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花束

 

 後半も特に大きないざこざはなく順調に販売が進んでいく。閉店まであと少しという所でシェスタさんとトルクさんがやってきた。


「シェスタさん、トルクさん。いらっしゃいませ」

「やーーギリ間に合ったようで良かったよ」

「邪魔するぜ。開店おめでとう」

「わあ!ありがとうございます!」


 2人から花束を渡される。黄色と白ベースのとてもかわいい花束だ。黄金の雲をイメージしてくれたのだろうか?というか、花屋あったんだな……。生花ならではの花の香りを顔を近づけ堪能する。んー!お花っていいよね。


「飾らせてもらいますね」

「気に入ってもらえたようでよかったよ。大繁盛らしいな!さっきまで門兵として働いてたんだけど、何処もかしこも黄金の雲ベーカリー店の話題で持ち切りだったぞ」

「素敵な制服のイケてる店員さんに丁寧な接客で出迎えられて商品もすんごく美味しいから一部冒険者の中で、天国って有名になってる」

「わあー……」


 ここはホストじゃなくてパン屋だから、今度から厳つい警備員を雇おうかな……。睨みきかせてもらって……うーん、でも信頼出来るつてってないし。ていうか、屋敷の方の門をアス達だけに任せるのはまずいかも?そっちに押し入られちゃったら堪んないよなあ。

 うんうん、悩んでいるとシェスタさんとトルクさんが不安さを弾き飛ばすように明るく笑う。


「そう難しい顔しなさんな、ここに護衛仕事経験ありの真面目で優しいお兄さんズが働きそうにしてるのにな〜〜」

「衛兵歴長いから、隠し事してる怪しい人とかだいたい分かるから良物件だと思うな〜」

「バリバリ働いちゃうぞ〜〜」

「ぶふっ露骨すぎますよっふ、あははっ」


 おもらず笑うとビシリと2人が目を見開いて固まっている。何事?と周りを見ると皆目を見開いて、セルなんて驚きのあまりノートを手元から落としてるし。


「え?え?…なに?どうしたの、皆……」

「あ、ああ、いや。初めて笑った顔見たから、ちょっと驚いちまって」

「普段も勿論笑ってるんだけど、どちらかと言うと微笑んでる感じで、今みたいに声を出して笑うとこ見たことないなーってな、シェスタ!!」

「お、おうっ」


 まあ声を出して笑うって初めてだったか?……固まるほど、いつものと違うのかな?

 ほっぺをぐにぐにして確認していると、後ろからデリアスに両手を取られた。万歳をさせられたので、顔を上げるとニヤリと彼の口元が歪んだ。なんか企んでる、と思ったのもつかの間、素早く手を脇に差し込まれ、こちょこちょとくすぐられる。


「はっちょっっデリア、スっ待っひゃあっ擽ったいっ、てばっ、ははっんふっふふふ待って待って、ほんとにっちょ、ひいっ助け、てっんふふっ」


 手を退かそうにも力量差で全然動かない。笑って更に力が入らないっ。笑い続けると、息が苦しくて涙が滲んできた。ちょっと何時までこれやるの!?周りのみんななんか顔に手を当てて指の間から見てるし、なんなんだっ


 いい加減にしろ、と意味を込めて踵ですねを蹴りあげると、うぐっっと声がして、手が離れた。弁慶の泣き所にヒットしたようで蹲って抑えている。


 デリアスから距離をとって息を整える。今世で擽られた事なんて無かったから、びっくりするぐらい擽ったかった。本当にありえない。酸欠だわ。ジト目で助けてくれなかった皆を恨めしく見てから、元凶を睨みつける。

 脛をさすりつつ楽しげなデリアスにカチンときた。


「……さいてー。今度、デリアスをうんと着飾って、カウンターにたって貰おうかな。沢山のお姉さん立ちに言い寄られて、疲れ果ててしまえ」


 言い捨ててつんっと顔を背ける。

 くすぐられてる所にお客さんが来たらどうするんだ全く。しかも開店初日だぞ。目元の滲んだ涙を袖でぬぐってカウンターに戻る。


「マスターっいや、あのっ」


 背後で慌てるデリアスをガン無視して、シェスタさん達に向き直り口を開く。


「どの商品をお求めでしょうか。」

「あー、っと1袋ずつ頼むよ。悪かった、な?あんまし、怒らないでやってくれ」

「俺も1袋ずつでお願いするわ。止なくてごめんな?」

「銅貨30枚になります。お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 聞こえなかったふりで会計を済ますと「が、がんばれ!」「謝るには誠意を見せるしかない……」とデリアスにエールを送って帰っていった。

 さて、と口元を抑えて頬の赤いみんなに向き直って言う。


「何時まで顔赤らめてんの仕事中だよまったく……そんなに面白かった?……ふーん、へーお夕飯のパン減らそうか。」

「マスターすまなかったっ別に面白がっていた訳じゃなくてっ」

「デリアス、パンひとつ減点」


 問答無用とばかりに言い放つとうぐっと黙った後、定位置に戻って。

 みんなもパンは減点方式なのだと知ると、黙って背筋を正した。頬は赤いけど笑い出す寸前ではなくなったのでよしとしよう。笑い疲れて暑いわ。

 今すぐ襟元を緩めたい気持ちに駆られるが、閉店まで後ちょっとなので我慢する。

 お客様がいらっしゃった。外向けの接客笑顔をにっこり作る。


「いらっしゃいませ。ようこそ黄金の雲ベーカリーへ」


お読み頂きありがとうございます

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