そもそも異世界なんだから常識違うやん
「上品なマスターならこちらのお色も似合うかと!」
「いえ、マスターは落ち着いた金髪なのであまり派手なものは似合わなのでは?」
「なら、こちらの紅色はいかがです!派手すぎず上品ですよ!」
セルと店員の服装トークバトルがすさまじい。
井戸端会議や、ご近所づきあいで、よく女性はずっと話しているなんてイメージを持っていたがセルは女の子だったのだろうか?こんなしょうもない事を考えつつ壁際でげんなりである。
女性の買い物は長いとよく言うが、待たされる人の気持ちを今実感した。
事の発端は、皆サイズが違うのでそれぞれ見て回ろうという事になり、治安が良い街なので私も一人で買い物を楽しむことにしたのだ。暫くしてよさげな服を購入できたので、待ち合わせ場所としていた広間で既に待っていた面々と合流したが待てど暮らせどセルだけが来ない。何か事件にでも巻き込まれたのではと思い片っ端から店を覗いていったら何やら店員と白熱したバトルをくり広げていた。セルを回収するだけなので、皆には店の前で待っていてもらう。
何もなかったようで何よりと、ほっと息を吐き、店に入ったら冒頭の会話だ。
「マスター!この服いかがです?似合うと思うのですが」
入店した私に気付いた、セルがいち早く洋服を差し出してくる。
襟、袖元と、フリルがふんだんに使われた洋服だ。どこの貴族だ。非常に動きずらそうなので却下する。
「それより、セルは自分の服選んだの?」
「勿論購入済みです!ただ今、裾下げ中で時間がかかるので、その間にマスターのお洋服をと見繕っていました」
裾下げ?足長いってことか。くそう羨ましい。
私は子供だし、動きやすさ重視の半ズボンを購入した、なので裾の長さ気にしなくて済んだけど、皆は半ズボンじゃないもんな。だから時間がかかったのか、なら仕方がない。
私らの会話がひと段落したのを見計らって店員がするっと入ってくる。
割り込んできたと感じさせない手慣れた手腕に思わずどこの諜報部員だと思ってしまったが飲み込んだ。
「プレゼントされる殿方はこちらの方でしたのね!」
「ええ、とても愛らしいでしょう?なのでフリルを選んだのですが、難しいですね」
そう困ったように眉を下げられる。が、愛らしいって子供っぽいってことか?あんまりうれしくない。
ぶすっとしていると、店員が一度店奥に戻り一色の服をもって戻ってきた。
「旦那様はフリルをあまり好きではないご様子でしたので、セル様のご要望を兼ねた服となりますと、これなんていかがでしょう」
新作なんですよ?と見せられた洋服はフランスのアビ・ア・ラ・フランセーズという貴族服の形に近いデザインだ。記憶にある貴族服よりかは、全体的に装飾品が少ない、タイト仕様だ。
まず、上着は装飾の少ないジェストコールで一見地味だが、中のベストにあしらわれた刺繍のおかげで上品さが際立っている。中のシャツもすっきりとしており、袖元フリルがないので動きやすそうだ。
コート後ろは、腰の高さにある装飾ベルトの下から布が重ねて織られており、動くたびふわっとスカートのように広がる。下はブリーチズなキュロットで締まっている。
はっきり言おう。ど好みだ。
セルも後ろの広がる布部分が気に入ったようで、ぜひ着て回ってほしいと言われた。
二人の要望を見事打ちぬいた服を持ってきた店員……本当に何者なんだ……。とても一店員とは思えない目利きの良さに、服屋を経営することになったらぜひ引き込みたい人材だ。
見れば見るほど好きなデザインに舌を巻いていると、店員が追加で靴を持ってやってきた。
「愛らしい旦那様には違和感なく着ていただけると思いますよ」
出された靴もこれまたど直球なデザインだ。
にっこりと笑う店員と目が合う、この表情は知っている。
前世、幼少期の私を着せ替えしてめちゃくちゃ楽しんでいた近所のお姉さんの顔だ。
似合っていると太鼓判を押されたので、一応販売前なのに大丈夫なのか聞くと、
「ふふ、冒険者の方って粗暴な人が多いから貴方たちみたいな丁寧な対応して下さるのうれしくてね。
それに、愛らしい旦那様が着てくれたら、他の方も我先にと購入しに来てくれるはずだわ」
販売前の品を常連じゃない私に出してくるので何か裏があるのかと思ったら、広告塔ってことですね!
