今後の方針
「そういえば、デリアスにも意見もらいたいんだけど」
と、言いセルにも見せた書類を渡す
顎に手を当てさっと読んだでリアスは一言。
「最終目的は決まってるのか?」
「え?最終目的かーー…とりあえず豊かな生活と……隠居に向けて貯金?」
「出世前にもう隠居の話か、欲があるんだかないんだか」
確かに安定生活の前に輝かしい何かを遂げるのはちょっと憧れる。
「やっぱ従業員を雇ってお店で売上あげるのがいいかな。うん、ずっと働くのは嫌だし。」
「私が働きますよ?勿論、マスターを甲斐甲斐しくお世話するのも私の仕事です」
どーんと胸をはるセルだが、そうじゃない。それではタダのダラダラ人で私がなりたいのは隠居人だ。今すぐダラダラするか老後にダラダラするかの差だけど。
いや、現在セルに洗顔した顔を拭って貰ってる時点でダラダラ人の片鱗が……?
「とりあえずご飯いこ?そのためにデリアス来たんでしょ?」
「ああ、そうだった。2人が話あるってよ」
「え、それって昨日のー?気にしてないのに」
「ケジメつけたいんだろ、聞いてやってくれ」
デリアスに背を押されダイニングに到着すると
エスカテとキャストルクが頭を下げて待っていた。
「マスター、」
「ご主人様、」
「「申し訳ありませんでした!」」
息ぴったりに謝られる。
「昨日の話でしょ?別に気にしてないから、ご飯食べよ。」
「しかし!」
「良く考えれば皆長らく禁欲生活だったんだし反動で魔が差してもしょうがないよ。まあ、手を出されてたら流石に抵抗するけど、何もされてないし、ね?」
「ですけど……」
キャストルクの耳がペタンと下にむく。
本当に気にしてないのになあ
「んー、皆娼婦館いってきたら?発散すればもうそんな事にならないでしょ」
「!!!」
ビシッと固まった2人を横目に席につく。
私が薦めるのそんなビックリ?あー、私の見た目子供だもんな。うん。中身前世合わせたら…考えないようにしよう。
昨日の夜食いっぱぐれたから空腹なんだよね〜いただきます!とサンドイッチを頬張るとセルが隣に座った。
「マスターのお口からそのようなお話が出るとは予想外でした」
「そう?あ、避妊はしてね。お互いのために」
「マスターっ!もうやめてくれっあいつらの魂は粉砕されているっ」
デリアスの言葉で目を向けると2人は項垂れていた。
「私の修行不足です。ご主人様にそのような気遣いをさせてしまうとは……私、精進致します」
「僕も発情期に流されないように鍛えます」
おい、エスカテがなんか悟りを開き始めたぞ。
キャストルクあなた発情期だったの?
色々突っ込みたいが、何事も我慢しすぎは良くない。程々に発散して貰わないとタガが外れたら困る。
「別に気にせず行ってくればいいよ、誰にだってそういう欲はあるし。」
「……マスターもあるんですか?」
「私……?」
顔を上げると皆は、じっと私の答えを待っている。
うーん、性欲かー。正直前世を思い出してから女性も男性もそういう目で見れてないのでなんともいえない。恋はするものではなく、落ちるものって言うし。
「…どうだろうね?」
ふっと思わせぶりに笑っておくと、みんなに動揺が走った。
だが藁を叩いて蛇を出す輩はいないようで追求はしてこない。
されても困るのでラッキー。あ、これ美味しい。
「ねえ、このサンドイッチは誰が作ってくれたの?とても美味しいよ」
「私が作りました。マスターに褒めて頂けて嬉しいです」
「玉ねぎの辛さっておいしいよね〜」
セルとほのぼの料理トークをしている間、3人は頭を抱え呪文を唱えていた。
「こ、小悪魔だ……私はマスターの騎士。強靭な忍耐力を誇る騎士だ。」
「私は樹木から生まれたエルフ、そう、エルフ。樹木から生まれたエルフ。」
「今日は乳を加工する。終わったらブラッシング。道具を整える。泥を落として、いや、お風呂は忘れるんだ僕!!!」
いとカオスだ。
これは従業員として女の子を増やすのは別棟やら何やらを建ててからだな。
男子禁制、女子禁制とそれぞれ離れて建てよう。恋愛は職場に持ち込まなければokという事で。
さて、食後みんなが復活した頃合いを見て今後について話し合いを始める。
「エスカテ、今日は薬草どのくらい採れた?」
「薬草30枚に上薬草20枚です。大本も枯れずに元気に育ってます」
合計50枚とは上々だ。ポーションにして売るので大金だ。そういえばずっと気になっていたことを聞いてみる。
「この街に診療所とか薬局……薬屋さんって見ないけど他の街でも無いのが普通なの?」
「不調も怪我もポーションで何とかなりますので無いですね。あっても王都ぐらいです」
「成程」
あーそういう感じね。飲むだけでなんでも治っちゃう薬があるんだから、医者は儲からないのだろう。てことは食生活が原因の糖尿病患者は原因がわからないから定期的にポーションが必要って事……?
