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美味しいパンを召し上がれ

 


「マスター、マスター」

「んー……あー、おはようセル」

「おはようございます」


 目を覚ますと夕日一歩手前といった感じで結構な時間爆睡していたようだ。

 ふあーっと大きな欠伸を1つ、だいぶ目が覚めた。


「起こしてくれてありがとう」

「マスターの可愛い寝顔が見られたので役得でした」


 ニコニコとリップサービスの激しいセルから水の入ったコップを差し出される。お礼を言い口にするひんやりと冷たく、かわいた喉が潤う。

 ベッド横には小さな机があり、その上に水差しが置いてあった。いつの間に設置してくれたのだろう。全く気が付かなかった


「楽しみにしております。デリアスは予定どうりココポットを3匹捕まえられました。マスターがお望みのドライイーストも加工済みです。」

「仕事が早いね。無理してない?」


 セル達はちょっと働きすぎだと思う。


「マスターのお影で食事が十分取れてますので、力がありあまっています。なので、マスターのお世話をもっとさせて頂ければと……」

「いや、これ以上して貰ったらセル無しじゃ生きられなくなっちゃうから」


 よし、セルとの会話で完全に目が覚めたので料理を作りに行きますかね。

 ベッドから降りようとすると素早くセルが屈み、足を取られた。


「うえっ何!?」

「スリッパを……」

「あれ!?さっきの私の発言なかった事にされてる!?」


 ずっと離れることなんて無いので問題ないですよね、

 とスリッパを履かせる作業に移るセル。

 いや、そうだけど……。


「マスターは絶対大成されます。立場を得れば、使用人に身の回りを任せるというのが通常です。今のうちに慣れておかれた方が気疲れもしませんよ」

「んー……」

「はい、髪も整いました。行きましょうか」


 はっ!いつの間にか髪まで櫛でとかされ、服も整えられている。

 他人にされるには慣れないけど、セルだとなんか気が緩むって言うか。

 記憶を思い出してから、初めて心を許せると思えた人だからだろうか?

 私への好意も常に全力だし。

 これで全部演技でしたとか言ったらセル男優賞獲得ですわ


「マスター?具合でも悪いのですか?」

「ううん。ちょっと考え事してただけ。料理作りに行くから手伝ってくれる?」

「はい!」


 セルは満面の笑みだ。

 私と何かをする事に本人が喜びを見出しているのなら深く考えなくても良いか


「お、マスター起きたか。」

「デリアスおはよう。ココポット捕まえてくれたんだって?」

「ああ、これがドライイーストだ」


 ほら、と見せられたジャム瓶にはドライイーストがこんもり入っていた。かなりの量なのでしばらく困ることはないだろう。


「大量だ。パンたくさん作るね。あ、ココポットってどこにいる?」

「さっきは畑の方にいたが、見たいか?」

「見たことないから気になるけど、あとで見るね」

「マスター、これがココポットですよ」

「わっセル捕まえてきてくれたの!?」


 後ろにいたはずなのにいつの間に外に出て捕まえて戻ってきたんだ……セル忍者?忍者スキル持ってる?んなわけないか


「巨大ヤドカリって感じだね」

「殻は2,3日周期で脱皮しますね。その分硬度は高いです」


 軽くノックしてみるとコンコンっと甲高い音がした。風鈴とか作れそう……。いや、勿体ないから作らないけど


「セルありがとうね。君もドライイーストありがとう」


 ココポットに話しかけると、とても静かにからに籠っていたがハサミをちょいっと出して、シャンっと一音響かせた。


 かわいいな。うん。


「キャストルクとエスカテはまだ外?」

「夕飯までには戻ると思います。あ!建物も出来たので、明日見て頂けますか?」

「はやっまじ!?え、セル。本当に無理してない!?」


 あばばばば、前世過労死した私としては本当に心配だ。


「でしたら、ご褒美頂けますか?」


 ちょっと遠慮気味に言われたけど、これだけ働いてもらってるんだから、叶えられるものならなんでも叶えてあげたい。


「ご褒美?何?」

「次にお風呂に入る時ご一緒させてください」

「そんな事でいいの?お風呂は疲れが吹き飛ぶよ!今日入れようか!」


 一日の終わりに入るあの幸福感はセルも絶対癖になるだろう!

