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パンケーキ

 

「ふい~~」


 お風呂に浸かり息を吐き出す。疲れが取れますわ~

 屋敷のお風呂も広々と改築し、かけ流しにしてあるのでもうこれは温泉だ。今日は気分を変えてゆずを浮かべている。


「気持ち良いですねえ」

「柑橘系の香がとてもさわやかで…癒されます」

「最高だ」

「一度知ったらない生活は考えられないですね」


 上から順にエスカテ、キャストルク、デリアス、セルだ。

 皆温泉を気に入ってくれたようで毎日のように浸かっている。この気持ちよさを王族貴族しか知らないのはなんとも勿体ない。労働階級にこそ湯船は真価を発揮するというのに…と思ってしまうのは前世の影響だな。

 肩こりから腰痛までいろいろ治ってしまうのだから寧ろもう之は治療行為なのでは?なんて明後日の方向に飛んだ思考を戻す。

 昼間のブルーベリーパンは非常に好評で、控えめな甘さが甘いものを好かない組にもウケた。新作として出す事に決定した。夕飯のシチューも皆パンに合うとモリモリ食べてくれた。料理人二人に私は指示を出して覚えてもらうだけなので、簡単だ。因みにコンソメの素も作った。野菜を乾燥させ、軽く炒めて小鉢ですり潰し、調味料を加えて完成だ。鑑定しても〚粉末〛としか表示されなかったので万が一盗まれても問題ない。

 二人にある程度作り方を覚えてもらったらパン屋の隣にレストランを開く予定だ。と言ってもこれはパン屋が軌道に乗ったらだけど。

 今後について考えていたら結構熱くなってきたのでのぼせる前に上がる。立ち上がるとセルもちょうど出る所だったらしくタイミングが同じことにお互い笑いがこぼれた。


「んーーお風呂上がりに冷えた牛乳美味しい!」

「白いおひげが出来てますよ」

「んむっ」


 セルが牛乳の髭をぬぐってくれた。いやーついぐびっと飲んじゃうからおひげ出来ちゃうんだよね。生活魔法で髪も整えたので寝るだけだ。今日も気持ちよく寝れそう。

 部屋の机に向かい、日課である今後の予定が書いてある日誌を確認しつつ補てんしていく。明日はアンリ、アメリア、アスにベーカリー用の服と警備時の隊服を試着してもらうのと、あー、あとパンの配り方とかレクチャーして。その後はセルと温室の植物を、自動成長スキルで収穫、加工。ソルティさんの所で素材を売って、帰りに冒険者ギルドで開店時間など伝える。と。


「よし」

「寝られますか?」

「うん。いつも言ってるけど先寝ててくれて良いのに」

「マスターの可愛らしい寝顔を見るのが楽しみなんですよ」


 ベッドに腰かけながらこちらに微笑むのは、破壊力がやばい。一応セルとデリアスと恋人なんだよなあ……普段は微塵もそんな雰囲気を出さない、いや、たまに色気丸だしだけど。決して無理に踏み込んでこない二人のやさしさに胸がきゅっとする。たまには此方から恋人らしい事をすべきだろう。ベッドに腰かけてるセルに近づいて頬にキスを贈ると笑顔のまま固まってしまった。


「おやすみのちゅー……セル?」

「あ、いえ、そのとてもうれしい、です」


 セルは白い肌をじわじわと赤くして目元を手で覆ってしまった。照れたのか。鬼可愛いな。ニマニマしていると、扉をノックされた。行動不能のセルをしり目に扉を開けに行くとデリアスだった。


「ああ、マスター明日の事で確認が――」

「デリアス、かがんで?」

「ん?ああ」


 話をぶった切ったが文句ひとつなく屈んでくれる優しい恋人の顔に手を添え固定する。こういうのはためらうとどんどん恥ずかしくなるので早急に決めるに限るのだ。ちょいと背伸びして頬にキスを贈れば、これまた中腰のまま固まった。


「おやすみのちゅーだよ。話ぶった切ってごめんね要件って何?」

「んんんっ待て待て待て」

「え?何?」

「いや、すごい、ナチュラルすぎてびっくりしたっていうか、嬉しかったからもう1回してほしいっていうか」


 珍しくちょっと顔を赤らめて焦る恋人にしょうがないな~ともう一度キスを贈ると、予想外だったのかちょっと目を見開いて固まる。いや、まあ私からほっぺにちゅーて中々なかったからなんだろうけど、もう少し恋人らしい事を意識すべきか、と反省した。


