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新たな種族と衝撃の赤牛

 

 いつも通り朝日で目が覚めた。

 見慣れない景色に一瞬ドキッとする。ああ、そういえば新しい家を手にしたんだった。

 思いっきり伸びをしていると、水の入った桶を持ったセルが入ってきた。


「おはようございます」

「うん。おはよう、セル」


 セルは昨日以上に元気いっぱいだ。笑顔がまぶしい。


「お顔をどうぞ」


 そう言って水の入った桶を差し出された。

 持っていてくれるようなのでありがたく洗わせていただく


「ありがとう」

「いえ。朝食はどうなさいますか?」

「黒パンと昨日のスープの残りがあるからそれにしようか。」

「用意してきます」


 そう言って、セルは桶とタオルを回収して部屋を出ていった。

 働き者の彼にもっと充実した生活をさせてあげたい。


 薬草園へ向かい、薬草と毒消し草に生えているみずみずしい葉を摘み取る。今日も大収穫だ。

 大工加速スキルを手に入れたので今後は樽でいっぺんに売ろうと思う。

 わざわざ小瓶を購入して詰める手間が減るのは最高だ。


 部屋に戻りセルが用意してくれたパンとスープを食べる。

 向かいでは「いただきます」と言ったセルがきちんと食事とりを始めた。

 昨日と違い、言わなくても食べてくれているのは良い傾向だ。


 それにしても、毎食この固い黒パンとしおあじのスープでは味気ない。牛乳が飲みたい。卵も欲しい。牧場を作れば毎日手に入るよなあ。この街は商業が発達しておりダンジョン目当ての冒険者が多いせいか農業をしている人は見かけていない。屋台で見かけるのはこのあたりで狩れる食用ウサギのお肉だけだし、別の街、もしくは村に行けば手に入る……か?


「牧場とか作りたいと思ってるんだけどどうかな?」

「そうですね。この森にも赤鶏と赤牛がいますから簡単に手に入ると思いますよ。ただ、結構暴れるのでテイムするのに怪我を負うかもしれません。」


 わざわざ動物を連れてこなくてもモンスターのテイムで簡単に手に入るのか。怪我をおうとしても傷みさえ我慢すればハイポーション山盛りにあればいけると思うし、安定して牛乳とか飲めるってのはあり、か。テイムしたモンスターは適当にご飯食べてくれるらしいから餌代もかからず良いかもしれない。


「モンスターを飼育するなら牛飼いとかいた方が良いよね?」

「そうですね。その方が安心して食べられます。ジョブもちでないと安全に加工ができませんから」


 ジョブもちでないと安全に加工できないとか恐ろしい。乳で食中毒とか嫌だ。

 鶏の卵については洗浄すればよいのでとりあえず専用職は必要ないだろう。鶏を飼育する職業ってなんだ?羊飼い、牛飼いとか聞くけど鶏飼い?まあいいか。


「そしたら野菜を育てるために農民と、赤牛の乳加工をしてもらうために牛飼いの職業持ち優先にするね。これで大分食事が潤うね。ほかに居てほしい職業は居る?」

「ここは広い川があるので漁師がいれば簡単にお魚を食べられると思いますよ。食事をさらに充実させるには良いかと」

「おおっお魚良いね!漁師も優先的に探してくるよ」


 農民、牛飼い、漁師と欲しい奴隷は決まったが、問題はどこで購入するかだ。

 連日シェスタさんに頼むのは仕事に差し支えるから却下だ。それにマイホームを完成させたら呼ぶって約束だったから、できるだけ贅沢におもてなししたいので、それまで内緒にしておきたい。

 私が探索者のジョブを手にできれば万事解決だが、ワープに同行しただけでは探索者ジョブは入手できなかった。


 冒険者ギルドで販売していた奴隷は、戦闘特化でとてもじゃないが長年農業をしており作物に詳しいということはないだろう。

 残すはメイン通りにある高級奴隷店、一応体が弱ってる奴隷は扱っているから覗く価値はある。だが一番上が30万デルだったので怪我をしていてもそれなりに高いかもしれない。それに……店主のうすら寒さを感じる笑顔がなあ……。


「今日は奴隷を買いに行かれるのですか?」

「……うん。一応覗いてみるつもり」


 これは腹をくくるしかない。おいしい食事のためだ!