そういう事ならありがたく買わせていただきます。
「またいらしてちょうだいね~」
元気に見送られ、店を後にする。
皆お待たせ~と合流をし、適当に夕飯を買って帰路につく。
キャストルクのワープは登録したワープポイントへしか飛べないため帰りは徒歩だ。
「皆良い服買えた?」
「はい!あ、これ余ったお金です。」
律儀におつりを差し出しだされたが、何かあった時に0デルじゃ困るので持っていてもらう事にした。
元々皆で稼いだお金だしね。
馴染みとなった川沿いを進み家に着いた頃にはもうだいぶ陽が落ちており、今日は川で水浴びをせず、ちょっとした実験を行う事にする。
川に入るのを止めて、軽装になるよう伝え浴室に向かう。汗もかいたことだろうし、お風呂を作るのだ。
装備を外して身軽になり、いざ!お風呂作りだ。
浴室に大工加速で大きな木製の浴槽をつくる。大浴場とまではいかないが、ぎり5人入れるといった感じか。
作った浴槽にSP振り分けで得た水魔法、ウォーターウォールを放つと、勢いが良すぎて盛大に水を被ってしまった。床などは水はけがよいので問題ないので服がびしゃびしゃになりながらもそれなりに水を貯めることができた。
その水に対してファイヤーウォールと唱える。本来の使い方は複数のモンスターを同時に攻撃する炎の壁を展開する魔法であり、決してお水をお湯にかえる魔法ではない。とくに爆発することもなく
水中に展開されたファイヤーウォールで、沸騰させることができた。
かき混ぜると程よい暑さでほかほかだ。
片づけ終わったのか、セルがひょいと浴室に顔を出したが、固まってしまった。
「セル?あ、これお風呂!作ってみたんだ。一緒に入ろう?」
「……っ、……はい」
声を絞り出すと、一瞬にして引っ込んだセル。
え?なに、なんか急用でも思い出したん?
セルの不可解すぎる行動に謎めきつつ、いつまでも水浸しの服を着てるわけにもいかないので脱ぐ。
ぬれた服ってのは結構脱ぎずらく、ぜえはあだ、服は後で洗濯すればいいだろう。
と、洋服絞ってを桶に入れていると浴室の扉が開き今度はデリアスが顔をのぞかせてきた。
「よう、マスター……ぁ」
「デリアスも一緒に入ろう?皆も呼んできてくれる?」
「……確かにこれはやばい」
真顔でやばいと口を押えると、ぴしゃん、と扉を閉められて出ていかれた。
やばいってなんだ。扉の開閉で逃げた熱気にちょっと寒くなる。
んー、やばい?湯気とか熱気?お風呂を見たことがないって言ってたけどあの驚きよう、こっちのお風呂ってお湯につからないとか?
よくわからん。まあいいか、思考も面倒になったのでとっとと体を洗い湯船につかる。
「ふあ~~~さいこ」
間抜けな声が漏れるけどもう、そんなのどうでもいい。
疲れた体がほぐれる、これよこれ~と日本人魂が喜んでいるのを感じつつ、湯船を堪能していると、今度は服を着たエスカテが浴室にやってきた。
一歩歩くごとにズボンの裾がぬれるので慌てて入浴方法を説明しようと立ち上がる。
「服ぬれちゃうから、脱いで——」
「やっぱり、無理ですっうわあああああっ」
説明途中に、そう叫んでエスカテが出ていった。
え、なんなんだ。水……は川に普通には入れてたし、お湯恐怖症とか?え?エルフはお湯だめとか?
そんな馬鹿な、だが皆の奇行が心配なので仕方がなくお風呂から上がる。
もうちょっと浸かっていたかったなーと浴室の扉を開けると、キャストルクがタオルを体にかけてくれた。
「ありがとう。ねえ、みんな変なんだけどお風呂恐怖症だったりするの?」
「あの……いえ、えっと」
あれ、一向に目が合わない。キャストルクも変だ。
何、どうしたんだ。お風呂がそんなに衝撃的だったのか。
「え?何、お風呂そんなにやばい?いや、あれ別に沸騰してるお湯じゃないから火傷とかしないよ?きもちいいよ?」
危なくないよ~と一歩近づいたら、しっぽをぶわっと広げたキャストルクが叫ぶ。
「マスターが魅力的過ぎて襲いかねないんです!!」
言い切るや否や、真っ赤な顔で去っていく。
ばたばた、がしゃーんと遠くで音がした。
「いや、嘘だろ……」
衝撃的事実に頭を抱える。
襲いかねないってまだ私14歳だぞ、いや、一応独り立ちを認められる年齢ではあるけど……
え、ていうか皆固まってたのってそういう目で見ちゃったから!?え、だってセル川で別に平気だったじゃん!?なんで今更!?
パニックだ。
前の世界で一度も同性からそういう目で見られたことないから特に考えてなかったけどで同性愛はあったのだ。それに!!ここ別世界でそもそも種族が違うし、子孫繁栄の方法も違うんだから私の世界の常識が通じるわけなかったのだ。
やばい。
このままでは、食われる。
ひょえっと震えるが皆耐えてくれたので刺激しなければ大丈夫だろう。い、いざとなれば奴隷紋があるので貞操は自分で守れる。
きっちり着替えそろりと浴室から出ると、誰ともすれ違わず自室についた。部屋にはセルのベッドがあるが無人だ、寝室については今後、考え直すべきかもしれない。
疲れた頭でお布団にダイブする。お風呂でちょっとはリラックスできたのかすぐ眠気が来た。
今後は頑丈にガード固めていこう。そうしよう。
そう決意し眠りについた。
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