、ここに来て第2権能の扱いが急激に上手くなってきたのだ。


「ふぅ。そっちはどうだー?」


 声をかけたのは、現在激しい衝突を繰り広げているソレーユとヨハン。

 炎と風が吹き荒れる中心で、2人はかれこれ1時間以上やり合っている。


「いい感じです。力の使い方にも慣れてきました」


「俺は必死だっての。いっぱいいっぱいだわ」


 契りによって強くなった力の使い方に、ソレーユも最初は戸惑っていたようだが、今ではすっかり慣れてきていた。

 ヨハンも口ではそう言っているが、今の状態のソレーユを相手にして軽口を叩けるほど、技術的に上達していた。


「あと1日か。いよいよだな」


「作戦も決まりましたしね」


「あとは明日を待つのみって感じか!」


 と、3人が明日に向けて鍛錬を再会しようとしたところで、遠くから走ってくる人影を見つけた。


「ヨ、ヨハン様ー!」


「侵入者ですか?」


「待ってくれ。多分あれ俺の部下だ」


 ヨハンの名前を叫びながら走ってきた男は、息も絶え絶えにしながら、ようやくといった様子て3人の前にやってきた。


「法国にいると聞きましたが、ようやく……着きました」


「お前まさか、ウナアーダからこのまで走って来たのか?」


「は、はいっ! 実は急ぎ伝えたいことがありまして」


 隣国とはいえ、ウナアーダから法国まで走ってくるのは、尋常ではない労力がかかる。

 その男は装備もボロボロで、どれだけ苦労してここまで来たかが伺えた。


「緑、貴方の部下で間違いないんですね?」


「ああ。大丈夫だ。それで、伝えたいことってのは?」


「実は……ウナアーダが王国に向けて、大規模な軍勢を送り始めました」


「おいおいおい、マジかよ!」


「本格的に王国とウナアーダで、戦争でも始めるつもりなのか?」


 フレーリアに向けた軍勢とは比較にならないほど、大規模な軍。

 それが昨日、王国に向けて出発したという。


「どうすんだ、今から王国に戻るべきか……」


「それと、こちらが本題なのですが……王女様の異変の原因がわかりました」


 ヨハンがどう動くか考えていると、男が本題を切り出す。


「でかした! やっぱり、外的な要因があったか!」


「はい、ですが、その……」


「なんだ、言ってみろ」


 話しにくそうにする男に、ヨハンは話すように促す。


「王女様は、悪魔に取りつかれております」


「悪魔!?」


 その言葉に誰より早く反応したのは、ミツキだった。


「おいミツキ、悪魔なんて信じるのか?」


「信じるも何も、俺の目的は悪魔を殺すことだ」


「悪魔……見たことはありませんが、存在したのですね」


 どうやらこの世界では、悪魔はあまり信じられていないらしい。

 神と同じように、知っているが見た事はない、ということだ。


「まあ、悪魔がいると仮定して、だ。どうしてお前は、王女様が悪魔に取り憑かれてるなんてわかったんだ」


「ヨハン様の代わりに、王女様の近くにいたのですが……見てしまったのです」


「何をだ?」


「恐ろしい悪魔です……あんなの、あんなのは人間じゃありません!」


 ガタガタと身体を震わせると男の声音は、それが真実だと、3人にすぐに信じさせた。


「話が変わりましたね。今すぐウナアーダに向かいましょう」


「王国に戻んなくてもいいのかよ。最悪、俺だけ向かって、お前らは王国に行くって手も……」


「大規模な軍が向かってるってことは、ウナアーダは今手薄なんだろ? なら、今が好機だ」


 本格的な戦争になれば、もはや止める手段はない。

 ならば、それより前にウナアーダに向かって王女に接触、取り憑いているという悪魔を倒すべきだ。


「邪神さんと磁石さんを呼ばせます。ミツキ様たちは準備を」


「わかった。ヨハン、その人を休ませてやれよ」


「……ありがとな」


 感謝の言葉を口にし、ヨハンは部下の男に肩を貸して近くの建物へと連れていく。


 その一時間後、メリアとソフィアが合流し、5人は馬車に乗ってウナアーダへと出発した。

 突如決まったウナアーダ攻略戦に向け、5人は馬車で作戦を話し合う。

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