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厄介なご令嬢2

 

 ギルド長は、私の血みどろな額を見るなり険しい表情で令嬢に目を向ける。


「なにがあったんだ?」


「ギルド長!この者らがその子の奴隷を無理やり自分のにしようとしたんです!」

「殴って怪我までさせたのよ!」

「貴族だって豪語するわりに名乗り上げないからなりすましかもしれない!」

「その子らは一切手を出さなかったぜ!」


 わっと証言をする野次馬たちの話を一通り聞き終わると令嬢たちに話し始める。


「ふむ、話を聞く限り、かなりの罪を犯したな?」

「なっちがうわ!!私は、なにもっ」

「ほう――知らなかったと?」

「そう!!!知らなかったのよ!!何も知らなかったの!」


 令嬢はこれで助かると思っているのか自信満々に言い切った。それに対し、厳しい表情で


「知らぬ存ぜぬで通る幼子には見えないが、その場合、犯した罪は監督を怠った保護者の過失となる。奴隷の強奪は未遂といえど重罪。出会い頭に侮辱し、暴行を加えたとなれば更に罪は重くなる。ああ、歳を偽っていた場合それも罪に問われる」

「そんなっ貴族の私より平民を信じるっていうの!?」

「だまれ!この大勢の証人の供述に加えて我がギルド職員が現場を見ている。貴様らはノトリアス家のものだな。此度の罪以外にも貴様らには余罪がある、言い逃れは出来ないと思え。連れていけ!」

「「はっ!!」」


 離してっお父様に言いつけてやるっと言って令嬢たちはギルド職員によって連れて行かれた。

 はあ、と大きく息を吐き出し立ち上がろうとするも視界が回った。


「マスター!ご無理をなさらないでください」

「…っ、ごめん、セル」


 セルに支えられるも、気持ち悪さに吐きそうになった。ずきずきと痛む頭は打ちどころ悪かったのかもしれない。ぐわんと揺れる視界の傍で誰かが跪いた。


「クライマー君、今から証拠資料を残すために君の体を検知する。良いね?」

「……はい」


 すぐに終わるから、と筒に入っていた紙を目の前に広げられた。青い炎で紙が燃えたと思ったら、気持ち悪さ、頭痛が一気に無くなった。


「あ、れ?痛くない」

「さっきのは証拠資料として被害者の傷を()()()()スクロールだ。証拠は不正が行われないようにすぐさま複数の保管所に飛び手元には残らない。だから彼女らは間違いなく裁かれる。到着が遅れてすまない。君にいらぬ怪我をさせてしまったな」

「……いえ、えっと、スクロールって誰でも作れるんですか?」

「マスター……」


 気になりすぎて聞いたら、セルの低い声が響いた。ばっとセルを見上げると眉間に皺を寄せており。間違いなく怒っている。さあっと血の気が引き、彼の怒りにどうしようもない不安が胸に広がる。


「ご、ごめんなさいっ あ、うっ……っ」

「…無茶はなさらないでください。」


 ぎゅうっと抱きしめられ肩に頭を乗せられた。肩は小刻みに震えており、はっとする。

 そっと背中に腕を回して抱きしめる。


「セル。不安にさせて、ごめんね」

「心臓が止まるかと思いました」

「…ごめんね」

「―――とても、心配でした」

「…うん。心配してくれてありがとう」

「……マスターには叶いませんね」


 そっと呟き、顔を上げたセルの表情は困り顔で微笑んでいる。

 もう一度抱きしめると、そのまま立ち上がられた。


「ギルド長、彼女らはきちんと裁かれるのですよね」

「ああ、お前さんも悪かったな。今後何かあったらこれを使ってくれ」

「これは?」

「冒険者ギルドが要人に渡すクリスタルだ。起動すればその場の音声、映像が冒険者ギルドにすぐ届くようになっている。居場所も知らせてくれるから助けに行ける。貴族がらみは2度目だから警戒しておくに越したことはないだろうからな。それを見せればある程度融通を利かせられるから今回のお詫びとして送らせてほしい」


 高性能身分証をもらってしまった。ネックレスタイプらしくお礼を言って首にかける。クリスタル輝いているこれも魔道具的な何かなのか?


「しかし、本当に災難だよなあ。明日開店だろう?」

「あ、そうだ!皆さん!明日11時から我がクラン〚黄金の雲〛が運営するベーカーリー店がオープンします!場所は北門を出て川伝いに行った先です。本日のお礼にささやかながらパンをお配りします!ご来店お待ちしております!」

「黄金の雲ベーカリーの味は俺が保証する!絶対行かないと損だ。俺も明日いく予定だしな!」


 証言してくれた人たちにお礼をするとともに宣伝をすると、ギルド長の口添えもあり好感触だ。

 ギルド長お勧めはなかなかない!坊主しっかりなー!楽しみにしてます!などエールと共に解散していく。


「ゲルマーさん、今日はありがとうございました」

「お疲れさま。スクロールについては、図書館に行くと良い。そのクリスタルを見せれば書物を見せてもらえるから勉強してみるといい」

「!!ありがとうございます!」


 さりげなくスクロールについても教えてくれて去っていくギルド長のゲルマーさん。かっこいいわ。

 RPGゲームで登場するスクロールと効果が同じであれば防犯面などで格段に役に立つ。これで、貴族の関わりは2度目だから、用心するに越したことはない。


「もうこんな時間になっちゃったねぇ」

「そうですね…」


 何処か言いたげなセルに抱き着くとふわっと甘い香りがする。これはあの令嬢の香水か。これは帰宅したらポイだな


「ねえセル。明日も助けてくれる?」

「勿論です!」


 セルに笑顔が戻ったのでほっとする。

 あたりはすっかり夜で、お酒を楽しむ人でごった返しているのでこのままセルに抱っこされ街を出る。夜の川沿いは暗かったので生活魔法であたりを明るく照らして進む。皆夜ご飯食べ始めてるよなー、お腹が空いた。と思っていると遠くから声が聞こえる。

 顔を起こすと、それは心配な顔で走ってくるウルデリアスだった。


「マスター!良かった。遅いから何かあったんじゃないかと…」

「……あー、まあ、色々とあった…よ」

「それについては私から詳しく説明します。お疲れのマスターを休ませたいので歩きましょう」

「…ああ。わかった」


 どう説明したものか、と思っているとセルが顔を引き締めて説明を引き受けてくれたので、甘えてぐでーと身を任せる。道中、何があったのか話が進むたびにデリアスの表情が怖くなっていく。話終わる頃には般若を背負っており気が立っている。


「マスター…」

「デリアスも助けてくれる?」


 先手必勝とばかりにお願いすると、ぽかんとしたあと頭をがしがしと、かいたのち殺気を散らした。なだめる事に成功したようだ。


「勿論だ。今度からは騎士として同行し、守り通そう。」

「心強いな」

「マスターにはかなわないな」


 困った笑顔でセルと同じ言葉を口にするデリアスに笑みがこぼれる。

 私の恋人さんたちは似た者同士のようだ。


お読みいただきありがとうございます

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