パン屋
次の日目が覚めると、日がだいぶ高く両隣はものけのからだった。
「寝すぎた……」
んーーーっと伸びをしていると、いつものように水の入った桶を持ったセルが入ってきた。
「おはようございます。マスター」
「おはよう。セル」
あくびをかみ殺して顔を洗う。
そっといつも以上に丁寧な動作で水滴を拭われる。今日は、シェスタさんを家に招待したいって有無を伝えに行くんだったか。
服屋で買ったあの一式を着るのが良いだろうと、セルの手伝いのもとスムーズに着替えを終わらせた。
「靴は玄関に出してりますので」
「ありがとう。セル」
胸元を整えてくれているセルのほっぺにお礼のキスをすると目元が緩んだ。
「照れてしまいますね」
「ふふ、セルかわいい!何度でもちゅーしちゃおーーんむ」
セルにセクハラ一歩手前の事をしていたら、後ろから手で口を塞がれた。
振り返ると、きっちり着替えたウルデリアスがすねた表情でたっている。
おしゃれスーツだ!!わ、髪後ろに撫でつけてる!!かっこいい!
キラキラした目線を送っていると、頬を染め照れた。ちょっと私の恋人可愛すぎません?
「デリアスおはよう!」
「おはよう、マスター」
屈んだデリアスの頬っぺにもキスをすると嬉しそうに破顔した。
「寝坊しちゃってごめんね。みんなお昼はもう食べた?」
「ふわふわのパンをサンドイッチにして頂きました。マスターの分は用意出来ています。」
「あれは美味すぎた……。やみつきだな」
絶賛してくれる2人とキッチンへ向かって食事をする。ふわふわのパンにあいだはシャキシャキレタスに甘酸っぱいトマト、それを包む濃厚なチーズに薄切りなのに歯応えがあるお肉とめっちゃ美味しい。
「おいしい!」
「ふふ、デリアスと作ったのですよ」
「流石だ…」
食事を終え、昨日セルが建ててくれた別館を見に行く。
1階はエントランスのようで受付カウンターの左右に階段が設置されている。右側が女性、左側が男性らしい。奥は広い食堂で長机に椅子がたくさん並んでいた。キッチンもレストランの厨房といった感じだ。部屋も2段ベッドの下にクローゼット、机と窓に小さなベランダがあり都会の一人暮らし部屋だ。その部屋が廊下が続く限りずっと並んでいる。まさに寮。レクリエーションルームとかも一応あるみたいだ。確かに親睦を深めるのと適度な息抜きは必要だろう。寮の建物はL字になっており内庭に洗濯をする場所、花壇などがあり自然もばっちりだ。カーテンなど、セルの大工加速で作れない布製品は私がまとめて今日作ってしまおうと思う。
「スゴイ……流石だよセル!!これで今すぐにでも新しい人を雇えるね!」
「おほめいただき光栄です。本宅も増築してよろしいですか?試作するキッチン、倉庫など必要と思われますので。ついでにテイムしたモンスター用の小屋も建てておきました。台風などあった場合必要ですし。それと――おや」
説明してくれるセルが私の後ろに目をやったので振り向こうとしたら背中に軽い衝撃。
ぶんぶんと尻尾を振るキャストルクに抱きしめられたようだ。
「キャストルク!エスカテ!」
「マスター!お仕事終わりました!」
「次は何を致しましょうご主人様」
「それじゃ――…」
次の仕事をと、言ってくれる二人にはお金確保のためにダンジョンに行ってもらう事にした。布や食料と今度どんどん出費が重なるので今のうちから貯金だ。何事にも資金は重要だ。センスがぴか一のセルにはキッチンの増設と寮の方にも風呂場をお願いした。私とデリアスは予定通りシェスカさんの所へと向かう。キャストルクのワープで移動時間を短縮できるの凄いありがたい。
「そしたら、2人とも前回行った3階層までを無理しない程度に潜ってきて。絶対二人一組で行動ね!人さらいにあったらたまったもんじゃないし。何かあったらすぐ戻ってくるんだよ?もし変な人に絡まれたら逃げるんだよ!?」
「ふふっ 大丈夫ですよ。ご主人様」
「エスカテと離れません!夕方には戻りますね」