「部屋はいかがします?増築しますか?」

「そうだね。そしたら新しく連れてくる子たち用に大部屋の追加とベッドをいくつかお願いできる?布団は帰ってきたら作るから」

「わかりました、ですが奴隷は万が一に備えて基本マスターの部屋で備えておくのが基本かと思われますがよろしいのですか?」


 うーん。万が一はセルの森セコムと水晶蟹達がいるし大丈夫だろう。

 新しい子がみんなセルみたいに友好的とも限らないので暫くはセルと二人部屋でいいだろう。


「セルがいるから大丈夫」

「はい、私はずっとマスターのそばにいます」


 セルが嬉しそうに宣言した。信頼を寄せてもらっているようで嬉しい。

 嫌そうじゃなくて何よりだ。


「じゃあ行ってくるね。家任せたよ」

「はい!お任せください!」


 セルに元気よく見送られ、街へと向かう。

 道中、何匹か水晶蟹を見つけたのでテイムし家の方に行くよう指示した。

 まずは素材屋でお財布をうるおそう。


「ソルティさん、おはようございます」

「クライマー君おはよう。」


 朝早くから商品棚に品を並べるソルティさんも働き者のようだ。

 この世界は働き者が多いな。


「ポーション10本分、ハイポーションを20本分を樽で売りに来たとの、コットン30mと綿30㎏、あとは野菜の苗なんかありましたら欲しいです。」

「ポーション10本分で100デル、ハイポーション20本分で600デル。合計700デルだ買い取ろう。コットン30mはおまけして120デル。綿もサービスで250デルにおまけしちゃう。苗はどれがほしい?」


 小さな苗が入った見本のボックスを見せられる。

 かぼちゃ、トマト、とうもろこし、えだまめ、ニンジン、大根など思った以上に多種多様だ。

 とりあえず煮込み料理で使えるものを購入することにしよう。


「トマトと、かぼちゃ頂けますか?」

「トマトが10デル、かぼちゃが13デルだよ。いくついる?」

「2株ずつでお願いします」

「まいどあり、コットンと綿、苗の合計413デルになります」


 残金は昨日の分に加えて913デルとなった。

 さて、セルに奴隷を購入してくるといった手前お店に行かないわけにはいかない

 重い足取りで進むといつかと同じようにあの奴隷商人が店前で待っていた。

 私を待っていたところを見ると、独自の情報網でも持っていそうだ。


「いらっしゃいませ、ささ、お入りください」


 奴隷商人に続いて店内に入ると前回とは違った奥の部屋へと案内された。

 中には弱っている奴隷が20人ほど座っている。

 部屋に入ったとたん、怯え、好奇心、妬みと、様々な感情を向けられた。


「こちらにおりますのは一律300デルの奴隷です。顔に傷はありますが、それ以外に傷などはございません。」


 一律300デル、か。ちょうどぎりぎり三人買える値段だ。奴隷商人の言う通りどの奴隷も顔や首などに大きな傷がある。見た目重視のこの高級奴隷店では、整った顔でも傷があるとなかなか売れないのかもしれない。故のお値段か。


 そういえばポーションなどは傷跡にもきくのだろうか?私としては仕事をしてさえもらえれば問題ないが気になる。

 ざっと鑑定して目当ての職業は何人かいた。

「狩人」の私が鑑定スキルを持っていたらおかしいので、奴隷商人に聞くことにする。


「……農民と牛飼い、漁師の職業の奴隷を探しているがいるか?」

「勿論でございます。農民は三人、牛飼いは一人、漁師が二人おります。前へ来なさい」


 店主が命令すると、男女6人の奴隷がゆっくりとした動作で並んだ。

 農民レベルが一番高いのは若いエルフの青年だ。ヒューマンの女性と女の子は青年より3もレベルが低い。経験とレベルの関連性はあるだろうが、レベルのみで判断せず、一応歴を聞いておくことにする。


「この中で農業の経験が一番長いものは?」

「レベルではなく経歴確認するとは!流石でございます!

