家族
エスカテはどこかぎこちないが、ナイフとフォークを上手く使って問題なく食べれている。その調子でもりもり食べて欲しい。
キャストルクは、ナイフとフォークに苦戦しており、上手くお肉を切れていないようだ。
「キャストルク、フォークでお肉を動かないようにしてナイフを通すと切れやすいよ」
「すみません……わ、ほんとだ。ありがとうございます!」
「ふふ、どういたしまして」
アドバイス通り、フォークとナイフを駆使してもりもり食べる。キャストルクはとても飲み込みが早いみたいだ。
対してデリアスは、非常に慣れた手つきで黙々と料理を口元に運んでいる。上品さからどこかの貴族だったのだろうか?
じっと見ていたのがバレたのか、ふと、デリアスが此方を向いた。
「どうした?」
食器を置いて向きなおられてしまった、のでこの際だ、聞いてみることにしよう。
「デリアスは、貴族だったりしたの?」
「いや、貴族に仕える騎士だった。貴族の護衛も兼ねて食事会に連れていかれるから、それなりにマナーは覚えた」
そう言い切ると視線を外され、デリアスはまた食事を再開した。
貴族に仕える騎士……。
川辺で、彼がはるか遠くの赤牛の気配を察知して素早く背に庇ってくれたのも常に誰かを守っていたからだろう。
そんな彼が、何があって奴隷になったのか。
もし元の主の所に戻りたいと願われたのなら、私は彼を手放して、元の主の所に戻すべきだろう。本人の意思を無視して手元に置いてはおけない。
私は、今世の家族こそ思い入れがないけれど、前世の家族の元に帰れるのなら今すぐにも帰りたい。
クライマーとして生きている今は、絶対にその故郷に戻れないとはわかっているが。
帰りたいのに帰れない、そんな気持ちを抱えてで一生を終える。そんなのあんまりだ。
セル、エスカテ、キャストルク、デリアス、皆にも家族がいて……今も帰りを待っているとしたら。10年、奴隷紋は残るけれど、たった今私がよしとするだけで、
皆は家に、故郷に、帰れるのだ。
私が一生帰れる事がない、家族の元に。
そしたら、みんな家族と幸せに…………
だけど、
世界中を探したって私は……
ひとりぼっちだ
「マスター」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、目の前にデリアスがおり、覗き込まれる。
そっと、親指で目元を拭われた。
泣いてた?慌てて擦ろうとする腕をやんわり抑えられた。
「私は以前の主に売られて奴隷となった。思い入れはない。マスターは貴方だけだ」
―――主に、売られた……?
いや、でも
「故郷に、家族が、いるでしょう?」
「家族は戦争で、もう居ない。今放り出されたらひとりぼっちになってしまうな」
予想外の言葉に息を飲む
なんてことだ。
戦争で家族を失って、仕えていた主に奴隷として売られる。
彼の人生は、平和に生きてきた私がとうてい想像つかない程にずっと辛い人生だった。
もしや、他のみんなも?
さあっと血の気が抜ける。
そんな私の頭をセルがそっと撫でてから、話し始める。
「マスター、森の精霊やエルフは樹木から生まれますので、ヒューマンの言う家族は存在しません。なので、強いて言うなら、森に囲まれた、マスターのもとを故郷にしたいです」
樹木……?
え、まって精霊とエルフって木から生まれるの?
種族の生誕の違いに驚きのあまりポカーンとしてしまうと微笑まれた。
いや、だって、ねえ!?
エルフも木からって…
バッとエスカテと見ると満面の笑みが返ってきた。
「私も、太陽のように暖かいご主人様を故郷にしたいです!」
かがやかしすぎる笑顔。
と、慌てて手を挙げてキャストルクも話し始めた。
「僕は捨て子なので家族はいません!命短い僕にマスターはお薬を与えてくださいました!