それにポーションでガリガリの体が元に戻ったから、肥満な人が飲んだら痩せるのか……いや、宿屋の女将さんはふくよかだったから飢餓状態だけ作用する……?わからん!!!
生活習慣病には気をつけよう。
「それって、定期的にポーションが必要って結構お金かからない?」
「そうですね。貧困層はお金が工面できませんから、薬代として子供を売るんです。」
え、怖っ。ん?てことは、店員全部を奴隷にしなくても、上手くいけば売られた子のその家族ごと雇えるのでは?
「その通りだと思いますが、情報漏洩考えるとおすすめ出来ません。」
おっと口に出ていたようだ。確かに色々開発するなら関わらせられないな。
「そうだね。重要拠点はやっぱ奴隷か……」
「1つ提案するとしたら、奴隷では入れない店や場所に視察に行ってもらうのとかな。此方の重要な情報を知らない分、客観的観点から意見を入手出来る」
「敵情視察にはもってこい、か。デリアスさすがだね」
奴隷は身分だから貴族エリアなんかには入れないのだろう。
そう考えると、この街は身分差が強く意識されていない良い街だ。
「そしたら、今後増設、増員していくうえで人をまとめるトップが必要になるから、
農園のリーダーをエスカテ。牧場リーダーをキャストルクとし、部下をつける方針でどうかな?」
「はい!ご主人様の為に精一杯、教育させて頂きます!」
「僕も頑張って教えます!」
良い返事を貰えたのでよかった。
農園と牧場は早急に広げたい。食事事情解決の為にもね。食事事情といえば魚だけど。
「魚の養殖なんだけど養殖ってどんな事するの?全然想像つかなくて」
「水質管理は一瞬で終わるから、捌くぐらいだな。漁をしないのなら暇だ。」
暇なら育成もそんな時間かからないだろうし、
食事を作る料理人も任せたいな。
今後人数が増えていくなら食堂も絶対必要だ。
こっちの料理は詳しくないし、私が教える料理が受け入れられるかチェックも必要だ。
シェスタさんを招待するのもそれからでいいだろう。
「そしたら料理もお願いしてもいい?あ、勿論養殖には漁師、調理は職業料理人を探してくるよ。」
「料理は得意だから問題ないな。だが、騎士に料理させるとは……ふっさすがマスターだ」
デリアスに吹き出されてしまった。
「もちろん、デリアスは私の騎士だからね。料理は私も参戦するからよろしくね」
「了解した。お傍に」
騎士としての彼も納得してもらえた。
漁師はデリアスでなくちゃダメって訳ではないので適当に後任をつけて事業にアドバイス貰おう。私より色々知っているし、抜け目なさそうだから安心だ。
最後はずっと隣でキラキラと瞳を輝かせているセルだが、戦闘もできる(怪力)し、建築もできる、さらに気遣いやらが完璧で……万能型だ。
「セルは私の傍で補助をお願いしたいな。新しい家とかお店、作業場の意見欲しいし」
「はい!!勿論です!」
全員無事決まりだ。
早速別れて行動するとしよう。
「よし、そしたらキャストルクとエスカテで、ポーションを売ってその代金で種と色んな調味料買ってきてもらえる?帰りがけに冒険者ギルドで敷地の杭をお願い。」
「はい!行ってきます」
「ワープしますね」
ポーションを渡すとキャストルクの探索者能力で瞬時に移動した。便利だ。
「その間に、セルは近隣の木を伐採して建築用木材をよろしく」
「はい!シャベルなどあれば、楽に根っこごと薬草など取れますが、とっておきますか?」
「そうだね。増やしたいからお願い」
「了解です!」
シャベルとアイテムバックを作成し渡すと颯爽とかけて行ったセル。
「赤牛と赤鶏をテイムしたいから一緒に来てくれる?」
「御意」
私がお願いすると跪いて手にキスをするデリアス。
手の甲へは敬愛だ、と思い出した無反応の私にデリアスは私の腕を持ち上げ、手首にちゅっとする。
「どわっ」
「こっちは照れるのか」
私の驚き方、どわって……。いや、これは全部デリアスのせいだ。
ちゅっちゅっとわざとリップ音をたてるデリアスを半目で眺めると笑って手を離してくれた。
「ララの木が出たら、根っこからとって?」
「おやすい御用だ。」
目じりを下げてご機嫌なデリアスには、ララの木を見つけたら全部根っこから採取してもらおう。そう全部だ。言質はとった。
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