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黄金の雲ベーカリー開店

 

 準備を終えて店に戻り最終確認をする。

 入口でアメリアに籠から、つまようじに刺したパンをお客に渡してもらい、つまようじをアンリが回収する。パンが無くなりそうになったらアンリが厨房に取りに行く手はずだ。5種のうち味見として配るのはクロワッサンと甘いちぎりパンの2つだ。

 お客を私が出迎えて、エスカテとキャストルクの若い2人組がパンを説明し売り込む。当初私が売り込む予定だったが、2人が是非とも熱弁させてほしいと言ってくれたのでお願いした。カウンターでは、エレティさんに会計を任せている。補佐はアスだ。商品が足りなくなったら厨房にかけていき、料理人の二人リリとフフリからパンを補充する。

 セルはカウンター内で、男女年齢の簡単に別れた紙に、何を購入していったかさりげなくチェックを入れる係だ。

 今後の目安とする重要な調査だが、あからさまに記入されていると分かると不快に思われてしまう。セルはその辺のスキルはカンストしてるので問題ないけど。


 デリアスは私の傍でお客様を出迎える役目だ。当初にこやかな笑顔をお願いしたら破壊力がやばすぎたのでちょっと微笑むぐらいをお願いした。


「たくさんお客様来てくれるかなあ」

「大丈夫だ。マスターのパンはうますぎる」


 デリアスを会話しつつ、看板を出して、期待のお客様を店前でそわそわ待っていると、人影が近づいてきた。


「クライマー君、こんにちは!!」

「ソルティさん!こんにちは!」


 開店時間にはまだだいぶ早い中、来てくれたお客様第一号はソルティさんだ。


「開店時間前だけど、待ちきれなくてきちゃった!って、え!!そのクリスタル!すごい!!要人として認められたんだね!!」

「ふふ、成り行きですけどね!いらっしゃいませ!」

「そうかー、そしたら今日は凄いことになりそうだね。」

「凄い事?」

「多分だけど、商談とか色々されると思うよ。クリスタルは冒険者ギルドが認めた要人だから信頼も厚い。商売人なら誰しも喉から手が出るくらい欲しいものだ。そんな人が美味しそうなパンを売ってたら私の所でも是非店を開きませんかって売り込んでくるに決まってるよ」


 ソルティさんの話に目が点になる。商談とか全く眼中になかった。そもそも、クリスタルを渡されたときは便利すぎる防犯グッズぐらいな印象だったけど、信頼できる証でもあるのか。今の所別店舗なんて考えていなかったので、もし誘われてもやる気はないってきちんと断ろう。ずるずるされても嫌だし。


「もしあれだったら僕も同席させて?これでも素材屋として色々商談とかしてきたから役立てると思うんだ」

「その時はぜひともお願いします!」


 がっつり手を掴んでお願いした。ソルティさんありがたすぎる…。デリアスも、取引なら任せろと言ってくれた。商談とか全く持って分からないぺーぺーだから心強い味方が居てくれて涙ちょちょぎれよ。

 お店に向かうとアンリとアメリアが可愛い笑顔で出迎える。


「「いらっしゃいませ」」

「こちら、本日販売のクロワッサンの試食になります。おひとつどうぞお客様」

「え!?試食できるの!?わあ、ありがとう!頂くね。ん~~このサクサクふわふわ感最高!」

「ふふ、ささどうぞお入りください」


 試食を終えて店内に入るとキャストルクとエスカテが食品サンプルの前に案内をする。


「いらっしゃいませ!こちらで本日発売の商品の説明をさせていただきます」

「左から。パンも耳もふわふわでサンドイッチに合う食パン、外サクッ、中ふわっとしたクロワッサン、それから――――」


 短いながら触感や何の料理に合うか、など的確に売り込む二人は流石としか言いようがなかった。本心から美味しいと語る二人にソルティさんものめりこんでいく。

 カウンターでいざ購入とするときにおったまげた発言をした。


「〚ボリューミーセット〛を10袋お願いできますか?」

「!?ソルティさん!?」


 何言ってるの!?中身5個の10袋って50個よ!?そんな食べきれるの!?と驚愕して名前を呼ぶと、キョトンとされた。


「もしかして、一人一袋までとか決まっている感じかな?」

「え、いや。あのそんな大量に食べられるんですか?」

「ふわふわすぎてあんなに美味しいんだ。お金が許す限り毎食食べてたい。あ、でも日替わりがあるから5袋にして毎日階にこようかな…うん。そうしよう」


 何という事でしょう。お金が許す限りとか恐ろしいこと言ってるけど、毎日5袋ってパン25個を1日で消費するんですか!?ソルティさんが大食いなのかと、一番食べるデリアスに確認すると。


「マスターのパンは美味しいから無限に食べられる。俺もお金が許す限りずっと食べていたい」

「まじか…え、皆も当たり前?……そう……ソルティさん教えてくれてありがとうございます。開店前に知れて良かったです。とりあえず、販売数の限定をした方がいいですよね」

「僕も素材屋に来たお客さんに広めたし、シェスタたちも衛兵仲間に自慢してたから結構な人数が来ると思う。もしあれだったらそれぞれの色一袋ずつはどうかな?このままの勢いだと白のボリューミーセットが大人気になると思うんだよね」

「広めてくださったんですか!?わあ…ありがとうございます。そうですね……」


 単純計算でマックスを3袋として、150袋÷3袋で50人。素材屋利用客、衛兵、冒険者ギルド職員と考えるとどうだろう。全員来るとも思えないし売れ行きを見て追加すればいいだろう。150袋すべて完売したら3000デル。銀貨300枚。売れ行き次第では倍は固い。え、悠々自適生活を送る為の第一歩だけどもうこのお店だけで十分やっていけるね…?うん?若干パニックである。


「街外のお店で知名度もないからこのお値段だと思うんだけど、もっと高くて良いと思うよ。今日は開店セールでお安いですって言えば、売り込みにもなるし」

「それも、そうですね。」


 言われて初めてそういう事考えてなかったなと痛感する。ソルティさんが第一号じゃなかったら、数量も決めず、毎日パン作って忙しくなる社畜な未来となっていたかもと思うと心が痛い。とりあえず今日は売れ行きを見て追加していこうと思う。考えればいいのはドライイーストの在庫だけだ。普段私たち食べる分を除いて、店に出せる総量は大体400袋。別の料理の開発とかもしたいから吟味しなければならない、今日は今までの蓄えがあるから考えなしに作ろう、よし。


「今日は足りなくなったら追加で作り続けます。明日から数量限定で販売して無くなり次第、閉店とします。だから今日だけ営業終了までみんな頑張ってほしいです。勿論お給料はずみます!」

「店長!お給料よりパンが欲しいです!!」

「了解!エレティ君にはパンを増量します!」

「よければ僕も手伝うよ。お昼時のお仕事終わりは大賑わいになると思うし。接客なら自信があるよ」

「ソルティさん、心強いです!制服渡すので奥で着替えお願いします!」

「おっけークライマー店長!」


 それぞれ動く出す店内。不安要素も無くなった所で次のお客様が到着した。



「「いらっしゃいませ」」


「黄金の雲ベーカリーへようこそ!」




お読みいただきありがとうございます

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