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小さな王

 

 今日はいつもより早く目が覚めた。

 昨日は早くに寝たせいだろう。なんやかんや夕飯たべ損ねたな。まあいいか。

 一晩経てば冷静になるもんで、とってくわれたわけでもないので気にすることはない。

 逆に言えば、気軽に一緒にお風呂入ろうとか、ないだろう。反省だ。


 2度寝も出来そうにないので、今後の方針をまとめることにする。


 机に紙と羽ペンを広げ書きだす。雑貨屋で買っておいてよかった。


 まず、昨日の冒険でわかったことは、私の幸運がある限りダンジョンで素材を集めるのが一番お金が稼げる。

 他の冒険者は、モンスターとの遭遇率は上がるが、アイテムは落ちないので結果品薄という状況のようだ。

 低階層に人っ子一人いなかったも滑車をかけている。


 今はまだ素材を高く買い取ってもらえてるけど、私らが売りまくるだけ、安定供給となって値段が落ちてしまう。それを回避するためには加工して販売すべきだ。

 ただやみくもに物を作って売っても、すでに街にあるお店と激突するのは間違いない、わざわざ事を荒立てて恨まれたら面倒なので、既に事業を成功させているお店に、制作販売してもらう形が望ましい。

 売り上げの一部を特許として私が得るというものだ。商業について何も知らない私が一から販売するより、独自の販売ルートを確立したお店にお願いする方がずっと早く利益が上がる。お店側は新しいもので売り上げ大幅アップ。ウィンウィンの関係だ。

 ただ問題なのが、出し抜かれてまるっと権利ごと奪われないか、だ。適当に交渉しに行ったら、平平凡凡な私が駆け引き慣れしている商人に出し抜かれる光景がありありと浮かぶ……。つてもないので面接を繰り返して吟味するしかない。慌てたら大損、慎重にいこう。


 もう1つの考えは、料理だ。

 黒パンや、塩味のスープなど、こちらの発展していない料理をおいしくしてしまえばいい。

 前世で一人暮らしだったので料理は得意、その知識と経験を活かせば俄然おいしいものが作れる。

 ただ、同じ材料が此方にもあるかどうかだ。

 黒パンは重曹を膨らまし粉として練りこめば柔らかくなるし、スープも鳥などのお肉からだしを取れば断然変わってくるので簡単だ。昆布、鰹節とか素材屋さんでさりげなく聞くのもありだ。

 それにファンタジーなモンスターがいるのだ、昆布を落とす海藻モンスターとかいておかしくない。むしろいてくれ。


 場所は、街中に店を構えるのは高そうだし、秘匿性の観点からも屋敷の近くに建てれば問題ないだろう。

 この世界税金とかどうなってんだろう……。細かいことは追々つめるとしよう。


「まずは、敷地の拡張と、秘匿開発、部下の増員と……」

「マスターおはようございます」

「どわっ」


 驚きのあまり椅子からひっくり返った所を後ろから支えられた。

 慌てて頭上から噛み殺した笑いをする人物を仰ぎ見る。


「せ、セル!」

「ノックしても反応がなかったのでお声がけさせていただきました。随分と集中なさっていましたが、それは……?」

「ああ、これね今後の方針を書き出してたんだ」

「そうなのですね、拝見しても?」

「構わないよ」


 失礼します、私を抱き上げて自身が椅子へ座り、横抱きに膝の上に乗せられた。

 ナチュラルすぎて私びっくりよ!?

 声をかけようとすると、とても真剣に書類を見ているので、仕方なく黙ってお人形になっておくことにした。

 度々聞こえる紙をめくる音と、セルの感心したような息遣い、それに囲まれたあったかい体温はとてもおちつく……

 安心できる腕の中、うとうとしていると頭上から、ポツリと言葉がとどいた。


「マスターは、怒っておられないのですか?」

「ん?何を?」


 何の話か聞き返すと非常に言いにくそうに口を開いた。


「マスターを、その、一瞬でもそういう目で見てしまった我々を、です」

「ああ、それね。別に怒ってないよ」


 今更生娘でもあるまいし、手を出されたわけではないのだ。ピーピー喚くことではない。


「本当に……?」


 酷く不安そうな声に顔を上げると、案の定泣き出しそうなセルがいた。

 普段しっかりしてる彼のそんな表情に驚く、それをどう捉えたのか、身を引いたセルに両手を伸ばして捕まえる。


 優しくほほをなでこちらを向くよう促す。


「本当だよ。セル」


「……捨てないですか?」


 ああ、そうか。

 彼がここまで不安になる理由が分かった。

 いくら私が彼らを奴隷として見ていなくても、彼は常に命を、人生を私に握られている。彼がどう思っていても、私の一言で簡単に崩れてしまう関係なのだ。

 そんな状況で不安に思わないわけがない。


 ————だったらいっそのことこの関係を一度壊してしまえばいい。


「捨てないよ。もし不安なら奴隷紋をとって、対等に———」

「それは嫌です!」

「え!?」


 全力で嫌がられた。

 奴隷として開放されれば万事解決じゃないの!?

 なぜ————?