ハイポーションを多く渡して元気よくダンジョン内に入っていった二人を見送った。子供の初めてのお使いを見守る親の気分がちょっとわかった気がする。
いつまでもソワソワして動かない私をデリアスが抱き上げて、冒険者ギルドを後にする。
「うー、心配だあ」
「あの二人の腕前なら大丈夫だよ」
「そうだろうけど…」
二人の腕前なら問題ないとは思うけど、心配は心配なのだ。いつまでも抱っこしてもらうのは示しがつかないので降ろしてもらい素材屋へ向かった。道中、遠巻きにチラチラと若い女性が視線をよこす。きゃっきゃっと口元隠して楽しそうにする女性たちの熱い視線の先はデリアスだ。元々背格好もよかったのに加えて、シャキッと着飾ったデリアスは誰が見ても素敵なのだろう。ふふんっデリアスはかっこいいんだ!となぜか私がちょっと得意げになりつつ進むと珍しく店先にソルティさんが居た。
「ソルティさん!」
「ん?…えっえ!?」
「ソルティさん?」
びっくりして固まるソルティさんに近づくとやっと私だと分かったのか更に大きく驚いた。
「クライマー君!?うっそ、キラキラ過ぎてどこのご子息かと思ったよ。すごい、その服に合ってるね!かっこいいよ!ってことは後ろの紳士さんってもしかして…」
「はい。この前紹介したウルデリアスですよ」
「わああああ!!!っすっごい!店先に居るだけで客足が倍増しそうなイケメンだね!ささ、入って!入って!」
ウルデリアスがぺこりと挨拶するとぴょんぴょんと飛び跳ねるソルティさんは今日も元気いっぱいだ。
いつも通りポーションを売る。薬草園はエスカテのおかげで日々収穫量が上がっているので今日もざっくざくだ。
「今日も沢山だねえ!助かっちゃうよ!今日は何か買ってく?」
「あ、お聞きしたい事があるんですけど、小麦粉、お塩などを定期的に仕入れる事ってお願いできますか?」
「出来るけど、どのくらい必要なの?」
小麦粉はパンや、シチューなど色々使えるし、お塩もバターとかチーズ作りに必須だ。将来お店を開くにしても素材を安定に仕入れたい、えーい、ここは聞いてしまえ。
「まだ先何ですけど、将来お店を開きたくて」
「お店!?どんな!?」
「えっと、今のところはパンですかね。追々変わってくるかもですけど」
「ふーむ、パンねえ。開くのは街で?」
「いえ、街の外ですね。家の近くに店を構える予定です。モンスターいますしそれなりの距離有るのでなので冒険者主流になるかとは思います」
「うーん、あんまりおすすめは出来ないかな。街の外での商売なら税金もかからないのだろうけど、その分何かあっても保証が効かないし。街から出て買いたいって思わせる商品じゃないと厳しいと思うよ」
街の中でお店を構えると、その街を守っている冒険者ギルドに売り上げの一部を納税する義務があるそうだ。無料で商売何て言ったら治安悪くなるのは間違いないし、ここは通りだろう。
渋るソルティさんにやっぱり難しいのかなーって思ったところで、デリアスがパンを差し出した。それは昨日つくったクロワッサンだ。黒パンではない見たことのない形状のパンをしげしげと眺めるソルティさん。デリアスを見上げると、ここは任せろ、とウインクを返された。やば、イケメン。
「これはマスターが昨日作ったパンです。試しに食べてみてください」
「え、いいの!?いただきます!…っ!!!!」
クロワッサンを食した瞬間びしぃっと固まってしまった。昨日見た光景とそっくりでちょっとわらってしまった。噛みしめる様に食べるもあっという間に食べきってしまったソルティさん。
「お、おいし。すぎるっ。何この革命的なパンっえ、これパンなの!?」
「ふふん、驚くだろう?焼きたてじゃなくてこの美味しさなんだ。昨日焼き上がりを食べた私はそれはもうほっぺがおちた。」
「おおおおおっ」
いや、まてデリアス。ほっぺが落ちたって比喩にしても怖すぎだろう。それに食いつくソルティさんはもう完全にパンの虜だ。にやりと悪い笑みをするデリアスは更に塩パンを取り出し言った。
