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後半戦

 

 開店時間前から多くの人が来店してくれた。ほとんどが、シェスタさんとトルクさんの衛兵仲間だ。何でも、シェスタさんたちお茶会で持って帰って貰ったパンを分けてもらったらしく、この日を心待ちにしていたんだとか。シェスタさんたちに食べてもらえるようお土産としたのに、宣伝してもらえるとは思わなかった。今度またお礼をしよう。


 皆口々に、「革命的に美味しいパン屋を開いてくれてありがとう!」「パンが5種類もあるなんて、幸せだ」「3袋だけ…くっ明日も買いに来るから!」と嬉しい言葉をくれた。皆それぞれ3袋購入していくのであっという間に在庫が減っていく。

 11時前なのに飛んでいくように売れるので、こりゃまずいと。頃合いを見てデリアスと厨房に下がってリリとフフリとパンを焼きあげる。材料は今回使った分量の3倍が今倉庫にあるが、時間のある今のうちに量を増やしておくべきだろう。温室で予備に育てていた小麦を自動成長と自動加速でサクサク量を増やし、デリアスにドライイーストを混ぜてもらう。紙袋と共に水晶ガニに運んでもらい、パンを焼きあげる。私は調理加速を持っているが、リリとフフリはまだ持っていないので二人には生地を混ぜ合わせるのと包装をお願いした。

 当初の倍準備できたところで、商品を水晶ガニに持ってもらい、一度お店に戻る。

 裏口から「追加の商品でーす」と店内に戻ると、列が出来ていた。


「店長!大繁盛ですよ!」

「そう、みたいだね!いらっしゃいませ!ようこそ、黄金の雲ベーカリーへ」

「いらっしゃいませ」


 デリアスの笑顔に女性陣が顔を赤くする。詰め寄る前にキャストルクとエスカテが華麗にパンの説明に連れて行き、エレティさんに素早く会計され、満足げに店外に出る。

 はっとして店内に戻ろうにも、人でいっぱいの中に戻る勇気はないようで、外でうろうろしている。といってもデリアスが店外に出る予定は微塵もないので彼女らが関わるチャンスは皆無だ。

 外で待つ人が多くなると、ソルティさんが自分に任せて、と店外に出ていき何か話すと、「またのお越しをお待ちしております」と強制終了で、お帰り頂いた。

 ソルティの兄貴、手腕まじ尊敬します。


 キャストルクとエスカテがそれぞれ説明しても人は増える増える。11時を過ぎるとさらに一気に増えた。冒険者ギルドの職員のようだ。お昼休憩第1組らしく、皆こぞって訪れてくれた。

 カウンターでレジ待ちにならないように私も会計に参加する。身長が低いので台に乗っての営業だ。


「いらっしゃいませ」と挨拶をし、言われた商品と代金を交換する。途中途中「商談を…」なんて話を振られたけど「取引する予定はありませんのでお引き取りを。次の方―」と少々強引に帰って貰っている。

 今の所、直に引き下がってくれるので、問題ないがこうも商談を切り出す人が多いとは思わなかった。ちょっと疲弊している所に、冒険者ギルドの受付でよくお世話になっているお姉さんが来てくれた。


「いらっしゃいませ。来てくださったんですね」

「お昼休憩で真っ先に走ってきたわ!開店おめでとう!大繁盛ね、あの美味しさだもの飛ぶように売れてなっとくね。あ、それぞれ一袋ずつお願いね」

「ふふ、ありがとうございます。〚定番セット〛〚日替わりセット〛〚ボリューミーセット〛以上三点で銅貨30枚になります」

「30枚ね。はい。ふふ、明日も来るわね!」

「ちょうど頂きました。これ、ブルーベリーパンです。ご来店した皆さんに無料で配っています。よければお召し上がりください。明日からは数量限定になりますのでお早目のご来店をお勧めします」

