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厄介なご令嬢

 


 温室で木を成長させ、それをセルが蹴り倒し、加工。挿し木を成長させセルが蹴り倒し加工。このルーティーンでかなりの数の木材を今日も手にできた。いかんせん木を倒すときすさまじい音がするので、ハニーも何の騒ぎかと慌てていたが暫くすると慣れたのか蜜を集めている。ココポットもテラス傍の水場でのんきに苔を食べている。

 モンスターの順応力がとても高い。


「マスターもお疲れ様です!今日も良質な木材が手に入りましたね!」

「セルお疲れさま」


 満足そうに笑顔のセルを横目に、幹から樹脂を取り出しアルコールと混ぜ合わせる。きつめの独特の匂いのこれはニスだ。木製家具の保存や光沢を出すための液体だ。香りを生活魔法で吹き飛ばし瓶詰にして、木箱に入れる。すかさず水晶蟹達が集まってきて木箱を持ち上げる。最近は水晶蟹達が木箱をもってついてきてくれるので作業もはかどるしとても楽ちんになった。


「いつもありがとう」


 お礼を伝えると、木箱を持ち上げたまま器用に鋏をカンカンと鳴らし答えてくれる。

 花畑に行き、染料になる花を摘み取り小樽に分け入れる。最近はかなり多色となってきたので服を作るうえで楽しめそうだ。

 セルに先に戻っておくように伝えてから、更に温室の奥へと進み巨大な大樹前まで来た。この木にいつものように、成長加速スキルを使い続けると樹脂が染み出し固まる。ピッケルで木を傷つけないように慎重に削り出す。カキンッと良い音を立てて取れたのは琥珀だ。化石は樹脂が長い時間をかけて固まった天然樹脂の化石だ。本来であれば昆虫など入っていたりするが、スキルによる急速成長のおかげで中には何も入っていない。とてもきれいな飴色だ。琥珀はこの世界でも宝石として重宝されていて、貴族の中では誰しもが持っている宝石の一つだ。琥珀は今日で目標の5個目に到達した。何に使うかというと、セル、デリアス、キャストルク、エスカテへこの琥珀を装飾品にしてプレゼントするためだ。残る一つは私の分。多分遠慮して受け取ってもらえないと思うからお揃いとして強引に渡す予定だ。

 サプライズに喜んでくれるといいんだけどねえ。


 ついでに温室内に不備がないか見回り屋敷へ戻るとセルが水晶蟹達と戯れている。


「セルお待たせ。街へ行こうか」

「おかえりなさい。まずはソルティさんの所でしたよね?」

「その次に冒険者ギルドへ行って明日の開店時間を伝えにね。帰り道は、大きな石とかどかしてちょっとでも歩きやすい道にしようと思う。あー石は石材にしよう」


 お洒落服に着替えて屋敷を後にする。白い隊服を纏ったアスに見送られるのはなんだかお偉いさんになった気分でこそばゆい。お店の前を通る。毎度思うけど自然に囲まれたお店って温かみが増すと思う。

 太陽の日差しはほがらかで、川のせせらぎ…緑の香り。マイナスイオン最高だ。ここに家を建てて良かった。

 セルと他愛のない話をしつつ素材屋さんに到着した。


「ソルティさんこんにちはー」

「クライマーく、ん!?ええ!?二人とも素敵な服装だね!?」

「ありがとうございます」


 チェスターコートを華麗に着こなすセルはどっからどう見てもお忍びの貴族だ。スラックスは足の長さを際立たせており、革靴もピカピカに磨かれて汚れ一つない。


 店内に入っていつも通り売買する。ポーションを売り小麦粉などを買う。


「ソルティさん、最近は大丈夫ですか?」

「最近…?ああ!あれきりめっきり来なくなったよ!冒険者ギルドの方が警備してくれるって言ったでしょ?姿見えないんだけど居てくれてるみたいでね」

「外にそれらしい方々は見かけましたね」


 ウッド家長男が出現していないことにほっとする。ていうか、冒険者ギルドの職員の人居たのね!?歩いてても全然気が付かなかった。これは尾行されても分からないやつだ。街で一人行動するのは控えようと思う。つけられたら怖いし。