「明日の事って?」

「ああ、えっと、なんだったかな。うん、そんな大したことじゃなかった、と思う」

「ええっ忘れちゃったの。おっちょこちょいだなあ」

「んんっなんか調子狂うな。じゃあまあ、その、おやすみ」

「デリアスおやすみ」


 デリアスはお返しのキスをほっぺにしてそそくさと部屋を後にした。セルに向き直ると落ち着いたのか若干頬が赤いが目元を緩めて手を広げられた。セルのもとまで歩み寄ると、デリアスとは反対のほっぺにキスをされ一度軽く抱きしめられた。


「おやすみなさい。マスター」

「ん、おやすみ セル」


 各々布団に入り生活魔法の光を解くと窓からうっすらと月明かりが届く静かな夜となった。

 恋人たちにちょっとは歩み寄れたという事で大満足だ。今日は良い夢見れそうだなと目を閉じるとすぐに意識が落ちた。






 とても良い目覚めとなった。なんだか幸福な夢を見た気がしなくもない。気分は上々だ。

 セルに身嗜みを整えられ1階に降り朝食の準備をする。今日はパンケーキです。卵、牛乳、小麦粉などを調理加速で生地にする。試食会も兼ねているので寮の皆とは基本食事は違う。初期メンバーの評価で寮の皆に出すかどうか決めている感じだ。ありがたいことに、今の所ダメと言われたものは一つも無いので形だけの試食会だ。濃厚なバターとはちみつはお好みでかけられるよう小分けにした。私はバターたっぷりのはちみつ少量だ。もともと生地も甘いしね。パンケーキのほかにいつも通りクロワッサンなど焼いていく。目玉焼きにサラダをつくれば完璧だ。セルが毎度手伝ってくれるので凄い助かっている。

 セルが紅茶を入れてくれる間に3人を呼びに外へ出た。


 ウルデリアスは養殖をトトに教え終わったようで、基本は警備3人組のうち二人と稽古してる。モンスターの特性や弱点、マナーなど幅広く教えておりまさに、先生。


「デリアス―おはよう。ご飯出来たよ」

「おはよう。もうそんな時間か、じゃあお前らまた朝な」

「「ありがとうございました!マスターおはようございます!」」

「ん、二人ともおはよう。頑張ってるね」


 デリアスに声掛けをした後、二手に分かれてキャストルクとエスカテを呼びに行く。

 今日は畑の方に向かい、エスカテを探す。畑も結構広がり、ノードとエスカテの二人ではギリギリになってきたそうだ。そろそろ人数を追加するのもありだろう。順に畑を巡っていくと、かぼちゃ畑で太陽を浴びているエスカテを発見した。ノードは別の畑に居るっぽい。


「エスカテ―おはよー!」

「ご主人様!おはようございます。今行きますね」


 作物を分けてひょいひょい近づいてきた土まみれのエスカテを生活魔法で綺麗にしてやり、ダイニングへと一緒に向かう。


「今日も大量?」

「ええ、スキル〚成長加速〛を得てから収穫がスムーズになりました」

「何よりだ」


 エスカテの毎日の努力が実ってこの前新しいスキル〚成長加速〛を手に入れたのだ。


 〚成長加速〛

 作物の成長を短縮できるスキル。


 私の〚自動調合〛のように瞬時にとは言わないが、格段に成長を短くできるスキルだ。エスカテの手にあるかぼちゃを使ってお昼はかぼちゃのポタージュを作ろうかな。スープは皆好評だし。

 屋敷に就く前にキャストルク達と合流した。


「マスター!おはようございます!」

「キャストルク、おはよう」


 キャストルクも生活魔法で綺麗にしてやり、さあ朝食だ。


「おかえりなさい、準備は出来てますよ」

「ただいま」

「甘い香りがしますね」

「今日はパンケーキだよ。お好みでバターとはちみつをかけてね」

「わあ美味しそうです」


「「頂きます」」


 皆はじめは何も付けずに食べる。かくいう私も何も付けずに一口。中も外もふわふわな生地はケーキが食べたく成ってくるなあ。大量の生クリームにバナナとチョコをトッピングして。ソルティさんにバナナとココナッツの苗木仕入れられるか聞いてみよ。


「マスターの料理は本当に美味しいし革命的です」

「紅茶に合うな」

「おやつにもちょうど良さそうなボリュームですね」

「このパンケーキは色々と凡庸性があるから今度、また別の形で出すね」


 ペロリと朝食を平らげて、各々仕事に戻る前にベーカリー店の服とオシャレな外着を複数試着してもらう。今後ダンジョンに潜ったり、私用で出かける以外はこの服を着てもらう予定だ。黄金の雲の名に恥じない服装を考えて作っておいたのだ。靴も革靴2つずつと自動裁縫スキルでわたしでもつくる事が出来た。

