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運命共同体

 

「赤牛はいたけど赤鶏いないね」

「ああ……」

「あ、新しいお花だ。花壇で育てよう」

「ああ……マスター、ちょっと休憩良いか?」

「えー、お安い御用って言ってたのに、まあいいけど」

「感謝する」


 汗だくなデリアスがその場に腰を下ろした。

 いま私たちがいるのは、ララの木の群生地だ。

 森に入りしばらくするとララの木の群生地にぶち当たったのだ。

 有言実行とばかりにシャベル片手にデリアスが動き始めたが、屋敷からそう離れていないのでこのままこの土地をゲットして十分利用可能だと結論だてた。手持無沙汰になってしまったデリアスには代わりに草刈をお願いしたのだ。

 背の高いデリアスが、中腰で草をプチプチとするのは大変で、慣れない体制にいつの間にか汗だくになっていた。息を乱していないのは流石といえよう。

 その間私はララの実を食べに来た赤牛達にさりげなく魔物の餌を投げてテイムしたり、綺麗なお花や薬草を採取していた。

 背の低い私はけろりとしている。


 ちゅーばっかしてくるデリアスを懲らしめることには成功した。が、あんまりやると反撃が怖いのでそろそろ切り上げるべきだろう。


「赤鶏はテイム出来なかったけど、キャストルク達帰ってくる頃だろうし戻ろうか」

「……ああ」


 汗をぬぐう仕草かっこよ

 はっ、違う。


「デリアスこれ首にかけてなよ」


 アイテムバックにしまっておいた氷の魔石を取り出しデリアスに渡すと渋られる。


「……いいのか?」

「暑いでしょ?汗ふけば風邪ひかないと思うし、涼しいよ」

「なんだ、そういう意味か」


 ちょっとがっかりしながら受け取られた。


「え?もしかして竜人に氷の魔石を渡すって何かあるの?」

「求婚だ」

「へあ!?!!?」

「マスターの伴侶の座に入れてもらえるのかと期待した……」


 背を向けて落ち込むデリアス。

 やっべええ、どうしよう。知らなかったとはいえ、求婚はやらかした。


「いや、あの、知らなくてですね!?勘違いさせてごめんっていうか、えっと」



「ぶふっ」

「え」


 噴出したデリアスの肩はよく見るとプルプル震えている。

 やられた!


「からかったな!!」

「ぶはっ悪かった。悪かったってははっ」


 腹を抱えて笑うデリアスの背をこのーーー!!とたたく。14歳少年の私の拳じゃダメージ入らないだろうけど、むかつくー!

 本気でへこましちゃったか慌てたじゃないかこんちくしょうっ

 何度か叩くと軽々と拳を受け止められてしまった。押しても引いてもびくともしないのがなお腹立つ。

 良い筋肉しやがってっ。


「いいよもう。デリアスにはおいしいご飯作っても食べさせてあげない」

「マスターが作ってくれるのか?」

「デリアスにはあげないけどね」


 これからどんなにふわふわなパンに、出汁のきいたスープが出来てもあげない。

 ふんっと顔を背ける。

 そんな私の反応にふっと笑うと腕を引かれて抱き込まれた。


「ぐえ、ちょ、デリア―――」

「悪かった。ただ、残念だったのは本当だ」

「え?」

「誓った主と共になれる、これ以上の幸せはない」


 胸元から顔をあげると、愛おしいと表情で訴えてくるデリアス。

 ―――こ、れは、本気だ。


「こんなに優しくしてもらって惚れるなっていう方が無理だ。」

「……優しくないよ、私は」


 特別優しくしたつもりはない、むしろ私のこれからの行動に縛っているのに。

 本当に……?

 そう瞳で訴えると、デリアスは目じりを下げ瞼にキスを落とした。


「いつか、俺を伴侶にしてやってもいいと思えたらもう一度、この魔石を渡してくれ。騎士と主、運命共同体だからな。時間は十分ある」

「……うん」


 ひとまず今は借りとくぜ、と氷の魔石を首にかけるデリアス。

 告白された以上、いつか答えを出さなければいけない。

 男として生きてきた14年間に、前世の女の記憶が蘇って私の心はどっちになってしまったんだろう?