マスターに出会えて、初めて優しさに触れられたのです!だから、そんな優しいマスターの元で僕も生きていきたいです!」
笑顔で宣言するキャストルク。
みんな幸せな顔をしている。
なんで、私は自分のために君たちを……
君たちの思いなんて全然考えてなかったのに。
目頭が熱くなる。
そんな私をセルが抱きしめてくれた。
「どうかこれからも私たちを、
幸せを考えてくださるマスターのお傍に居させてください」
嘘や建前のない心からの微笑みについに涙が零れた。
「……っ絶対、絶対!皆、幸せにするから!!」
「プロポーズ嬉しいです」
爆弾発言と同時におでこにキスを落とされる。
「…っ!?プロっ!?」
「マスターを笑顔にできるようにと思ったんですけれど、真っ赤になってしまいましたね。もう一度すれば治りますかね?」
いや、え!?セルさん!?
随分と積極的ですね!?
いや、まって顎つかんで固定しないでっ
「あばばばばっ」
「ん、邪魔しないでくださいよ」
「マスターに手を出すのを待てと言ったのはお前だろう?」
「これはただのスキンシップですから」
デリアスが、セルの口元を手でおおって遮ってくれた。なんか怒る方向が違う。
私を挟んでバチバチやり合うの勘弁してください
「ずるいです!マスター僕の頭を撫でてください!」
ずいっと頭を差し出すキャストルク。
え、何この子。かわいい。
殺伐とした空気をとっぱらってくれるとか、癒し系確定。
そしてお耳もふわふわだ。
「ふふ、擽ったいですマスター」
「ふわふわだ」
「マスターならいくらでも触ってください!」
うん。
なんだか、みんなの本音を聞けてほっとした。
安心したせいかちょっと眠気がする。気が付かないうち気を張っていたのかもしれない。
眠気まなこでウトウトしていると、エスカテに抱き上げられた。
「ご主人様、日向ぼっこしましょう。とても暖かいですよ」
人の温もりと心地よい揺れであっという間に意識が落ちた。
―――――すうすうと穏やかな寝息を立てる我らのマスター。
「エスカテ、マスターを2階の部屋にお願いできますか?風邪をひかれては大変です」
移動中一度も起きることなく、
エスカテに抱えられたクライマーはベッドに寝かせても深い眠りの中だ。
「ご主人様、疲れていたのでしょうね」
「まだ幼いですもんね。起きている時は凛々しく聡明ですけど、寝顔はとても可愛らしいです」
暖かい日差しの中、彼らはすやすやと眠るクライマーに、初めて年相応さを感じていた。
ふっくらとした子供らしい頬に残る涙のあとをデリアスが拭う。
「堂々とした大人のような振る舞で、気づかなかったが、こんなにも幼いのだな、危機感もない。」
「そうですね。その分我々を信頼してくださっているのでしょうけど。無防備に川で水浴びをされていた時は肝が冷えました」
セルの発言に3人はぎょっと目を見開く。
人攫いなどいる世の中で、ましてやモンスターが出るところで無防備にしていたら、どうぞ食べてください、と言っているようなものだ。
「……無事で何よりだ」
「マスターは自分の容姿についても自覚がないようなので、街への道すがら変な輩に絡まれないか、心配で心配で……」
「え、危ないのに、そのまま一人で行かせたんですか!?」
「何かあっても大丈夫すよ。森の精霊ですからね、いざとなったら木から木へ飛んで助けに入れます」
そう言い、胸をはるセルに続いて4人は部屋をあとにした。
キャストルクが疑問をつぶやく。
「マスターと一緒に街まで飛べばよかったのでは…?」
びきりと固まるセル。
まさにキャストルクの言う通りである。
「……次からはそうします。
さあ!マスターのためにバリバリ働きましょう!」
全力で話題をそらす、セルに皆半目だ。
「セルさん、天然ですね……」
「補い合いまっていきましょう」
「マスターの護衛は任せろ。ちょっくら添い寝して……」
「「何一人抜けがけしようとしてるんですか!!」」
森の中の広い屋敷からはわいわいと活気のある声が響いている。
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