 ごほん、失礼しました。一番左のものが最も長く農業をしておりました」


 興奮気味に答える奴隷商人にドン引きしつつ、もう一度奴隷を鑑定する。


 〚奴隷:エスカテ〛

 エルフ 20歳 男

 農民Lv.6  



「どのくらい農業をしていたの?」

「7年でございます、旦那様」


 20歳と若いのに7年も経験しているとは思わなかった。

 エスカテが恭しく頭を下げると、長い薄緑の髪が肩を滑った。トトスタの奴隷市場で見たエルフも皆緑ばかりだったので、エルフの髪は基本緑系統なのだろう。


「薬草とか野菜を育てたことはある?」

「あります。働かせて、いただけるので、あれば……」


 最後まで言い切る前に暗い顔をして黙ってしまった。


 え?何。なんか地雷踏んだ?

 困惑していると奴隷商人が詳細を述べた。


「そのものは暗い地下牢に4年間つながれておりました。エルフからすると、長く太陽を浴びれない状況は死よりもひどい拷問だそうです。」


 エルフって太陽がないとダメなのか。

 死よりもひどい拷問を4年間とかちょっと想像したくない。もともと薬草園と野菜農園を任せるつもりだったので、日に当たりたいという願いはかなえてやれる。


「もし君が私の下に来るなら薬草園を任そうと思っていてね。毎日たっぷり日差しを浴びられるけどどう?」


 私の言葉を聞くと、エスカテの瞳に生気が戻った。


「お、お願いします!!!

 こんな暗いところはもう嫌なんです!!

 どうか……どうか」


 膝まづき必死に悲願される。この部屋の窓は小さいので満足に日差しを浴びれていなかったのだろう。

 日差しならいくらでも浴びせられる、それだけでやる気を出してくれるなら万々歳だ。


「肌が小麦色になるくらい太陽を浴びせてあげるからね」

「あ、ありがとうございます!」


 嬉しそうに泣かれてしまった。

 まだ安心するのは早いぞ。私がもし嘘をついてたらどうするんだ。

 いや、嘘じゃないけど。


 農民は無事決まったので残りは牛飼いと漁師だ。

 牛飼いは二人とも獣人でレベルは3と、甲乙つけがたい。


「薬草園をお持ちであればそちらの獣人がおススメです」


 悩んでいると、奴隷商人がタヌキの方の獣人を提示してきた。

 目が合うと耳をピクリと動かし、期待を乗せた瞳が返ってきた。


「あ、あの!!僕、肺が弱くて、薬草を食べないと、どんどん弱っちゃって、えっと、だいたい1週間おきに、食べられればと」


 おどおどとけれど必死に理由を話しはじめる。


「7日に1度でいいの?」

「はい!7日に1度であれば悪化しません!」


 悪化しないってことはいっぱい食べさせれば完治しそうだ。

 やる気も非常にありそうなので、この子も購入することにする。


 〚奴隷:キャストルク〛

 獣人 16歳 男

 牛飼いLv.3 


 さて残すはセルに薦められた漁師だ。

 一人は成人したヒューマンで、もう一人は片目にガーゼを当てた竜人族だ。


「お客様は漁をさせる漁師をおすすめなのですよね?」

「そうだね。川とかで魚を釣ってもらいたい」

「でしたら竜人族の奴隷がお勧めです。ご存知かとは思いますが、竜人族は肺が大きく長く潜水できます。さらに、この竜人族は大柄ですので、水中でも楽々モンスター退治できると思われます。」


 えっこの世界の漁って潜って行うのが基本!?

 水中にモンスターが出るならなおの事、陸上からって思ったけどモンスターの攻撃に耐えられる網ってなかなかないか。


 〚奴隷:ウルデリアス〛

 竜人族 27歳 男

 漁師Lv.11  


 漁師レベルも11と高い。

 奴隷商人のいう通り竜人族の奴隷は大柄で身長は190㎝は優に超えている。今はやせているがしっかり食べさせれば大活躍してくれそう。

 で、問題はその利点を消し去る何かがこの奴隷にはあるという事だ。


「彼はどこが悪いの?」

「顔におった傷のせいで片目が見えません。また、満足に食事を与えないと動けなくなります」


 ガーゼを当てているので傷は塞がってはいないのだろう。ポーションで治ると思うので問題ない。


「食事は1日どれくらい必要?」

「……パンを5つ」

「パン?これ?」


 パンとは黒パンでいいのだろうか?

