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距離感がおかしいような…?


微睡みの中、誰かの暖かい手で頭を撫でられ目が覚める。


「……どうぞ、まだ寝ていてください」


そんな優しい声に再び眠りへと誘われもう一度意識を落とした。



「ん……」


眩しい光で目が覚めた。大きな窓から太陽の光がサンサンと耀いている。今日もいい天気だ。

そういえば、なんだか暖かい夢を見たような……寝ぼけ眼で、よっこらせと上半身を起き上がらせる。体がいつもより重たい。寝すぎたのかな?


というか、あれいつの間に寝てたっけ?

昨日は……お仕事振り分けて、昼食を、皆の前で

泣いちゃって……………


「うわああああああっ」


完璧に思い出した。


皆の前で泣いた挙句そのまま寝落ちるとかいい年こいて何してんの私!!!!あ、体は14歳だけど!?

あまりの恥ずかしさに布団を丸かぶりして蹲る。

ぐあああっ恥ずかしい。誰かの前で泣いたのなんて前世、買ってもらったソフトクリームを落とした時1回ポッキリくらいで、涙枯れ果ててたはずなのに!


恥ずかしさのあまり唸っていると、バタバタと足音が聞こえたと思ったらバンッ、と勢いよく扉が開かれた。


「マスター!ご無事ですか!?」


慌てたセルがベッドへと近づいてくる気配がする……


「……だ、だいじょうぶ、です。おみぐるしいすがたをおみせして、もうしわけありません……」

「……マスター?」


物凄く困った声が布団越しに聞こえる。


いや、だってもうどんな顔すればいいんですかね!?

そのまま蹲っていると、ぐぅっとお腹がなった。その音がセルにも聞こえたようでふふ、と笑い声がする。


「朝食に致しましょう?ウルデリアスがお魚を焼いて待っていますよ?」


朝食……え、朝!?



「朝食って私どれだけ寝てっ……っ!?」


ガバッと布団から顔を出すと近距離にセルの笑顔がっっっ


「おはようございます」


良い笑顔と共におでこに唇を落とされた。

ナチュラル過ぎるそれに段々と顔に熱が集まるのがわかる。

朝からイケメンにお腹の音聞かれるし、キスされるとかもう、どうにでもなれ。



「……おはよう、セル」

「はい、おはようございます。マスター」


用意されていた桶で、ささっと顔を洗うとセルがタオルで拭ってくれた。待たせては悪いと慌てて着替え始めると、脱いだ服は回収され洗濯の終わった新しい服を渡された。

え、もう至れり尽くせりじゃない?


「ありがとう」

「いえ、これくらい当然ですから」


お礼を言ったら笑顔が返される。

初日とは違い、セルはとても笑顔が増えた。


「そういえば、昨日の夜はきちんと食べた?」

「はい。赤牛から手に入れた乳をキャストルクが問題なく加工できているか確認のため少々頂きました」


え、加工確認って、それ……きちんとって言わなくない?

表情に出ていたのかセルが眉を下げて話し始める。


「マスター、奴隷は基本、1日にパンを1つと追加でも、主の残りを少々いただければ良い方なのです。」


成人男性が一日にパンを1つに残り物!?!!?

栄養不足でぶっ倒れるじゃん!!


「だめ!1日3食きっちり食べて!私がいなくてもこれ義務!食材はキッチンの自由に使っていいから、足りなかったら野菜とか、魚とか!!ね!?」

「……よろしいのですか?」

「よろしいのです!」

「ありがとうございます。」



セル笑顔が戻ったのでほっとする。これで何も言わなくても食べてくれるだろう。

勢いのあまり掴んでしまったセルの服を離す。

思わずとった行動とはいえ、段々子供に近づいてないか?中身大人としてはちょっと恥ずかしい。

いや、外見子供だから年相応に見られてそうだけどね?


セルが屈んだと思ったら頭にキスされた。

え、唐突。

ていうか、食事は遠慮するけど、キスとかは普通にしてくるって距離感がよくわかんないな…キスって挨拶だったりするのか?


