表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/37

髪型

 

 今日は朝から大忙しだった。


 目を覚まして、部屋を出ると、扉前に正座して待っていたデリアスと、セルににどこの親にしかられた子供だ。と驚いた。私の姿を確認すると、昨日は失礼な態度をとってしまい~~と謝罪を始める二人の会話を、早々にぶった切って、罰としていっぱい働いてもらうからね!と言うと満面の笑みでついてこようとしたが、足がしびれたのか蹲ってしまった。

 回復したら来て、と言って店用の厨房に向かい、リリとフフリに挨拶をして早速パン制作に取り掛かる。今日は、〚定番セット〛の食パン、クロワッサン、塩ちぎりパン。〚日替わりセット〛のチーズパン、甘いちびりパンの販売を予定している。

 パン生地を練りこみ、焼き上げ、荒熱をとってから紙袋につめる。昨日助けてもらった感謝の印として、ブルーベリーパンを一つ。会計時に渡す予定だ。果物を練りこんだパンは珍しいから十分お礼となる。


 焼きあがった食パンをカットしていると、デリアスとセルが合流した。皆で作業するとあっという間に販売予定のパンたちが出来上がった。

 白色い紙袋の〚定番セット〛50袋、薄桃色の紙袋の〚日替わりセット〛50袋、黄色の紙袋の〚ボリューミーセット〛50袋。合計150袋だ。

 キャストルクとエスカテも仕事を終えたようなので、店に運ぶのを手伝ってもらう。

 この世界の買い物袋は安価の茶色。筆記用の紙は白で、このように色の付いた紙は便せんや、プレゼント用の包装紙などちょっと特別なときに使われるためお高い。私の場合、スキルで木材を真っ白な紙にした後、花の染料と、樹脂でこの袋型に加工した。経費は、私の人件費だけで材料も時間もかからないので、実質ゼロだ。スキル様様すぎる。

 紙袋には黄金の雲のロゴとして、雲、水晶蟹、オウム貝がプリントしてあるので宣伝も完璧だ。


 出来上がった商品をカウンター内側に運んでもらい、カウンター上に10袋ずつ並べる。見本として、木材と染料とニスで、パンの食品サンプルを作った。サンプルは、カウンターと、ガラスに面した棚にそれぞれ設置した。入口で一口パンを配ってもらう予定なので、籠も白とピンクに染め、サンプルも入れておいた。口にしたパンが元はどんな形状で、どの袋を買えば手に入るのか一目瞭然だ。


 食品サンプルを出したときは、セルもデリアスも、手に取って「木……」って神妙につぶやいてて笑ってしまった。こっちじゃ食品サンプルないからね。パンの裏には〚黄金の雲〛と字とマークが刻印してある。

 ブルーベリーパンは薄紫色の紙袋に入れて大量に用意してある。余ったらみんなで食べればいいのでオールオッケーだ。

 ひと段落したところで朝食をとっていると、エレティさんが来てくれて、開店準備を手伝ってくれた。


「今日の販売分ですね。しかし、これだけの量とは…」

「多いかな?余ったら食べればいいと思ってたんだけど」

「少ないと思います」

「少ないな」

「少ないですね」


 エレティさん、デリアス、セルが揃って少ないと口にした。ぱちぱちと瞬きして、少ないかなあ?と頭を捻ると、3人が壁に両手をついて懺悔ポーズをとる。


「え、何どうしたの。そんなに少なかった?」

「いえ、マスターの愛らしさに思わず発作が……っ」

「可愛すぎて、どうしたら…」


 胸を抑える3人にあー私も前世あったな。子供って仕草一つが可愛いときあってツボにはまっちゃって…発作ね。うん。とりあえず、数が分からない事に呆れられたようではないので、良しとする。

 足りないかもと言われたのでパン生地を練って、紙袋を用意しておいた。


 店内のやることはもうないので、バックヤードにアンリ、アメリア、アスをベーカリー服に着替えた3人を呼んで髪をセットする。

 主に髪をしてもらうなんて……と渋る3人に、これはお店のために重要かつ絶対必要なことなのだ。と問答無用で座らせる。今度セットする時は自分たちでやれるように、と言えば、一人の髪をいじっているときに他二人は黙って真剣に注目している。