「ブルーベリーパン!?響きからして絶対おいしいわね。ありがとう。それと、あした朝一番に来るわね!」

「お待ちしております。ご来店ありがとうございました」


 袋を抱えた笑顔のお姉さんを見送る。知ってる人が嬉しそうにしてくれるのは何とも心が温まる。と、そろそろ追加のパンが焼きあがる頃か、と会計を外から戻ってきたソルティさんに任せて厨房に戻る。


「こんなにお客さんが来てくれると思わなかったよ」

「マスターのパンは格別だからな。と、一度休んだ方がいい。疲れた顔をしている。会計なら俺でもセルでも出来るからバックヤードで休んだ方がいい」

「そう?うーん…でもなあ」


 心配げに指の背で、するりと頬を撫でられる。慣れないレジで気疲れはしたけどその程度だ。

 セルやデリアスに任せたら間違いなく女性陣がレジに固まる気がする。今日の二人は格別お洒落に着飾っているからなあ。最悪キャットファイトだ……開店早々血みどろと思うとあんまり…でも13時にはソルティさんとエレティさんを休ませたいので、その時お願いしようかな。居座ったら店長権限で出禁にするって言えば帰るだろう。


「ありがとう。厨房で少し休むことにするね。対人じゃなければ気も随分休まるから」

「ん、無理せずな」


 約束して厨房に戻り、パンをのんびりと増量する。出来上がり次第デリアスが持って行って報告してくれるので在庫状況が分かって大変ありがたい。

 ちょうどいいので、昼食も作ってしまおうとウサギ肉や野菜をカットしていく。今日は手ごろに食べられるサンドイッチだ。チーズ、お肉、玉ねぎ、トマト、レタスと歯ごたえばっちりの物にした。

 客足が落ち着いたころ合いで、アンリ、アメリア、キャストルク、セルに休憩と食事をとってもらう。エスカテ、ソルティさん、エレティさん、アスは後程休んでもらう予定だ。デリアスは適当にサンドイッチをつまむと、店を見てくると颯爽と歩いていった。人数が少なくなったので補いに行ってくれたようだ。気の回るデリアスにありがとう!と伝える。


 屋敷の庭に、テーブルとイスを作り出し、サンドイッチを並べる。

 パクパクと口にしていく皆はそれぞれ報告してくれる。

 接客中「服はどこで手に入るのか」「予約販売はやっていないのか」「街に店舗を出さないのか」「もっと多く手に入らないか」「包装はどこで注文したのか」などなど色々と聞かれたようだ。中には「恋人にならないか」「うちのお店で働かないか」「商品を横流ししてくれ」なーんてとんでもない事を聞いてくる人が居たようだ。

 さりげなくかわしたり、あんまりにも失礼な客は帰って貰ったと、各々判断して動いてくれたようで何よりだ。


「開店早々に引き抜きとか恐ろしいねぇ」

「全くです!マスターのパンの魅力が計り知れないのはわかりますが、敬愛するマスターの奴隷である我々を引き抜こうなど言語道断です!」


 普段温厚なキャストルクがぷりぷりと怒っている。そんなにしつこかったのか、と思わず遠い目になる。

 明日からは、数量限定かつ開店は午前のみにしてお店をしめよう。うん。何時までって明言していなかったから今日は14時で終わろうかな。知名度もいろんな人のおかげで広まってるし、大丈夫だろう。


「そうそう、ご主人様に頂いたお洋服を強引に触ろうとしてきた輩も居ましたのよ!」

「失礼しちゃいますわよね!勿論かわして追い返しましたけど」

「え、そんな人居たの!?」


 アメリアとアンリの報告にぎょっとする。14歳という幼い子供になんてことを……。配役を間違えたな…


「ですが、事前に店内への間引きを出来たのでマスターの安全を確保できる仕事は大変名誉ですわ」

「マスターに頂いたお洋服が似合っていると、褒めてくださる方もいらして、大変うれしかったですわ。それに、スカートの中の武器をちらつかせれば大抵の人は逃げていきますから爽快でしたわね」

