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マスターを楽させようの会

 

 帰り道、セルが度々消えたと思ったら赤鶏を持って返ってきたりと

 なんやかんや赤牛4匹、赤鶏5羽に薬草と大収穫だ。

 ララの実の群生地も予期せぬ収穫といえる。

 セルによって木々が伐採されたおかげか思ったよりも早く森を抜けられた。

 ちょうど屋敷の前についたキャストルクとエスカテが見える。


「あ!おかえりなさい!」

「わあ、モンスター沢山ですね!」

「二人もおかえり。セルとデリアスのおかげで大収穫になったよ」

「私たちも野菜の苗など買えました!」

「調味料もソルティさまが売ってくださいました」


 どれどれ、とエスカテの持つ調味料の入った瓶を鑑定する


 〚塩〛

 〚油〛

 〚酢〛

 〚小麦粉〛

 〚ハニーはちみつ〛


 ふむ、一般的な調味料だ。一つを除いて


「ハニーはちみつって何?」

「ハニーっていうモンスターが集める蜜ですね。栄養価も高いですしおいしいですよ」

「え。何そのモンスター欲しい。」

「花壇などに近づいて住み着くみたいですよ。人を攻撃しない安全なモンスターです。」


 ラベンダーも大丈夫です、とセルが追加説明してくれた。モンスターなのにラベンダーが大丈夫っていうのはちょっと驚いた。

 花壇か、お花は手元に沢山あるので植えるだけだ。


「よし、午後は花壇をつくる事にするよ!はちみつはお菓子作りに必要だからね。

 あと、調味料なんだけど重曹とかなかった?」

「あ、お掃除用にですが、重曹を頂きました」

「でかした!!!」

「え!?は、はい!」


 大量に購入したことでソルティさんがおまけとしてプレゼントしてくれたようだ。

 重曹はヨゴレが良く落ちるけど、口にしても問題ないので状態をみて使ってみよう。

 パンに練りこむとちょっと苦味は出るけどふわふわだ。


「これでふわふわのパンを作れるよ。苦味が出ないドライイーストがあると一番なんだけどね~」

「ドライイーストでしたらココポットってモンスターからとれますよ?」


 ココポット!?ドロップアイテムなのか!?


「どんなモンスターなの!?」

「川によくいる貝の形をしたモンスターで、脱皮をした皮を砕くとドライイーストになるらしいです。特に使い道がないとされていたのですが料理に使用できるのですか?」

「それはもう革命的にパンがふわふわになるよ」

「革命的に……」

「ふわっふわに……」


 キャストルクとエスカテは、パンがどのようにふわふわになるのか想像しているようで、キャストルクの尻尾はブンブンと左右に揺れている。期待を裏切らない美味しいパンを作らねば。ただ、問題はココポットだけど……


「ココポットは私が捕まえてこよう。川に何匹かいたからな」

「わーーーデリアスお願い!!おいしいパン作るからね!」


 ふわふわパン楽しみにしている、と髪を1束掬い、唇を下ろす。体格の良いデリアスがふわふわって言いながら優雅に屈むとかギャップが凄い。え、本当にモテ要素多いいね!?君たちっ

 変なお姉さんについて行ったらだめだよ!?

 さて、ぶっ飛んだ思考を戻そう。


 調理加速スキルがあるのでパンが発酵する待ち時間は短縮できる。デリアスがココポットを入手してくれるから、夜に柔らかいパンを食べるのありだな。あ……オーブンがない、いや作ればいい。

 石窯なら石材加速スキルでなんとかなるだろう。


「とりあえずお昼にしようか。午後また各々動いていこう」


 キッチンへ移動し、馴染みの黒パンを主食に、トマトスープ、サラダを作る。サラダのドッシングは油、酢、塩で簡単にできるイタリアンドレッシングだ。香りづけのためにオリーブオイルの方がいいが、油でも特に味は変わらないので今日はよしとする。

 皆で分担して料理はあっという間に完成した。


「このドレッシングは初めて見ました。なんていうんですか?」

「イタリアンドレッシングだよ。結構好き嫌い別れるからダメだったら無理しないでね」


「「いただきます」」


 挨拶を済ませると一斉にサラダを口に運んだ。

 ドレッシングがそんなに気になってたとは、私としては前世、簡単にできるからと作っていたので馴染みの味だ。

 うん、おいしい。


「おいしいです!」

「油と酢と塩でこんなにおいしいドレッシングになるなんて」

「ん、うまいな」

「僕、生野菜苦手だったんですけどこれならいくらでも入ります!」


 イタリアンドレッシングは皆の口に合ったようだ。こちらの世界でも美味しいと受け入れ上々だ。和食系も口に合うといいんだけど。

 まずはパンを売ろうと思ってたけどドレッシングも一緒に売ろう。サンドイッチにしてイタリアンドレッシング、とするのが良いかも。


「このレシピも含め今後新しいものは内緒ね?」

「はい、勿論言いません。なので、あの、おかわりしてもいいですか?」


 控えめに伺うセル。

 初めてのおかわり要求に驚くも皆そわそわとしており、そんなにおいしいと思ってもらえるとは嬉しい限りだ。


「いくらでもどうぞ。皆もね」

「ありがとうございます!」

「レタス沢山栽培します!」

「トマトスープも甘くて美味しいです。ハニーはちみつですか?」

「そう、酸味が強いからちょっと入れてみたんだ。どう?」

「とても美味しいです!」

「レストラン開いたらお客さんであふれ返りますよ!」

「レストランねー……」


 トマトスープも好評だけど液体だから、すぐ冷めちゃうのがネックだった、けどレストランなら気にせず売ることが出来る。ただ問題なのは、ここが街の外なので一般市民は態々来ないだろう。来るとして冒険者……粗暴な冒険者で溢れかえったら絶対問題起きるよなあ。材料見せろとか、キッチンや畑のほうに侵入されたら溜まったもんじゃない。料理人、ウエイター、腕っぷしの良い……


