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セルかわいい。すごいかわいい

 


「んっぐすっ……」

「大丈夫ですか?」

「うん……ごめん」


 結構な時間泣いていたせいで、エスカテの肩口は涙でぐちゃぐちゃだったのを生活魔法で綺麗にする。

 はー、声あげて泣くとか、7歳で親に見放されて以来、か?


「キャストルクもごめん、ずっと頭持ったままで……」

「いえ、マスターの太ももふかふかでこのまま寝たいぐらいです。のわっ」

「不敬ですよ、キャストルク」

「一度体験したらわかりますよ。離したがいこの弾力っわわ、ごめんなさいっ黙りますっ」


 変態発言にエスカテが素早くキャストルクを私から引きはがしお灸をすえている。

 涙を拭こうとすると、セルが拭いてくれた。


「落ち着かれました?」

「うん、本当に色々知らなくて、ごめん」

「良いんですよ。マスターはまだ幼いのですからそう気を落とさずに」

「いや、あのそれについても、皆に離していない事があって、あの……聞いてくれる?」


 そろっと皆を伺うと、セルが気を利かして皆の分の椅子を作り、そこに腰を落ち着かせた。

 私の表情に皆真剣に聞いてくれる。


「えっと、現実味のない話になるんだけど、今から離すことは本当のことで、皆って前世の記憶ってある?私は―――――」


 そう切り出し、14歳の時に前世は全く別の魔法のない世界で女として生活していたのを思いだした事。その世界は、モンスターも魔法もダンジョンも存在せず、物語の世界として語られていた事。奴隷の制度のない、王政でもない世界で法律も大きく違う事。料理は前世の記憶をもとに作ってる事など、一通り話した。


「つまり、マスターは今世は男性として生まれ育った所に前世の女性の記憶を取り戻しててんやわんやだった、と」

「う、うん。信じられないかもしれないけど、そうなんだ」

「納得した。」

「え?」


 デリアスが神妙に口を開いた。


「マスターが妙に色気を持ってる理由はそれか。前世女、ね。そういう事か」

「う、ぇ!?いろ、え!?」

「確かに時々女性らしさを感じてどぎまぎしてたんですけど、納得しました」

「14歳にしては夜を知った雰囲気というか、でも、無防備で……ぐっ」

「そうですね。14歳とは思えない聡明さと大人の雰囲気をお持ちだったのはそういう事だったのですね」


 デリアスの言葉に同調して、セルが納得しキャストルクの発言にエスカテが口をふさぐ。

 何ともあっけなく受け止められ、呆然とする。


「信じてくれるの?」

「むしろ謎が解決したってところだ。ん?まてよ。てことはマスターはおんなでありおとこ?」

「男です!れっきとした男児です!!前世が女ってだけで今世は男ですから!」


 デリアスの下半身への視線を遮って宣言する。なんか貞操が危ない気がした。


「性別なんて些細な問題です。マスターはマスターとして魅力的、そういう事です」

「え、う、うん?ありがと…う?」


 そう言って、セルにベットへと抱き寄せられる。


「まあ、これからは変に畏まらなくても素のマスターとして行動すればいい。今世は子供で、前世を思いだした今0歳だろ。恥ずかしがらず、なんでも頼れ」


 ぐしゃっと子供にするように頭をなでられる。


「…いいの?」

「デリアスは、甘えてもらいたいって事ですよ」


 セルが耳打ちで言った言葉にデリアスはちょっと気まずそうに、そういう事だ。とはにかんだ。

 そこからはワイワイと修学旅行で好きな人ができた人に詰め寄るように質問攻めだった。


「娼館を進められたのも前世の記憶からだったんですね」

「うん。よくファンタジーの物語には出てきたからこっちにもあるかなって」

「リアルにはなかったのか?」

「私の住んでいた国には直接的にそういうお店はなかったかな。電話で家に呼びだすとか?詳しくは知らないんだけど」

「ご主人様は、彼氏とかいらっしゃったんですか?」

「残念ならが居なかったんだよね。何度か付き合ったこともあるけどすぐ別れちゃうって感じ。仕事が忙しくて最後は恋愛なんて暫くしてなくて死んじゃったよ」

「ちなみに死因とか……」

「多分過労死?親を残してぽっくり死んじゃったんだ。だから皆には本当にきちんと休んでほしい。」


 切実さが伝わったのかコクリと頷いてくれた。

 過労死だけはだめだ。誰も幸せにならない。


「月明かりが眩しいから全然気が付かなかったけど結構な時間だよね」

「まあそれなりにって感じじゃないか?」

「うわーほんとだ、月たっか。皆ごめんっこんな時間までつき合わさせて」


 顔の前で両手を合わせて謝る。背中からセルに抱き込まれてて格好はつかないが、本当に申し訳なく思っています。


「マスターの心配が晴れてなによりだ」

「素も見れて何よりです。ご主人様の前世のちきゅうという世界も大変興味深いお話でした」

「これからはもっと甘えてもらえると思うと嬉しさいっぱいです」


 うえっ皆が優しい。涙出てきた


「マスターは泣き虫さんですね」

「だって……みんなやさしいんだもん」


 ぎゅっとセルにしがみつくと抱きしめ返された。


「ふふっかわいいですね。さあ、マスターの可愛さは私が堪能しますので皆さんおやすみなさい」

「んー羨ましいな。まあ明日は一日中マスターを護衛だから今夜は譲ってやるよ。おやすみマスター」

「昼間は僕と一緒にお昼寝しましょうね!おやすみなさい」

「じゃあ私はおいしい食材を調達してきますので料理を手取り足取り教えてください!ご主人様良い夢を!」

「うん!皆おやすみ!明日朝はゆっくりでいいからね」


 明日の約束をして部屋へ戻る皆を見送ると一気に静かになった。


「マスターモテモテですね」

「んっ皆優しいよね。励ましてもらっちゃった」

「んー、そうですね。そういう事にしておきましょう」

「?」


 抱きしめたまま頬や瞼にちゅっとキスをするセルに何か濁された気がするけど、まあいいかと気を許してしまう。ぎゅーっと首に腕を回して肩にぐりぐりと頭を押し付けると柑橘系の香りとほのかにセル自身の香りがする。うーん、セルの腕の中安心するなあ。