「精霊って挨拶がわりにキスするの?」

「いえ、しませんが」

「そ、そう」


にっこりと否定されてしまった。

挨拶でなかったらどういうキスだというのだ。聞いたら色々終わりそうな気がするので流しておく。


セルとともに階段をおりるとちょうどキャストルクがお玉を片手に顔を出した。

うん、かわいい。


「マスターおはようございます!」

「キャストルクおはよう。」

「今朝は赤牛の乳に、川でとれた焼き魚、お野菜のスープです。」

「あ、キャストルク、さっきセルにも言ったんだけど1日3食。きっちり食べて。これ義務ね」

「え、そんな、よろしいのですか?」

「体は資本、その分お仕事頑張ってもらうから」

「はい!!皆にも伝えてきます!」


ぱああああっと笑顔になったキャストルクはキッチンへと戻っていった。

早速エスカテとウルデリアスに伝えているのだろう。


「ねえセル、私が寝てた間皆何してた?」

「キャストルクは赤牛をお世話して乳を樽いっぱいに確保し、エスカテは薬草園と畑の拡張。ウルデリアスは川でとった魚を生簀に。私は家具や、森の整地など行いました。」

「すごい、みんなちゃんと動いてくれてたんだね」

「マスターの為ですから、朝食は準備がかかると思いますし、確認しておきますか?」

「うん!見たい!」


セルと共に外へ出るとまず、薬草園、菜園共に頑丈な柵で囲われてるのが目に入った。薬草、野菜が綺麗に整列され植わっており、本格的だ。

畑隣の生簀には、水がなみなみと注がれており、その中を色んな種類の魚が優雅に泳いでいた。

倉庫も増設されており、農具や道具が使いやすいように陳列している。

遠くでは赤牛がもしゃもしゃと草を食べており、その周りにはキラキラと太陽の光を反射する水晶蟹がみられた。

半日でこれだけ進められていたとは思ってもみなかった。


「すごいよ!セル!こんなに立派になるなんて!流石だよ!」

「光栄です」


あちこち歩き回る私を見守ってくれていたセルに思わず抱きつくとぎゅっと抱き返された。

抱き返された拍子に、爽やかな森の香りがセルからふわっとした。柔軟剤を使ってないのに、とても良い香りがする。セルが森の精霊だからだろうか?

あんまし嗅ぐと変態くさいので程々で離れる。


と、壁にもたれてデリアスが此方を微笑ましく見ていた。

いつの間に!

肩を壁にどんって持たれるとかイケメンすぎる。


「マスター、おはようございます。朝食できたから呼びに来た」

「デリアスおはよう!生簀見たよすごいね!」

「このあたりの川は結構種類豊富だったからな、魚以外にもいろいろ居たぞ」

「エビとか!?」

「エビは居なかったが貝はいたぞ?」

「貝!?」


はまぐりとか居るのだろうか。

炭火で塩焼き、美味しいから何個でも入る。

ん?あれ、はまぐりって川?海?

魚介系は詳しくないからわからないな。海だったらどっか仕入れて養殖を……

と、考えていたら視界がいきなり上に上がった。


「うわっ」

「詳しくはまた今度だ。ご飯が冷めてしまう」


デリアスに抱き上げられたようだ。

長身のでリアスに抱き抱えられるとかなり視線が高く、新鮮だ。

そのまま移動されたので、落ちないよう慌てて首に腕を回すと、頭上から噛み殺した笑いが届いた。顔をあげると楽しげなデリアス目が合った。


「絶対落とさないが、抱きついてもらえるのは嬉しいな」

「わっ」


問答無用でほっぺにキスをされる。セルに引き続き距離がとても近い。竜人族は挨拶がわりにキスーーー…………

いや、もう何も言うまい。


ダイニングにつくと、エスカテが椅子を引いて待っていた。


「ご主人様、おはようございます」

「エスカテおはよう!わあ、美味しそうだね」


ホカホカの料理が5つ並んでいる。きちんと1日3食が伝わったようで何よりだ。

デリアスに椅子に下ろされると、みんな着席したので手を合わせ、食事を開始する。


「いただきます!」

「いただきます?」


ああ、そうか。こっちの世界でやる人はいないんだった。昨日の昼はご飯食べるみんなに夢中で挨拶しなかったもんな。皆の疑問顔にセルが答えた。


「いただきます、は食前の挨拶で、命を頂戴する食材に感謝を伝える言葉。でしたよねマスター?」

「うん。さすがセル。食後はご馳走様でした、で終わるよ。まあ、外だと目立つし、無理にやらなくて全然いいから」


食事の挨拶は皆に好印象だったようで


「食材に感謝……なるほど、確かに餓死寸前の時なお、ありがたく思っていましたがきちんと表現しる言葉があったのですね」

「生きている命をいただく……か」

「素晴らしい考えですね」


と、感心していた。

皆いただきます、と口にしてそれぞれ食事を開始する。


前世は一人暮らしOLだったし、今世は与えられた部屋で1人細々と食べていたのでこんな大人数での食事は久しぶりだ。


食事が一段落した時にセルが口を開いた。


「今日はどうされますか?」

「うーん、そうだねえ。皆畑とか生簀とかどんな感じ?」

「畑の作業は既に終わっています。収穫などまだやることは少ないですからね」

「赤牛もブラッシング終わっちゃったので暇です」

「生簀の水質は今朝確認済みだから問題ない」


おっふ、もう朝食前に終わらせていただと。

とすると、今緊急でやるべきこともないし

ずっと行ってみたかったダンジョンに行くのもありでは?