「従業員が揃ったらいいかもね」

「それまではマスターのおいしいお料理は私たちで独り占めですね」

「確かに!無理に焦る必要ないですね!」

「だな、ごちそうさまでした。ココポットをとってくるとするか」

「洗い物はお任せください」

「悪いな、セル」


 黙々と食べていたデリアスは早速ココポットをゲットしに行ってくれるようだ。

 ふわふわのパンのためですよ、お父さん!とキャストルクが言うと、誰がお父さんだっ!マスターのふわふわのパンは食べたいから行ってくる。と斜め上な突っ込みが返ってきた。大分期待されているようなので気合を入れて作らなれば。


「私もご馳走様でした」

「ご馳走様でした。マスターのも私が洗いものしておきますので」

「ありがとう、でも一緒に洗うよ。家事をする使用人も欲しいね」

「マスターのおそばにいる時間が増えそうなので欲しいですね」


 ニコニコ笑顔のセルさん。

 いや、家事って結構大変だから今後忙しくなるのも見越してだったんだけど

 家事を任せる使用人は男性に限るな。

 万が一があっても怖いし?変に異性がいてそわそわしちゃったらまずいし?


「世話好きな種族っていたりする?」

「精霊は好いた相手には本能的に何でもしてあげたくなります」


 あ、はい。そうなんですね。セルを見ててうすうす思ってたけど種族的ななんだね。

 精霊は、まず前提として全員が好かれなきゃいけないって難しいので使用人には向かないな。

 洗い物を終えるとセルに手をタオルでぬぐわれた。

 こういうのをしたくなるのか……なるほど。本能を満たしてやるのは大切だ。我慢して爆発されたら大変なのでこれからはやらせたいようにさせる事にしよう。

 ダイニングに戻り、キャストルクとエスカテにも意見を聞いてみる。


「二人はどう?知ってたりする?」

「エルフは気長なものが多いので狩り向きですね。家庭内はそれなりに回すって感じです。」

「獣人の狼は巣を守って家庭内を回すのも得意ですね。僕はたぬきなので溜め込むのが得意です」

「エルフは狩りで、獣人は狼良いね。守ってくれるって敬語にたけてるって事でしょ?」

「そうなんですけど、気性が荒いので、主と認めないと中々……」


 暴れん坊って事か~狼に認めてもらう方法ねえ。おいしいご飯で胃袋掴むくらいしか思い浮かばない。


「マスターのご飯を食べればどんな気難しい種族でも一頃ですよ」

「え?そう?」

「はい!」


 私のご飯で良いらしい

 今度奴隷を買うときはアイテムバックにサンドイッチなど仕込ませておこう。反抗されたら大変だしね。奴隷紋があるとはいえ、一矢報いて差し違えるとかできそうだから私の命のためにもおいしい料理を作っていこう。夕飯はパンとして、午後何しよう。花壇をやるにしてもすぐ終わっちゃうだろうし。

 セルは別棟を建てる。キャストルクは牧場。エスカテは農業。デリアスは漁。皆それぞれやってもらう事があるので、ダンジョンに一人で潜るわけにもいかないし、かといって料理……?


「花壇の後何しようかなぁ」

「お昼寝されてはいかがですか?成長期ですし、睡眠はいくらとっても良いと思いますよ」

「自分だけ寝るのは悪いからいい。それに夜眠れなくなりそうだし」

「夜眠れないようであれば添い寝で寝かしつけてあげますから。ささ」

「わっセル強引っ」


 渋る私をひょいっと横抱きにして運ぶセル。手足を動かすも全く動じてない。怪力め……くそう。

 子供だと思って侮って……いつか後悔(?)させてやる!

 自室のベッドに連れてこられてしまった……


「本当に夜眠れなくなりそうなんだけど?」

「……夜の御誘いですか?私としては大歓迎ですがマスターに負担が…」

「違うからね!?わかってて言ってるね!?」

「ふふ、冗談です。いや、やぶさかではありませんが。マスターには睡眠が必要ですよ。」


 布団をかけられ、頭をなでられると安心した。


「うーん……」

「ね?眠れそうでしょう?」


 得意げに言われてしまったがまさにそうだ。睡魔が襲ってきてる。

 この体で森の中を散策するのは思っていた以上にハードワークだったようだ。


「うん……夕飯作る前にはおこしてね?」

「はい。おやすみなさい」

「ん、おやすみ。料理は飛び切り美味しいの作るから」


 楽しみにしています、とおでこにキスをしてセルは部屋を出ていった。


「ふわっ明日はがんばろ」




 ――――――


 セルが階段を下りると、食事を終えたキャストルクとエスカテが待っていた。


「マスター寝られました?」

「ええ、すぐに就寝されました」

「ご主人様にはもっと遊んだり、睡眠をとったりと必要ですよね」

「幼いながらとても勤勉ですからね、いえ、幼いからこそでしょうか」


 幼いマスターが自ら生計を経てていかなければいけない、そんな環境故の勤勉さなのだろう、とセルはそっと息を吐いた。


「マスターが余裕を持てるよう我々で頑張りましょう」

「そうですね。ご主人様のために頑張ります!」

「マスターのためにおいしいお野菜つくります!」


 過保護な奴隷たちの間で、マスターを楽させようの会が設立した。


お読みいただきありがとうございます。

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