 私が知ってるのはこの街で見かけた黒パンしかないので一応実物を見せて確認してみる。

 竜人は喉をごくりと鳴らしうなずいだ。弱っているだろう体にこのパンはいきなりあげられないので一度しまう。


 それにしても、黒パンたったの5つが満足な食事になるのか?

 大柄な男がパン5つで満腹に?ありえない。

 セルは温かい食事にいたく感動していた。この世界の奴隷の食事事情はどうなっているんだ。


 一日黒パン5個なら余裕で与えられるので食料面は問題なさそうだ。

 パンを見せてからこちらに関心を持ったのかじっと見られている。


「傷を見せてくれる?」

「……」


 そう竜人に声をかけるとおとなしくかがんでくれた。


 もう一度「見るよ?」と声をかけガーゼをめくる。

 満足に消毒されていないのか傷が膿んでいて痛々しい。

 あまりの痛々しさに思わず息をのむ。

 そっとガーゼを戻すと、診察中どうようにじっと見つめられる。


 ポーションの材料なら家にたくさん生えているので問題ないだろう。


「パン5個は約束する。来てくれる?」

「ああ」


 力強くうなずかれた。本人のやる気も得られたので奴隷商人に向き直る。

 相変わらずニヤニヤ顔だ。

 薬草園を持つ私ならこの竜人の傷も治せると予想しての薦めだったのだろう。


「3人で900デルだよね?」

「いえ、お客様が選ばれた商品はもうどれもこのままでは先が長くありませんでしたので300デルおまけして。600デルで売らせていただきます」

「そう。」


 結構まけてくれた。

 商人にお金を渡し、奴隷契約を行う。


 太陽を今か今かと待ち望むエルフのエスカテ。

 延命に嬉しさをかみしめる獣人のキャストルク。

 お腹を空かせた竜人族のウルテリアス。


 それぞれこれからの生活に絶望していないようで良かった。


「私はクライマーという。さあ、ついてきて」


 3人を引き連れて店を後にした。


「太陽がまぶしいです。ご主人様ありがとうございます。」


 エスカテは太陽の光に感動しているようだ。


「これからは毎日いやってほど浴びれるよ。」


 セルのときとは違い三人の足取りはしっかりとしていたが、念のためポーションを飲ませることにする。


「皆1本ずつポーションを飲んで。道中倒れられたら大変だから」


 受け取る3人。

 ウルデリアスは瓶をあけ、飲み干した。

 エスカテとキャストルクは一向に飲まず、遠慮がちにチラチラこちらを見ている。


「?どうしたの?」

「あ、あの僕たちの分を竜人さんに飲ませてあげていただけないでしょうか?」

「お、お願いします!」


 遠慮がちにそう言われた。

 ウルデリアスは驚き固まっている。


 それもそうだろう。奴隷としてギリギリの生活を強いられていたにも関わらず、初対面の他人を気遣えるだなんてそうそうできることじゃない。


 どうやら私は心優しい奴隷と出会えたようだ。


「大丈夫。ウルデリアスの目は帰宅したらちゃんと治療するから安心して?ウルデリアスも歩くだけなら問題ないよね?」

「ああ。…問題ない」

「ですがっ」

「その気持ちだけで十分だ。感謝する」


 そういってウルデリアスがともに二人の頭をぽんぽんと撫でた。

 このやり取りを見るに、奴隷たちは仲良くやっていけるだろう。


「君たちが道中へばったら長身のウルデリアスに運んでもらう事になっちゃうからね

 ほら、飲んで飲んで」


 そうせかすと二人はやっとポーションを口にした。


 ポーションで幾分か体力を回復させた後、食材が売っている商店街へと向かう。

 人数が増えたので食料を調達しておくべきだ。


「食料を調達しにようと思うんだけど、皆主食はパンで平気?」


 皆種族がバラバラなので食べれない食材があるかもしれない。

 質問するエスカテとキャストルクが顔を見合わせている。


「僕たちにも、パンを頂けるのですか?」

