お風呂って危ないですね
静かな夜道を抜け、屋敷が見えてきたと、思ったら門前に人だかりが出来ていた。
キャストルク、エスカテ、アスの3人が立っていた。
こちらに気が付くと一目散にかけてくる皆は、ほっとした表情で安堵しており、心配してわざわざ待っていてくれた事に心が温かくなる。
「みんな…」
「よかった!いつもの時間に戻らないから、何かあったんじゃないかと心配で」
「ウルデリアスさんに寮で待っているように言われたんですけど、居ても立っても居られなくて…代表で僕がお二人にお願いしたんです」
「あ、一緒に待つのをよしとしたのは僕たちです!怒るなら僕を!」
命令無視は厳罰するって言っておいたけど、今回は心配して待っていてくれたのだ。それに全員ではなく代表として警備も任せているアスのみ。流石に寮の全員で待たれていたら今後人が増えたとき示しがつかなかったけど一人なら、怒ることもない。
そわそわしている3人を安心させるように笑顔を向ける。
「ううん、心配して待っててくれたんでしょう?怒るわけないよ
ただいま。待っててくれてありがとう」
「「おかえりなさい!」」
明るく出迎えてくれたところで、アスが寮の皆にご主人様のお戻りを伝えてきます!と元気に走っていった。そのあとをセルに抱っこされつつ寮へを歩く。
「顔を見せたら、お湯を浴びてお眠りください。明日は開店準備に忙しいでしょう?」
「僕たちもしっかり手伝いますから無理なさらないでくださいね!」
「ご主人様、私たちに、ぜひお任せください!」
「キャストルク、エスカテありがとう。頼りにしてるよ」
寮前へ着くと、みんな総出で出迎えてくれた。お礼を言って顔みせが終わるとセルが詳しく説明すると私をデリアスに託して食堂へと引っ込んだ。さらっとデリアスにも抱っこされた状態で屋敷へと戻る。
体格の良いデリアスの腕は逞しくがっしりしていて、ちょっとやそっとでは動かない。
屋敷について早々、お風呂へ連れて行かれた。石鹸で体を洗う気力はないので、生活魔法でさっと綺麗にする。デリアスの体にも生活魔法をかけ、2人で湯船に浸かった。温かい湯船で体をほぐしていると神妙な面持ちでデリアスに頭を触られる。
「デリアス?」
「……ああ、すまない。怪我は治ったと聞いていたんだが、どうにも…」
不安だったのか。私自身、目撃者が多い中ぶたれるとは思わなかったし、地面にぶつけた頭であんなに気分が悪くなるとは思わなかった。スクロールのおかげで直に治ったけど、吐きそうな中ポーションを飲むのもきつかっただろうなと思うと警戒心が足りなかったと反省せざる負えない。現にいろんな人が心配して待っていてくれた。主人の私が亡くなれば、皆粗悪な環境に逆戻りで最悪命を落とすかもしれない。そう考えるとぞっとする。私の命は私だけのものではないのだと。
「これからは気を付けるよ。私に何かあったらデリアス達が大変だもの。ごめんね、考えが足りなくて」
「違う。そうじゃなくて…あー、と」
謝るとデリアスは言いよどんでから、そっと腕を私の背に回して抱きしめる。
「マスターに謝らせるつもりもなかったんだ。ただ……知らないうちに好きな人が傷ついていたと思うと、なんで傍に居てやれなかったのかと…」
耳元に届く声はいつもの力強さを感じない、弱弱しいものだった。好いている人が離れている間に怪我を負えば、私は自責の念にとらわれるだろう。なんで傍にいてやれなかったのか、と絶対思い詰める。デリアスもきっとそんな後悔に追われているのだろう。
デリアスの背に一度腕を回し抱きしめてから、肩に手を置き顔を合わせる。
「逆の立場だったら私もデリアスと同じ気持ちになってたと思う。貴族で下手にしたら大事になっちゃうと思って後手に回ってた私の傲慢さのせいだ。だから、これからはきっちり自衛する。でも、もしかしたら素っ頓狂なご令嬢に出会ってまた、ぶたれるかもしれない、その時はすぐ傍で私を守ってくれる?」
「―――っああ、絶対に守る。髪の毛一本傷つけさせない。」
「ありがとう。そしたら私は貴族の権力から守れるように頑張るね。」
「ふっそれはとても頼もしいな」
デリアスは武力をもって、私は権力をもって守っていけばいい。これからは、守られるだけではない持ちつ持たれつの関係、思わず顔を綻ばせる。
「なあマスター」
「なあに?」
「この状況はちょっとまずい」
目元を赤らめていうデリアスにハッとする。今、デリアスと、裸で抱き合っている状況に、ぶわっと顔が熱くなる。お風呂だから裸なのは当たり前なんだけど、こ、恋人どうしで抱き合うって。
普段隠れてる、素肌とか、綺麗な鎖骨とか、意識し始めたらきりがない。
