恋人
セルの気持ちを受け入れた今、デリアスの告白は断らないと……。
そう決意した数秒前の自分に驚きを伝えたい。
部屋を出て行ったセルがデリアスを引き連れて戻ってきたのだ。
で、現在ベッドで詰め寄られている。
なぜデリアスを連れて戻ってきたんだ。ちょっとうとうとしてたのにバーンっていきなり「付き合うって!?」って入ってこられて、めっちゃびっくりして眠け何処かへ吹き飛んだよ。
「セルとくっついた?」
「う、うん」
「なら俺とは?」
「2人と付き合うなんて不誠実は」
「その2人が了承してるのに?」
「う、いや、そういうもんだいでは、セルだって嫉妬するでしょ!?」
「え?なんでですか?」
「え!?嫉妬してくれないの!?」
だいぶショックを受けた。え……嫉妬してくれないって……
「好きって言ったの嘘だ、んっ」
「嘘じゃないですよ。ただ相手がマスターも認めた相手なら嫉妬しないですね。あ、ウルデリアスばかりにかまけたらやきもちは妬きますよ?」
やきもちは妬いてくれるらしい事にホッとする。
ちゅっと唇にキスをされ慰められたところで、デリアスが切り込んできた。
「なぜダメなんだ?」
「いや、同時に付き合うなんて不誠実なのは常識で」
「それは前世のマスターの話だろう?今世は一夫多妻、一妻多夫が常識だぞ。」
「うっそれは、そうだけど……」
確かにそうだ。今世の私の産みの親である父も母以外に4人は女性がいたと認識している。
別邸には長男の母親と、私を生んだ女が二人暮らしており、互いにいがみ合うことなく仲睦まじかったと記憶している。
奴隷商人も指輪を2つつけていたし、冒険者で二人連れて歩いていたりと、複数人と付き合うのはよくある。
そう考えると、2人が納得してる時点で問題ないのでは?
「うーん、頑固だな」
「しょうがないでしょっ第一、器用に二人同時に愛せる自信がないし」
「3人で考えていけばいいだろう?」
「まず!!!第一、私の気持ち無視してない!?」
「ウルデリアスを嫌っていないのは見ていてわかりますよ」
おでこにキスされなだめられる。
確かにデリアスを嫌ってはいない。ちらとデリアスを見るとばっちり目が合った。
ぐわあああもうかっこいいよ。セルとは違った格好良さがにじみ出てる。
全然キスとかことむしろ私がしちゃっていいんですかって感じだよもうっ
私の思いを感じ取ったのかデリアスが頬にすり寄ってくる表情は全力で好きと語っていて――
「あーその、はっきりいうとね、デリアスもセルも好きだよ。」
「!」
「た、ただね、その、いきなり結婚とか、よくわからないから暫く恋人として付き合る形でぐえっ」
「マスター!」
「ウルデリアス!マスターが潰れてしまいます!!」
デリアスに正面から力いっぱい腕を回され、胸元に顔を押し付けられて息苦しい。抱擁はうれしいうれしいと全身で語っており、セルが宥めても力が少し緩んだだけでがっちりとホールドされている。
ぶはっと顔を上げるとゼロ距離にデリアスの顔と唇に柔らかい感触。
あ、これ、キスされてる。
と認識した瞬間にものすごい風圧と共に眼前からデリアスが消えた。
唖然としているとセルの声がぽそりと聞こえ、慌ててそちらを向くとデリアスの首を腕で締め上げているセルがいた。
「わ、私が我慢していたというのに!!!あなたという人は!マスターのファーストキスを!」
「うっぐっいや、苦しい、ぎぶっ」
「わっちょセルストップ!!!」
まじで昇天しそうな様子に慌てて飛びつく。腕はびくともせず、腰にしがみついて何とか離そうとしても全然動かないっええいっ暴走した人を治めるためにはこれしかない。セルの背中に飛びつきからガッと顔をこちらに向け唇を押し付ける
「……っ」
「んっセル、落ち着いた?」
私の行動に、セルが固まると同時に足元に落下した音が響いたがデリアスは無事だろう。頑丈そうだし
「……ます、たー?」
「私からキスしたのはセルが初めてだよ?それでも納得できない?」
じっと見つめて静かに言うと、内容が理解できたのか、口を押えてセルの目元が段々赤くなっていく。
うん、冷静さ取り戻したかな。
セルの怒りがどっかに吹き飛んだので背から降りる。
腕だけで自身の体を支えるこの体制、実はむちゃくちゃ辛かった。腕プルプルだよ。筋トレしよう……
「デリアスも反省しなよ」
「ぅっ……すまなかった」
デリアスは結構なダメージをおったようで、床に伸びたまま腕で顔を覆い動かなくなってしまった。
セルも口元を抑えてうずくまってしまった。
何だこのカオス。
ガチャリと扉が開いてキャストルクとエスカテが怪訝そうな顔で足元の二人を眺めた。
あんな大声出してたら何があったのか伝わるよね……夜中に騒いで本当にごめん。
「2人ともごめん、あ、エスカテにポーション渡すの忘れてたね。ついでにそっちの部屋で寝てもいい?」
「ご主人様と一緒に寝れるのうれしいです!」
「マスターありがとうございます。さあ此方に」
私の言葉にすぐさま了承した二人は、本音を言ったおかげかよりフレンドリーな対応で快く受け入れてくれた。エスカテが両腕を広げて待っているので近づくとひょいと抱き上げられた。
キャストルクは転がる二人に「マスターは我々がきちんと護衛しますので、頭を冷やしてください」と吐き捨てて部屋を後にした。
いつのも可愛さはどこに行ったんだと思ったがこちらも素なら見せてくれるのは非常にうれしい。
大部屋にお邪魔する、寝具とか整ってから入るの初めてだなとみると、まだ済んで数日という事もあり生活感はあまりなかった。
「ベッドくつけて皆で並んで寝ましょう!」
「マスター真ん中でいいですか?」
「2人ともありがとう」
私が手伝おうとするまでもなく、キャストルク素早く寝具を移動させ整えてくれたので。その間にエスカテにポーションを飲んでもらった。外傷も特になく、軽い痛みで済んだようだ。
2人に挟まれてベッドに寝転がる。なんだか修学旅行のような気分だ。
キャストルクに抱き枕にされるも、細身なので圧迫感はないので自由にさせる。
「ふふっマスター良い香りがします」
「そう?あ、思ったんだけど皆一人部屋があった方がいいよね。明日セルに頼んで改築してもらおうか」
「どちらかというと、マスターの部屋で寝たいですね。護衛もかねて」
「一人部屋は何かと便利ですので、あってもいいですね。いざとなったらシェルターになりますし」
護衛に、シェルターと何の話をしてるんだい?聞くと長そうなので口に出さないでおく。
「ふあっ寝ようか、2人ともおやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
殺伐とした空間からほのぼのとした空気に一気に気が抜けて意識が落ちた。
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