「そうだよ?ウルデリアスと同様に君たちも食べないと力が出ないだろう?」


 私の答えを聞くと顔を二人ともほころばせ「ありがとうございます!」とお礼を言われてしまった。

 ウルデリアス以外はパンをもらえないと思っていたらしい。

 どんな鬼畜だ。


「食べられない食材とかある?」

「私はエルフですので生肉以外でしたら食べられます。」

「獣人の僕は特に食べられないものはありません」


 獣人は生肉を食べられるようでちょっと驚いた。


「生肉は出さないから安心して。ウルデリアスは何かある?」

「マスターにもらえるものであれば問題ない」


 ぶっ飛んだ回答を頂いた。

 お任せってことか。よし任された。


 黒パンをたくさんと、トマトとかぼちゃ、牛乳を購入した。

 トマトとかぼちゃ、牛乳は市販のものと、これから家で作る者の差を図るためだ。


 食料も手にできたので、街を出て家へと向かう。


「マスターは街の外に住んでいるのですか?」

「そうだよ。ああ、そうそう。家にもう一人セルっていう子がいるから仲良くね」

「女性ですか?男性ですか?」

「うん?男だよ?」

「そうですか」


 ほっと息を吐くエスカテ。

 あー、一つ屋根の下に異性がいるっていうのはやりにくいのかもしれない。

 性別について全然頭になかった。着替えとか大変だものね。

 そう考えると購入した奴隷が全員男っていうよかった。


 ゆっくり川を進んでいくと、途中ウルデリアスが私を庇うように前へ出た。

 モンスターが出たのかと思って周囲を見渡すが、何もいない。


「モンスター?」

「ああ、くるぞ」


 鋭く前方に視線を向けているウルデリアス。

 エスカテとキャストルクは怯えた表情できょろきょろとしている。


 この道は危険はないと思って武器屋に寄らなかったのが仇になった。

 慌ててアイテムバックから銅の剣を出し、一番戦闘慣れしていそうなウルデリアスに渡しておく。


 ドキドキしつつ前方を見つめていると、川から顔を出した何かが近づいてきた。



「え」


 牛が流れてる。


 どんぶらこ、どんぶらこ。

 淡々と流されていく牛。


「ねえ、あれって牛?」

「赤牛だな。お腹を空かして川に落ちたんだろう。放っておけば危険はない」


 赤牛に対し、警戒を解くウルデリアス。


 赤牛!!

 セルと朝に話したモンスターだ。

 見た目は普通の牛と変わらない白黒の斑模様だ。


 にしてもお腹を空かして川に落ちるって……


 赤牛と目が合う。

 空腹を訴えている。


 今なら何でも口にしそう……これテイムするチャンスでは?

 おぼれていないようだし、浅瀬まで行けば自力で戻ってこれると思う……よし。


「この子テイムするわ。戻ってきたらキャストルク、世話してあげて」

「え?!わかりました!」


 キャストルクはいきなりのことにびっくりしていたが、まあ大丈夫だろ。


 川に魔物の餌を投げ入れる。

 結構な数を投げたおかげか、赤牛は上手いこといくつか口にできたようだ。


 〚赤牛:クライマー〛


 よし!無事テイムできた!


「浅瀬にでたら家に来るんだよ」

「ギャアッ」


 ひと鳴きして赤牛は流されていった。

 牛の見た目で鳥みたいな鳴き声って凄まじいな。


「おまたせ。行こうか」


 見守ってくれていた三人に声をかけると、ウルデリアスが先ほど渡した銅の剣を差し出してきた。


「それはウルデリアスが持っていて。いざというとき使ってほしい。」

「……良いのか?」


 ああ、奴隷は武器を常備しないんだっけか。


「うん、さっきはありがとうね」

「マスターを守るのは当然の役目だ」


 ウルデリアスはどこか誇らしげに答えると銅の剣を腰に下げた。


お読みいただきありがとうございます

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