「私は貴方の所有物(もの)で居たい」



 眉を下げ切なげに、だけど力強い意志を乗せた目に射貫かれた。

 極めつけに指先にちゅっと口づけされる。


 ぶわっと顔が熱を帯びる。


 な、なんちゅう表情をしてるんですかセルさん。そ、それに私のもので居たいとか。

 あまりの色気にパクパクと口を動かすだけの私に、だめ押しとばかりにセルは指先に何度もキスをする。

 柔らかい唇がっ慌てて手を引こうとすると大きな手に捕まれ逃げられない。


「いあ、あのわかった!!分かったから!手をっ」


「ずっと貴方のもので居させてくださいますか?」


 はっと息をのむ。


 ずいっと近づけられた顔は真剣で、握られた手は小刻みに震えている。

 そうだ、これはセルの人生がかかった真剣な話だ。

 何を恥ずかしがってるだ私は、一呼吸おいてこちらも真剣に見つ返す。


「誓う。セルはずっと私のものだ」

「はい!」


 私の言葉にセルが抱き着いてくると同時に、カチリと何かがはまったような感覚がした。


「なんか、今……」

「はい、マスターのお言葉と私の願いが精霊王に届いたようです。祝福して下さってます」


 !?

 精霊王!?

 いきなりなファンタジー用語におったまげるが、セルの温かい抱擁でここが現実なのだと思い返される。


「祝福して下さるのって珍しいの?」

「そうそうありません。祝福を頂くと強い力で魂が結ばれ、互いの危機などわかるようになると言われています」

「それは安心だね」

「はい!これでマスターを死してなお守れます」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるセルの背をなでる。

 よほどうれしかったのだろう。


「死してなおって事は幽霊になってもってこと?」

「いえ、精霊に寿命はありませんのでマスターの魂が天に戻るとき、私もついていけるんです」

「寿命が、ない?」


 うっひゃあ、精霊が人類が望む終着点の不老だとは思わなかった。

 大切な人に置いて行かれて独りで長い時を生き果てた精霊はひどく苦しげだった、とセルは語ってくれた。

 セルは私と結ばれた事で寿命を得たわけだが、本人がこれだけ嬉しそうにしているので本当に良かったのだろう。

 ていうか、精霊が不老ってばれたら実験体にされちゃうんじゃ……?

 そんな私の不安を感じ取ったのか頬をすりよせ、セルは無邪気に答える。


「不老は内緒でお願いしますね」

「ふふ、お互い秘密がいっぱいだ」


 おでこを合わせ笑いあう。

 私としても何をされても口を割る気はないので大丈夫だ。


 これからは運命共同体だ。

 ひと段落ついたら、セルが書類を手に意見を述べる。


「人員増加の件ですが、戦争孤児の奴隷が良いかと。下手な変態に捕まって命を落とす未来より、優しいマスターのもとでの生活を拒む人はいないと思います」


 確かに戦闘で活かせない子供の未来と考えたらそういう道になってしまうのだろう。

 こういってはなんだが、人質となる家族や故郷がないというのは情報漏えいという面でみても安全か


「うん、そうしようかな」

「はい!教育はお任せください」


 あらやだ、頼もしい。

 魂の契約もしたのだし今度新しく魔石をプレゼントしよう。

 セルの瞳にあったはちみつ色のものがあればいいなあ、うん。私も加工した魔石を指輪で持っておきたい。

 まて、それじゃ結婚したみたいじゃね?お、親指とかにつければ問題ないよね。

 自問自答を繰り返しているとノックの音が響いた。


「開いてるよ、どうぞ」

「なんだ、起きてたのか。セルが返ってこないからベッドインしてるかと思った」


 入ってきたのはデリアスだった。にしてもベッドインって変態臭い


「朝からそんな盛るわけないでしょ」

「椅子の上でいちゃこらしてるマスターに言われてもなあ?」

「マスターと私は運命共同体ですから」


 ちゅっと瞼にキスをされる。

 黙っておとなしくしてたと思ったらこれだ。

 油断ならないなあ、晴れやかな笑顔だからいいか。


「なんだ、立ち直ったのか」

「ええ、ずっと私を離さないと誓ってくださったんです」


 ですよね?と首を傾げ確認してくるセルかわいい。

 へえ、とデリアスはつぶやくと、いつかと同様に跪き私の手を取った。


「俺も龍神に誓いを立てたからな、ずっとマスターの騎士だ」


 な?と、手の甲にキスを落とされる。

 あの川辺で誓ったのまじだったのか。全然挨拶とかじゃなかった。

 あの頃から、決意は変わらず固いようだ、なら私も腹をくくるべきだろう。


「そうだね。デリアスは私の騎士だ」


 キンッとつながる感覚。これはもしや


「ふ、龍神の祝福だ。やっと覚悟決めたな」


 目くつくつと大人の色気満載で笑うデリアスの上目使いは破壊力やばい。まじでやばい。

 思わず母国語を失った。



 精霊は精霊王、竜人は龍神、とそれぞれ違う種族で違う神に誓ったがその志は同じだ。

 契りを結んだマスター側もその心は清らかで輝かしいものだ。



 この日、様々な種族の長として立つ小さな王が誕生した。

お読みいただきありがとうございます

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