「このパン以外にもマスターは美味しいパンを作ってくださった!!!」
「たっ食べたい!食べたいです!!」
「おっと、今はお店がないからなあ?これは俺のもので、誰の手にも渡らないんだよなあ…素材があって、お店を開ければねえ、マスター?」
ここぞとばかりに畳みかけろと伝えてくるデリアスに苦笑しつつ、私も交渉にノリだした。
「そうだね。ソルティさんにはお世話になってるから、お安く売ることも吝かでないね?」
「わかった!!素材集める!!全力で援助させてほしい!他にパンの材料として何が欲しい!?何でも言って!意地でも仕入れてくるから!」
「わー嬉しいー」
どうあがいても目玉商品になる、と太鼓判を押して、パンの為に闘志を燃やすソルティさんをなだめて、とりあえず、まずはお店の持ち帰りでクロワッサンなど売ることとなった。開店が決まったら情報を流してくれると約束してくれたので、素材については解決だ。
そのうち麦芽のパンとかレーズンパンとか作りたいなあとワクワクを胸にお店を後にする。ダンジョンに潜るよりこっちの方が断然性に合っている気がする。ダンジョンのドキドキ感は楽しいけど、人が喜ぶ顔を直接見れるものをうれるって思うととてもやりがいを感じた。
西の門へと向かうと、シェスタさんとトルクさんが門傍で佇んでいた。
「シェスタさん!トルクさん!」
「んあ!?おい、トルク、どこで引っ掛けてきたっ」
「はあ!?あんな綺麗な坊ちゃん俺の知り合いにいるわけないだろう!?」
「ぶふっクライマーですよっお久しぶりです!」
「「クライマー君!?!?!」」
ソルティさんと変わらず焦る二人に思わず吹き出してしまった。デリアスは必死に笑いを耐えているが、肩が震えているのでバレバレだ。
「実は家が建てられたので招待したくて来たんです」
「え!?もう家を!?はっや」
「すげえ出世じゃん。出世…?違うな。いや、なんだ。すごいな」
他愛のない話をしつつ今までどう過ごしてたのかなど近況報告しあった。またもやデリアスがパンで二人の胃袋をがっちりつかみ落とした。
「へえ、店をねえ。こんな美味しいパンを食べられるかもなんて最高だな。絶対毎日買いに行く。」
「まあ、まだ先なんですけどね。警備とか、店員とか決まってないので」
「……それなら、甥っ子を働かせてやってくれないか?」
「シェスタさんの甥っ子さん?確かお家の事任せてるんでしたっけ」
「そそ、最近まで夜の店で働いてたんだけど、セクハラがひどいからやめさせたんだ。やる事なくて、いつまでも家の中だけじゃ塞ぎこんじまいそうでさ、元々人懐っこくて愛嬌もあるから、それなりに動けると思うぜ。腕っぷしも強いし、いざとなりゃあ冒険者くらい、軽くつまみだせるぜ?」
「へえ……」
警備も出来て、接客も経験あり、そしてお世話になってるシェスタさんの甥っ子。
この上ない好条件。だけど、どんな子かわかんないし、秘密を持ち出されたら困るしなあ。
「あ、丁度よいところに!エレティ!こっちこい!」
「シェスタ兄さん!」
シェスタに呼ばれてかけてきたのは、買い物かごを手にした犬の耳を持った少年だった。すっと通った鼻に笑顔がとてもかわいらしい。年のころは15歳くらいだろうか?本当の兄弟のように仲睦まじそうに話す姿はまさに美少年。シェスタさんには耳が映えてないし、お兄さんの奥さんが獣人だったのだろう。丸まったふさふさの尻尾からみて柴犬らしい。
こりゃ散々絡まれたんだろうな、と思っていると目があった。
「エレティ、こちらクライマー君。で、こっちが甥っ子のエレティ。」
「こんにちは。エレティと申します。シェスタ兄さんがいつもお世話になっております。」
「こんにちは。クライマーです。こちらこそいつもお世話になっております」
礼儀正しい!!え、何この子!最高じゃない!?
お姉さんびっくりよ!腰エプロンで格好良くパンを並べてほしい!