「そういえば、面白い種が手に入ったんだ。これなんだけど」


 木箱にしまわれた種を出される。種類は3つ。鑑定すると、驚いた。

 〚米〛〚ししとう〛〚しそ〛

 お米!!!慣れした新だ米粒が目の前に転がっている。


「ししとう、しそ、あとなんだっけこれ穀物系だって素材屋仲間に渡されたんだけど、使い勝手が悪いって言われたんだよね。いる?」

「全部ほしいです!」

「OK-!種だし育て方わからないから頑張ってね!」

「はい!!!ありがとうございます!」


 思わぬ収穫にホクホクで店を後にする。

 お米が手に入るとは思わなかった。こっちでの主食はパンだし、米系は見かけていないので期待していなったけど嬉しいーー!ただしそは繁殖力が凄すぎるからきちんとプランターで植えないと他の植物が枯れてしまう。田んぼも作るか。稲刈り用の服と靴も必要になるな。


「良いものだったのですか?」

「うん!料理の幅がずっと広がるよ。早く栽培したいなあ」

「それでは早く帰らないとですね」


 料理の幅が広がる事にセルが目を輝かせる。いつも私が作る料理を楽しみにしているので、張り切って作ろうと思う。


「セルは辛いの平気?」

「そうですね私は――」

「もし、そこの方」


 セルに向けていた視線を前にすると質の良いワンピースを身に纏った女性陣が立ちふさがっていた。縦ロールに巻かれ整えられた金髪女性と茶髪女性2人、豪勢な服ではないので、庶民に扮しているが、これは間違いなくお忍び貴族だろう。そばに従者が居ないので撒いてきたのか?

 さっと見聞を終えてから口を開く。


「何か御用でしょうか」

「あら、私は後ろの殿方に話しかけているのよ?」

「会話に割り込んでくるなんて、マナーのなっていない子供ね。保護者は何をしているのかしら」

「子供はママの所に帰るお時間ですわよ」


 好きかって言われ、クスクスと笑われる。いや、どう見てもお忍び姿だから貴族対応しなかったんだけど…余計なお世話だったようだ。女性陣は人付きの良い笑顔を浮かべセルにすり寄る。騒ぎを起こしたくないから無理に割って入るのも、と思ったらセルがウインクをよこした。任せて良いらしいので近くで見守る。


「素敵なお召し物ね?私たちとゆっくりお茶を楽しみつつお話を聞かせて貰えないかしら」

「いえ、私のようなものには不相応です」

「謙虚だなんて素敵」


 スルリとセルの胸元にすり寄りシャツのボタンをいじる金髪縦ロール。

 こ、恋人の私だってそんな事したことないのに!ていうか香水臭さがセルにうつっちゃうじゃないか離れろっ今すぐ離れろっ

 顔には出さないが心はブリザードだ。

 なんだなんだと、ダンジョン帰りの冒険者たちが集まってくる。夕方は人の行き交いが活発になる時間帯のせいもある。


「御戯れを」

「あら、身分なんて気にしなくてよろしくってよ?」

「身分以前の問題です」

「?」


 セルは女性陣からするりと身を離すと、シャツのボタンをゆっくりとはずし始める。

 女性陣は驚いた顔で頬を赤めつつ食い入るように見ている。かくいう私も路上ストリップ!?とかわけのわからない事が脳内をかすめたが直に彼の意図に気が付いた。言葉で言っても分からないおバカには事実を突きつけてやるしかないのだ。はだけたセルの胸元にあるのは黒い奴隷紋。それを確認した途端、周囲はざわつき、令嬢が慌てだす。この世界で奴隷は主人の所有物で財産だ。それに手を出したらまあ捕まるので令嬢は慌てだしたのだ。例えると、空港でキャリーバックを持っていくと、知らない人がすり寄ってきて中身を空け、あなたの持ち物って知らなかったのよ!と言われた感じだ。まじやばい。変人の極。