「皆、モンスターとの戦闘経験ってある?ダンジョンに行ってみたくて、どうかな?」


「良いですね!久しぶりにモンスターなぎ倒したいです!」

「私も盾を持って戦ってました。前線はお任せ下さい。」


セルがのほほんと物騒なことを言ってる。もしかしてあの怪力だから戦闘スタイルは素手だったりするのだろうか?

タンクってことは、ひょっとしてエスカテも、セルのような怪力だったりして……大きめの盾をもたせるのもありだろう。

デリアスは腰に提げている銅剣をポンポンと叩き、「マスターに頂いた剣があるので問題ない」と、とても頼もしい。

そんな3人に対してキャストルクは耳をへにょっとさせて自信なさげに口を開いた。


「匂いでどっちに敵がいるのかわかるくらいで戦闘はあまり……」


1番すごくないか!?


「匂いでわかるの?」

「はい、数は正確にはわかませんが大体の数と何のモンスターが居るのかは、わかります」


え、すごすぎない?


「安全に冒険できるってことじゃん!凄いよキャストルク!!!」


すごいよーーーと褒めちぎると不安げだったキャストルクに笑顔が戻った。


初めての冒険でいきなり数が多い戦闘になったらどうしようかと不安だったが、キャストルクのお陰で解決だ。

しかし、セル、エスカテ、デリアス、キャストルクと全員前衛だ。

私はダガーで狩人になったから弓矢とかでも、ん?待てよ。薬を調合して〝薬剤師〟を手にして

ダガーでモンスターを倒したら〝狩人〟


なら、他の武器でモンスターを倒したら……?


慌ててデリアスのステータスを確認する。


すると予想通り、予備職業の欄に剣士lv.1と表記されていた。

レアジョブの戦闘特化、剣士である。


続いてエスカテのステータスを確認すると、同じく予備職業の欄に盾使いlv.1と表記されていた。


セルは拳闘士と表記されており、キャストルクは探索者だ。


キャストルクの探索者には1番驚いた。でもこれで移動が楽になるのだ。

ダンジョン入口では、冒険者のステータスカードは確認していたが、奴隷については追求されていなかったので問題ないだろう。


万が一、奴隷商人に追求されても既に私の持ち物なのだ。何も言わせない。


移動に探索力、戦力と申し分ない。

あとは私の職業だが、前線は十分なので後方支援できるのがいいだろう。魔法とか?

剣士は剣、盾使いは盾、なら魔法使いなら杖で倒してみれば手に入るかも。最初杖で殴ることになるが試す価値は十分だ。


一気に楽しくなってきたぞ


食事を終わらせたところで、皆にも説明するとする。真剣な私の表情に皆背筋を伸ばし言葉を待つ。


「私はね、他人の習得可能職業を変えることが出来るんだ。君たちの職業を変えたから、ステータスカードを確認してみて」


ぽかーん、

私の意味不明な言葉に皆呆然としている。

そんな中、いち早く復活したセルが恐る恐る自身のステータスカードを確認した。

目が見開かれる。


「……拳闘士になっています」

「は!?そんなわけ、……っ、剣士……だと!?」

「私は盾使いになってます…」

「僕は探索者ですっ」


パニックだ。普段落ち着いてるみんながここまで慌てるのも無理はない。職業は7歳で与えられ、以降変えることは不可能。その能力に沿って人生を歩むのが一般的だ。


「そういうわけだから、ダンジョン内のジョブを決めたいと思うんだけど、前衛としてエスカテに盾使い、デリアスに剣士、中距離に槍使いとしてセル。探索はキャストルクに任せたいんだけどどうかな?」


ガバッと一斉に此方を振り返られる。

おおう、随分と揃った動きにビクッとしてしまった。


「マスター……すごすぎます……」

「規格外だな。」

「ご主人様、天使だったのですね」

「さすがマスターです!」


おい、若干1人斜め上を行く思考をしてるぞ。


The尊敬の目で見つめられるが、ただの転生特典なんで……いや、転生してる時点でただ事じゃないけど。


輝かしい瞳でデリアスが呟く。


「これで騎士も夢じゃない…」

「え?どういうこと?」


質問すると丁寧に説明してくれた。

職業は一定のレベルを超えると上位ジョブになる。剣士であれば騎士に。盾使いであればタンクに。探索者は、冒険者と言った具合だ。


「そしたら、今日は装備揃えてダンジョン行こうか」


「装備もいただけるのですか?」


「うん、皆が頑張ってくれた分今日は色々売れそうだしね。」


薬草、魚、樽の赤牛の乳と大金になりそうだ。万が一に備えてハイポーションなど皆に渡しておくことにする。


「貴重なポーションまで……」

「皆が大怪我したら大変だからね。さあいこっか!キャストルク、ワープできる?」

「はい、へスカティアの冒険者ギルドは一度通ってますので、行けます。」

「じゃあお願いね。」



探索者キャストルクに連れられてワープだ。



お読み頂きありがとうございます。



やっとダンジョンへと迎えそうですね。

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