 ついでにデリアス、キャストルク、エスカテとギャラリーが増えていた。セルとエレティさんは店の方で最終チェック中だ。


 3人とも短い髪の毛なので、手作りのヘアワックスでアレンジする。手作りワックスは、ハニーに分けてもらった蜜蝋と樹脂をスキルの自動調合で作った。今回作ったワックスは食品を売るので香りは無臭に近い、ほんのりとした柑橘系。

 軽くすいてから柔らかい髪をセットアップする。寮にある、シャンプーとリンス―のおかげかさらさらだ。程よい艶とふんわりした髪型にセットできた。

 前世の私は学生時、オシャレに目覚めて色々試したのでお手の物だ。社畜になってからはお洒落する暇もなかったけど。


「すごく素敵だよ。二人とも」

「そういうアスもかっこいいわ!」

「マスターありがとうございます!」

「どういたしまして、そしたら開店まで警備を頼むよ」


 きゃらきゃらと楽しそうにする3人に店を任せ、私たちは準備のため屋敷に戻って着替える。

 ベーカリー服を着こなす皆はとても素敵だ。私も白のYシャツ、黒のズボンは一緒だが、一応店長なので白ベストを着用し、胸元にはギルド長に貰ったクリスタルを下げている。


「よーし、まずはキャストルクね」

「お願いします!」


 キャストルクから髪をセットアップする。くせっけでフワフワしているので軽く艶を出すだけで十分素敵になる。ヘアワックスをふわふわの耳につかないように丁寧に塗ってもみこんで完成だ。将来有望なご子息って感じに仕上がった。


「おっけー次エスカテね」

「よろしくお願いします。ご主人様」


 薄黄緑の長い髪をくしでとかしヘアワックスで艶を出す。軽く編み込み緩くゴムでくくってリボンをつければ完成だ。ゴムは、木の樹液から生成が出来たので、糸で編み込み包むことで前世の髪ゴムに近い形とした。リボンは黄色で黄金の雲っぽくなればなーなんて思って選んだが色合いもばっちりだ。

 リボンだけだと動くたび崩れるけど、ゴムで一度結んでしまえば大丈夫だ。貴族なんかは、リボンがずれないようにがちがちに固いワックスで留めたりする。リッド家当主もやってたが、ワックスを付けるたび髪が痛んでいた。それでも何度もやるのだから貴族様は見栄を張るのが大変だ。

 エルフのとがった耳にこの髪型……最高かな?


「はい、次セル!」

「お願いします」


 セルも長い白金の髪をしている。くしで梳いてヘアワックスで艶を出し軽くウエーブを付ける、緩く編み込んでハーフアップにする。リボンはエスカテと同じく黄色だ。こうみるとどっかの王子さまっぽいと思ってしまった。色眼鏡をかけているのは否めないけど誰が見ても美人だと思う!


「ラスト、デリアス!」

「ああ、頼む」


 癖のある長髪を3人どうよう櫛で梳いてヘアワックスをつける。低い位置で一括りに、指で髪をちょいちょいとつまみ出せば完成だ。アクアマリンの髪色に黄色のリボンがよく映える。体格の良さもあって、貴族騎士に見える。え、かっこいい。

 全員終えたので一息つき、自分のをとヘアワックスを取ろうとしたら、セルに肩を掴まれ椅子に座らされる。


「今度はマスターをおめかしさせてください」

「え、あ、そう?じゃあお願いしようかな」


 手元のヘアワックスをするりと抜き取られ、セルが手に塗り込み髪に触れる。指先で優しく撫でられるのは、ちょっとくすぐったい。くしゅくしゅと丁寧に揉みこまれたらできましたよ、と声をかけられる。


「ありがとう、セル」

「どういたしまして…素敵です」


 振り返ってお礼を言うと、べらぼうに甘い表情で微笑まれた。他3人も、素敵な髪型です、マスター可愛いです、似合ってる、などなどべた褒めしてくれてこそばゆくなった。鏡がないので自分がどんな髪型をしてるかわからないけど、美的センスカンストのセルがいじってくれて皆も絶賛してくれるから、間違いはない!


 さあ、いよいよ開店だ!





お読みいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