「そ、そう…」


 全く堪えてないようなので安心した。むしろ楽しげだ。いつの間にダガーをスカートに隠し持っていたんだ。流石すぎるよ。何はともあれ二人のおかげで大分平穏が保たれていると知った。お店の方大丈夫かな。

 体力が回復したので店番を交代するために戻ると、女の子たちが窓際にへばりついて店内を覗いていた。


「お名前はなんておっしゃるのかしら」

「あの透き通る空のような髪はとても素敵だわ」

「奥手なのか全然相手にして下さらないわね」

「押しには弱いのではなくて?」

「まあ、素敵」

「会計の子たちも可愛いわよね」

「食べちゃいたいわ」


 不穏な会話をしつつ今にも店内に押しかけようとする女の子たちに釘をさす。


「お客様。迷惑行為をした場合出禁とさせていただきますので、お引き取りください」


「なによ、ちょっとくらい、って、要人様!失礼しました」

「要人様!?申し訳ありませんわ」

「しつれいいたしますっおほほっ」


 注意した私がクリスタル持ちの要人と分かったとたんそそくさと帰っていく女の子達を見送る。いやー若いな。アイドルの追っかけみたい。店内に入るとお客の波がちょうど途絶えた。これもう少し遅かったら女の子たちバリバリ押し入ってきたなと思うとぞっとした。


「皆お疲れさま、庭にお昼用意してあるからお腹いっぱい食べて休んでね」

「お疲れさまです。いやー助かりました。窓から圧が凄くて凄くて」

「ウルデリアスさんが追い出してくれなければずっと店内にいましたよ」

「肉食獣みたいだったよな」


 肩をすくめる三人と交代する。アンリ、アメリアは午前同様に試食パンを配ってもらう。エスカテとキャストルクが交代し、セルは筆記、お会計に私が立ち、補助はデリアスだ。


「15時に閉める予定だからあと約2時間よろしくね」

「「はい!」」


 気を引き締めたところでお客様がやってきた。


「ギルド長さん!いらっしゃいませ」

「ゲルマーでいいってのに、繁盛してるみたいだな。街中黄金の雲ベーカリーの話題でもちきりだぞ。あと商人達が掛け合ってくれないって嘆いてたぜ」

「おかげさまで大繁盛です。要人の効果は凄まじいですね。何人も商談を持ち出されましたよ」


 首にかかったクリスタルを掴んで苦笑すると肩をすくめるられた。


「この魅力的なパンを売ってるのがどことも取引していない要人ってなりゃあ誰もほっとかないだろうな。どっか受けるのか?」

「どことも取引をする予定はないですね。丁重にお引き取り願いました」

「ははっやっぱお前さん、おもしれえなぁ!しつこいやつらが居たら教えてくれよ?しばいとくから!」


 軽快に笑い飛ばして、3袋を購入するゲルマーさんにここにも心強い味方がいるなーと思うとほっとする。


「ああ、そうだ。どうやら私の奴隷と知らずちょっかいを出す輩がいるんですけど、おすすめな解決方法とかないですかね?」

「胸元の奴隷印を見せるのが一番手っ取り早い、があとは、貴族なんかは、持ち主の瞳と同じ色の腕輪やネックレスなんかを身に着けさせているな。ピアスは伴侶につけるものだから辞めておけよ」


 胸元を見せるって服装を変えなきゃいけないし、宝飾品がいいな。

 パンの売り上げを考えれば、ほどほどの値段の物は購入できると思う。金属と原石なら加工が自分でできるからなお安上がりになるな。


「アドバイスありがとうございます。」

「いいって事よ!と、じゃあもう行くな頑張れよ」


 新しいお客が来店したところでゲルマーさんは去っていった。



お読みいただきありがとうございます

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