 お風呂ならおやすい御用だ。魔法を使うと精神力とか何か削れるかと思ってたけど、特にその症状は無いので毎日入るのもありだよなあ〜。

 よし、お腹を満たしてお風呂で疲れを癒し、ぐっすりするために


「まずパン作るか」


 パンの材料となる小麦粉、ドライイーストなどを木製ボールに入れてスキル調理加速を使ってみると、無事膨らんだパン生地が出来た。

 ちゃんと発行もしているようだ。


 かまどの上に大工加速で石窯にして火をつける。だいぶ温まったので、小麦粉をまき、その上にパン生地をちぎり丸めておいていく。

 今日作るのは塩ちぎりパンとはちみつを入れたほんのり甘いパンだ。

 バターがあればクロワッサンなど作れるが、

 あ

 牛乳と塩があるのだから、調理加速でバターできるんじゃないか?

 発見に気がつくとセルが戻ってきた。


「なにか手伝うことはありますか?」

「赤牛の牛乳とってくれる?」


 セルが牛乳を準備してくれてる間にパン生地を置き切る。ちょうど並べ終えた時、セルが牛乳を持ってきてくれたので有難く受け取り、赤牛の乳と塩を手に調理加速をする。

 器には柔らかめのバターが出来た。


 調理加速が便利すぎてやばいなこれ。

 バターとパン生地を調理加速で層にし、小さいクロワッサンになるよう整え、追加で石かまどに並べ、蓋をする。

 焼き上がりも調理加速で行けるか試してみた。

 スキルを使用した感覚を得たのでもう一度かまどの蓋を開けるとこんがり狐色に焼き上がったパン達が並んでいた。

 ささっと取り出し、バケットに入れる。

 こねる時間もなければ発酵を待つ必要も無い……火加減も特に見なくて良いとかいつでも焼きたてパンが食べられるな。

 塩ちぎりパン、甘めのちぎりパン、小さいクロワッサンとどれも美味しそうだ。

 熱々のパンを1つちぎって口にすると、前世でお馴染みの中ふわっふわの外パリッとした食感が広がった。味も問題ないので、熱々のパンを一口大にちぎり、後ろで見守っててくれたセルの口元に持っていく。


「はい、セル。あーんして」

「あー…んっ……!!!!」


 パンを咀嚼した瞬間ビシィッと固まって動かなくなってしまった。


「え!?セル!?だ、大丈夫!?熱かった!?お、お水」


 慌てて水を注ごうとシンクへ向くと後ろから抱きすくめられた。


「……こんな美味しいパン……初めて食べました」

「え、あ、火傷とかしてない?」

「はい。もうひとつ頂けますか?」


 パンを催促されたので、さっき食べたのと別のクロワッサンを念の為ふうふうと熱を覚ましてから肩越しに差し出す。抱き込まれたまま頭上からセルがサクッと良い音を立て咀嚼する。続けてサクサクッと食べられ、最後にぱくっと指事いかれた。


「!?」


 慌てて腕をひこうとすると手を捕まれ、ペロリと指を舐められ耳元でご馳走様です、と囁かれた。

 一連の流れがスムーズすぎて....!?

 えっっっろ。は!?え、今までの純な感じは隠して!?!!?

 ちらっとセル見上げると、いつも通りの笑顔だけど、目が、目の奥に確かな火がチラついている。

 これは刺激しないようにしなければ、とそっと足を引くと、呆気なく離された。


「皆にも早く食べてもらいましょう!呼んできますね」


 セルはそう言うとキッチンをあとにした。

 切り替えの速さ……おったまげだ。前世の記憶がなかったらただのじゃれ合いって勘違いして刺激して夜は長いんだぜコースだ。あぶないあぶない。


 呼んできてくれるって言うし、ウサギ肉のステーキと、モッツァレラチーズとトマトでカプレーゼでも作ろうかな。ドレッシングは昼間に絶賛だったイタリアンドレッシングで良いだろう。