「お前、腕っぷしそれなりだったよな?」
「え?うん。シェスタ兄さんぐらいなら軽く投げ飛ばせるよ」
力こぶしを作るもほっそり筋肉がついているくらいだ。武装したシェスタさんを投げ飛ばせるって、どこにそんな力があるんだい!?セルもそうだけど、美人さんは体内の構造さえ違うのか……。それとも人間主が弱いだけなのか…もんもんと考えているとシェスタさんがどんどん話を進める。
「近いうちにクライマー君が街の外にパン屋を開くそうだ。そこで腕っぷしの良い店員としてどうだろうって進めてたんだよ。ずっと家に居るのもつまらないだろう?パン絶品なんだ。どうしても食べたい。」
「街の外にパン屋って、誰もお客こないで潰れちゃうよ。シェスタ兄さんどうしちゃったの?」
シェスタさんの発言に怪訝な表情で問うエレティさん。鵜呑みにしないできちんと発言するとか、え、もうぜひとも働いてほしい。ので、さっとクロワッサンを差し出すと、おずおずと受け取ってくれた。
「昨日焼いたパンなんです。食べてみてください」
「随分形が違いますね…頂きます。――!!!!!」
食べた瞬間耳をピーンと立て、尻尾をぶんぶんと千切れんばかりに降っている姿に脳内でガッツポーズした。ペロリと平らげるとキラキラとした尊敬の眼差しで眺められる。
「お、美味しいですっ美味しすぎてっこのパン屋さんで働かせていただけるんですか!?」
「うん。賄いも出すよ。どうかな?」
「ぜひお願いします!」
勝利、クロワッサン。柴犬の店員さんをゲットしました。
お店が軌道に乗るまではとりあえずお試し期間を設けることとした。お給料は日給制でパンの詰め合わせと銅貨10枚となった。最初は、こちらの宿屋1泊から前世の記憶で換算して、日本でいう1泊できる宿って、日本で働いたとき、月のお給料を日割りしたぐらいかなと思って、40デル。つまり、銅貨40枚を支払おうとしたもののお金よりもパンが欲しいという事でパンの現物支給だけになりそうだったが、それだけだと申し訳ないのでパン詰め合わせと銅貨10枚に落ち着いた。働き様によっては昇格していくというスタンスで行くつもりだ。
「そしたら次の休み、家で食事を作って待ってるから3人で来てね」
「ああ!楽しみにしているよ!」
「俺まであやかれるなんて、ありがたい」
「ふふ、どんなお食事か楽しみにしてます」
シェスタたちには、門番の休みに3人を招待することとなった。その日にパンの実食会も含める予定だ。
絶賛だったクロワッサンの間に甘いクリームを挟むのもありかも、レーズンパン、チーズパンも一風変わって良いかも、あとはカレーパンもいいなあ。
あ、サンドイッチも作りたい。チーズも種類を変えればバリエーションも増えるな。チーズは脂肪分の差だったか?帰ったらいろいろ実験してみようかな。お店も建てたいから―――考えるのが楽しすぎる。
ふふっと頭上から笑いが届いた。見上げるととても楽しそうに頬を緩ませるデリアスと目が合う。
「無事決まってよかったな」
「うん!まさか、こうもパンを気に入ってもらえるとは思わなかったよ。あ、ねえ。このまま奴隷商人の所行ってもいい?早めに料理人と、警備員増やしたくて」
「ああ、その方が良いだろうな。目利きはそれなりに出来る。任せろ」
心強いデリアスと共にあのうさん臭い奴隷商人の店へと向かった。
またもや店前に待っていた奴隷商人に出迎えられる。
「ずっと店前にいるんですか?」
「まさか。普段は奥に居ますよ。ささ、どうぞお入りください。本日も負傷した奴隷でよろしいですか?」
「ええ」
どっから情報を得ているのか本当に謎すぎる。もし、パンの作り方を探られたら直にでもばれそう。諜報員を育てるべきだなこれは。職業暗殺者を数人買う必要もありそうだ。
依然と同じ部屋に通されたが、新しい顔ぶれが多い。デリアスを見てびくっとしたものと、期待を含ませてみてくるもの、安定に様々だ。顔の負傷したデリアスがこうして元気になったのを見れたので期待しているのだろう。さっと鑑定を見渡すと、目当ての料理人は6人。ついでに暗殺者は3人だ。
「何かご希望はありますか?」
「ある程度、戦闘経験のある料理人がほしいんだ。あと暗殺者」
「畏まりました。そこのお前、とお前、職業暗殺者の者はこちらに来なさい」
どの人も足を引きずっていたり、包帯から血がにじんでいたりと皆重症だ。
奴隷商人が説明を始める。
「褐色肌のドワーフは持久力が自慢で戦争に出ていたそうですが、国が敗戦し亡くなった後様々なところにうられ、最終的にここへとたどり着いた形ですね。職業は料理人です。隣のダークエルフは森で捨てられていたところを以前の主人がここまで育てたあげ、モンスターと戦わせる余興を行っていたのでそれなりに戦えますが文字は読めないですね。この者も料理人です。あとの者は物心がつく年前から闘技場で戦わせられていた暗殺者です。ボロボロですからね、お安くしますよ。」