 考える私のほっぺをぷにぷにいじられ口づけされる。


「柔らかいな、何度でもしたくなる」

「わっちょ、くすぐったいよ」


 おでこ、瞼、ほっぺと何度もちゅっとキスされる。

 至近距離できらきらと輝く瞳はとても楽しそうで……


「近い」

「ぐえっ」


 両手で思いっきり押すと流石のデリアスも力負けしたようだ。

 暫く攻防していると

 突如、デリアスの背後で高い草が揺れた。


 デリアスも気が付いていなかったようで、慌てて私を抱き上げ距離を取ろうと腰をあげ―――


「マスター!!」


 ――ようとしたところで、飛び出してきたのはセルだった。


「セル!?驚かさないでよ!!!」

「背後をとるな……紛らわしい」

「いえ、マスターの感情が揺らいだ気がして慌ててきたんですけど……」


 感情が揺らいだ……

 ぶわっとセルの言葉に顔が熱くなる。

 私のいかにも何かありましたな態度に、セルはウルデリアスに詰めよる。


「ウルデリアス、マスターに何したんですか?って、貴方もマスターに魔石を頂いたのですね」

「借りものだ。心が決まったらもう1度くれるそうだ。”も”って事はセルも?」

「ええ、私もマスターに振り向いてもらえるよう頑張ってるところです」

「え!?」


 セルの発言に大声を出してしまった。

 カーストって言うから渡したんだけどもしかして…


「精霊族は好いた相手に魔石を渡すんです。なので、より多く持っている人はモテモテって事ですね」


 カーストってそういうカーストかよ!!

 セルに新しく魔石をプレゼントしようって考えてたけど、別の何かが良い。主に私の身の安全のために。


「マスターはかなり鈍感だからお互い協力して頑張ろう」

「ええ、マスター程の人は伴侶一人というのはおかしいですから、異論ありません」


 がっと手を握り合わなくていい。協定を組むな。私に勝ち目がなくなる。勝ち目ってなんだ。

 よくわからない思考にため息をはく。

 と、話夢中で気が付かなかったけど、セルが片手に持ってるのなんだ。随分丸い……何かもさもさしてる?

 じっと見すぎたのかセルがこちらを向いた。


「セル、それ何?」

「ああ、赤鶏です。森を伐採した所出てきたので捕まえました」


 笑顔で足をつかまれた2尾の丸い鶏を差し出された。


「えっこれ赤鶏なの!?すごいまん丸で大きいね」


 大分でかい。通常の鶏をでっぷり太らせて2倍にした感じだ。

 お肉乗りすぎじゃない?赤牛が牛と変わらなかったように、もっと鶏っぽいかと思った。


「喜んでいただけて何よりです。まだいたので捕まえてきましょうか?」


 ちょっとお花を摘んでくるぜ的なノリで言うセル。


「危ないんじゃないの?」

「いえ、背後から足元を掴んで宙吊りにすればすぐおとなしくなりますよ。簡単です」


 でっぷり重そうな鳥を宙吊りにする芸当はセルにしかできないのでは……?


「私には荷が重そうだからセルに任せるよ。それ、テイムしていい?ていうか、セルがテイムする?」

「奴隷の物はすべて主の物ですから、その方が効率的ですね」


 そういう意味で言ったんじゃなかったんだけどなー、と苦笑するとすっと顔を近づけられ


「勿論、私の身も心もマスターのものです」


 と、耳元でささやかれた。


 ここはいつから乙女ゲーになったんですかね


「マスター、エスカテ達が帰ってきたようですよ」


 セルセコムスゴイ。

 森での目標は達成できたのでよしとしよう。


「帰ろうか」

「はい!」

「ああ」


 長身の二人に挟まれて帰路につく


「こうしてみると仕事帰りの夫を迎えに行く妻のようですね」

「どちらかというと捕まった宇宙人じゃない?」

「うちゅうじん?」

「いや、なんでもない。忘れて」

お読みいただきありがとうございます

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