 慣れた手つきで調理加速を使用し、あっという間に料理は完成した。

 キャストルクがやってきて配膳を手伝ってくれたので運ぶのも楽ちんだった。

 パンを見て、尻尾をブンブンと振っている姿を見ると待てを強いられたわんちゃんのようだと思ってしまったのは許して欲しい。

 先にパンを食べてみる?と言うのと、みんなもうすぐ来るし、という葛藤をしているとセルがデリアスとエスカテを連れて戻ってきた。


「おかえり、ご飯できてるよ!席ついて」

「新婚みたいだ……ぐっ」

「色々すっ飛ばしてますよ」


 デリアスの発言に脇腹を小突いて注意するセル。そんな2人をガン無視で食事開始を今か今かと席について待つキャストルクとエスカテはなんといじらしい事か。

 皆席につたので、説明をする


「こっちは塩ちぎりパン、こっちは甘めのちぎりパンね。で、これがクロワッサン。小さめに作ったから沢山食べてね。

 お仕事お疲れ様、召し上がれ」


 いただきますと言い終わるや否や早速パンへと手を伸ばす面々。

 セルは美味しいと言っていたけど、皆の口にもあうと良いのだが……。そわっとしていると、キャストルクがクロワッサンを口にして目を輝かせた。


「お、美味しいです!サクッとしててふわふわで、口の中で溶けてあっという間に無くなっちゃいます!!」

「このちぎりパンはどちらの味も非常に美味しいです!甘いのはお茶請けなどにも合いそうですね!ご主人様とても美味しいです!」


 エスカテは甘めのちぎりパンが気に入ったようだ。明日から休憩にお茶とこのちぎりパンを出すとしよう。


「ドライイーストでここまでパンの舌触りが良くなるとは……流石マスターだ。

 それに、このチーズとトマトのも滑らかさと酸味が相まって美味しいな……」


 デリアスはパンもさることながら、カプレーゼが気に入ったようだ。


「カプレーゼっていうんだ。トマト

 モッツァレラチーズを昼間のドレッシングで味付けたもの。モッツァレラチーズは、キャストルクが採ってくれた赤牛の乳から作ったんだよ」

「赤牛の乳が……こんなに滑らかなチーズになるんですね……」

「パンにはデリアスが捕まえてくれたココポットのドライイーストだし、みんなのお陰で料理の幅が広がったんだよ」


 そう伝えると、喜びを滲ませるデリアスと尻尾をふるわせるキャストルク。

 自身の関わった物がこのように料理となって糧となるというのはやはり嬉しいようだ。


「セルも作るの手伝ってくれたんだ。エスカテの農園で野菜が取れるようになったらさらに料理の幅が広がるね。セル、これからも手伝ってくれる?」

「はい!勿論です!」


 エスカテも今後を楽しみにしてくれたようで何よりだ。

 セルも料理の手伝いをお願いしたらぱあっっと効果音が聞こえそうな笑顔となった。


 笑顔の皆と食事を囲むと暖かい気持ちになる。

 一家団欒とはまさにこの事だろう。


「そうだ。前から約束してたんだけど、家ができたら人を呼ぶことになってるんだ」

「シェスタさまですよね?」

「そう。色々お世話になったから、皆の絶賛してくれたパンも出してみようかなって」


 サクッとクロワッサンを食べる。うーん、我ながら良い出来だ。


「マスター口端にパンくずが」

「んっありがとう、セル」

「いえ、この大変美味しいパンならば充分過ぎるお礼になると思います。」


 セルが絶賛するなら大丈夫だろう。お茶っ葉とか買わないとだな。あーお茶畑欲しいな。

 色々ブレンドできるし、好みの紅茶とか作り出してみたい。甘いパンに合う紅茶と出会えると良いが。


「じゃあそうしようかな。明日、いつ来れるか聞いてくるよ」

「では私は掃除をしておきますね。他のみなはいつも通りでよろしいですか?」

「うん。あ、デリアスはどうしようか……」

「護衛としてついて行こう」

「ん、じゃあお願いしようかな」

「承知した」


 デリアスが居てくれるなら大抵何とかなるだろう。


 その後たわいの無い会話で食事は進んでいった。


お読みいただきありがとうございます

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