にっこりそう締めくくる奴隷商人を横目にデリアスと考察する。
褐色長身のドワーフは敗戦国の出らしいが、感情らしい感情が見られない。ダークエルフの青年は達観した目で宙を見つめており、われ関せずだ。
暗殺者たちは人間の少年達で年のころも同じようだが、暗い目で此方を見ているが空虚だ。
私としては働いてくれたらそれでいいけど、何をきっかけに爆発するかわからない目をしてるのがちょっとネックだ。悩んでいるとデリアスが口を開く。
「俺はついこの前までここで売られていた奴隷だ。何人かは知っているだろうが、切り刻まれた目は膿んでおり回復の兆しはなかった重症の身だった。あの苦痛は今でも忘れられない。だが、マスターに出会ったことでこの通り五体満足だ。」
そっと怪我をしていた目の周りをさするデリアスの話にちょっと関心を向けてくる5人に笑顔で言う。
「奴隷に落ちた身でマスターに出会えたことが唯一の幸せだ。マスターは仕事に見合った幸せをくれる方だ。ここで何もせず死ぬか、マスターについてくるか。2択だ」
「我らに選択肢などないだろう。」
「そうだ。奴隷に選択権など…」
「ついていくか買われるかの2択であろう?」
「貴族の子のおもちゃにされる未来など同じではないか」
「あー私に仕えるのが嫌だったら別の子を探すから、いいよ?それに私貴族じゃないし?あ、元貴族だけど」
「元貴族…?」
ダークエルフの子が食いついてきた。
「そうだよ。14で実家から出されて、なんとかここまで生きて来たんだけど、ちょっとやりたい事の為に料理人が必要なんだ。美味しいご飯一緒に作ってくれる人が欲しいんだよね」
「何か事業を始めるので?」
私の言葉に今度は、奴隷商人が食いついてきた。なんだよ、いきなりっさっきまで静観してたじゃん!?こわいわっ!
デリアスが奴隷商人へガンを飛ばすと、すごすごと壁まで下がっていった。
「……気位の高い竜人族が自ら…なんと」
「ああ、ちなみに龍神の祝福をもらっているからマスターは渡さないぞ」
さりげなく肩を抱かれ、ステータスカードをデリアスが皆に見える様に展開する。何で?と思ったが直に理由が判明した皆ノリノリについてくると宣言したのだ。なんでも、無理やり心を従わせようと、祝福は絶対もらえないそうだ。ステータスカードで、本当にわたしが安全な主人であると確信できたのだとか。
そればかりか、他にも私を連れて行ってほしいという視線を貰う。奴隷商人の許しがなければしゃべることができないので視線だけだが、熱量がすごい。しかし、全員が全員連れて行くわけにもいかない。お金もそんな持ってないし。たじたじになっていると奴隷商人が前へ滑り込んできた。
「素晴らしいっ!!貴方様は奴隷と本心から心通わせる事が出来るとは!!一体どのようにしたのです!?この短い期間で竜人の信用を得るなど並大抵のことではありません!」
「どのようにって…普通にしただけだけど」
「!!!なんと、素晴らしい……その普通を普通をされるお心…なんて清らかな…」
はあ、はあ、と興奮を全面に出す奴隷商人に心底どんびいた。もう2度と利用したくないかも。
私のドン引きに気が付いたのか奴隷商人はすっと身を引くとニヤニヤ顔を引き締めきりっとする。今更遅すぎてなんか…
「失礼いたしました。お詫びにこの5人の奴隷は無料でお連れください。次回から割引もさせていただきますので、是非ともご利用をお願いしたく」
「へえ…」
「5人以外もお連れして構いませんので!!!ね!?」
「そう。ありがとう」
何が奴隷商人のツボに入ったのかはわからないが、お言葉に甘えて農民と漁師と牛飼いを追加で連れて行く事にした。胸元の奴隷紋に血を付けると、黒く変わったので契約完了だ。
奴隷商人にいくつかハイポーションを渡して今回買わなかった奴隷の延命をお願いした。最終的に旦那様のお望みどおりにと、余った服などを渡され、ニヤニヤ笑顔で見送られる。
ハイポーションを飲んでもらい、帰路に着こうとしたところで、マスター!と呼ばれた。振り返ると冒険を終えたエスカテとキャストルクだった。私の匂いが近くでしたため、やってきたらしい。
「新しい方たちですね?僕はキャストルクです。マスターの下で牛飼いとして働いています」
「私はエスカテです。ご主人様の下で農園を管理しています。あ、今日は沢山食用ウサギの肉が手に入ったんです」
「わあ、すごいな。今日は顔合わせも兼ねたパーティーだねえ。早速家に帰ろうか。皆ついてきてね」
ゆっくりと川沿いに家までの道を進む。
キャストルクとエスカテは他の子たちと随分と打ち解けているので良い兄貴分となりそうだ。
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