フレーリア防衛戦④
「なめやがって。おい、鬼。本気でやるぞ」
「そうしないとぉ、殺せそうにないわねぇ」
2人はそれぞれ武器を構え、本気で戦うことを覚悟する。
「あんまり消費したくないが、やるしかないな。纏え、『緑』」
「覚悟しなさぁい。魔力解放」
2人はそれぞれ、己の持つ力解放する。
双剣が輝きを増し、嵐のような風をその身に纏ったヨハン。
魔族の持つ膨大な魔力を解放し、基礎能力を底上げしたレークイン。
この2人はもはや、フレーリアの兵士が何人いようと止められはしない。
「上等だ。第一権能解放!」
「炎? 鬼、注意しとけよ」
「奥の手も使ったあなたと私でぇ? 負けるわけがないじゃなぁい」
「念の為だ。こういうのは一瞬の油断がだな」
「っ、前よぉ!」
「なっ、いつの間に!?」
まだ距離はあると、一瞬だけ目を離した隙にミツキがヨハンを間合いの内側に収めていた。
「どんな速度して……」
「炎武《猛炎撃》!」
「ぐああああッ!?」
双剣を重ねて防御しようとするも、凄まじい大剣の突きの前には無意味で、激しい炎に包まれ後方へ大きく弾き飛ばされた。
風を纏っていなければ即死だっただろう。
「腕力強化。ミンチにしてあげるわぁ」
攻撃後の硬直を狙い、レークインが金砕棒を振り下ろす。
この状態のレークインの攻撃は、フレーリアの城壁をも木っ端微塵にする威力なのだが、
「人肉はごめんだ」
「……冗談でしょぉ?」
左手で金砕棒を受け止めたミツキは、そのまま力を込めて金砕棒を砕いた。
「なら素手でぇ!」
「クソったれ。《韋駄天》!」
「炎武《炎廻》!」
金砕棒を捨てて殴り掛かるレークインと、風を纏って一瞬でミツキの懐に飛び込んだヨハンを、大剣を振り回し炎の渦を作ることでまとめて炎上させる。
「くうううう、ゲホッゲホッ」
「ゴホッ、はぁ……はぁ……」
「悪いな、今の俺は絶好調だ」
体の炎をどうにか消した2人だが、レークインは武器を失い、ヨハンは肩で息をしている。
「ありえないわぁ。あなた、何者なわけぇ?」
「学園の生徒だって言ってるだろ」
「そんなわけがない! 色の騎士と魔王軍幹部だぞ!? 巨大な都市も落とせる戦力のはずだ。それをたった1人で」
「学園の生徒なのは本当だ。ただ、俺は人間じゃないからな」
大剣からナックルダスターにを装備を変えながら、ヨハンへ近づいて行く。
「半分神様なんだよ」
「はっ! なら俺は、神殺しで英雄になってやるよ! 切り裂けぇぇぇぇ!!!」
「ふっ!」
最後の力を振り絞り、双剣の片方を投擲しながらもう片方で首を斬ろうと突っ込む。
だがそれも、簡単に弾かれ避けられ、腹部へ拳がめり込んだ。
「が、はっ」
「あんたは殺したくない。寝ててくれ」
気絶したヨハンを地面に寝かせ、レークインへと振り向く。
「敵を生かすなんてぇ、優しいのねぇ」
「この人からは、悪意がほとんど感じられなかったからな。けど、お前は違う」
正義の権能の込められた腕輪は、会った時から悪意を感じ取っていた。
「今回の件の黒幕は誰だ?」
「あらぁ……どうして私にそんなこと聞くのぉ?」
「お前からは、悪意が見えるからだよ」
ヨハンからは何も見えなかったが、レークインからは今も黒い悪意が溢れ出ている。
「ふぅん。けど残念。私は単に人間を殺したいだけよぉ。魔族と人間は犬猿の仲だしぃ、殺して晒すのぉ」
「もういい。黒幕は別みたいだな。ただ、お前は生かしておくと危険だ」
「殺すのぉ? だけどぉ、あれが私の本気だと思ってるぅ?」
「本気とか本気じゃないとか、関係ないんだよ。お前はここで倒す」
「へぇ。やってみたらぁ。魔力暴走」
ミシミシと鈍い音がして、レークインの姿が変化していく。
角はより長く太く、腕や足は丸太のように大きくなる。
全身も巨大化し、鬼と言うより化け物だ。
「醜いな」
「言うわねぇ。これから死ぬのに!」
巨大な拳を、ヨハンもろとも押し潰して圧死させようと振り下ろす。
避けるわけにもいかないミツキは大剣で防がなければならず、それがレークインのねらいだったのだが、
「学習しないのか。力勝負なら俺の勝ちだったろ!」
大剣の背で受け止めると、力を込めてレークインを押し返す。
「そんな……魔力暴走よぉ!? 幹部がここまでしてるのに、傷一つ負わないなんて……化け物ねぇ!」
「化け物はお前だろ!」
「覚悟しろ。炎武」
ミツキが跳躍し、大剣を回転させて柄の先を向ける。
それを叩き落とそうと、レークインは拳を振り下ろした。
「化け物ぉ!」
「《火灼爆衝》!」
拳と大剣の柄が衝突し、レークインの拳が爆発した。
「私の手がぁ!?」
「終わりだ。炎武《飛炎・刃)》!」
薙ぎ払うように振られた大剣から放たれた炎の刃は、防御しようとしたレークインの腕ごと胴体を焼き切った。
「あああああああああああああッ!?」
「消し炭になれ」
炎はレークインと上半身も下半身を燃やしていき、その断末魔が絶えるまで消えることはなかった。
炎が消えた後には黒い消し炭が残るだけで、魔王軍幹部レークインは跡形もなく消え去った。
「あとはこの人を縛って、と」
気絶させたヨハンを縛り、肩に担いで正面の戦場へと向かう。
恐らく、正面もそろそろ決着が着く頃合いだ。
* * *
「うおおおっ!!!」
「ぎ、がっ!?」
サクレットの剣が一閃し、魔国軍指揮官の首を跳ね飛ばす。
「魔国軍指揮官、サクレットが討ち取った! ここが攻め時だ!」
「レークイン様はどうなってる!?」
「くそ、もう無理だ。撤退! 撤退しろ!」
「人間め、覚えていろ!」
これでさらに勢いに乗った王国軍は、魔国軍に壊滅的な打撃を与え、撤退の判断を下させた。
一方、反対のウナアーダ軍はもっと酷い状況になっていた。
「巫流《渦流舞い》」
「その女を止めろ!」
「む、無理です! 止まりません!」
指揮官を失い統率の取れなくなったウナアーダ軍を、メリアが片っ端から狩っていく。
「燃やし尽く、ぐあっ!?」
「また狙撃か!」
魔法で味方ごと倒そうにも、城壁上から放たられるソフィアの槍が、それを尽く阻止する。
「魔国軍が撤退しています!」
「くそっ、我々も撤退! 全軍撤退だ!」
魔国軍が退いていくのを見て、ウナアーダ軍も即座に撤退を開始した。
王国軍は必要以上に追撃はしなかったものの、その被害は大きくしばらく攻めてくることはないはずだ。
「副団長、敵は全軍撤退しました」
「よし、皆よく頑張った! この戦争、我々の勝利だ!!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」
サクレットが勝鬨を上げ、兵士が武器を掲げて叫ぶ。
魔国・ウナアーダ連合軍による城郭都市フレーリア防衛戦は、王国軍の勝利で幕を閉じた。