離れようと腕を突っぱねるために触れた胸板は逞しくて、ぴゃっっと手を上げると頭上で噴出された。
「なっ笑ったな!?」
「だって、かわいいな、と」
さっきまで赤くなってたくせに、なんで余裕そうなんだよ!きっと睨み付けるとなだめる様におでこにキスされる。目の前に近づいた、喉ぼとけに思わず喉がなった。
そんな様子の私に、頭をぐしゃりとなでつけデリアスは隣に落ち着いた。
さっきよりは遠い距離に息を吐く。まったく、視界の暴力だ。良い筋肉しやがって。私だってそのうち…ぶつぶつ考えてるとデリアスが話しかけてきた。
「マスター、今回、令嬢は間違いなく捕まったんだよな?」
「うん。ギルド長直々に明言していたから間違いないよ。ただ、他二人のお嬢さんについては聞いてないからなんとも…去り際、お父様に言いつけてやるとか言ってたんだけど、首だしてくると思う?」
「分からないな。溺愛な親だったらなんてことをって逆恨みよろしく何かをしてくるかもしれないが、クリスタルを持つ要人に何かすれば冒険者ギルドが黙ってない。幸いこの街は貴族じゃない冒険者ギルドが治めてるから、どんなに偉い貴族でもデカい顔できない法律がある。滅多なことはまず起きないから、安心してマスターのやりたい事をすればいい。」
「ありがとう、ていうか冒険者ギルドが治める土地ってどういう事?」
私の疑問にデリアスは丁寧に教えてくれた。
まず、土地を治める権利を持つのは、貴族と冒険者ギルドの2つ。
貴族は功績をあげ王族から戦争敗戦国の領地だった土地を褒美として渡される。そこは貴族領となり、民から収税して管理していく事になる。
では、今私が居るヘスカティアがどのようにできたのか、それはダンジョンの出現だ。ダンジョンの出現ポイントはランダムで、ヘスカティアは無人の森だったそうだ。ダンジョンは素材、冒険者、と非常にお金になる。そこで、国が〚冒険者ギルド〛を設立し、人員を送り、街への発展管理を任せているのだとか。国が直接管理する街の一つとしてヘスカティアが出来上がったのだ。なので、貴族もデカい顔は出来ないし、街へ介入する事も禁止されている。
貴族の服装で歩き、街で買い物をする分には問題ないのでわざわざお忍びの必要もない。貴族だと威張り散らすのが問題なのだ。なので今回捕まったご令嬢はかなり重い罰として国に裁かれるのだとか。
ていうか、ウッド家では、貴族は遠い土地に家を建てて馬車で行くのがオシャレとか教わってたけど、単にこの街が冒険者ギルド管轄の街だったからデカい顔出来なかっただけじゃないか…。面子の為に子供に嘘を言ってた元家族のどうしようもなさに、うわああと頭を抱える。
ウッド家長男もソルティさんたちを脅していた罪を犯している。…早く捕まってくれと願うばかりだ。
話し込んでいるとセルがお風呂場に入ってきた。寮との皆に報告が終わったのだろう。さっと生活魔法をかけてやるとデリアスとは反対側の湯船に浸かった。
「マスター、のぼせませんか?」
「んー、まだ話していたいしこうしていれば平気」
肩まで使っていた体を、風呂場の淵に腰を下ろして涼ませる。前世、長風呂好きの私はよくこうやって涼んでは温まり、を繰り返していた。そのうち露天風呂をつくりたい。こちらの夜空は空気が透き通っていて星が良く見えるから絶景だと思う。
「明日楽しみだね。お客さんいっぱい来てくれるかな」
「…え、ええ。そうですね」
「…ああ」
顔を向けると、慌てて目をそらす二人に半目になる。直前までどこを見ていたか簡単にわかってしまった。
そういう目で見られると分かっていて淵に座って長居するほどの鋼の心はないので湯船から上がり、耳の赤い2人にぼそっと呟く。
「えっち」
「え!?マスター!?ちがっ」
「ご、ごかいだ!ただ、凄くかわいいなってサイズがっぐっ」
「黙りなさいウルデリアスっ!!赤みのさした肌は素敵でしたけど。そうも直接的にっ」
ぎゃーぎゃー騒がしい2人を無視して浴室を後にする。暫く一人で入った方がいいな。休まるもんも休まらない。
ささっと着替えて廊下に出ると、キャストルとエスカテが浴室方面を哀れみをもった目で見ていた。2人にはばっちりと変態発言が聞かれていたらしい。
「マスター一緒に寝ませんか?」
「ご主人様二人には別室で寝てもらいましょう」
「ありがとう。恩に着るよ。出来れば暫くお願いしたいな」
「「勿論です!」」
そのままいつの日かよろしくベッドをくっつけて3人で横になった。いっそのこと3人部屋作った方がいいかも。主にわたしの平穏の為に。
おやすみ、と言い3人仲良く眠りについた。
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