「この通り、私は主人を持っている奴隷です」

「なっど、奴隷がこんな良い恰好をして一人でうろついてるなんておかしいじゃないの!」

「マスターならずっとお傍にいらっしゃってます」

「え、な、まさかっ」


 ばっと一斉にこちらに振り向かれるので、口を開いてやる。


「彼のマスターは私です。他人の物に手を出すのは立派な犯罪ですね」

「…っし、知らなかったんだから仕方がないでしょう!?」

「…奴隷でなかったら詰め寄っても良いと?」

「決まってるじゃない!私は貴族よ!?」

「ならば、早めのご帰宅をお勧めします。ヘスカティアは治安は良いとはいえ、それは昼間の話です。ご息女であらせられるならば、万が一があっては尚更大変でしょう」


 私の言葉に子分二人が周りを見渡して顔を青くする。粗暴な冒険者たちの舐めるような視線に気が付いたのだろう。ダンジョンで戦って気持ちが高まっている所に子羊3匹を見かけたらこうなるのも道理だ。貴族、ましてや女性だけで夜の街をうろつくなんて襲ってくださいと言っているようなもの。子供でも知っている常識を知らないとは、いったいどこの箱入りなんだか。

 ざわつく周囲にこれ以上付き合ってられないと、セルをこちらに引き寄せる。


「では、ご機嫌よう。」

「待ちなさい!!」

「……っ!」


 話は終わりだと、歩きだしたら腕を掴まれた。腕を伸ばすセルに首を振る。ここでご令嬢に触れて変な言い分を付けられたら堪ったもんじゃない。伸ばした手をぐっと握り締め耐えるセルに微笑む。ここには大勢の目撃者がいるのだ、ご令嬢もこれ以上下手なことはしないだろう。

 捕まれた腕はいくら動かしても外れる気配はない。


「手を離してください」

「その奴隷を私に譲りなさい」


 ?????

 何言ってんのこの人??言葉通じないタイプの人?

 野次馬たちも小声驚きを口にしている。

「罪を不問して貰ったのにあの娘は馬鹿なの?」「貴族なんて嘘で、ただの無知な小娘なんじゃないか?」「嫁入り前の貴族の娘がこんな時間に、常識的にありえないわ」「ちっさい子供相手になんて野蛮な」「欲求不満なら俺らが相手してやんのに」「ばっかあんな地雷おっかなすぎて御免だろ」「かわいそうに」など、言いたい放題だ。ひょっとしたら隠す気ないのかも。

 そんな周りのざわめきに、ご令嬢は早く答えろとばかりに握力を強める。長い爪が皮膚に食い込んで痛い。


「私に、譲りなさい」

「お断りします」

「貴族の私が言ってるのよ!?」


 叫ぶ令嬢に表情を引き締めて宣言する。


「どなたであっても譲る気はありません。お離しください」

「……っこのっ!」


 かっと顔を赤らめた令嬢が思いっきり腕を振りかぶる。

 慌てて腕で防御するも衝撃のあまり地面に転がった。


 野次馬たちが悲鳴を上げる中、セルがいち早く駆け寄って起き上がらせてくれる。


「マスターっ血が…」

「ん、大丈夫」


 頭を打ち付けたのか額から血が流れてくる。セルがポーションを取り出そうとした腕を止め、ハンカチ血を拭う。万が一証拠を消して貴族の圧力でもみ消されたら最悪だからだ。承認は多いけれど、ここは冒険者ギルドが治める街なのだ。

 ここまでして逃げられると思うなよ。と睨み付ける。


 びくっとして逃げようとするご令嬢達を野次馬たちが行く手を阻む。

 冒険者たちの剣幕に押されてご令嬢たちは半べそだ。


 とっとと冒険者ギルドの職員来てくれないかな、と待っていると唐突に人波が割れた。


 数人の部下を連れて堂々とやってきたのは、数日前顔を合わせたギルド長だった。



お読みいただきありがとうございます

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