 私も一緒に着替えて確認をする。一応平気だと思うけど……念のためだ。

 4人ともお堅いスーツ、オシャレなコート、3ピース、警備服、あとは着るかもわかんないけど、個人的に似合いそうだなって事でパーティ用の超絶お洒落な貴族服。それぞれデザインを変えてみたが、余裕で着こなしてくれて貴族の集まりみたいになった。

 ここが楽園か。


「はっ!!みんな変な人について行っちゃだめだからね!?!?!」

「ぶはっ第一声がそれか」

「どちらかというとマスターの方が心配です…」

「ご主人様のこんな可憐な姿を見たらいろんな輩が寄ってきてしまいますね。害虫は駆除しなければ」

「ですね」


 意気込んでいる4人をしり目にサイズを確認していく。自動裁縫スキルで着たままサイズ変更できるので楽々だ。元の服に着替え終わり保管してもらう。


「これからはクラン黄金の雲として着てほしいなって思って作り始めたんだけど、皆似合ってて…普通に着てほしい。そして私の前でターンとかしてほしい」

「いつでも致します」

「あ、ごめん。今は良いからね!?皆仕事あるし。いつも頑張ってくれてる皆にプレゼントってことで着てくれるとうれしいな」

「ありがとうございます!大切に着ますね!」

「ありがとう。マスターに喜んでもらえるなら毎日着よう」

「ご主人様のセンスは私のツボです!ありがとうございます!」

「私もマスターに頂いた服に恥じない振る舞いを心がけます」


 皆嬉しそうにお礼を言ってくれたのでもう大満足すぎて、やばい。明日が本番なのだ。しっかり気を引き締めていこう。それぞれ仕事の為解散し、警備組3人を呼んで、ベーカリー服と隊服を渡した。

 アメリアとアンリのベーカリー服は白い丸エリシャツに黒のフレアスカート。そして白いフリルのついた腰エプロンと可愛い目に仕上げている。フレアスカートの下はキュロットとなっており、何があっても大胆に動ける仕様だ。

 アスはエレティさんと同じデザインの白のYシャツ、黒ズボン、黒の腰エプロンだ。

 アメリアとアンリはくるくると回ってスカートの動きを楽しんでおり、アスもエプロンが気に入ったのか触って感触を確かめている。


「ご主人様、本当にこんな素敵なものを着てもよろしいんですか?」

「触り心地がとても良くてずっと着ていたいくらいです!」

「本当に動きやすさ、触り心地ともに素晴らしいです」

「ふふ、気に入って貰えて良かった。君たちの為に作ったかいがあったよ。明日は人が多くなると思うけど警備よろしくね。普段の警備ではこっちの白い軍服を着てね。落ちないヨゴレは洗濯は私がするから持ってくるようにね」


 服色は白をベースと、所々、金に近い皮の装飾を施した。危ない事をさせるつもりはないので、目立ってもいい、見栄えの良い作りとなっている。汚れは目立つ白だけど生活魔法があるので問題ない。男女ともに同じデザインでズボンに白の革靴。革靴は自動裁縫で形成したのち、生活魔法で脱色した。漂白剤をぶっかけたようにきれいに白色になったのはラッキーだ。


 こっちのデザインも気に入ってくれたようで、さっそく着替え始める3人。

 縦軸で仕切ってあるので、同じ部屋で着替えられている。着こなす3人にそれぞれちょっと装飾の施したダガーを渡す。


「舐められないように腰に下げておいて、武器があるからと一人で戦わないようにね。第一に報告すること。いいね?」

「ありがとうございます!キラキラしていてきれい」

「ありがとうございます!アメリアのデザインも素敵ね!」

「かっこいいです。ありがとうございます。大切にします」


 満足げな3人に明日パンを配るとき、重複して食べに来られないように一人一つだと宣言して一口大のパンをつまようじに刺して渡すこととをお願いした。ついでに盗みを働いた輩は店外に出たら叩きのめして私を呼ぶようにと伝えた。盗みは犯罪なので冒険者ギルドにしょっぴいて貰うのだ。

 説明を終え、軍服を着て早速仕事に戻る3人を見送る。


 温室のテラスで一息つくと、セルが紅茶を入れてくれた。


「ありがとう、セル」

「お疲れさまです」


 紅茶が体に染み渡る…。んー、お昼寝したくなる温かさも相まって体力が回復していく。





お読みいただきありがとうございます

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