「マスター?」

「セル良い匂いだねぇ」

「そうですか?マスターも甘い香りがしますよ」

「ふふ、セルは言い回しが上手いなあ。惚れちゃうよ?」

「それは嬉しいですね」


 余裕な表情を崩したくなるなーなんて見つめていたら唇間近にキスされた。


「あんまり煽ると、夫婦の契りの前に食べてしまいますよ」


 表情こそにこやかで崩さないものの、ギラリと欲をちらつかせる目で見つめられて慌てて両手を上げ謝る。


「ごめんなさい」

「こちらとしては大歓迎なんですけどね。いつ私に落ちてくれるんです?」

「いや、あの、えっと」


 手を使まれ、指先、手のひら、手首と順に唇を落とされる度にセルの吐息が肌をなでる。

 やっばい、これやばいかもっ逃げようにも腰に腕を回されてびくともしない。

 本格的に抵抗しようと考えるとパタリと私の肩に頭を乗せセルは深くため息を吐いた。


「……せ、セル?」

「好きです」

「う、うん」

「愛しています」

「……うん」

「本当にどうしようもなく、いつの間にこんなに惚れてしまったのでしょう」

「……」


 ドストレートな言葉と、少しけだるげな言い方に顔が熱くなる。


「好きだからこそ、身も心も欲しいので耐えてましたけど……結構きますね」

「ご、ごめんね?」

「謝るくらいならこの哀れな片想いの羊にキスを一つくださいませんか?」

「……」


 どちらかと言えば狼では?とは口にせず、セルを黙って見つめる。

 至近距離で熱のこもったはちみつ色の瞳が好きだと全力で語ってくるのにどきまぎしてしまう。


「キスしたら、機嫌直してくれる?」

「いえ、やはりキスをされたら耐えきれそうにないので今日はこのまま寝かせてください」

「おわっ」


 ごろんと横になるセルの腕にひかれて私も隣へダイブする。


「はー、こんな心乱される恋なんて初めてですよ」

「えあっえっと……」


 こういう時何て言えば良いんだ。

 私もドキドキしてるよ……?これは完全に煽りにいってるからダメだ。

 好いてくれてうれしい?これ告白の返事みたいじゃないか即GOになるからダメ。

 ごめん?いやこれはないな。

 ひえっ前世でもなかったよこんなっ悩みつくす場面っ

 何て返そうか焦っているとセルの空気が緩んだ。


「意地悪が過ぎましたね。答えを急かしている訳ではないんです。恋には落ちるものだと言いますしただ、あまりにも愛らしいのでついつい欲がちらつきました」


 切なげに言われてきゅんとしてしまった。いやもうこれ、恋に落ちちゃってないか……?

 そう自覚したとたん、ストンっと自覚した。

 こんな優しく一途に思われて落ちないわけがなかった。

 そっと頭を持ち上げて見上げてくるセルの口もとにキスをする。


「え……マスター?」

「私も好きだよ」

「え……」

「ただ、その、キスとかは全然いいんだけど。同性同士ってどうやるのか、知らないし待ってほしいっていうか……セル?」


 男同士には準備が必要だって近所のお姉さんが言ってた。ので一応断りをいれたけど反応がない。

 ガチーンと目を見開いて固まってしまったセルがゆるゆると動き出すと自身のほっぺを捻ってぽそっと口を開いた。


「夢……?」

「うーん、夢かもねーおやすみー」

「あっごめんなさいっげ、現実ですっ」

「うん、もう夜遅いから声量抑えようね。それとも口をふさいでほしいって事?」

「あーーーーー……」


 顔を覆ってパタリと枕に臥せってしまった。

 からかいがいがあるなあセルは、相手が焦ってると余裕が出てくるもんで私としては全然恥ずかしくない。

 暫くすると復帰したセルがちらと顔を上げてきた。


「本当に?」

「うん。本当に」

「うれしいです」


 へにゃっと初めて見るセルの緩みきった表情にキスをしたくなる。これが堪らないってやつだろうか?


「かわいい」

「……っマスター」

「セルかわいいね」

「もう、勘弁してくださいっ」

「わー顔真っ赤ちゅーしちゃおーー」


 どっかの変態なおじさんみたいな反応になってしまったけどセルがかわいいので仕方がない。

 ちゅーとほっぺにキスするとがしっと肩を掴まれた。


「うれしすぎていろいろパンクしそうなので先に寝ててください」

「あーうん、わかった」


 ベッドから起き上がり部屋を出ようとするセルに、色々限界なのだなとを察して自分のベッドに戻ろうとすると阻止された。


「すぐ戻りますので待っててください」

「わかった」


 お願いされてしまったので、おとなしくセルのベッドでお布団を被ってまつことにした。


「んー今日はいろいろあったなあ……」


 自分の気持ちを受け止めたら、悩んでいた頃が馬鹿みたいに爽快な気持ちだ。

 前世も皆に受け入れてもらって、奴隷紋についても認識を改められて、ついでに奴隷商人がニヤニヤ笑っていた理由が分かった。私が世間知らずすぎる良いカモだと思ったのだろう。まじ許さん。




お読みいただきありがとうございます

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